2002年8月4日

木工芸家、作家・稲本正さんの「森を創る 森と語る」

稲本正さん

 今週のゲストは、この番組ではお馴染み、「オークヴィレッジ」の代表、そして木工芸家、作家の稲本正さんです。稲本さんは世界20ヶ所の森をめぐり、去年、『森の惑星』という本を出され、更に、世界の森の現状をもっと多くの人に知ってもらい、特に、危機的な状態にある熱帯雨林5ヶ所に寄付する目的で、去年から「森の惑星プロジェクト」をスタートさせています。「水の惑星」ではなく、なぜ「森の惑星」なのか、それは地球上にある水の97.2%は海水で、陸上にある水もほとんどが氷や雪、となると実際に使える淡水はほんのわずかしかない。そんな淡水を浄化して美味しい水にしている主役は森であるという考え方から稲本さんは「森の惑星」と呼んでいるんです。
 このプロジェクトの具体的な活動としては、C.W.ニコルさん、筑紫哲也さん、永六輔さん、そして今森光彦さんが日替わりで登場した「森の惑星トーク・ショー」。
 そして、“森と人の再生”を語れる各界のエキスパート12人を迎えて今年の6月まで、月1回のペースで12回行なわれた「森の惑星・森林総合講座」があるんですが、これらの収益金などが寄付に当てられる他、トーク・ショーと森林総合講座の第1回目の模様をまとめた『森を創る 森と語る』という本が、今年の6月に岩波書店から出版され、その売り上げの1割も寄付されることになっています。言うなれば『森を創る 森と語る』という本は、『森の惑星』プロジェクトの集大成と言ってもいいもの。稲本さんには早速その本の目的からうかがいました。

森を創る 森と語る
森の惑星

「森が全部わかる講座を開こうと思ったんです。16人登場してもらったんだけど、一番バッターがC.W.ニコルさん。森の実践家のような人だよね。2番目が筑紫哲也さん。ニュース・キャスターだけど、世界を回ってるから、世界から見た森の存在。それから世界昆虫記という本も書いている今森光彦さん。雑木林をずっと撮ってる写真家だね。それから永六輔さん。おしゃべりのうまいおじさんで、日本の歴史とか森の歴史をよく知ってるっていうこと。それで最後に中村桂子さん。生命史の研究家、つまりゲノムの研究家だね。人間の遺伝子がなんなのか、全部解明されようとしてるんだけど、そのプロジェクトのリーダーだった人で、もう一方では昆虫と木の関係とかをずっと調べてたりした人で、その5人にまず登場してもらって、森の概要を。それに僕が“世界の森早分かり”や“日本の森早分かり”を加えて、日本人は森に対して何をしたらいいのか、それをコンパクトにまとめたんですよ。
 日本人がよく間違えてるのが、日本はまず森林面積ということでいくと、世界3位なんです。1位はフィンランド、2位はスウェーデン、3位が日本なの。だから面積だけでいえば凄い森があるところなのよ。だけど、そこに生えてる木はたいしたことないっていう変わった国なんですよ。でも、若い木だけでいうと、戦後すぐから植え始めて、50年で日本の木材蓄積量は3.5倍にもなった。日本の森は3.5倍にもなってるんですよ。何故かといえば、日本人は木を使うといっても8割は外国から買ってるんです。8割も買っておいてひたすら植えていったんだから増えるのも当たり前でしょ? だから外国人から見れば日本はよそから金で買って、自分のところの木は使わないといって怒られてるんですよ。日本の自然保護者も大分勘違いしてる人がいて、いまだに切るな切るなって言ってるんだけど、それはもう過去の話で、今は、特に杉やヒノキは切って材料にして使わないと森の中にあまりすぎてるぐらいなんですよ」

●ちょっと前までの概念からは変わってきてるんですね。次の段階に進まないといけないということなんですね。

「そう。それから壊れてる森もすごく多いんですよ。森林面積率で言えば世界3位だけど、いい森林はあまりない。じゃぁ、いい森林ってどういうものかというと、大体1ヘクタール当たり500本から1000本ぐらいあるのがいい森なの。それが10,000本もあると、小さな木がわーっとあるだけ。だから森を手入れしなくちゃだめ。あるいは作り直さないと。だからこの本のタイトルは『森を創る 森と語る』になってるんだけど、森を作り直すということでいうと、実はニコルさんと僕は、ほとんど同じ時期に始めてるんです」

●清見村のオークヴィレッジと黒姫のアファンの森・・・。

「そう。彼は壊れたというか、ぐちゃぐちゃになっていた森をきれいに治した。僕は全く木が生えてない荒れ野を買って木を植えてったの。でね、正直言ってニコルさんの方は、元あった森を治したから早くよくなったの。僕はちょっと失敗したんだなぁ。なんにもないところに植えたからさぁ。ゼロからはじめたからね。それでも来てもらったらわかるけど、もう10数メートルになってるからね。そういうふうに木を植えていって、それから世界の森に僕は行ったわけ。世界20ヶ所回ってみて、特に、熱帯雨林が大変なんだよ。熱帯は金がないからついつい切っちゃうのね。まぁ、そういうことで、カメルーン、マダガスカル、エクアドル、ボルネオ、それとアマゾンの5ヶ所で、それぞれ僕の知り合いの人が一生懸命植えてる人がいるんで、寄付しようと。この本も有名な人ばっかりで、“印税6分の1で割ってもたいしたことないから放棄して下さいよ”っていったら、“いいよ”っていってくれたから、定価1800円なんだけど、180円が確実に熱帯雨林に行くようにできてるんですよ」

●私たちの感覚では180円というとたいした金額じゃないと思ってしまいますが、熱帯では180円あれば100本相当の木が植えられるんです。だからこの本を買うと同時に100本の木を植えるのに貢献したことにもなるんですね。また、稲本さんは熱帯雨林というと遠い世界の話だと思ってる日本人が多いけど、とんでもないことだといいます。

「なんか、アマゾンに木を植えたって、自分たちに関係ないと思ってる人がいるんだけど、僕らが吸ってる空気は東京の空気を東京の人が吸ってるわけじゃないんだよ。東京なんてね、ドームをかけて3日もおいておいたらみんな死んじゃうんだから。僕は飛騨に住んでるけど、飛騨の空気は1日程度で来ちゃってるのよ。でも飛騨の空気じゃ足りないの。アマゾンの空気でも大体数週間で日本に来てる。地球上では空気がものすごい勢いで回ってて、それで人間が生きられてるわけ。結局ロシアとかアマゾンの空気を日本人が吸ってるということなのよ。だからアマゾンに木を植えるということは自分のためなんだよね。しかも180円で100本とか植えられればいいじゃない」

●例えば私一人が生きるのに、空気という意味で500本の木にお世話になる。ということは今からでも500本の木を植えることが出来れば、少しは恩返しができる・・・。

「500本あれば充分。300本でもなんとかなるね。つまり人間が空調やクルマやペット・ボトルやいろんなものを作るために酸素を使う。その酸素を供給した木を確保したことになるということなんだね。でも、今大変なことが起きてて、普通木というものは歳とってくると太らなくなるの。人間でもそうでしょ。若いときは大きくなるけど、歳とると大きくならないでしょ。ところがアマゾンの木を調べたら、最近になって歳とってから大きくなってることがわかったの。どういうことかといえば、二酸化炭素、CO2が多くなっちゃったから、木にとってみれば食料が多くなったということで太っちゃってるの」

●ということは木の肥満?

「そういうこと。歳とってから肥満になると人間だって糖尿病とか痛風とか成人病になるでしょ? それと同じでアマゾンの木が段々成人病になってきてるのよ。もしアマゾンの木がある日突然成人病で全部倒れちゃったら、人類は終わりですよ。ロシアも今、ものすごい洪水か干ばつが起こるか。干ばつしたところは自然発火して木が燃えるでしょう。中国なんかも黄河なんて一度消えてるしね。また出てきたけどその間に水が潜っちゃったんだよね。揚子江だってしょっちゅう洪水が起きてるし、相当厳しいところに来てますよ。でも、日本が本気にやれば充分に世界の森は良くなる」

●日本が頑張ればいいんですか?

「アメリカもやらなきゃいけないけど、日本だけでもいい。要するに日本はODAで一兆円出してんだよ。一兆円の内、環境のためにはほとんど使われてないわけ。環境のために使えば世界の森は一兆円で充分良くなる。“森を創る”ってタイトルだけど、森を創るのはそんなに金がかからないんだよ。森を創るって、今は植林ばっかりやってるでしょ。植林だけじゃだめなの。植えたら植えたでいい気になるんだけどそれじゃだめ。まわりの下草を刈ったり、そこそこ大きく、5メーターぐらいまでは見てやんなきゃだめ。5メーターから先は人間なんて余計なことしなくていいの。勝手に彼らは大きくなる」

●日本が頑張れば世界の森は良くなるということはわかりました。でも、国内をまず見直すというか、日本人である私たちができることの一つとして、大きいところでは日本の木を使う。もう一つ、稲本さんのところで“ドングリの会”というのをやってて、私たちもミズナラ育てたりしてますけど、植林活動の一環としてひとりひとりがドングリを自分の家で育て、その苗を山に帰すということをやっても貢献できますよね。

「そうそう。ドングリの活動はどんどん増えてきて全国に広がっているんだけど、ただ、山まで帰すというところがまだちょっと問題で、芽を出さすのはみんな面白いからやるんだけど、そのうちごちょごちょいじってて殺しちゃう人とかがいるんだね。やはりちゃんと苗床に持っていって、苗床である程度大きくして山に持っていって5メーターぐらいまで大きくする。そこまでやれば絶対森はできるわけだから。でもちょっと問題なのはドングリを趣味的に植える人は増えてきたんだけど、その趣味が具体的な森作りまで完全につながってないの」

●なるほど。ごめんなさい、ウチにも2本あります。3個いただいたドングリのうち、一本は富士山に行ってるんですけど、あと2本、まだウチのベランダにいます。

「だから、ずっと盆栽みたいにウチにおいておくのも手だよ。でもやっぱり山に帰そうと思うんだったら、2年以上おいといてもそれ以上大きくならないの。プランターとか植木鉢の中では土が少ないから一定以上大きくならないんです。彼らは頭がいいからわかってるの。“この土で大きくなったら危ないな”と思うから成長をやめるの。それが土に下ろした瞬間に大きくなるからね。エイミーもさ、絶対ちゃんと植えて・・・」

●はい。次回のドングリの会には持っていきたいと思います。それにリスナーの方達の中にも何かやってみたいなと思ってる人がいると思うんですね。もちろん『森を創る 森と語る』を読んでいただいて、現状をしっかりと認識していただき、その上でできることを簡単にあらためておさらいすると、どうですか?

「まぁ、この本を買えば熱帯に寄付したことになるから、これ一つね。それと自分でできることで一番簡単なのはこれから秋になったらドングリ拾うとか、ドングリだけじゃなく他の木の種でもいいから、ちょっと勉強すれば植え方わかるから、ベランダでも家の中でもやってみてもらって、そうすると芽が出てくるから。でも秋口には出てこないよ。春にならないとね。春になって芽が出てきて1年ぐらいたって、20〜30センチぐらいになったら、いろんなところに苗床があるからそこに持ってって、更に1メーターぐらいにして、山に持ってくってこと。まぁ自分で作るってことね。それからもう一つは日本の木材を使う。今色々な製品で産地がはっきりしてきてるから、それを見て国産のものを使う。そうすると結果的には間接的に山を助けてることになる。あえていえばその3つかな」

●『森を創る 森と語る』の後書きのところに7つのキーワードを書かれていますが・・・

「一つは“おいしさ”。空気や水のおいしさだね。おいしさの根源なんだけど、空気や水の評論家って意外にいないんだよ。料理評論家ってすごくいるけど、グルメの元はきれいな空気のもとできれいな水で作った料理というのが大原則なんだけど、あまりそこがいわれない。だから空気と水のおいしさ。
 それから“多様性”。森林も多様性がなければいけないけど、日本人の中にも色々な種類のものがいる必要がある。日本人は特に単一性になっちゃうんだな。世界を回ってみて、日本人は何故かみな同じになりたがる。こんな民族はないと思ったね。生物全体は多様性だから文化も多様だということ。
 3番目には育てて楽しむ。“愛育”といってるんだけど、育てて楽しむというのはいろんな楽しみの中で一番面白いことだよ。どんな楽しみでも大体一過性なんだけど、育てて楽しむというのは何回でも楽しめる。ドングリの会だって大きくなったのを見ると、またやりたくなって病みつきになってしまうんだよ。ニコルさんだって、しつこくよくやってるなと思うでしょ? それは病みつきになるってことなんだ。
 それから“循環型”。これは日本なら日本の材を使う。そのことによって森がまた育つ。そういう循環を大切にしなくてはいけないということ。
 5つ目は“支援”で、熱帯林の支援というのは非常に簡単だということなんだ。今までルートがなかったけど、ちゃんとルートを作ってしまえば、100円200円で支援ができる。こんな簡単なもんないでしょう。ルートを作ってなかったからどっかで金が消えてたんだけど、今はあるから。
 それから“パートナーを作る”ということなんだけど、何をやるにも一人でやろうとしちゃだめなんだよ。自分勝手になるし、くじけるから。いいパートナーがいるとお互い頑張れるから。生物の世界でもそうで、熱帯雨林の木は昆虫や鳥のパートナーがいるんだ。自分の種を植えてくれる昆虫や鳥。それから微生物と共生するとか、絶対パートナーがいるんだよ。人間もそのパートナーを作る。
 そして最後はお話ばっかりじゃなくてちょっとでもいいから行動してみる。行動すればまた違う世界がでてくるから。まぁそんなことをキーワードにしようと思ってるんだ」

●まぁ、いってみればこれが『森を創る 森と語る』の第一弾ですよね。

「まぁ、16人いて最初の5人だから、これが売れないと次いけないんですよ」

●そうか、順調にいくと3冊ってことですから、その3冊を買うと合計で540円寄付できることになるわけですよね。1冊で約100本の木が植えられるということですから3冊で、私一人分OKになるじゃないですか。これは是非、第2弾第3弾と・・・。

「これは最初は森林の総合的なことだから、あとは考古学とか、建築関係とか環境教育とか、経済との関係とか、トータルに色々な側面から森林に触れる本に、シリーズとしてはなるんだけどね」

●そういう意味では『森の惑星』プロジェクトも始まったばかりという・・・。

「そうそう。だから是非ね、この本を買うと同時にこの本の2弾、3弾がでるような声を出して下さい」

●私たちも頑張ります。

■このほかの稲本正さんのインタビューもご覧ください。
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■木工芸家・作家「稲本 正」さん情報

森の惑星〜循環と再生へ 世界の森を旅する
世界文化社/本体価格2900円
 稲本さんが「森の惑星・プロジェクト」を始めるようになったきっかけなども詳しく載っています。
 

森を創る 森と語る
岩波書房/本体価格1800円
 「森の惑星・プロジェクト」を中心に、C.W.ニコルさんをはじめ、各界著名人のお話も満載、読みごたえのある内容です。
 

・オークヴィレッジのホームページ:http://www.oakv.co.jp/

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. EARTH OUT TONIGHT / ORLEANS

M2. THE THINGS WE DO FOR LOVE / 10CC

M3. OUT OF THE WOODS / NICKEL CREEK

M4. DOIN' IT ( ALL FOR MY BABY ) / HUEY LEWIS & THE NEWS

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. DREAM WEAVER / GARY WRIGHT

M6. RY VORONA / RAKOTO

M7. TIME PASSAGES / AL STEWART

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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