2001.10.28放送
畠山重篤(ハタケヤマ・シゲアツ)さんを迎えて
畠山重篤さんは、気仙沼でカキの養殖に携わっている漁師さんです。畠山さんは海と森が川を通してつながっていることから、漁場を守るには森から守らなければダメということで、「森は海の恋人」運動を展開。山に植林したり、子供たちに体験教室を通して、森と海の関係を教えたりと、様々な活動をしています。

カキの養殖をやっている漁師さんが何故、山に木を植える活動を始めたんですか?
畠山重篤さん「カキというものは世界中どこであっても川の河口でないと育たないんだ。つまり、山の養分を川が運んでくれてそれでカキが育つ。そんなことは漁師であれば誰でもわかることで、昔は「魚付き保安林」というものがあって、河口近くの森を切ると魚が寄りつかないというふうにいわれてた。でも、川のもっとずっと奥の森には気がいってなかったんだ。日本には約3万本の川があって日本海側と太平洋側に流れ込んでいるんだけど、本来の日本人は川が作ってくれた堆積平野で米をつくって、海で魚を捕って暮らしていたから、川に対してタテの関係で生きてきた。でも最近は高速道路と新幹線、それにインターネットでヨコの関係になってきた。それをもう一度、川を河口から眺めることで日本が「汽水がにおう洲(クニ)」であることを再認識しようとしているわけだね。」

行政はタテ割りだけど、自然はつながってますもんね。
「そう。花粉考古学という面白い研究があって、それでわかることは、ヨーロッパにも昔はたくさんのナラの木があったということなんだ。そもそも日本人と西洋人にはギャップがあるよね。つまり西洋人は木を切ってそこに家畜を放した。たんぱく質を家畜に頼ったんだ。だから森は再生しない。地中海はきれいだけど、実は魚はあまりいないんだ。やまや森の養分が海に行ってないからね。「水清きければ魚棲まず」というように、キレイだということはプランクトンもいないということなんですよ。例えば、東京湾と鹿児島湾を比べると鹿児島湾の方が圧倒的にきれいでしょ?でも、大きさは同じなのに、東京湾の方が30倍も魚が取れる。だって、東京湾にはたくさんの川が流れ込んでるけど、鹿児島湾には大きな川が一本もない。真珠の養殖さえできない状態なんだから。東京湾の水は2年で真水でいっぱいになるほどの推量が川から流れてくる。しかも武蔵野の雑木林を通ってね。だから河口から川の上流を眺めると、ものの見方が変わってくるんですよ。」

畠山さんは海に流れ込む養分の中で植物プランクトンのほかにも、重要な存在があるとも言ってました。
「広島大学の先生の研究で、最近凄いことがわかってきたんです。実は、川を通して森からたくさんの葉っぱとかが流れてくるでしょ?あの中にあるセルロースは、細菌などの微生物では分解しにくいんですよ。でも、ヤブレツボカビという生物がいて、これがセルロースを細かく分解することがわかったんです。しかも、これが稚魚がエサにするのにちょうどいい大きさで、さらにはドコサヘキサエン酸やエイサコペンタエン酸の塊のような、えらいやつなんです。これが川の中にも海の中にもウヨウヨいるんですよ。まさに、森は海のママってわけだ。それに、森の喪失という問題を語る時、みんな陸の森しか言わないけど、実は、海の中の植物プランクトンや海草も炭酸同化作用、つまり光合成を行ってるんですよ。陸上の光合成と海のヘリで行われている光合成はだいたい同じ規模なの。だから日本には大森林が二つあるんですよ。これから言っても全部がつながっているということがわかるよね。」

畠山さんは子供たちへの体験学習を通して、森と海の関係を教える活動もしています。
「今ね、子供たちを河口に連れていって、プランクトンを飲ませてるんです。プランクトン・ネットで捕ったやつを。そこには、人間が流したいいものも悪いものもある。で、それをカキが食べてるんです。それを人間が食べているわけで、環境問題として難しく言ってもわからないけど、こうすればわかる。」

なるほど。つまり食物連鎖の真ん中を省いちゃったたわけですね。

「そう。だから、朝シャンしたシャンプーや、川に流したおしっこを、結局は人間が食べると思えば、わかりやすいでしょ?こうして体験学習に来てプランクトンを飲んだ子の中から東大生もでましたよ。既に5000人ぐらいが体験してるから、今に見てなさいって感じですよ。だから、カキを作ってる漁師はいいポジションにいると思うね。教材はそれこそどこにでもある。東京湾でアサリや海苔をやってる漁師さんも地元の教育施設と組んでやったらいいよね。最終的には人の心の問題だから。僕は人の心の中に木を植えてるんですよ。こういう教育を全国で展開したら日本は変わると思いますよ。」

「森は海の恋人」運動。今後もあちこちで展開していきたいとおっしゃっていた畠山さん。もう一度海から、河口から日本という国を見つめ直すいい機会なんじゃないかと思います。

猟師さんの森づくり畠山重篤さんの主な著書
●「漁師さんの森づくり〜森は海の恋人」(講談社)
●「森は海の恋人」(北斗出版)
●「リアスの海辺から」(文藝春秋)
●月刊誌『諸君!』連載「汽水の匂う洲(くに)」(文藝春秋)



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