2000年4月16日

作家・椎名誠さんの「グラウンドで会おう!」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは椎名誠さんです。

椎名さんがオール・ヘア・ヌードの記事を!?(笑)

●椎名さんに最後にお会いしてお話をうかがったのが、1998年の10月、吉野川の第十堰であったイベントのときで、吉野川は私たちもずっと追っているんですけど、感触としては少しずついい方向に向かっているような気もするんですが、椎名さんはどうお考えですか?

「長良川のときよりはいいでしょうね。あのときよりは日本中の関心が高まっているしね。それから、何よりもこの間の住民投票が全国的に報道されたし、土地の人たちそのものも関心を強く持ってきていますからね。でも、国家の体質は基本的に変わっていないからね。だから相当、壁は厚いですよね。でも、関心の高まりがずっと持続していけば、何とかなると思うんですよ。ああいう公共事業による建設という名の自然破壊は、これまで日本は戦後ずっと続けてきたわけですからね。世界で一番巨額の土木建築予算を持っている国なんですからね。そういう世界最高の予算でこの小さな国を掘り返しているわけですから、その愚っていうのはすう勢としてみんな気がついてくると思うんですよ。僕は公共事業による自然破壊っていうのは、その国のインテリジェンスというものと関係していると思うんです。国が賢ければ、そういうこともしなくなると思うんですよ。日本はまだ賢さという意味では発展途上の国ですよ」

『くじらの朝がえり』

●そんな吉野川のお話も含まれている「くじらの朝がえり」という本が文芸春秋から発売されたんですけど、これは週刊文春に連載されていた「新宿赤マント」をまとめた、シリーズ第11冊目になるんですよね。

「そうですね。ということは11年目ということだね」

●週刊現代の連載で「海を見に行く」というのも、もうすぐ100回を迎えますね。雑誌SINRAでも「シーナ的島紀行」もスタートしたわけですが、旅の中で島って多いんですか?

「島は昔から好きでしたからね。島より前に海が好きだっていうのが大きいかもしれないね。激しい波のエネルギーの凄まじさみたいなものを見ていると、ドキドキするしね。この間も与那国島の飛行場の先にある岬に行ったんだけど、ものすごい低気圧が来て、車で向かっていたんだけど、車が押し返されるくらいの風なんだよね。それで、遠くから見ても分かったんだけど、波が岬から上にドーンとものすごい高さまで噴き上げているわけね。で、そばまで近寄っていったんだけど、岬の高さが海面から30メートルあって、波がその崖の上の高さくらいまで伸びているから、打ちつけたときの波は60メートルくらいになるわけですよね。で、写真を撮る仕事も兼ねているから、どうしてもその写真を撮りたいんだけど、沖から吹きつけてくるものすごい風に向かって進んでいくんですね。そうすると風の力で進めなくなってしまうのね。で、ともすると2、3歩押し返されてしまうんだ。さらに進んでいって、波しぶきを浴びながら写真を撮ったんだけど、そういうエネルギーに夢中にさせられてしまうってところが魅力の1つかも知れないね」

●今、与那国の話が出ましたけど、そこでは馬にもお会いになったそうですね。

「そうそう。よくなつく馬がいてね。馬っていうのは結構いろいろな国で乗っているんだけど、大体、5メートルくらいしか近づけないんですよ。どんなになついている馬でも、馬っていうのは臆病ですから、近づけないんですね。でも、そこにいた馬っていうのは、こっちへ擦り寄ってくるんですよ(笑)。しかも、鼻面で自分の背中をゴシゴシ掻いたりして、あんな馬は初めてですよ。ビックリしちゃった。それを見て別な馬も近寄ってきてね。与那国馬っていうのは性格のいいキレイなメス馬なんだろうなと思ってさ(笑)。馬っていうのは表から見ただけじゃオスかメスか分からないんだけど、『これだけスリスリしてくるのは美人のメス馬だな』なんて勝手に解釈したんだけどさ(笑)」

●(笑)。他に、本に書いてあったもので「まぎれもなくこれはオール・ヘア・ヌードだ!」っていうものがあって、椎名さんらしい言い方だなと思ったんですが、どういった内容だったか教えていただけますか?

「これは連載している雑誌が、週刊現代というおとっつあん週刊誌だから(笑)、カラー・グラビアがあるでしょ。で、僕のページの前後にいつもヘア・ヌードがあるんだよね。だから、多くの人はそのヘア・ヌードを見ていて、僕のぺージっていうのは全然女の人が出てきませんから、多分バッと飛ばされちゃっているわけですよね(笑)。日ごろ悔しい思いを味わっていたからさ。そのときはヤギも牛も馬も撮ったからね。『3種類のヘア・ヌードだ! どうだ、参ったか! 興奮しろ!』って書いたんだけどさ(笑)。多分、興奮しないだろうなぁ(笑)」

●(笑)。でも、そこで怒られて、「写真を撮るなら金払え」おじさんも登場したそうですね。

「2000円払って撮らせてもらいましたよ(笑)。僕の海をたずねる旅っていうのは一切、連絡をとらないで行く旅行なので、そこで出会う人は全部、本当の偶然なんですよ。さっきのスリスリ馬も、2000円で写真を撮らせてくれたおじさんも全部、偶然出会っているんですよ。そういう偶然性がすごく面白くて、ああいう旅っていうのは好きだなぁ」

実際の巡礼は楽しんでいる

●今年の2月にチベットにも行かれたそうですが、チベットの印象というのはどうでしたか?

「例えば、よく日本人はモンゴルとチベットを単純に間違えるんだけど、全然違うわけね。似ているのは広さなんだけど、日本の4倍強ある国で、同じモンゴロイドだからそういう意味では似ているけど、険しさが全然違うよね。モンゴルは緑の草原で、といってもあちこちに起伏があって、なんとなく女性的な風景なんですね。生き物はたくさんいるしね。チベットは、僕が行った季節がそうだったんだけど、茶褐色でゴツゴツしていて男性的なんだよね。大体、高さが首都のラサで3750メートルくらいあるから、ちょっといくと4000メートルくらいになっちゃいますからね。だから、ギラギラして太陽がものすごく近い感じだよね。全体的に高い山に登ったときのような感じですね。そして、春から夏になると、緑が生えてくるけど、その緑もそんなに豊富じゃないから、厳しさが前面に出てくるようなところかなぁ。ちょっと高いところへ行くと雪だらけだからね」

●もう1回チベットへ行ってみたいと思いますか?

「行きたいね。仏教に対してみんなが濃厚に生きているっていうのが、刺激をたくさん受けたところだね。だから、帰ってきて読みたい本がいっぱい増えてね。僕は旅をするとそれが嬉しいんだよね。実際にその国を見てくると、それに関連した書物をたくさん読めるでしょ。で、またそれを読んで、それを確かめにいくっていう繰り返しがいいなぁ」

●テレビのスペシャルみたいなものでしか見たことがないんですが、チベットに行くのに大きな山を越えて巡礼の旅に行かなきゃいけなくて、それでもその旅を続ける意味っていうのをその人たちは感じて、生涯の中で繰り返すというのを聞いてそのパワーに驚きました。

「日本って共通概念として『こういうものがこうあってほしい』とか、『こうなるべきだ』みたいなところから物を見ることがすごく多いんですよ。だからすぐ騙されちゃうんだよね。チベットなんかでは、例えばテレビのドキュメンタリーでも写真家も、ものすごく意味深長なわけ。ナレーションとかも『厳しい』とか『荘厳で・・』とかおどろおどろしい言い方をするんだけど、それはそうあってほしいみたいなところが日本にはあるんだよね。すごく安易なんだ。それはインドでも感じたんだけど、インドだとバラナシでガンガー(ガンジス川)の死体や糞が流れているような水を飲んで、身を清めているでしょ。そういうのを見ると、またそこで大げさなことを言うわけ。ところが実際はインドの巡礼たちも、ガンガーへ来て喜んでいるわけよ。自分の巡礼の旅がここでひとつの頂点を迎えたわけでしょ。で、同じようにチベットの人も背景としては厳しい山を乗り越えてくるから、大変つらそうなんだけど、本人はこれほどの幸せはないわけですよ。祈ることが最高に嬉しいわけですからね。しかも、それは遠い地方の方から旅をしてくるんだけど、村の人たちと大勢で来るんですよ。だから、言ってみれば旅行なわけ。だから、誰も苦しい人なんていないわけ。見ている場合では五体投地なんかで頭を地面に打ちつけて、芋虫のように進んでいくわけだから大変なんだけど、本人たちは苦しければ苦しいほど、ご利益が叶うわけだから、幸せなんですよ。そして、夜はみんなで焚き火をやってキャンプですからね。こんなにいい旅はないわけなんですよ」

●楽しそうですね。

「うん。それを、わざわざおかしいところばかり取り上げて、ずるいなぁと思いますね」

●それは実際に私たちがそういうものを通して、見聞きし、こうなんだぁって思っているところに椎名さんが実際に行くと、そうでもなかったりするんですね。

「うん。最も分かりやすい例は、シルクロードだよね。日本人はシルクロードが大好きで、これはNHKがバンバンやったから刷り込まれちゃったんだけど(笑)、僕はかなり初期の頃にシルクロードに行ったけど、やっぱり砂漠をラクダを世話する人たちがシルクロードの格好をして歩いているかと思うと、どこにもいなかったりするんだよね(笑)。あれは、作られたヴァーチャルなものなんだよね」

●イメージなんですね。

「そう。行けば、私たちと変わらないような生活が広がっているわけですよ。チベットだって、携帯電話をみんな使っているし、厚底ブーツを穿いている人だっているしね(笑)」

●私の中でのチベットのイメージがどんどん変わっています!(笑)

「地球の人たちの生き方っていうのはそんなに変わらないもの。今の巡礼の旅なんかも私たちになぞらえてみれば話は簡単なんだけど、例えば、日本も昔は宗教に対してみんなが真剣な時代があったわけですよ。その頃は例えば、落語で大山詣り(まいり)っていうのがあるんだけど、これは大山という信仰の対象とした山にみんなで町内会が旅行に行くわけですよ。あるいは、伊勢参りもそうだよね。お蔭参りもそうなんだけどさ。みんなで行くわけよ。それは昔の旅だからみんなで歩いていくわけだけど、半月も1ヵ月もかかわるわけですよね。で、長い旅だから体もボロボロになるし、わらじもメチャクチャになるし、汚い格好になっちゃうんだけどさ。それでも町内会の人たちとそういうところへ行くわけだから楽しいわけですよ。日本の旅の原型は全て神社参りだったんですよ」

浮き球を使った野球「ウ・リーグ」!?

●あちこちに行かれれば行かれるほど、現実と描かれているもののギャップっていうのも見えてきて、そんな中で旅をするのも面白いんじゃないかなって思ったんですが、実際はどうですか?

「面白いけど寂しいこともあるよね。それこそ、そうであってほしいみたいなことを望んで行くんだけど、例えばチベットに行って厚底ブーツを見ると、ガクッと来るよね。そういうのはありますけどね」

●でも、椎名さんの旅はまだまだ続くんですよね。

「行くでしょうね(笑)」

●次のご予定は決まっていますか?

「次はアメリカですね。子供たちがアメリカにいるので、それで行くんだけど、向こうに行くと逆にのんびりできたりするんですよ。それこそ、海を長めながらテラスに座って原稿を書くふりをしてビールを飲んでいるということができるからね(笑)」

●(笑)。そして今、一番熱中されているウ・リーグ(奄美大島の漁師たちの遊びを、椎名さんが広めた『浮き球ベースボール』、全日本浮き球ベースボール連盟のこと)の方もかなり広がりを見せているそうですね。

「そうだね。でも、これは冗談だからね(笑)」

●(笑)。でも、冗談の割にはかなり広がっているんじゃないですか?

「もう一人歩きをしているよね。あれは僕らが子供の頃、日本のあちこちに原っぱがあった時代の郷愁なんですよね。今、原っぱがなくなっちゃったでしょ。それで、原っぱがあった頃は日本の子供たちってみんな草野球をやっていたんだよね。で、人数が足りないから、普通の野球みたいに9対9はできないから、3対4とかさ。するとベースが4つもいらないから三角ベースになって、これを日本中の子供たちがやっていたんですよね。ちょうど俺たちの世代がその最盛期の末のほうかなぁ。まだ、三角ベースの面白さを体で覚えている連中がいて、僕たちのあとはサッカーになっちゃうからね。
 それで、この間、本当に遊びで始めたんだよね。その原点は奄美大島で漁師たちがやっている野球で、これが面白いんだ。流木を持って、力任せにパコーンと打って、見るとそこらに焼酎のビンが転がっているわけ(笑)。酒を飲みながらやっているんだよね。それをしばらく見ていてさ。それで『あんたもやらねぇか?』って言われたからやったんだけど、ボールが見ていて面白い動きがするんだよね。カキーンって音がするし。すごく飛ぶんだけど風に流されたりするから、よく見たらそれは網に使う浮き球だったんだよね。注意して見れば、今まででもたくさん海にあったわけ。これで咄嗟的な野球をやっているんだなぁと思って。
 それがきっかけになって、仲間たちとのキャンプのときに『やろうぜ!』って言ってやったら、またそれが面白いわけですよ。流木で打つっていうところが面白くて、それがいつの間にかもっと本格的にやろうっていうことになって、それで始めたらどんどんあちこちの人が参加してきて、チームも簡単にできるからね。試合も僕がせっかちで9回までやっていられないから、半分にしようぜって言って、5回制にして1時間以内って時間も決めて。どうせならたくさんのチームがいたほうがいいっていうので、色んなやつらにチームを作らせて、やっているうちに、燎原(りょうげん)の火のごとくっていう言葉があるけど、どんどん燃え盛るように広がっていって、今、全国規模になっちゃって、あちこちで壮絶な戦いを繰り広げているわけですよ。結局、みんなでやっていると面白いんだけど、1日中やっているからとにかく喉が渇くんだわ。で、全身を動かしているからビールが美味いんだよね(笑)」

●そこに落ち着いちゃうわけですね(笑)。

「ビールに向かってやっているところはあるね(笑)」

●アメリカの方でもそういう遊びがあって、今度、日米対抗で戦いが行なわれると更なる広がりが生まれそうですね。

「ニューヨークでそういうのをやっているっていう情報があったので、ちょっと聞いてみたら、メジャー・スティック・ベースボールっていう名前なんだよね。スティックだからバットじゃないわけね。『おぉ! 俺たちと同じだ!』って思ったわけ。俺たちも今、あんまり流木がないからさ、普通の金属バットを使っているけども、色々と聞いてみたらアルミの棒を使っているわけね。で、ボールは浮き球ではなくて、テニスの硬球の外側をはがしたやつを使っているんだって。それで、チームも5人くらいで、球も150キロくらいの速さで投げるんだって。それを思いっきり打つわけよ。そして、今、20チームあるっていうから連絡取ったら、向こうはボブさんっていう人が会長さんなんだけど、いずれ戦うということになったの(笑)」

●それは是非、実現させてください!(笑)

「ホントだね(笑)。今年の5月に第1回の決勝リーグっていうのがあって、僕は銀座っていうチームに所属しているんだけど、今、リーグ第2位なので、その決勝リーグには行けるわけね。で、東日本、西日本合わせて30リーグの中の東が4チーム西が2チームが決勝に出られるわけ。でもおかしいのは、ランキング落ちて下のほうだから決勝に入る権限はないんだけど、俺たちにもやらせろっていう声が結構あるわけ。それが10チームくらいあるわけよ(笑)。どうやらやつらも来るらしいんだ。かといって決勝リーグに入るとまた大変なことになっちゃうから、どうしようかなって考えているときに、彼らは彼らでリーグ戦をやればいいじゃんっていうことになったの(笑)。決勝リーグは6チームの総当りで、それ以外に来たチームは10チームあるとしたら、その人たちだけで別のリーグにするの。決勝リーグのほうはチャンピオン・シップでその他の人たちはチャレンジ・シップということにして(笑)」

●それが5月に行なわれるんですね。見学に行きたいと思います。

「是非きてください」

●今日はどうもありがとうございました。
 このウ・リーグ、あやしい探検隊のメンバーはそれぞれ別のチームで頑張っているそうです。椎名さんはウ・リーグの第1号球団、銀座あぶハチ団所属。野外料理人リンさんは横浜タマナシ団。野田知佑さんは薩摩おいどん団。写真家の中村征夫さんは秋田いぶりがっこ団。同じく写真家の垂見健吾さんは沖縄ぶちくん団。一方、写真家・佐藤秀明さんはチーム創設に燃えているということです。

■このほかの椎名誠さんのインタビューもご覧ください。

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■作家「椎名 誠」さんの著書紹介

『くじらの朝がえり』
文藝春秋/定価1,250円
 週刊文春に好評連載していた「新宿赤マントシリーズ」の11冊目。現在は文庫本でも発売中。

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オープニング・テーマ曲
「ARMS / JOHN HALL」

M1. BOOK OF DREAMS / SUZANNE VEGA

M2. HOW DO YOU DO / ROXETTE

M3. THE LONG RUN / EAGLES

M4. CAN YOU FEEL / TAXIRIDE

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. COME SAIL AWAY / KEALI'I REICHEL

M6. THE WINNER TAKES IT ALL / ABBA

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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