2002.10.13放送

ホールアース自然学校・平野達也さんとエコツアー


 今週のザ・フリントストーンは、今年は国連が定めた「国際エコツーリズム年」であることにちなみ、「ホールアース自然学校・エコツーリズム室」平野達也さんに案内していただきながら、富士山のふもとに広がる樹海をトレッキングしてきました。スタッフ全員、初めての体験となったエコツアーでしたが、とても有意義な時間を過ごすことができました。今回は、そのときの模様をお届けします。

●エコツアーとか、エコツーリズムという言葉を、日本でもだいぶ聞くようになって来ているんですけど、それでもまだよく分からないな、という方がまだまだ沢山いらっしゃると思うんですよ。まず、このエコツーリズムというものとは・・・。
「エコツーリズムというのは、まずエコロジー、生態系とか環境という意味の言葉が使われていますけど、そのエコロジーとツーリズム、観光ですね、これを繋ぎあわせた言葉、つまり造語なんですね。それをエコツーリズムというふうに言っているんですが、色々な捉え方があって、まだこれだ、という定義はないんですね。いくつかの目的があって、観光による地域振興、経済的な利益が地元におちたり、観光事業者がそれで産業を成り立たせたりだとかが目的の一つであったりだとか、それからこういうプログラムに参加して下さる方にとって環境について深く考える機会を提供することであったり、またもう一つは例えばこの森もそうですけど、地元の人が大切にしている資源、自然だとか文化というものを守っていくための一つの手段ですね。ちょっと難しいお話ですけど、そういったいくつかの目的があって、それに向けた取り組み全般を「エコツーリズム」というふうに呼んでいます。」

●その中で、今日私達がやっていただいているツアーが、エコツアーと言うんですね。ホールアース自然学校ではもう随分前からエコツアーというものに取り組んでいらっしゃいましたよね。
「はい、今年でちょうどホールアース自然学校は20周年を迎えまして、色々やってきた活動を振り返っているところなんですが、一番最初からエコツアーという言葉を使っていたわけではなくて、最初は家畜動物を飼いながら人とその家畜動物との暮らしについて考える場を提供するというようなことから、だんだん自然体験教室を子供達に対してするような活動を始め、その中で子供だけではなく大人に対してもこういったプログラムを作っていこうということで、今年から少人数対応のエコツアーを始めたところです。」

●これからそのエコツアーに連れていっていただくわけですが、今日はどんな感じのコースなんですか?
「約3時間のコースなんですが、青木ケ原樹海というある意味有名な森の中を一緒に歩いていただいて、その森の深いところにある洞窟、いわゆる観光洞窟ではない本物の自然の中に入っていただきます。」

●よろしくおねがいします!

 というわけで、我々ザ・フリントストーンの面々は、樹海の中の道を歩き、とある洞窟の前までやって来ました。そこでは、雨具、ヘルメット等、それなりの重装備をして、さらに足元は凍っていて滑りやすいので、かがんで歩くように注意を受けながら、いよいよ洞窟の中に入っていきました。

●ここから私達は、氷が張っているところを進んでいこうとしているんですが・・・、なんか温泉がプクプク湧いているかのような音がしますね。
「所々、今の時期は氷が溶けている場所があるので、そこに水が落ちるとかなり違った音になりますね。」

●洞窟の中はきれいなんですねー。でも、あれはライトですか、なんですか?
「なんだろう?墨汁の容器ですね・・・。あっ、ここにも・・・、これは、BB弾かな。」

 私達の懐中電灯に映し出されたのは、なんと古い墨汁の容器でした。何故こんなところにこんなものが、という感じもしますが、放っておくと、どんどん氷の中にめり込んでしまうということで、平野さんはその墨汁の容器を拾い上げました。すると、その側から誰かがサバイバル・ゲームにでも使ったのでしょうか、BB弾がたくさん落ちているのも発見。それも平野さんは黙々と拾い、かなりの量を拾い集めて、先に進むことにしました。

●なんか、ちょっと広いところに辿り着きましたが。
「ここが今日の目的地、氷のホールです。」

●(反響を確かめるように)アー!!
「あまり響かないですね。溶岩の壁の中にはたくさんの隙間があって、ここに音が吸い込まれていってしまうんです。だから、あまり音は響かないんですね。ところで、この氷の厚さはどのくらいだと思いますか?」

●20センチくらい・・・?
「もっとあるんです。一説によると12メートルです。12メートルというとビルでいうと4階建ての高さくらいですね。なので、もし一瞬にしてここの氷が溶けたら僕たちは4階建てのビルの上からプールの中に放り出されるような感じですね、それくらいの厚さがあります。」

●立派な氷の柱みたいなのも見えますね。
「これは氷の逆さつららなんですが、氷筍というんです。そして、氷に光を当てると・・・きれいでオシャレでしょ。」

●ここには、水たまりがあるんですけど、これも自然にできた水たまりなんですか。
「そうです。この水は、富士山のふもとでは天然水として売られてますよね、あれの第1滴目ですね。数日前に降った雨が、天井の溶岩でどんどん濾過されてきてものすごいきれいな水になって、頭の上に落ちてきているんですね。いま、ポタッて落ちてきたこの水は、またこの氷の上をつたっていって下の方に流れていって、富士山のお腹の中でずーっと長い旅をして、次に出てくるのは数十年後で、白糸の滝や、富士山の湖の下から湧き水としてまた出てくるんですよ。」

●これで、洞窟から出てきたわけですが・・・それにしても気温差が凄いですね。上がってくると、暑い!という感じで。
「そうですね。森の中の冷たい空気が全部洞窟の中に入り込んでいて、それでほぼ氷点下から数度の間を季節によって変動するような感じだと思うんですが、1年間の気温の変動をグラフにしたときのその波と、洞窟の中の気温の波が、若干ずれているんですね。それが大体3ヶ月だというふうに言われているんですけど、したがって今10月の頭ですよね、そうすると7月の頭くらいですね。なので、今どんどん氷が溶けている状態で、ここから地上が冬に向かっていくと、それを追いかけるように洞窟の中の気温も下がっていくんです。そうすると1番氷が多い時期というのは地上が大体1月から2月ですから、洞窟の中は4月から5月くらいは氷のラビリンスみたいな感じで上からのつららがものすごく大きいものがたくさんあって、それと下からの氷筍がくっついて、氷柱という柱がたくさん立ち並ぶような感じになるんですよ。」

 ここで洞窟は終了、いよいよ私たちは「青木ケ原樹海」の中の、道なき道を進むことになりました。「樹海」というと、磁石が使えず、すぐに迷ってしまうというイメージがありますけど、鉄分を多く含んでいる溶岩の石を磁石のそばに持っていくと、ほんの少し針が振れる程度で、方位を知るには磁石が有効であることがわかり一安心。もっとも「平野」さんがいるから大丈夫なんですけどね。

「ここまできて、青木ケ原樹海の森を見渡しますよね、そうすると普通の身近にある森と何かが違うという点に気付く思うんですが、わかりますか?」

●まず、木が多様性とは言えない感じ、あまり種類が多くない・・・。あと根っこが出ていて土の中に入りきれていない・・・。
「この、青木ケ原の土の厚さって、平均してどのくらいあると思いますか? ちょっと下を見てみると、土かなと思っているところもよーく見ると苔だったりだとか、落ち葉が落ちてたりしていて、平均すると2−3センチだといわれています。」

●そんなに少ないんですか?
「そんな森ってあるのかって思いますよね(笑)。それでこれだけ立派な森が、なんで出来るんだろうと考えた時に、木を見ると横に根っこを張ってますよね、人間でいうと栄養が十分に摂れていない状態、例えば1日にトウモロコシや大豆の何粒というくらいの栄養しか摂れていない状態だと思うんですね。それでもこうやって、根っこを横に延ばすことによって、なるべく広範囲の場所から養分をもらおうと頑張っている。でも、わりと大きな木に見えて丈夫そうだなと思っていても、台風が来たりすると一気にバターンと倒れてしまうような木がたくさんあるんですよね。それはやっぱり根っこが深く張れていなくて横に張っているために、そのまま倒れてしまうというのがあって、そうなるとその木としての命は終わりですけど、やがて朽ち果てて、まだ形は木ですけど、ほぼ土に戻る前の木の状態になりますね。で、土になり2−3センチの土をわずかに増やしていく、そこに他の植物の種が落ちると、その養分を吸ってまた大きくなり次の命になっていくという循環が繰り返されているんですね。ですから、溶岩が露出していて岩がごつごつ出ていたりして普通の森とは一見違うんですけども、植物としての生命力はものすごく溢れている場所なんです。」

 そして、樹海の中を進んでいくと、少し開けた場所に出て来ました。

●ここは、洞窟の中にもホールがありましたけど、樹海の中のホールというところですか。
「そうですね、樹海の中の特殊な場所ですね。ここは実は青木ケ原樹海ではないです。で、いま歩いてきた後ろ側が青木ケ原樹海なんですが、何が違うか、ちょっと見比べてみて下さい。」

●青木ケ原樹海の方は、先が見えないくらい緑があるのと、木々がおたがい支え合って生きているんだなあというように、根っこを横に張りながら色々なアーティスティックなヨガをやっているような形をしながら立っているのが、こっちは根っこがほとんど土の上に出ていないような、しかも枯れ草にある程度覆われている・・・。
「光の入りぐあいとかはどうですか?」

●空が見えて、風が上から通ってくるような・・・、明るいですね。全体的にその明るさが緑の少なさに見えてしまっているんでしょうか。
「木の種類が、さっきはあまり種類がないとおっしゃっていましたが、青木ケ原じゃないこっちの方が多いですね。木の葉っぱの色なんかも随分明るくなってきましたが、基本的に、今まで歩いた青木ケ原とこれから歩いていく森は、全く違う歴史を持った森なんですよ。富士山のイメージはきれいな三角形というように言われますけど、実は下の方には小さな火山がたくさんあるんですよ。今の富士山の形になったのは1万年くらい前だと言われているんですが、それから何百年間おきに噴火を繰り返しています。最近は、ふもとの方からの噴火が多いと言われているんですが、それを側火山というんですね。その側火山の1つがここの大室山です。青木ケ原の溶岩を流した山が、この大室山の向こう側にある長尾山という山なんですね。この長尾山の向こう側に富士山があり、ずーっと富士山から下ってきた所に今、いるんですが、長尾山が噴火したのが今から1100年前、平安時代ですね。ものすごい噴火だったらしく、そこから流れ出たマグマが辺り一面の森を焼き払いながら下っていき、そのマグマは大室山を乗り越えることが出来なかったんです。なので大室山を取り囲むようにして流れ、大室山を越えたところでマグマが合流してさらに下の方に流れていって、西湖、本栖湖、精進湖を分断した時の噴火だと言われているんです。したがって、ここは焼き払われてしまった、他の森と同じ時代に生きていた森の生き残りなんです。なので、この森は青木ケ原樹海よりもずーと昔からあるんです。その1100年前の噴火から、マグマが固まるまで500年と考えて、青木ケ原樹海は500−600年の歴史なのに比べて、ここの大室山の森の歴史は3000年といわれています。」

●なるほど、もともとこの辺はこういう感じの森だった、というものが残っているということになるんですね。

 ゆったりとした空気が流れるブナ林の中に、「平野」さんたちが“森のおかぁさん”と呼ぶ、樹齢3,000年といわれる、大きなブナの樹があったんですが、その周りにはたくさんの鳥たちが集っているようで、様々な鳴き声が聞こえてきました。すると「平野」さん、おもむろに、バード・コールを取り出しました。

「これが僕のバード・コールなんですけども、鳥の鳴き方に合わせて、シジュウカラだとか、センダイムシクイなどの鳥の鳴き声を真似してあげると、場合によっては寄ってきてくれます。警戒心が弱い鳥は割と寄ってきてくれますね。練習次第ですけど(笑)。」

●これからの時期って、どうなんですか?秋も深まり冷え込んでもくる時期でもありますけど。
「暖かい格好をすれば、南側の西臼塚という所が、紅葉がかなりキレイです。樹海は針葉樹系が多いのでそんなに紅葉はしないんですが、その西臼塚は素晴らしい紅葉ですね。冬は動物の足跡、例えばウサギや鹿の足跡が残りやすいのでそういったものを追いかける、アニマルトラッキングというんですが、そういったプログラムも出来ますよ。」

●同じ所や同じルートを、季節ごとに追うというのも面白そうですね。
「面白いですね。5月に新緑のシーズンを迎えるんですが、その時は、冬おとなしかった植物達が一斉に芽吹き始めて葉っぱの色がものすごいキレイなんですよ。あと夏の暑いときは洞窟に入れば涼しいし、秋は大室山なんかはキレイな紅葉を見られますし。四季を通じて歩くにはいい場所ですね。」

●平野さんにとって、この青木ケ原樹海の魅力って何ですか?
「青木ケ原樹海というと、どうしてもマイナスのイメージが強いですよね。僕もここに来るまでは本当に怖い森でしか無かったんですが、どんどん違う風景を見ることができる、この森ってこんなに面白いところだったんだな、という印象に変わりましたね。そういう、今まで持っていたイメージと、これからいろいろな発見をしていく可能性がたくさんある森、そのギャップが自分にとってものすごく魅力ですね。」

●そういうガイドの方がいらっしゃるから、ルート的にも安心して、そして楽しみながら学んで、賢くなって帰れるような、そういうエコツアー、どんどん皆さんも参加していただきたいと思いますね。
「自然が発信しているメッセージ、それを僕たちは自然語と呼んでいますが、そういったものを受け取るために、やっぱりガイドというか、インタープリターと呼ばれる人達がいて、その人達が、自然の言葉をわかりやすく参加者の方に伝えていくのがエコツアーの1番の魅力なのかなと思っています。そしてエコツアーを終えた後で、その中で吸収したこと、発見したことや、驚いたこと、そういったことを大切に持ち帰ってもらって、また森に来てもらったり、別の人に伝えていただいてどんどん輪が広がっていけば、エコツアーもどんどん広がっていくのかなと思います。」

●私達もたった1回のエコツアーではありましたが、今後もぜひ連れていって下さい。ありがとうございました。


『ホールアース自然学校』紹介
<エコツアー>
 私たちが参加したのは、9月から始まった少人数向けのエコツアー、コースは「青木ケ原樹海と大室山コース」でした。このエコツアーは、今回案内してくださった平野達也さんのようなプロのガイドの方が、森の成り立ちや自然界のメッセージを分かりやすく説明してくださいます。皆さんもぜひ一度、参加して、あなたなりの何かを感じていただきたいと思います。
人 数
2名〜7名
コース
「青木ケ原樹海と大室山コース」
「西臼塚の森コース」
「宝永火口(ほうえいかこう)トレッキング・コース」
全3コース。所要時間はいずれも3時間。
出発時間
午前9時〜/午後1時30分〜/午後7時〜(ナイトウォーク)
料 金
1人 5,500円 (保険料・税込み)

<アウトドア入門『れすとらん・秋』>
 このプログラムでは、焚き火を囲んで、お料理や旬の果実で作ったカクテルを味わう他、翌日は、お弁当を持って、紅葉を愛でる散歩にも出掛けることになっています。
日 程
10月26日(土)〜27日(日) 1泊2日
参加費
8,500円(宿泊費・食費・プログラム料など含む)
定 員
15名
この他にも「ホールアース自然学校」では、様々な自然体験ツアーや環境教育プログラムを行なっています。詳しくはホーム・ページをご覧ください。
お問い合わせお申し込み:ホールアース自然学校
電話:0544-66-0152
HP:http://www.wens.gr.jp

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