2003年1月26日

動物自然写真家・吉野 信さんを迎えて

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは吉野信さんです。
吉野信さん

 今週は、ザ・フリントストーンとは10年来のお付き合いをしていただいている、動物自然写真家・吉野 信さんを久々にお迎えしました。吉野さんは30年にもわたって通い続けるアフリカの大自然をはじめ、世界各地でも野生動物や自然を撮り続けられ、写真界の重鎮として御活躍されていらっしゃる大ベテランの写真家です。アフリカを知りつくしている吉野さんならではの、大自然や野生動物そしてアフリカの大地に生きる人々のお話から、一般的なイメージとは違うアフリカの新たな一面を感じ取ってください。

吉野信さん「カラー版・アフリカをゆく」

●御無沙汰しております。吉野さんは、去年の12月に中央公論社から『カラー版・アフリカをゆく』を出されていらっしゃいますが、吉野さんとアフリカといえば、この番組でも何度となくお話を伺っているほど切っても切れない感じがするんですけど、もう通い続けて30年になるんですよね。

「そうですね、僕がフリーになったときからですからね、最初に行ったのがアフリカで、そこから関わってきたという感じですね」

●今回は、野生動物だけではないアフリカの違う魅力もここでは紹介されていますね。

「そうですね、アフリカというと野生動物のイメージにすぐ結びつきますけど、決してそれだけではないんですね。いろいろ変化がある地形、自然、それから住んでいる人達、とにかく広ーい大陸ですからいろいろな要素があって、僕自身、訪れていない所の方が多いくらいなんでね。一般の人はアフリカと言ったら“サファリと動物”というイメージしか湧かないと思うんですよ、よく帰ってきて聞かれるのが「どんなものを食べている?」っていうのが多いし。アフリカと言えばお粗末なものしか食べていないというイメージしか湧かない、それだけ知られていないということなんでしょうね。あと、それらを見てきたものを伝えたいという気持ちもありまして、そこでこの本の話があったので一冊にまとめてみたんです」

●今まで持っていたイメージや先入観みたいなのとは、一番違うなって感じたのって、いつぐらいで何でしたか?

「最初ねえ、ケニアのサバンナを訪れたときにシマウマとかの草食動物に会いましてね、それを見たときには、それが当たり前の世界だと思って一つも興奮しなかったんですよ。それまでも何回かテレビのフィクションとかドキュメンタリーとかで写真を見ていたので、そこから見ると写真の延長に過ぎなかったんです。でもやっぱりの大群が目の前を走るのに十何分もかかったとか、実際そういう光景を見て、日にちが経つにしたがって、だんだんアフリカのイメージが自分でも気分が高まってきたというのかな」

●野生動物以外の部分ではどうでしたか?

「僕自身がフリーになってすぐでして、フリーになった時って割と見方が狭かったんです。また動物写真家になろうという意識があったので、動物にしか目を向けていなかったんですよ。結局、余裕がなかった。だけど何回か訪れているうちに、アフリカだけじゃなく動物が住むには自然がなくてはいけない、自然の中には人間も住んでいるし、いろいろな地球の面白さみたいなものがあるという事に気付いて、それからはどこに行っても楽しみだらけで発見が多いですね。その連続ですよ、ずっと」

●そして気が付けば30年(笑)・・・。

「(笑)。そうですね、30年・・・」

●それでもまだ見きれていないというアフリカ・・・。

「僕の場合は、一冊の写真集なんかにまとめるとなったら同じ場所に繰り返し行かなくちゃいけないんですよ。しかも四季があるようなところはそれも考えて何回も行くし、そうやって1ヶ所に20〜30回通うのは当たり前で、その分だけ広範囲には動けないと・・・」

●そうすると他の人や観光客の何倍も同じところに通わないといけない、そうしないと「よし、ここはある程度網羅したぞ」ということにはならないですよね?

「うん。それと、通うことによって分かってくる世界というのもあるし、今まで見えてなかった発見もあるのでね、アフリカに限らず東京都内の公園だって、気分変えて季節変えて歩けば別の発見があるのでね、歩くことは楽しいことであって、それの連続というのかな」

●この『カラー版・アフリカをゆく』の撮影で、雨期の時期に吉野さんが行かれた時のお話で、やはり大自然の中ですから動物も人も天気も風景も思い通りにならなくて、結局すごいスコールの中、若い象がサファリカーに向って威嚇をしてきて、その瞬間シャッターチャンスなんだと思いつつも、いわゆるオープンカーだったのでここでカメラを取り出してシャッターを押すと機材もダメになるし絶対に良い写真は撮れないと思い、自分の目に焼き付けて戻られたということで、「でも見たかったなー、その時の写真」って思っちゃうんですけど・・・(笑)。

「一応ね、撮ってはいるのよ、1枚くらいは。でもやっぱりすごい雨ですからね。身体はどってこと無いけどカメラは濡れたらもう使えないこともあるし、若干の防水は付いていてもあの土砂降りじゃやっぱりダメでしょうねー。しかしやっぱり迫力ありますよ、そういう時に象が威嚇して突進してくるときは「ヴオー!」って鳴きながら耳を広げてくるんですよね。ひけらかしというか、若いやつに限って自分がここにいるということを示したいんでしょうね。でもあのまま本気で体当たりされたら僕、今ここにはいないでしょうね。ほとんど大丈夫だろうと思いつつ、いつも待っているんだけれど(笑)」

●私もケニアで見た、本当にキレイで目に焼き付いている景色というのも幾つかあるんですけど、吉野さんが印象に残っている風景というのは?

「うーん、世界3大瀑布の一つビクトリアフォールズを間近に見たときはすごいスケールだと思ったけど、保護柵があって下まで覗けないの。写真家としてはそこまで乗りだして撮りたいんだけど撮れないんですよ、現実的に。で、次の年にセスナで行って上から見たときに、やっぱり上と下、両方から見たことによって、ビクトリアフォールズの凄さを見たというのかな、大地の様子だけでなく、ものすごい量の水が落下するというのは、僕としてはものすごく心躍るんです。
 あと、ナミビアのエプパフォールズだったかな、雨期の直後だったので普段は一本だけ滝が流れている所にも、ありとあらゆる降ったスコールの雨が川に注ぎ込んでいて、それが音をたてて流れてて、それがものすごいスケールで爆発してるわけですよ、あちこちで。それを見たときはうれしかったね。野生動物に出会う喜びとは違ううれしさがあって、その大地のスケールの大きさね、乾季に行ったらもっとおとなしい風景だったんだろうけど。地にバオバブの巨木が生えていて、その間を流れるんだけど、バオバブはちゃんと根をおろして倒れてないし、そういう、生物の営みや水の流れとかの感動はありましたね」

●特にアフリカというと乾いた大地というイメージ、サハラ砂漠とかがパッと浮かぶからなんでしょうけど、大地とか水のエピソードというと「あーどんなんなんだろう?」ってイメージが・・・。

「そうですね、特に東アフリカのサバンナというのは平らなので、天気が良ければ非常にのどかな感じがするけれども、一度雨季でスコールが来るとやっぱり叩くような雨が降ってくるでしょう、あの豪快さとスコールをもたらす雨雲の色と空の対比、ブラックスコールとホワイトスコールって色が2つあるんですけど、それらが帯となっているスコールの景観は大好きですね。空の色は何とも言えないし、ただのキレイな青空も美しいけれども、それ以上にインパクトの大きい映像になるような気がして、光も綺麗ですしね」

●アフリカはある種、野性とか自由の地、動物達の王国、フリーランド、ワンダーランドというイメージがありますけど、でも現実にはいろいろな細かい保護区があったり密猟の問題があったり、先程の滝の話じゃないですけど保護されているから下まで降りていけなかったりだとか、かなりのリストリクションがあるじゃないですか、それは30年行かれている間で保護されているものというのは増えてきている?

「そうですね、一番ハッキリしているのはどこでも保護区の中を車で行けたのが道以外は乗り入れてはいけないと、タンザニアのンゴロンゴロも、昔は自由に「サイがいたー」なんて追いかけて写真を撮れたんですが、今はそんなこと出来ないわけですよね。それは動物保護や自然保護になっているし、アフリカだけでなくいろいろな国で制約が出て、それに観光客が集中しちゃうと別の問題が出てきますからね、規制せざるを得ないと思うんですよね」

●でもその保護をしなきゃいけないというのは、すごく分かるんですけど、すごく寂しいですよね・・・。

「そうねー、昔「ハタリ」って映画でね、4輪駆動でサイを追いかけているのを見て僕は心躍ったわけね。それでそんなイメージでランドローバーに乗って一番良いポジションに行っても撮影できないわけ。双眼鏡で「クロサイがいたー!」って言っても遠すぎて写真撮れないもの(笑)」

●よく自然とか自然の写真家というのには、今日よりも明日、明日よりも明後日ってなるほうが損だ、一日も早くなったほうがいい、それだけ自然が日々悪くなっている、無くなっていっている、とおっしゃった方がいらっしゃったんですが、それにも近い感覚なんですか?

「それはちょっと極端すぎるんじゃない? やっぱりその時代に合わせて対応しなければいけないし、人間が大勢で住んでいる以上は規制というのは必要になってくるし、その中で映像を作っていこうとするのが、我々プロだと思うわけ。だから規制に関しては気にならないけど、許可を特別にもらうための手続きが国や場所によって面倒な所があって、そういうのは非常に煩わしい。こっちの気持ちを説明して写したいと思っても、そこでブロックされちゃって、結局許可が出るならいいけど、そうでない場合は2度と行きたくないというのはありますね」

●もちろん私達が行く時というのはプロのカメラマンでもないし、観光客としていろいろな所を訪れるわけで、当然カメラは持っていくし、今だったらデジカメを持っていったり、チャンスがあったらそのリストリクションの中で規則を守りつつということになりますよね。

「守るのが人間だと思うしね、それを規則を破って良い写真を撮って何になるのかと。例えば国立公園だけじゃなくて都内の公園でも、一応柵があって立ち入り禁止と書いてありますよね。そこに入ればアングル的にものすごく良い写真が撮れるのを分かっているのに、そこに入るのがいいのか。僕はそこには絶対に入らない、入らないでそれ以上の写真を撮ってやろうと思っています。だからその辺をアマチュアの人が入って撮っているのを見てるけど、そんなにする必要があるのかと感じることはありますね。良い写真を撮りたい気持ちは分かる、僕もそうだし。だけど、入っちゃいけない所まで入る行為が果たして良いのか考えちゃいますね」

●自分が与えられたその範囲内で、ということですね。

「デジカメが発達して、ますます合成写真等が出てくると思うけど、それはそれで創作の世界と割り切ればいいんですが、僕の中では絶対にそれはやってはいけないと思っているわけ。写真というのは一枚一瞬でいいと。僕の一つのテーマとして太陽や月を一緒に撮った写真もありますけど、そんなのコンピューターで簡単に合成出来ちゃうんですけど、そうではなくその場の世界を1カットで写すのが僕の使命だと思っています」

●本当にいろいろな所に行きたいとおっしゃっていましたけど、パッと浮かぶ、ここにはぜひ行ってみたいという所はどこですか?

「アフリカでもまだ行っていない箇所がありますね。ナミビアの砂丘にも行ってみたいし、モロッコとかエジプトも面白そうだし、とにかく行ったことなければどこでもいいですよ(笑)」

●吉野さんの旅はまだまだ続きそうですね。

「終わらないでしょうね。元気であるうちは興味の対象が続く一方で、刻々と自分の中で変化しているから、何がどうなるのかといわれても分からないわけね、それだけ長く生きられれば楽しみが増えるのかなと思ったりして」

●同じところに行っても、年月を重ねるうちに10代に行くよりも20代、30代で行くのもイメージが違うでしょうし・・・。

「違いますよね、確かに。そういう訪れ方もしたんですが、やっぱり行ってしばらくするとまた行ってみようかという気になるもんね」

●実は、吉野さんはアメリカに行ってこられたばっかりなんですよね?

「はい、1週間くらい前に戻ってきたばかりです」

●今回は何を撮影されていらしたのですか?

「まあ、撮影もしてきましたけど、カリフォルニアのサンフランシスコの東側かな、マウントディアブロという州立公園があるんですよ。その麓に2〜3週間いて、そこはオーク、みずならの木があって、非常に独特の雰囲気があるとこなんですね。そこでそのオークの木を写したり、海岸でモントレーのラッコを見たり、ゴマフアザラシに会ったりしてきましたけど」

●去年は、モンゴルやパプアニューギニアとかに・・・。

「ええ、モンゴルはちょうど3月に行ったんですが、雪解けが始まった頃で中途半端な時期だったんです。枯れた大地が続いていて、草原というイメージではなかったので。未知の世界は行くことが面白いので、それはそれで面白かったけれど。パプアニューギニアは種族のお祭りの時期に行ったので、民族衣装や裸に色を塗りたくって飾り付けをした人間が面白かったね」

●パプアの自然というのはどうなんですか? 今回は人間にスポットが当たってしまった?

「自然ももちろん見ていますけど、今思うと、どうだったかなあ、という感じですね。深い森はあったと思うけどそこまで入ったわけじゃないし、国の鳥でもある極楽鳥に会いたいと思って声は聞いたけど姿を見れなかったし。そのかわりに、ものすごい数のオオコウモリが枝にぶら下がっていて、夕方薄暗くなると、大群が飛び出していく姿を見たりね・・・(笑)」

●えっ、なんかそれ、怖くないです?

「全然怖くないよ(笑)」

●それ、吉野さんだからじゃないですか(笑)?

「あまり普通の人は好きじゃないかも知れないけどね(笑)。コウモリといってもフライングフォークスといって、かなり大きいですけどね。ちょうど満月が出ていて、そのオオコウモリがたくさんぶら下がっているという、その時に撮った写真もありますけど」

●それらの写真を、私達がどこかで拝見するチャンスというのは?

「まあ、出てくるでしょうね、でもまだ撮ったばかりなので(笑)。こんな時代ですからどんな形で発表するか分かりませんが、機会があることに僕は太陽や月と一緒をモチーフにした写真を撮っているし、水の流れや樹木も写しているし、自分の中でいろいろなテーマを完結してきたけども、それは終わったわけじゃなく更に拡大をして、そういう世界を撮り続けたいと思っているので・・・」

●私達も、まるで一緒に横にいたかのようにその場の空気を感じながら、吉野さんの写真を拝見して「こんな美しい景色があるんだ」「こんなすごい営みがアフリカの大地で行なわれているんだ」とかというのを、これからも、そのオオコウモリ達の写真も含めて早く見たいので(笑)、発表することが決まり次第ぜひお話を伺えればと思います。

「(笑)。こちらこそ」

●今日はどうもありがとうございました。

■このほかの吉野 信さんのインタビューもご覧ください。

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■動物自然写真家「吉野 信」さん情報

『カラー版/アフリカを行く』
中央公論新社/本体価格 940円
 吉野さんが30年にわたって撮り続けたアフリカの魅力が満載の新刊です。吉野さんが撮られた写真はもちろん、イラストも吉野さんが描かれているという、まさに読みごたえ見ごたえ十分の1冊です。皆さんもぜひあなたのライブラリーに加えて下さいね。

『吉野 信・自然美術館シリーズ』
りくよう社/本体価格 一冊1600円
 このシリーズは、宇宙や空をテーマにした「天響」、森や林、巨木などの写真をまとめた「樹想」、野生動物たちの美しく飛び跳ねる姿をまとめた「飛跳」など、テーマごとにわかれた全5冊の写真集です。

吉野さんは、この他にもたくさん写真集や本を出してらっしゃいます。ぜひ一度ご覧下さい。

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. アフリカへ行きたい / 荒井由実

M2. WALKING MAN / JAMES TAYLOR

M3. GO AHEAD AND RAIN / J.D.SOUTHER

M4. PARADISE LOST / DANNY TATE

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. LET IT SNOW, LET IT SNOW, LET IT SNOW / FRANK SINATRA

M6. ALWAYS ON MY MIND / WILLIE NELSON

M7. AFRICA / TOTO

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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