2002年3月10日

『木と暮らすフェスティヴァル2002』リポート

 3月2、3日、横浜のパシフィコ横浜で『木と暮らすフェスティヴァル2002』が開催されました。この催しは、木を暮らしに生かし、新しい木を育てようというテーマのもと、学ぶ、感じる、楽しむという3つの要素にしたがって、様々な展示がされていました。合わせて、園芸家・柳生真吾さんと芸能界きってのアウトドアズ・マン・清水國明さんのトーク・ショーも予定されていました。いろいろなブースを見ながら、木と暮らす生活を考えるこの催し、会場の入り口を入ったすぐの所に木のことを学べるコーナーがありました。テーブルの上に木のくずをいれた紙コップや、枝や葉っぱ、いろいろな松ぼっくりを置いてあったんですが、さっそく森林インストラクターの高尾幸男さんにこんなお話をしていただきました。

高尾幸男さん

高尾さん「クリスマス・ツリーといえばモミの木ですが、最近ではドイツ・トウヒで代用されることも多くなっています。それは、モミよりもドイツ・トウヒの方が人工的に数多く栽培できるからなんですが、モミは環境汚染に弱くて段々なくなりつつあることで、ドイツ・トウヒが使われるようになっているんです。ちなみにモミは我々日本人にとってはクリスマス・ツリーというよりも、誰もがお世話になる棺桶に使われているんです。腐りやすいからなんですが、まぁ、今は土葬をすることは滅多にありませんけどね。卒塔婆も半年や一年で腐ったほうがお寺さんにとって都合がいいということで、モミが使われているんです。そういうことでモミというのは柔らかくて腐りやすい材なんです」

 このコーナーは森林インストラクター東京会が企画したコーナーだったんですが、続いて会長の石井誠治さんから「樽」と「桶」について教えていただきました。香りがいいことで評判のヒノキは実は酒樽には不向きなんですね。酒樽に使われているのは、ヒノキよりは香りがマイルドな杉で、清酒の匂い付けにもなっているそうです。
 そして「樽」と「桶」の違いは蓋があるかないか。固定した蓋があるのが樽、ないものが桶。確かに酒樽、みそ樽には固定した蓋がありますが、風呂桶、棺桶には固定した蓋は付いていませんよね。
 それから使われている材にも違いがあります。樽は年輪に直角に製材した、見た目にも美しい「柾目(まさめ)」を使い、桶は年輪にそって製材した「板目(いため)」を使うそうです。樽の場合は中に発酵する食品を入れて使うことが多いので、呼吸しやすい柾目を使い、桶は水が漏れなければいいので板目で十分だそうです。

 さらに「石井」さんからこんなお話をうかがいました。

石井さん「実は皆さんあまり御存知ないかもしれませんけど、杉というのは日本にしかないんですよ。日本の特産種です。ヒノキもそうです。ヒノキといえば、ヒノキのお風呂。香りがいいといわれてますね。でも高いというイメージがあるでしょう? なんで、高いのか。節がないんです。無節なんですね。節があると水が漏れちゃいますから、節がないものを使わなくてはいけない。だからどうしても高くなっちゃうんですね。一番水に強いのはヒバですが、材の蓄財量が少なくて高級材になっていますから、ヒバで作ったらもっと高くなっちゃいます」

●ヒノキやヒバをお風呂に使うっていうのは、何がいいんですか?

石井さん「ヒノキというのは構造材としても永く持ちます。例えば、東大寺なんかは木造建築で最も古いと言われ、1200年たっています。ということは1200年前に切って建てたものが今でもちゃんと立っている。つまり、1200年たってもまだ、構造材として役に立つ強度を保っているということなんですね。非常に強い木なんです。また、水の中に入れてもかなり強い。杉と比べても、杉はヒノキの半分ぐらいで腐っちゃいます。それがヒノキの特徴なんですね」

 森林インストラクター東京会では、高尾山をフィールドに季節ごとに、親子の自然観察会を行なっていますが、東京会の活動のことなどはホーム・ページ(http://plaza27.mbn.or.jp/~FIT/)でもご覧になれます。

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 森林インストラクター東京会の企画コーナーのお隣には、芸能界きってのアウトドアズ・マン清水國明さんが代表を務める、「自然暮らしの会」(http://www.bnl.co.jp/)が陣取り、チェーンソーで木工品を作っていました。そのコーナーに近づくにつれて、チェーンソーの音が大きくなってきました。

●清水さん、何を作ってるんですか?

清水さん「イスーッ!チェアーッ!チェーンソーでイス。この後チャリティに出すんで作ってんの。しかし、近所迷惑でしょ、ここ。会場中に音響かせて。でも今回、チェーンソー用のマフラーを、森脇レーシングの森脇社長に作ってもらったの。ホントはオートバイ用なんだけど、チェーンソー用のを特別に作ってもらって付けたわけ。でも、けっこううるさい。やっぱり室内でやるものじゃないなと思ったけど」

●いくつぐらい作るんですか?

清水さん「もうガソリンと木があるかぎり。イスとかプランターとか。そうして全部加工してしまえば、終わったあと、もって帰らなくてすむからね」

●じゃぁ、たくさん作って下さい。

清水さん「じゃぁねぇ、バイバ〜イ」

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 清水國明さんはこのあと、トーク・ショーやチャリティ・オークションと大活躍だったんですが、会場では、その前に園芸家、そしてNHK「趣味の園芸」のキャスターとしても活躍中の柳生真吾さんのトーク・ショーが始まりました。トーク・ショーの進行は群馬県で自然学校「森の学校」などの活動をされている志村和浩さんです。ダイジェストでどうぞ。

柳生真吾さんトーク・ショー

柳生さん「おかげさまで私も家を建てまして4月に引っ越しました。八ケ岳で、もちろん木の家なんですが、ウチ、家族が多いもんで・・・」

志村さん「皆さん御存知ですか? 実は柳生さんは4人のお子さんがいるんですね。あまり家庭の顔は見せていませんけどね」

柳生さん「女、男、女、女で、一番上が2年生。だから家族6人がうろうろできる家が欲しいなと思って、念願の家を建て、借金も持ち、大人の仲間入りです」

志村さん「その木の家、こだわった点はありますか?」

柳生さん「あります、あります。唯一の自慢は凄い大黒柱があるんです。ウチで4代目、今まで3軒の家を支えてきた、40センチ四方のケヤキの大黒柱で黒光りした凄いやつ。やっぱりど真ん中に立つわけで、邪魔なところにあるんですよね。だけど、子供とかみんな触っていくんですね。何故かはわからないけど、僕らよりはるかに永く生きている柱だから、葉っぱがついていなくても抱っこしてくれるような優しさというか、子供はみんなそこに寄っかかってるんですよ。あとね、ひとつこだわったのが床の材料。普通は使わないらしいんですが、サワラの木を床に敷いたんです」

志村さん「サワラって非常に柔らかい木ですよね」

柳生さん「もうね、爪でもキズがつくくらい。余計な水分を吸い取る柔らかい木で、冬でもウチの床はあったかい。さすがにお米の水分を吸い取るだけあって、足の裏に汗とかかいてても、5〜6歩歩くうちに靴下なんてからっと乾いちゃうんですよ。でも設計士さんとは大げんかですよ。こんな床に使った人はいないとか。凄いキズだらけだけど、昔の校舎なんてキズだらけですよね。キズもちょっとつくと気になるけど、全部つくとおしゃれですよね」

志村さん「いい味出してますよね」

柳生さん「だからキズがつきにくいところは自分でつけてますけどね」

志村さん「木と暮らすということでお子さんに伝えていきたいと思っているところは何かありますか?」

柳生さん「日本中どこにでも達人っているじゃないですか。もうすぐ雨降るよ、っていう天気を読む達人とか、あの淵には必ず魚がいるっていう魚捕りの達人とか、あの石の下をめくってごらん、ミミズがいるよとかね。そういう達人はたくさんいらっしゃる。で、そういう方達はそれを当然だと思ってるから、表現もしていないんです。そうすると、僕とか志村さんの年代がけっこう頑張らないと、そういうものって絶えちゃうじゃないですか。ウチの子供に僕は伝えられないわけだから、子供たちの先頭に立ってそういう人たちに夢中になって話が聞ける、そういうふうにありたいし、その時子供たちがそばにいたら、あっという間に親を超える理想的な展開になるんじゃないかと。僕が教えられることは知れてるから、たくさんの達人達の話を聞きたいです」

 柳生真吾さんのトーク・ショーが終わったあと、個別にインタビューもしました。

柳生真吾さんとエイミー

●木と暮らすというテーマは、真吾さんにとっては当たり前。

柳生さん「いいよなぁとか、八ケ岳だから出来るんだよと、よくいわれるんですけど、それをいうなら、八ケ岳には海がないし、山の暮らしはなんにもないと思えば何もない。だから、そこにあるもの、東京なら東京でやれることってたくさんあると思います。問題は色々と思いをはせられるかどうかだと思うんです。だから木と暮らすということでいえば、僕が今やっている園芸、マンションで暮らしていても、その一鉢から、森を想像できたり、田舎のおじいちゃんを想像できるきっかけになればいいじゃないですか」

●今回のフェスティバルが、学ぶ・感じる・楽しむとありますが、この4月から学校が週休2日になるじゃないですか。せっかくだから、週末お父さん、お母さんと一緒に自然の中に出ていくような機会が増えればと、番組でも思ってるんですけど、そう思うと雑木林を作りはじめたころ、あれが理想なんじゃないかなぁと。朝起きたら八ケ岳にいたという状況の中、たき火の火を絶やしたくないからお父さんが切り落とした枝を拾い集めて、自動的に森の掃除をすることになったりして、でも、それがまだ真吾さんの中に残っているわけじゃないですか。

柳生さん「こうやってしゃべってたら、同じことをしようとしてますね」

●結局、お父さんと真吾さんを見てると、親の背中を見て育つという感じなんですね。

柳生さん「オヤジは僕とか、周りの目とか、何も気にせずに自分の好奇心のままに、凄い大人には凄いなって目をして教えを請うてたし、そういう姿勢を、僕も子供たちに見せられたらいいなと、ふと思うんですよ。どんどん興味ってなくなってくると思うんですけど、興味が年々増えるような自分の身の置き方というか、能動的にね、オヤジも実は能動的に頑張って八ケ岳に行ったり子供と一緒の時間を作ったと思うんですけど、それは僕のためにもやってたと思うんですけど、自分のためにも一生懸命やってたと思うんですね。それを子供たちにも感じさせられたら、きっとうまくいくんじゃないかと思うし、僕よりもっと凄いものを身に付けた子供も出来るだろうし、興味津々の目が伝わればそれでいいかなと」

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 そうこうしているうちに会場では清水國明さんのトーク・ショーが始まりました。こちらもダイジェストでどうぞ。

清水國明さんトーク・ショー

清水さん「今日本の木がシカトされてるんです。でも日本の木はいいのがあるんですね。だからそういう木を使って家を造ったり、家具を作ったりして楽しんでいくというのが、今一番重要なんです。21世紀は水の世紀なんです。水は世界中で問題になってますよね。20世紀は石油の世紀だったけど、今は水なんです。水を出すには森や木がいるわけで、日本は外国の緑を壊して木を輸入して、自分とこの木は腐らせてるんです。安いからなんですけど、安いからという理屈でずっとそうしていると、今の日本の消費社会もそうだけど、安いからといってみんなが安いものばかり買っていたら、商売できなくなるんですね。だからいいものをいいものの価値で値段をつけていくという。日本の林業もそうなんです。オヤジとかおじいちゃんが植えてくれた、ものすごいいい木がいっぱいあるんですよ。それを使うようなシステムに今はなってないんです。だから日本の産業も大変だし、世界の環境も壊してるんです。
 自然の中に入っていく心構えでいうと、今は敷居が高くなってるんです。自然がどんどん遠ざかっているんですね。自然を遠ざけたためにおこる不都合がむちゃくちゃ多いですね。自然に従えば治っていく病気が、今は不自然に不自然に、というふうにしてるんです。新建材とか人工的な化学物質が室内にたくさんある。ふるさとが自然ではない、人間が勝手に作ったもの、それを燃やしたりするとダイオキシンとかが出るんです。ポンと捨ててると、いつまでたってもそこにあるから、邪魔だからといって燃やすと有機塩素化合物になるわけだ。木はポンとほっとけば腐るんですよ。腐るということは土に還るんです。その辺の違いでいうと、自然を遠ざけて、自分も自然から遠ざかって行くことによっておきている不都合がいっぱいあるんです。
 じゃぁ、どうすればいいか。リハビリしなくてはいけないんです。ということは自然から逃げたり、遠ざかったりせず、離れるスピードを緩めて、そして自然に戻っていくこと。一番賢いのは自然に近づいていく方法をとっていかなくちゃいけない。だから木がいいというのは、何も木を売って儲けようという話じゃなくて、ライフスタイルとして、いかに自然を身近に置くかということなんですよ。資本主義じゃなくて、自然主義に戻らなきゃいかん。お金やものが御主人の世界ですよね、今は。そうじゃなくて自然のやり方、自然の循環のしかた、共生しかた、自然からいただいたものは自然に還していくというやり方をやっていかないと、どんどん、無駄・ムラ・無理が生じてくるんです。自然暮らしの会が信じてるものは自然なんです。木とか風とか魚とか、そういうもんが一番偉いんちゃうかと。一番偉いさん誰でもいいから連れてきてみぃ、そこの草とどっちが偉い、と俺は思うねん」

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 さて、今回のレポート、最後にご登場いただくのは、近くの山の木で家をつくる運動を行なっている特定非営利活動法人「緑の列島ネットワーク」の代表理事長谷川敬(ひろし)さんです。長谷川さんは「東京の木で家を造る会」の理事も兼任されている一級建築士でいらっしゃいます。そんな長谷川さんから“地元の木で地元の家を造る”という運動の意味を語っていただきました。

長谷川敬さん

長谷川さん「ここ20〜30年の間、日本は化石資源を大量に輸入して、ものを工業化して作ることに走りましたね。家作りは元々地元の木で地元の人が作るという、地場産業だったんですよ。それが、新建材が出来たためにナショナルな産業になって、そこにいろんな企業が参入して、利潤を上げるためのいい投資先になった。買う人も住宅展示場を見に行って買うようになった。しかも家を人手を省いて簡単に作るという家が主流になった。それを誰も疑わなかったんです」

●それが今見直されているということは、やはり健康面ですか?

長谷川さん「そうでしょうね。町の側で木の家が欲しいというのはそうでしょうね。まさにシックハウスとかアトピーとかの問題があります。でも、対病気対策ということだけでなく、自分の家だけじゃなく、自分の環境を考えるようになってきたといえるんじゃないでしょうか。家にとってもその土地にあった木で作るのはいいことだし、何よりもその土地の木を使うということは、山を手入れするということになります。ということはその土地の水も良くし、炭酸ガスも吸収し、治山治水も行ない、生態系も養う。まず、自分に直接関係ある山を自分たちの生活が支えるという格好で結びつくというのは基本的にいいですね。でも日本は秋田、宮崎、天竜のような大きな産地があります。そういうところは自分の町だけに売っても間に合わない、だから大都市にも売らなきゃならないですね。だから地元の木で作るといっても国産材で作る。大きな産地と大きな都市が結びついた木の使い方と、本当に地元の人が地元の木を使うという両方でしょうね」

●こうした運動が進んでいけば最終的にはおいしい水が飲めるということにもつながっていきますよね。

長谷川さん「そうですね。でももう一つひっかかってるのは、今、山がごみ捨て場になってるということです。産業廃棄物の一番大きな受け入れ先は山なんですよね。山がそういうものを受け入れてお金にしなければならない状況というのは非常にまずいですね。そういう意味で、日本はもはや、きれいな水を期待できない、きれいな水どころじゃなく、毒の水を出す可能性も高いんですね」

 長谷川さんが代表理事のNPO法人「緑の列島ネットワーク」では、活動を共にしてくれる会員を募集中。詳しくは「緑の列島ネットワーク」東京03-5419-3621まで。「緑の列島ネットワーク」(http://www.green-arch.or.jp)のホーム・ページも参照して下さい。

 というわけで、木と暮らすということを考えてきた今回のレポート、大変奥が深い問題をたくさん含んでいると思います。皆さんもこの機会に考えてみて下さい。


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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. FOREST FOR THE TREES / HUEY LEWIS & THE NEWS

M2. OUR HOUSE / CROSBY, STILLS, NASH & YOUNG

M3. LISTEN TO WHAT THE MAN / WINGS

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. WALKING SLOW / JACKSON BROWNE

M5. MOTHER NATURE'S SON / JOHN DENVER

M6. EARTH IS MY HOME / SUSAN OSBORN

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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