2000.2.26放送
登山家・野口健〔ノグチ・ケン)さんを迎えて

野口健さんは7大陸の最高峰を世界最年少で登頂されました。この7大陸制覇へのきっかけは、少年の無鉄砲な好奇心だったようです。
「高校時代、停学になった時期が あってその期間中に植村直巳さんの本と出会って、自分も山に登ろうと決心して、いろんな山岳会に連絡したんですよ。でも、高校生だっていうと、責任とれないからと、なかなか山岳会に入れてくれないんです。そんな中、(岩崎元郎さんが主宰されている)“無名山塾”っていうのがあって変な名前だなあと思ったんですね。でそこに“ピッケルと友達になる会”ってのがあったんですね。初心者にピッケルを教える講習会なんですけど、ピッケルと友達になる会って可愛いじゃないですか、名前そのものが。これなら俺でも殺されずに済むかなと思って抵抗なく入ったんです。で、岩崎さんが次の年にモンブランへ行くっていうんで、「僕も行きます」とか言ったら、さすがに呆れてまして、「お前2回しかまだ登ったことないのに、お前なんか連れてけねえよ」っていうんですね。「どうしても行きたいんです」って言っても、なかなかうんって言わないんですね。「そうはいっても野口君ねえ、まだピッケルの使い方も知らないし、アイゼンも知らないし、ちょっとねえ」とか言って。「じゃあ僕一人で行きますから」って言うと、「いやそんな危険なことない」っていうんですねえ。「じゃあ責任とって一緒に行きましょうよ」っていうやり取りが数カ月続いたんですよ。それで遂に岩崎さんも諦めてくれましてねえ、「いいよ」って言ってくれて一緒に行ったんです。それが最初の海外の山だったんです。」
 
野口健さんは、シェルパについても一家言あります。
「僕が初めてヒマラヤに行ったのが18だったんです。僕一人に対して地元のシェルパが11人ついたんですよ。みんな僕よりも年上ですし、みんな経験者。要するに僕一人がほとんど経験のない若造ですよね。例えばクレバスに落ちたらどう這い上がるかっていう技術や、雲がああいう形になったら天気がああなるよ、とか、ヒマラヤでの気象条件の知識もシェルパから随分吸収しました。彼らはあそこでずーっと生活してるわけで、そこで生活していけるための技術ってのが彼らの生活の中に揃ってるわけですね。だから、彼らと一緒に生活して、その先にエベレストがあるんだろうなっていう感じです。例えば欧米の登山隊ですと、地元のシェルパのアドバイスを利用して、自分達の活動に活かすっていうことを、あまりしたがらないんです。それに年々シェルパの遭難が増えてるんですね。でどうして増えるかっていうと、以前までは、本当に限られた優秀な登山家だけがヒマラヤに入ってたんですけども、最近は一般的に大衆化されてて、ほとんど知識がない人も登山隊を作って隊長として行くわけですよ。で知識の無い人が判断を間違えて事故が起きてしまうケースってのがありますし、また人件費をけちるために少人数のシェルパにたくさん荷物を持たせて、そのシェルパがバランスを崩して落っこって遭難したりとか、そういった細かい事故がたくさんあるんですよね。それで、シェルパたちのための基金を今年の8月から始めるんですけども、一つは亡くなったシェルパに対する保証制度があんまりはっきりしてませんので、そういったものを作っていきたいと思っているのですが、遭難したあとに、保証だけをしても解決方法になんないですね。一番大事なのは事故が起きないようにみんながしっかり考えて、ホントの意味での登山隊とシェルパの共存ということをテーマに、日本の山岳会だけじゃなくて世界中の山岳会に呼び掛けてやっていきたいなあと思ってます。」

7大陸を終えた野口さんには、新たな目標ができました。
「この3年間、毎年エベレストに行っていて、驚いたのは「ゴミにまみれた世界最高峰」だったということ。特にアジア系のゴミ、日本隊のゴミがどこへ行ってもあるんですね。その時、7大陸が終わったら、今度は清掃隊を作って来ようと思ったんです。例えば70年代当時は、酸素ボンベ吸ってて、それを置いてきても、それが環境を汚すって風な発想がなかったらしいんですよ。その後に大衆化されましてですね、今、年間一千人が挑戦するんですね。だからゴミが80年代ぐらいから増えまして、今はもうゴミまみれになってるんですねえ。だから自分達が汚してしまったゴミをこれから行って、回収すれば綺麗になるわけです。で今年、まず清掃隊自分で作って行くんですけども、チベット側ですから8300メーターまで登って8300メーター地点に散乱している酸素ボンベとか、まあその他のゴミを回収して、日本に持って帰ってきて、それを展示するんですね。世界最高地点でのゴミ捨て場を写真や文章だけじゃなくて、実際にゴミを持って帰ってきて展示して、触ってもらったり直に見てもらうと全然印象が違うと思うんですよね。」

〔注〕このことば通り、野口さんは「エベレストのゴミ」の展示会を実現。今では清掃登山をライフワークと考え、様々な活動を行っています。

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