2003.05.18放送

林野庁長官・加藤鐵夫さんを迎えて
 日本は国土の約67%を森に覆われた、先進国の中では有数の森林大国です。ところがそのほとんどが一度伐採して植林した「二次林」といわれる森です。そんな森が今荒れています。原因は海外から安い材木を大量に輸入したことで、日本の林業が衰退してしまい、森の手入れが出来なくなったから。そんな状況を踏まえ、今週は林野庁長官の加藤鐵夫さんをお迎えし、森の役割や効能、日本の林業の問題点や復興策について、また、森や木の達人と高校生をつなぐ試み「森の聞き書き甲子園」のことなどうかがいました。

●はじめまして。一年の中で最も緑が美しい季節になりましたが、今日5月18日は千葉県で全国植樹祭が開催されました。
「はい、54回目の今回は「広げよう 緑の大地 豊かな心」というテーマの植樹祭で、天皇皇后両陛下をお迎えして木更津で行なわれました。最初の植樹祭は、戦後の混乱して荒廃した森林をどういう風に復旧していくか、ということで陛下が率先して植樹をされたというところから始まったんですが、今はそういったことが少し見直されてきていて、もう一回森林の多様な機能を見直して新しい形でやっていくべきではないか、というような議論もあるんです。今回は千葉県として里山保全条例というのも一緒に作られて今日をもって施行されるということで、ただ単に木を植えるだけでなく、森を全体として考えていこうという気運にする気持ちが強くなってきていると思います」

●日本は国土の67%が森林で、先進国の中でも森林王国と言えますが、見ていると、その森林も元気がないな、大丈夫かな?って心配されてしまうような感じですが。
「もう、言われる通りですね。森林も、森林の所有者も元気がない、今の木材の利用は外材が8割、国産材が2割という状況で、その中で木材価格は大変落ちている。ところが労賃は上がっていますから、そういう面では経営状況は苦しいというのが実態で、山の方も戦後昭和20〜40年代に植えた山が手入れをしなければいけない状況なんです。なので、きちっと手入れをして10〜20年ということになると、今まで以上に経済価値を持つということになりますので、うまく回転をしていくというが必要だと考えています」

●加藤さんが林野庁の長官に就任されてから、すぐに組織の再編もなさっていますね?
「それは国有林のことなんですけど、昭和30〜40年代については大きな収益があったのですが、50年代に木材価格が落ち込み、厳しい状況が生まれ、少し借金をしながら経営を行なってきたわけです。平成10年では国有林の問題もいろいろ改善をしていきましたが、抜本的に考えていくことが必要じゃないかということになりまして、11〜15年までは集中的に改革する期間と決められたわけです。やっぱり国有林として出来るだけ簡素な組織で合理的な経営を行なっていく。国有林は国民の方々の森林でありますので反省をしなければいけないし、経営も見直し、改革の仕上げを一生懸命しいるということです」

●国有林の場合、レンジャーのようなものはあるんですか?
「森林管理局や森林管理所、その下に森林事務所というのを持っていまして、そこで森林官という人を配置しているわけです。全国に1260箇所くらいの森林事務所がありまして、そこが現場を見ているわけなんですが、森林の状態、造林、伐採をどこでするのかを現地を見ながら考えていくんです。仕事については民間の方々にやっていただいておりまして、造林については発注をいたしまして、その時に監督をする。全国1260箇所でその人達が末端の現場を管理していくということです」

●なるほど。森林官になるのは大変ですね。本当に木に関するエキスパートにならないと全部チェックできないですよね?
「森林官は現場を経験できるいい機会なので、我々としては若いうちに森林官として責任をもってある地域の森林の状況を把握して管理をするという形を作っていきたいと思っておりますので、国有林に入られて何年間かして、森林官になれるような養成をしていきたいと思っております。ただ、森林官の仕事も非常に幅が広いので、エキスパートにできるだけ近づかなきゃいけないですね」

●私のイメージで「国有林」というと、見えない線があって一般の人が入れない林、森という感じなんですが、違うんですよね(笑)?
「(笑)。全く違います。でも、国有林ってどこにあるんですか?って聞かれるんですが、例えば千葉の国有林は非常に少なくて2%いかないくらいしかないんです。全国では森林の3割、国土の2割くらいを占めています。大体奥地にありまして、保全をしていかなきゃいけないんですが、保安林に指定されていまして国立公園もかなりの部分は国有林が占めているわけで、そういう点では少し制限をしていかなければいけないということがあります。でもせっかく国や国民の方々が持っている林ですから、ぜひ使っていただくことも必要なことだと思います。新しい国有林ということで、森林のいろいろな機能も果していかなければいけないし、もっと閉鎖的ではなくて開放的に入っていただきたいですね」

●そして林野庁では“森林倶楽部”や“遊々の森”をやっていらっしゃいますが、具体的にはどういうものなんですか?
「“森林倶楽部”っていうのは林野庁の職員がインストラクチャーになりまして一緒に森林を見たり楽しんでいただこうということで、年何回かそれぞれの森林管理局でやっております。“遊々の森”というのは今年から始めた新しい話なんですが、子供達にもう少し森に入ってきてもらおうと。今まで学校林という制度があったのですが、それは戦前からあった大変古い制度でして、学校で森・林などの木の財産を作って、学校を修理しようとした時にその森を切って修理の費用が出てくるというのが目的で、どちらかというと生徒の方々が森に入って楽しむということではなかったんですね。そういった学校林をいかに活用してもらうか、ということも考えていこうということです。学校の近くで国有林があるならそこに来ていただいて、子供達が自由に遊ぶという格好にならないかなということで始めた制度で、教育委員会や学校と国有林が協定をしまして、ある程度責任を持っていただいて森の中で子供達と触れ合いをしていただくということです」

●それで、まさに字の通り“遊々”の森なんですね(笑)。また、新しい試みとして“森の聞き書き甲子園”というのもやっていらっしゃいますね?
「これは森の名手・名人の方を顕彰したいと、国土緑化推進機構で考えられた話で、例えば20〜30mも登って枝打ちする人とか、種をとる人だとか、いろんな森の技術を持っている人が高齢化して少なくなってきているので、そういった知恵・知識・技術を残していきたい、見直していきたいということが必要だと考えているんですね。そこで全国で100人を選ばせていただいて技術のPRをして、その方々の知識・技術を高校生に聞いてもらおうということで始めたのが、“森の聞き書き甲子園”です。高校生も100人を選びまして100人のところに行っていただき、その名手・名人に直接話を聞いてもらい、それを聞き書きの形で書いていただく。実際にそれだけの知恵を身に付けられたということは本当に森を何十年も観察されて身に付けられたものだと思いますので、できるだけ話を聞き取って残していくのが大事だと思います。今までもただ単に木を生産していたということではなくて、森のいろいろなことを経験されていると思いますし、利用の仕方もたくさんあるはずですから」

●本当に昔の、私が生まれる前から使っていた、先人達の活用法、知恵というのが、21世紀の今、あらためて必要になってきているんですね?
「ええ、やっぱり21世紀というのは循環型社会を作っていくというのが大事な課題です。脱温暖化社会を作ろうといったときにできるだけ自然に負担をかけずに、自然からの恵みを循環をさせていく。今は石油・石炭など地下から上げてくるものが中心ですが、表面にあるものをできるだけ表面で循環させることが大事だと思います。その時に森をもっと有効に活用していく。今までいろいろ多様に利用をしてきたわけですからそれを見直してみることも必要なのではないかと思います」

●また以前、倉本聰さんがザ・フリントストーンに出演して下さったときに、「水源税」というお話をしていたんです。水源を使う人達が税金を払ってそのお金で森を整えていくということなんですが、これにはどうお考えになりますか?
「実はいま、水源税の議論が各都道府県でかなり活発にされ始めています。高知県では森林環境税ということで、直接、水源税ということではないですが、森を守るために県民の方々から負担をいただいてそれで森を守っていこうという、県民税に500円をプラスするということになりましたし、その最初の議論は水源税を取るべきというところからきています。他の県でも水源税の議論をしていまして、全体として森を森林所有者の方々だけでは管理できなくなっているわけですから、公的にどういう風に守っていくのかということを考えていかなくてはいけない。その時に上流だけでなく下流の方々も参加をしたらいいんじゃないかということがあるわけです。水は上流の水源からきていますから、その受益を受けた下流の方々からも負担をしていただいて上流の森林整備を行なったらいいんじゃないかというのが水源税の考え方です。今まで以上に、公的に支援をして、森林整備をしていかなくてはいけません。一般財源という形で予算の確保も考えていかなくてはいけないし、そういう受益と絡んで御負担をいただけるのならそういうやり方もあると思います」

●なるほど。
「また、地球温暖化問題もありまして、温暖化防止で森林整備をやっていかなければいけないんです。我が国は2008年〜2012年までに1990年のベースから6%のCo2、温暖化効果ガスを削減しなきゃいけないわけです。その6%のうち3.9%を森林が吸収していかなくてはいけないという約束になっているんですけど、3.9%を達成するには森林整備をしたところでどういう努力をしたのかということを問われていまして、1990年以降に森林整備をしたところがカウントの対象になるんです。そういうことでいくと今の状況で3.9%の達成というのは容易ではなく、森林整備を今まで以上の水準でやっていくことが必要になってきています。そのための財源確保ということでは温暖化対策税が議論されていますが、そういったものも考えていかなくてはいけない。森を守っていくために今までは林業という形で森林所有者が努力されるということで一定の森が作られてきたのですが、これからは非常に多様化して木材生産だけでなく針葉樹の中に広葉樹を入れていくとか、いろいろな努力をしていかなければいけません。それは経済的なベースだけではできないので、それをどのように公的に考えて、国民の方々にどう支援をしていただくのかということを考えていかなければいけないと思っています」

●これから、森の役割がこれまで以上に見直され、活用され、日本全国が元気な森、人、生き物にあふれる国になって欲しいですね。そういう意味では長官の役割は大変ですよね(笑)!?
「(笑)。本当に我々だけではできないので、国民の方々に関心を持っていただいて形にしていかなければいけないですね。日本学術会議において森が持っている多様な役割を検討してもらい、経済的な価値で見直していこうという議論を出したのですが、実は森の多様な価値というのは我々が考えている以上にいっぱいあるのではないか、すべてあげるのは容易ではない、もう一つの経済的な価値で考えても森をすべて把握できるわけではないし、把握できない価値の方がずっと大きくてそちらの方が大事なので、やはり森で触れて感じていただいた中で考えていただくのが必要だと思うんです。そういうことを含めて森の多様な価値について理解をしていただきながら、森が本当にかけがえのないものだということを我々ももっと考えていかなきゃいけないし、国民の方々も感じていただいて行政にもぶつけていただければありがたいと思います」

●これからも、素敵な企画や具体的ないろいろな活動を、お知らせいただければと思います。ありがとうございました。

■ I N F O R M A T I O N ■
 今週は、林野庁長官の加藤鐵夫さんにお話をうかがいました。

■『第20回 森林の市』の御案内
 森林や林業の役割を感じられるこのイベントでは、木工品や山菜などの“森の恵み”や、地方の特産物が販売される他、親子で楽しめる「木工教室」やアトラクション、ドウダンツツジなどの苗木のプレゼントもあるそうです。
・日時  5月24日と25日
・場所  NHKホールの隣りにある「代々木公園B地区」
 詳しくは下記の林野庁のホームページをご覧ください。

■林野庁のホームページには膨大の量の情報が載っていて、林野庁が行なっている事業について知らないことがとても多いことに気づかされます。
 加藤長官のお話にもあった「森の聞き書き甲子園」に関する情報は、林野庁のトップぺージからアクセスできるようになっている他、“国有林関連のサイト”では、全国の各森林管理局で行なっている「森林倶楽部」のイベントが細かく掲載されていたり、「遊々の森」のサイトもあったりと、本当にたくさんの情報が載っているので、興味のあるところから、少しずつご覧になることをオススメします。
・林野庁のホームページ
http://www.rinya.maff.go.jp/index.html

最初に戻る ON AIR曲目へ
ゲストトークのリストへ
ザ・フリントストーンのホームへ
photos Copyright (C) 1992-2003 Kenji Kurihara All Rights Reserved.