2002.10.20放送

藤田紘一郎先生の"コレラが街にやってくる"


藤田紘一郎先生
 今週は、『コレラが街にやってくる〜本当はコワーイ地球温暖化』という本の著者であり、「カイチュウ先生」、または「寄生虫博士」として有名な、東京医科歯科大学・医学部・教授の藤田紘一郎先生をお迎えして、どちらかというと他人事のように感じてしまいがちな「地球温暖化」の真の怖さについてを中心にお話を伺いました。まずは以前、お話を伺ったときに話題になった、先生が飼っていらしゃる?というサナダムシのキヨミちゃんの話題からお話が始まりました。

●藤田先生は、カイチュウ先生、寄生虫博士として有名なんですが、前回お話を伺ったときからスタッフ全員が気になっているであろう、キヨミちゃんは・・・(笑)。
「キヨミちゃんはですね、去年の夏にお亡くなりになりました・・・。サナダムシの寿命は、大体2年なんですね。はっきり亡くなった日にちは分からないんですが、ただ、あまりお尻から顔も出さなくなって、調べたら全く卵もいないし、あーいなくなったんだなと。今までずーっとキヨミちゃんと一緒だったので、やっぱりちょっと寂しくって(笑)」

●やっぱりサナダムシが、体内にいるのといないのでは、体調は変わるものですか。
「コレステロールや、中性脂肪がものすごい増えてきました。それを食べてくれる人がいなくなっちゃたものですから、グッと太っちゃって。今度は2匹入れてみようかなって、やってみたら逆に痩せちゃって(笑)」

藤田紘一郎先生の本●そしてこの度、朝日新聞社から出版された、『コレラが街にやってくる〜本当はコワーイ地球温暖化』というご本なんですが、タイトルだけ読むとあんまり怖そうでもないような感じがしたんですが、開けて前書きを読み終えてプロローグでいきなり、ゾゾっとしてしまいました。
「この地球温暖化のことはですね、清潔志向にあれだけ注意している日本人が温暖化ということに関しては全く無関心というか、実際7月に出した頃はあまり反響が無かったんですよ。でも、秋になっても暑い日が続いていますね、異常気象が続いている、そしてアメリカのニューヨークでウエストナイル・ウイルスの蚊が大流行しましたよね、何百人も死亡者が出て。それからマスコミにも取り上げられるようになったんですけど、日本でも蚊に刺されたら危ないということはもう数年後には起こると思いますよ。この本を書いたのは去年なんですが、ウエストナイル・ウイルスがこんなに爆発するとは思ってもいませんでしたし、マラリア、デング熱、日本脳炎やウエストナイル・ウイルス、みんな数年後にはもっと入ってくるんじゃないかと思います。」

●温暖化と蚊の関係は、地球温暖化でどんどん気温が上がっていき、今までの温度だからいなかったものが、温暖化に伴って増えてきてしまい、それがマラリアだったり、南の方でしか見当たらなかった病気だったりが影響を及ぼしてくるということなんですよね。
「ええ、ただマラリアを媒介するシナハマダラカという蚊はもう東京や仙台にもいるんですよ。でもそれはマラリアにとっては非常に効率が悪いんです。しかし、コガタハマダラカという効率のいいのが今、沖縄あたりまでいるんですね。それが、どんどん上って来ているんですよ。ですから、今まで沖縄や奄美大島までが生息範囲だったのが、東京まで来てしまうということなんですね。また東京湾には、眠っているコレラ菌やO-157、今まで知らなかった新しい病原体が、沢山あることが分かったんですよ。それが目覚めるとどうなるかという・・・。これも本当に怖い温暖化現象の一つだと思いますね。」

●その怖いコレラ、この本を読んでいて本当に鳥肌が立ってしまったんですが、私もこれまで東京とかで生まれ育ってきて、あまり危機感を持ったことがなかったし、遠い国のお話のようにしか感じていなかったそれらの菌が、実際にもう、私達の目の前にある東京湾に眠っているって聞いた瞬間に、「チョット待ってよ、暖かくなると目覚めさせちゃうわけ?」って考えたら、ゾクゾクっときて、「みんな、海に氷を投げ込むんだ!」みたいな気持ちになったんですが(笑)
「現実にペルーでコレラの大流行が起こったんですよ。その元はベンガル湾のコレラなんですが、エルトールコレラという非常に弱いコレラなんですね、だからもともとのコレラの流行地にいる人には大した事はないのですが、それが南米のペルーに行って大流行して何千人という死者が出て、それもペルー湾のエルニーニョ現象によって暖かい風が流れた海岸沿いに患者が発生しているんですよ。そこで、最初の事件が起こったときによく調べたら、貨物船がベンガル湾からペルー湾まで行っていて、そこに海水を捨てていたんですよ。その時にその捨てられた海水がエルニーニョで温められて、寝ていたコレラ菌が目覚めたに違いないということが分かってきたんです。」

●本当に他人事じゃない、ましてコレラやマラリアにしてもその怖さを知らない分、余計に怖いですよね。地球温暖化は私も怖いなとは実感していたつもりでしたが、甘かったなって、とても反省をした1冊です。
「過去にも温暖化はあったんですよ。でも今までのは自然現象だったんですよ。ところが今回の問題は私達人間が自分たちのことばかり快適にしようと考えているから、こうなっているんです。ですから温暖化の速度がすごい速いんですね。そしてその中では絶滅している種類が非常に多いんですよ。地球を見ると多様な種がないと人間も生きられない、それが減ってきてしまっているんですね。地球温暖化というのはその単なる温度が3度上がって、それがどうしたの、沖縄にいたキレイな蝶が高尾山に来た、これはいいことじゃないと言っている、でも一方では多種多様な種が絶滅を迎えているということなんですね。」

●地球温暖化が怖い自分たちの身に降りかかってくるものなんだってわかっても、どこかで、きっと偉い先生方がどうにかしてくれるに違いない、コレラが街にやって来てもそのための予防接種ができるに違いない、手軽に飲める薬ができるに違いない、これだけ医学が発達しているのだからって、安易に思ってしまうというところも無くはないと思うのですが。
「おっしゃる通りだと思いますよ。もうほとんどの人がコレラがやってきてもなんて事はない、なんかやってくれるだろうと思っているんだけども、実は日本人は免疫力が落ちているし、そして非常に身体が弱くなっていますよ。ちょっと階段があったらエスカレーターに乗っちゃうし、寒いと暖かくするし。本当に自分を弱くしているんですね。例えば24時間やっているコンビニエンスストアなんかは便利と言われているけれども、生物学者なんかから見たらどうかな、と思うこともあるんですよ。なぜかっていうと、私達の身体は1万年前から全く生物学的にも遺伝子学的にも変わってないんですよ。1万年前の身体そのままなんですよ。私達は、身体はそのままなのに自分の快適なように環境を変えてきたわけですよ。1万年前というとジャングルを走っていたし野原を走ってた、そういう人間でずーと来ているわけ。もともと私達の体内には、回虫が入ってきた時に活躍する回虫担当免疫細胞というのがあって、ようこそいらっしゃいました、ってお茶を出すくらいの感覚で、結核菌が入ってきたら困るよ、といってもその担当免疫細胞があったんですよ。そういう身体で今までやってきているのに、回虫は気持ちが悪いって排除しましたよね。そして結核菌も排除して、そうすると結核担当免疫細胞は職を失ったままそこにいるんですよね。その細胞が何をしているのかというと反応しなくてもいい花粉に反応したりして、それが花粉症だし、ハウスダストのダニに反応しなくていいのに反応しているのが、アトピー性皮膚炎ですし、それから食べ物の中の異物に気が付くのが、食物アレルギーですよ。だから回虫やバイ菌さんと付き合っている時は、そっちの対応で忙しくてお米の中の変なものに気が付かないから、卵アレルギーなどはなかったのですが・・・。」

●菌が、暇すぎちゃってるわけなんですね・・・。
「そうなんですね。この間、幼稚園でアレルギーの講演をしてきたのですが、幼稚園の園長先生が言ってましたよ。今、園児の中で牛乳のしずくが皮膚に付いただけでもひっくり返るような子供がいて、その子供は給食を食べる時は教室の端で食べていると。その子は、人が食べてる時に牛乳の唾が飛んだだけでも嫌なんですね。そんな子供もいるんですよ。だから、これは本当に脅かしではなくて、我々自身が地球温暖化は本当に怖いんだ、キレイになりすぎるのもいけない事なんだ、ということを各自でやらないと危ないのではないかと思うんですね。我々は生き物であって、1万年前と同じというような考え方の中でやれることだってあるわけですよ。地球温暖化が私達にとって怖いんだという自覚をすることによって、例えば寒すぎる部屋のエアコンを切りましょうとか、関係のないようなエスカレーターを付けるのをやめようとか、そういうことを各自やらないと温暖化は止まらない。」

●今日この番組を聞いて、本当に怖いって言うのを実感された方も多いと思うんですが、実際に、その他にも私達に出来ることは何ですか。
「蚊が媒介していたら全部殺すような事をすると思うんですね。でも、それは無理ですよ。蚊の方も殺虫剤に抵抗力のある蚊がでてきているし、バイ菌も薬を飲めばいいと思っていたのがそれに対抗する菌が出てきた。ですから、我々自身がその蚊に刺されても平気な身体にすればいいんですね。そういう発想をしないとダメですよ。」

●それは一番簡単なことでもありますよね・・・。
「そうです。例えば、泥んこ遊びをしている子供は、しない子供よりすごく免疫力が上がって、アレルギーになる率が全然違うんですよ。泥んこ遊びをしている子供の方がアレルギーになる率が非常に少ないんです。また我々の時代では、よく運動会で騎馬戦なんかが非常に危なくてケガをした、でもケガをしても平気だったわけですよ。ところが今は、お母さん方が、「あの学校でウチの息子がケガさせられた、どうしてくれるの?」って言うけれど、それはお母さん方は言ってはいけない事なんです。実際、ケガをしないと大きな事故に対応する能力が備わらないんですよ。だから、小学校の教員はケガをさせないといけないんですよね。結局、たくましくするにはどうすればいいのかって考えると、教育からなにから全部変わりますよ。子供さんがケガをしても、これは次に大事故を起こさないための教育なんだって思えるお母さんになって欲しいですね。」

●なるほど。私も、本当に考えさせられることが多かったですね。今日はありがとうございました。

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