2002.11.17放送

吉野川・川の学校『野田知佑ハモニカ・ライヴ3』


 今週は、11月9日に上野公園・水上音楽堂で行なわれたイベント「吉野川・川の学校 野田知佑ハモニカ・ライヴ3」の模様をお送りします。カヌーイスト・作家の野田さんは「吉野川・川の学校」の校長先生。子供たちにも絶大な人気があります。そんな野田さんの哀愁あるハーモニカの音色はもちろん、イベントの前に特別にお話を伺ったので、その模様もまじえて立体的に送りします。野田さん、野外料理人リンさんこと林政明さん、そして「川の学校」の主催者「吉野川シンポジウム実行委員会」の代表世話人姫野雅義さんのトーク・セッション。まずは今年の「川の学校」を振り返りながら、川ガキ、吉野川、生き物、自然、そして未来に思いを馳せました。

●「吉野川・川の学校」第二回目が行われましたが・・・。
野田 「ええ、去年は色々初めてだったので試行錯誤だったんだけれども、今年はちょっとわかってきたので我ながら非常にうまくいきましたね。それから天気も良かったし。僕は川で遊ぶプロですけど完ぺきでしたね。まず、場所の設定がよかったですね。吉野川では5ヶ所でやってきたのですが、その場所がみんな素晴らしくて。川の水も本当にキレイで、5回終わった後で子供たちが川で魚を見ると、すぐ「焼いて食べよう」というほどだったんですよ(笑)」

●文字通りの"川ガキ"ですね(笑)。
姫野 「川って、自分の1つの分身みたいな懐かしさなどを、歳を重ねるとともに感じるもんじゃないですか。そういう意味では吉野川は自分の川だっていう体験をしたということはすごく幸せなことだと思いますね。それと、1人ね、中学3年の子が今年高校に入っても何度か来てくれましたね。そういうのを見ていると、子供たちが成長していってそしてその次の子供たちへ受け継がれていく光景というのはなんとも言えないものですね」

●校長先生としてはどうでしたか、その子はちゃんと"川ガキ"ぶりを発揮してましたか?
野田 「ええ、もともと力のある子でしたから。みんなで感心なヤツだというような話をしていたのですが、本当に毎回来て大人と一緒に働いてくれましたね。やっぱ、あれは"川ガキ"の名誉優等生ですね(笑)」

●一方のリンさんは、やはり野外料理・・・?
リン 「いや、僕はねえ、やっぱり食事は行く度に2回くらいは作ってあげるんだけど・・・」

●なんか生で捕まえた魚をそのまま口に入れる子がいるって言うくらい逞しいんだという話を聞いたんですが・・・。
リン 「そうだったねえ」
野田 「あれ、飲み込む競争になっちゃったんだよね。最初2〜3センチくらいのを飲み込むと、次に4〜5センチの魚を飲み込む子がいて、そのうち10センチの魚を飲み込んじゃった子がいて、後で心配したんだけど(笑)」

●さすがの先生達もちょっと心配・・・
野田 「僕たちは笑って見てましたけど、子供はね、大変ですよ。魚がまだ腹の中で動くわけですから(笑)」

●(笑)そういう話を後で聞いたご両親の顔が目に浮かびますね。
野田 「御両親は、まず子供にそういうことはさせないですよね。まず、今の親の一番始めに出る言葉が「危ない」なんですよ。川に入るというとすぐ「危ない」ってね。でも、卒業した子供はそれを無視して子供がどんどん入って行くんですって。ある母親から手紙が来たんですが、子供がアッという間に川に入ってしまって、追っかけられなくなってしまったって。逆に親がついていくことになりますよ、子供が進んで」

●じゃ、逞しい"川ガキ"がどんどん育って、親の世代の人達を引っ張って・・・。年齢的にも反発したい時期っていうのもあると思いますし。
野田 「特にカヌーは単独行で1人の力で動かすんですが、それは親から文句言われずに動かせますよね。必ず単独行のカヌーに乗ると、ニヤって笑う子が多いですね。何か気付いたんでしょうね、自由さというものを」

●やっぱり、一つの川で「川の学校」をやっていく中でも、その周辺地域との関わりも色々あると思いますが。
姫野 「地域の人達にとって、自分の庭みたいな、そういうのが吉野川ですよね。でも、そういう関係を地域の人達はいつの間にか忘れていたと思うんですよね。吉野川の事で何かをしようとすれば、全て国土交通省を通さないと出来ない、触れない。そしていつの間にか吉野川が自分の手から離れていってしまったというね、そういう経過がずっとあって、そういう流れの中で吉野川に子供たちが行かなくなってしまったというね、それを何とかしたいというのはありましたね。「川の学校」で5ヶ所でキャンプをしたけれど、本来は地元の人達が一番楽しい遊びを知っているはずだし、良いポイントを知っているはず。そういう流れをこれからもっと築いていきたいですね。野田さんにもよく言われるんですが、「お前達は一番地元にいながら一番吉野川の事を知らない」って。やっぱり他の地域から来た子供たちが吉野川で楽しんでいる風景を、地元の子供たちにも見せる。それからですよね」

●そして今回は船も贈呈して下さった方がいらっしゃったという・・・。
姫野「カンドリ船って言ってね、これは吉野川だけといわれ非常に珍しい船なんです。なぜかというと、普通の船は舳先が盛り上がっているんですが吉野川の船は逆なんです。後ろの方が反り上がっているんですよ。後ろの方を上流側に向けてアユ漁をするんですね。そういう独特の船をカンドリ船と言うんです。それがもう、船大工さんがいなくなって作れなくなってきた。そういう吉野川の伝統的な漁具を、ぜひ子供たちに体験させたいということで。そのカンドリ船は子供たちも大好きみたいですね」
リン 「特に、大阪や東京方面から来た子にとっては、ものすげービックリすることだらけじゃない?水の中に入っても関東の川だったら1時間も入ったら寒くなっちゃうけど、吉野川は9月でもちょうどいい温度なんですよ。寒くならないし。で、魚もいっぱいいるしね。夢中になっちゃって1日中入ってますよ」
野田 「FAXを毎日くれる子がいましてね、都会に帰ってからも絵や文章をくれるんですが、その親も送ってくれるんですよ。子供が吉野川の話をするときはものすごくいい顔になる。非常にいい顔をして、吉野川のことを楽しそうに話すと。この子にとって吉野川の経験は宝石みたいなものです。といった内容の手紙をもらいましたね」

●そして2回目が終わって、来年も・・・?。
野田 「来年は、もっと欲を出して。自信もついたんで・・・」
全員 「(笑)」
野田 「リンさんなんかは忙しいのに、毎回来てくれて時間を費やしてくれるわけですよ。そういう熱意というのは子供が一番よくわかるんですね、人気投票だとリンさんがトップ。リンさんは、時々茶目っ気出して落語の小噺なんかもやるんですよ。そうするとみんながそれを真似して・・・(笑)」
姫野 「それを卒業式でも子供たちがやってましたね(笑)」
野田 「リンさんに個人教授してもらってね、小噺をする子供が出てきて、おかしかったですよ」

●吉野川の川の学校で、小噺を覚えて帰る・・・(笑)。リンさん、聞いてみたいなあ・・・(笑)。
リン 「(笑)やりますか?すぐやるからね・・・。 *空き地に囲いが出来たよ。・・・ヘー。*雷は怖いなあ。・・・ナルほど!。」
全員 「・・・・・・(笑)」 

 こんな小噺は、実はイベントの方でも披露されたんです。ここで、そんなイベントの模様をご紹介しましょう。

リン 「ではー・・・、 
 *火付盗賊改方鬼平こと長谷川平蔵が例によって両国橋のたもとに来た。仕事帰りと思われるそば屋と水商売風の女がすれ違った。と、その時、そば屋の身体が前のめりに崩れ落ち、「おや、そば屋さん、ケガはないかい?」「そういうお前は、おつーゆー」。
 *火付盗賊改方鬼平こと長谷川平蔵が例によって両国橋のたもとに来た。大金を貸してくれと言われ困っている葬儀屋と水商売風の女がすれ違った。「おや、葬儀屋さん、考え事かい?」「うーん、カソウ(火葬)かドソウ(土葬)かー」。
 *火付盗賊改方鬼平こと長谷川平蔵が例によって両国橋のたもとに来た。仕事帰りと思われる葬儀屋と水商売風の女がすれ違った。と、その時、葬儀屋の身体が前のめりに崩れ落ち、「おや、葬儀屋さん、ケガはないかい?」「そういうお前は、おつーやー」。
・・・こういうバカバカしいお話なんですけども

リン 「落語ばっかりやってるわけにはいきませんから・・・野田さん、なんか・・・」
野田 「昨日も徳島の海で泳いでたんですよ。まだ水温が20度なんでね、泳げるんです。海の温度は川の2ヶ月遅れなんです。だから川は12〜13度ですが海はまだ20度で泳げるんですよ。それから僕の日和佐の海は、ちょっとカヌーを漕いで500メートル程沖に出て岸に上がると誰もいない砂浜で、後ろは絶壁になってて誰も来れないんですね。そこで貝やアワビを捕って、そこでご飯を炊いてビールを飲んで帰るというのが冬の僕のパターンですね・・・」

 いよいよこの後、野田さんのハモニカが披露されました。そのハモニカの曲の間で披露されたリンさんの小噺。この2人の絶妙な間に、会場はどんどん引き込まれていきました。

リン 「僕、本当は、今日はミュージックフェアの司会のような感じで出来ればいいなーって思ってたんですけど(笑)なんか「落語とハーモニカの夕べ」みたいになってしまって、申し訳ないですけど・・・。
 *ネズミの娘が嫁に行ったんですけど、じきに帰って来てきたのでネズミのお母さんがたいそう怒って「お前、あんないいところに嫁に行って何で帰ってきなすったんだい?誰か嫌な人でもいたのかい?」「いいえ、誰も嫌じゃないんですけど、御隠居さんがあんまりやさしいんであたし嫌なの」「やさしいんなら、いいんじゃないかい」「だって、猫なで声なんですもの・・・」
 *今のねずみ捕りは、金網のカゴみたいなので出来てまして、中に餌があってその餌を中に入ってきたネズミがかじるとフタが閉まる仕掛けになっていますが、昔は「升落とし」というネズミ捕りで、それ、私もよくわからないんですけど・・・「おっ、かかった、でっけーネズミがかかったぞ!」
「いや、このシッポからみるとあんまり大きくないぞ、小さいぞ!」「いやー、でかいぞ、大きいネズミだ!」「いや、小さいなネズミだ!」大きい、小さいって上の方で言っていると、ネズミが「チュウ!」なんて・・・」
野田 「チュウ・・・(笑)」

 野田さんのハモニカの音色は、会場の雰囲気に見事に溶け込んでいきました。さらにリクエストにも快く応じていらっしゃって、会場はますます盛り上がっていきました。
そしてここから、お話はトークセッションに戻ります。


●川の学校を通して、川だけではなく森とか海とか全ての繋がりまで学べるじゃないですか。そうすると川の学校から森の学校、海の学校などのように広がっていくといいですね。
野田 「そういう話は時々出ますね。"川ガキ"養成講座の次に、今度は"山ガキ"を作ろうかというようなことを言ってくれてる人がいますね。いいですよね、そういう繋がりというのは。川は山である、山は川であるという発想。やっぱり僕が思うのは場所ですね。色々アウトドア体験教室をやってきたんですけど、やっぱり場所が悪いんですよ。「なんでこんなところで」っていう所でカヌーを漕がしたり、魚を釣らせたりしたことはあるんですが、吉野川に関しては本当に完ぺきですね。上流に行けばキレイなところ、中流は深みがあって面白いし、子供が朝から晩まで誰からも文句言われずに遊べる場所なんですよ。僕もあらためて吉野川を見直しましたね。ある時は支流でやったんですが、それがまた四国一キレイな支流で、夜の夜学というのをやったときには、みんな川の中に机をつけて、しゃがみ込んでやりましたよ」

●まるでメダカの学校のような・・・(笑)。
姫野 「ちょうど水深30〜40センチくらいの所で、山の中ですから真っ暗で、ランタンをボッ、ボッとたてて、すごいキレイですよ」

●それだけでも、すごい想い出ですよね・・・。

 さらにお話は「吉野川の可動堰問題」に移っていきました。250年前に造られた自然と一体になった優れた石積みの堰「第十堰」を壊して、膨大なお金をかけて巨大な可動堰の建設を進めたい「国土交通省」の計画に対し、地元住民が反対運動を展開。徳島市では2年前に可動堰の是非を問う住民投票が行われ、反対が圧倒的多数を占めたので、一般的には解決したと思っている方も多いかもしれません。しかし、その実態は・・・。

姫野 「住民投票が2000年1月で、その8月に自民党与党3党の白紙勧告が出て、計画白紙に戻ったということで完全に一件落着なのかなと思っている人も多いと思いますが。ただ、完全に終わったのかというとそうではなくて、ちょうどその時の建設大臣が扇千景さんになって、彼女が1番最初にやったことは、住民投票で反対されたんだったら場所をずらせばいいんじゃないかという事だったんです。住民投票で否定されたのは徳島市から1.5キロの地域だったので、そこから離れればいいと。こういうダム事業というのは、一度計画されたら息の根を止めるのは大変なんです。官僚機構というのは、お金を何としてでも使わなければいけないというプレッシャーがいつもあるもんですから、僕らとしてはもう一度計画が復活しないようにするためにはどうしたらいいかというところに、いま一番力を注いでいます。それはやはり、可動堰を造らない川というのはどれだけ素晴らしいかということに地域の人達が気が付くことが第一歩なんですね。そして、計画が再浮上した時に大きな歯止めになるような、後戻りできない所まで早くもっていかないと。もうあまり時間的余裕はないと思いますよ」

●姫野さんは「吉野川みんなの会」の代表理事としても活動していらっしゃって、でもなんかそれって、本来は国がやらなければいけないことなんじゃないかなと思うのですが。
姫野 「そうなんですよ」
野田 「国はある程度のデータを持っているんですね。でも絶対に公表しない。それを相手にしなければいけないので大変ですよ。最近は、緑のダムの話で盛り上がっているんですが、その実験するだけでも3000〜4000万円くらいお金がかかる。そんなのは国にとってはそれは何でもない金額ですけど、我々にとっては大変なお金です。国が何もしないから、国がやるべきことを我々がやっているわけで、本当にカンパが欲しいですね」
姫野 「すでに日本には2500ものダムがあるんです。まだあと500程計画があるんですが。でもその2500のダムにも、どんどん土砂が溜まって大変な事態なんですよ。だからダムを造らずに川とどう付き合っていくかというのが緊急の課題なんですよ。結局、川を守るためにも豊かな森も守っていかなきゃいけないんです。そのために今、学者と連携して森の洪水を防ぐ機能を数値に出していこうと研究をしています。でも、それはやはり住民がお金を集めないといけないので、本当に川を守りたいという方々の協力を、ぜひお願いしたいです!」

●それなら、国土交通省の人の子供を全員"川ガキ"養成講座に入れて、"川ガキ"にしてしまって、その親達まで引きずり込んじゃう。もしかしたらそれが一番早いかもしれないなって思ったんですけど(笑)。親の世代がダメなら子供の世代から攻めるって。校長先生!」
野田 「そうだねえ、そしたらみんな家庭不安になるなあー(笑)」
姫野 「面白いんじゃないですかね。いいかもなあ(笑)」

●「川の学校」が今回で第二回目を終えて、来年、再来年、3回、4回と、どんどん続いて、どんどん"川ガキ"が日本に増えて・・・、そして来年は今年を踏まえた上での新しいプログラムというか、こういうことをやってみたいというのはありますか。
野田 「ええ、また落語のネタが増えて・・・」
全員 「(笑)」
リン 「大ネタをなんてね(笑)」

●来年の今ごろも新しい大ネタを聞かせていただきながら、また「川の学校」の第3回を振り返ってお話を伺えればと思います。
リン 「楽しみにしてますよ、僕なんかも」

●今日は本当にありがとうございました。
『吉野川みんなの会』
 お話にもあったように「吉野川みんなの会」では、「脱可動堰の住民案作り」のために、「緑のダム」の科学的な検証と、「第十堰」の保全のための「千年もつ河川技術」の研究をテーマに活動を続けているんですが、調査・研究のための資金が不足しています。皆さんもぜひ、会員になって応援していただければと思います。
会費:個人:年間6,000円 団体:年間30,000円
 また、使っていないテレフォン・カードによるカンパも受け付けているそうなので、あなたのおうちに眠っている未使用のテレカがあったら、ぜひ送って下さい。
 そして「吉野川みんなの会」では自然豊かな吉野川をフィールドに、大人も子供も参加できる「吉野川自然教室」も開催中。11月23日〜24日は森林ツアー、11月30日〜12月1日はカヌー・ツーリングと、楽しいプログラムが予定されています。
お問い合わせ:吉野川みんなの会・事務局
電話:088-657-0722
HP:http://www.daiju.ne.jp

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