2004年12月19日

ユーコン川をひとりで下った女性、廣川まさきさん

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは廣川まさきさんです。
廣川まさきさん

 カナダからアラスカを流れる大河ユーコンを、カヌーに乗り、たったひとりで1500キロ以上も旅をした初めての女性、「廣川まさき」さんをゲストにお迎えします。廣川さんは、先日集英社から出版した「ウーマンアローン」で「第2回開高健ノンフィクション賞」を受賞されています。

ユーコン川に響いた「ホテル・カリフォルニア」

●遅くなりましたが、先日出された本「ウーマンアローン」が第2回開高健ノンフィクション賞を受賞されたということで、おめでとうございます。

「ありがとうございます」

●すごく面白い本でした。

「そうですか! ありがとうございます」

●ユーコン川をひとりで下ろうと決意するキッカケとなった人がいるそうですね?

「そうですね。アラスカでフランク安田(日本では安田恭輔)さんと呼ばれている方です。100年くらい前に北極海沿岸の地域のエスキモーの方を、当時クジラが捕れなくなって彼らが飢えていたんですね、その彼らを内陸に移住させた人なんですけど、その人の村がユーコン川沿いにありまして、その村に行ってみようと。フランクさんに会ってみたいなと。フランクさんは50年くらい前にお亡くなりになっているんですけど、なぜか会いたくなって、その場所に行きたくなったんですよ」

●セスナや飛行機でビューンと行ってみようという発想ではなくてカヌーで?

「はい。カヌーでしたね。セスナで飛んでしまえば1時間で着いてしまいますし、アメリカ・ドルで80ドルくらいで済んでしまうんですよ。でも、そんな簡単に手に入れたくないものってありますよね?」

●ありますね。気持ちはすごく分かるんですけど、廣川さんはカヌーにはほとんど乗ったことがなかったんですよね?

「漕いだのが初めてだったんです」

●誰かと一緒に行こうとかいう発想もなく、ひとりで行こうと?

「そうですね。ひとりだから感じられるものもきっとたくさんあるんだろうなっていう期待はすごくありましたね。ひとりだから怖いというよりも、期待とかドキドキワクワクといった気持ちの方が大きかったですね」

●キャンプも初めてですか?

「野生動物達が周りにいる状態でのキャンプは初めてでしたね。日本でどこかのオート・キャンプ場でとかはありますけど、野生の中では初めてでしたね」

●初めてのキャンプの日ってどうでしたか? 確か、土砂降りの雨だったそうですね。

「そうです。最初の日から雨に打たれちゃったんです(笑)」

●自然の洗礼を受けながら(笑)。不安に思ったときとか、怖かったときっていうのはありますか?

「最初の夜はあまりなかったんですよね。もう、嬉しくて仕方がないという感じでした(笑)」

●(笑)。通常はベルの音を鳴らしたりするのですが、廣川さんがクマ除けにもなるといって持っていったのは弾けないギター(笑)。

「“そのときは”まだ弾けないギター(笑)」

●でも、すごいですよね。カヌーを自分で漕ぐのも初めて、野生の中でのキャンプも初めて、弾いたことがないギターをもって、ひとりで大河ユーコンに挑むっていう。ハモニカとかはよく聞くんですけど、なぜその時ギターだったんですか?

「ギターは基本的にはクマ除けに持っていったんです。クマって自然にない音、雑音を怖がる性質があって、そうやって野生の中で生きてきたんです。クマも実は憶病者なんですよね。その臆病さが時には凶暴になったりするんですけど。ユーコン川を下る方ってよく銃を持参して、森の中を目掛けて銃をバンバン撃って脅かして、それで『近寄ってくるなよ』って情報を発信するという風に聞きましたけど、私は逆にそれをしたくなかったんですね。銃っていうと今なんか特に『銃=戦争』とか嫌なイメージしかないじゃないですか。ですから私、銃を触るのも嫌なんですね。ですから、銃は最初から持っていかないで行こうと思っていました。そしたら、何が一番いいかなと考えて、ギターだったらすごく遠くまで響きますし、またヘタクソ加減がいいんじゃないかなと思って・・・(笑)」

●かえって弾けないことが幸いして、クマも「うるせー!」って思うかも(笑)。

「『うるせー奴が来たなー』って(笑)」

●でも、本によると、普通だったら初心者用の「コード入門本」みたいなものを持っていくのを、いきなりイーグルスの・・・。

「イーグルス大好きだったんです。それで、迷わずイーグルス(の本)を手に取って買っちゃいましたね」

●譜面とかは読めたんですか?

「それは譜面じゃなくて、指の押さえ方もちゃんと書いてある本だったんですよ。歌の上の方に『ここはこういう指使い』と書いてあったので、『この指とこの指と・・・』って感じで」

●イーグルスで最初に覚えた曲はなんだったんですか?

「最初から『ホテル・カリフォルニア』を。なりきって(笑)」

●途中でツイン・ギター・ソロがありますけども?(笑)

「そんなテクニックはないですけどね」

●じゃあ、ユーコン川沿いの1500キロには廣川さんの「ホテル・カリフォルニア」が響いたんですね。

ユーコンでのクマとの接し方

●廣川さんは、ユーコン川を下りながら野生の動物についても色々考えたそうですね?

「はい。ユーコン川にもカナダ側とアラスカ側があるんですけど、カナダ側というのはカヌーイストの方々にすごく人気のある川なんですよ。なので、毎年カヌーイストがたくさんいらっしゃるんですけど、やはり最近はマナーが問題になっているんです。
 この旅を終わったあとにもう一度ホワイトホースという町に行って、会った人がカヌーのツアー・ガイドをやってらっしゃる方だったです。その方から、カナダ側の川を下っているときに、1日で7頭のクマを見て、ツアーに参加した日本人達は喜んでいたっていう話を聞いたんですね。でも、それを聞いたときに私は『それはおかしい』と思ったんです。1日に7頭のクマを見ること自体がおかしいんですね。確かにべアー・カントリーっていわれてクマの生息地なんですけど、人間が行き来する川にクマが1日に7頭もいること自体が、おかしなことなんじゃないかなと思ったんです。
 というのは、最近日本でも自然のバランスが悪いためにクマがよく出没していますよね。それと同じ理由で、キャンパー達が食べ残しを残してしまうとか、クマを見たいという気持ちで餌付けをしてしまうとか、必要以上に近づいてしまう。そういうことでカナダ側の自然のバランスの悪さというのもすごく感じたんですね。ですから、キャンパーのちょっとしたマナーが物凄く大きな反響として、自然のバランスを崩してしまいますので、すごくがっかりしたんですね。
 逆にアラスカ側のユーコン川っていうのは、あまり人間の手が入っていないんですね。ですから今回、私が銃を持っていかなかった理由の一つは、クマはちゃんと野生を持っている、人間との距離を置き方を知っているクマがいるだろうと思ったからなんです。ですから、ある程度安心感はありました。例えばバランスの悪い自然の中でキャンプをしろといわれたら、逆に私は怖いです。でも、アラスカにはまだそのバランスがあるんですね。例えば、クマもあまりお腹を空かせていないんです。シャケが上ってきますし、ブッシュベリー、クランベリーとかブルーベリーが自生して小動物達も豊富にいますから、よほど鉢合わせにならないかぎりクマとの距離は置けるんです。野生というもののバランスがアラスカにはあるだろうという期待があったんです。
 でも、実際には末端の私達人間のマナー、モラルの問題でバランスが崩れて来ているのが事実なんですけど、一番声を大にして言いたいのはマナーとかモラルなんですよね。小さな食べカスをちょっと残してしまっただけでも、人間の食べ物を覚えてしまったクマっていう風にバランスが悪くなってしまうんです。
 日本の自然もすごくキレイなんですけど、私達が見ているのは単に『あ、緑がキレイだなぁ』『木がいっぱいだなぁ』『花がきれいだなぁ』っていう表の部分だけで、その中身を見ると『本当にバランスが保たれているのかな!?』という部分では、本当にバランスが悪いと思うんです。その部分を私達はあまり見ていなくて、『きれいだなぁ』っていうくらいでしか思っていないですよね」

●廣川さんは日本だけではなくて、カナダとかニュージーランドとか、牧場でお仕事をなさったりしていて、本当に自然と触れていらっしゃいますよね。

「カナダにいたときに、特にそういうことを学びましたね。牧場が自然の中にあったんです。裏山にはクマもいましたし、コヨーテもいたんです。クーガーっていうオオヤマネコもいたんですね。そういう野生動物達から私達の動物達を守ってあげなくちゃいけない。ですから、野生っていう自然に対してすごく考えさせられましたね。そういうのがユーコンでは実践として活きていると思います」

フランク安田さんの影を追いかけて

●ひとりでユーコンを旅された廣川さんなんですけど、旅の中でも色々な思い出ってあると思うんですね。ましてやカヌーを漕ぐというのが初めてだったので、試行錯誤というか、自分である程度工夫しながらコツを掴んでいったそうですね。

「毎日が工夫でしたね」

●一番大変だったのってなんでしたか?

「川の上ですね。流れに押し流されてしまうときもあったり、上陸したいのになかなか陸に上陸できなかったり。あと、突然増水して波が立って自分の体力ではなかなか操作できない状態で、延々と流されてしまったりとか、そういうことがありましたから。でも、人を死なせてしまうような荒々しい川ではないですね」

●私が本の中でとても印象深かったのが、「旅の途中で出会った5人のおばちゃん達」。川の大変な場所で出会ったんですよね?

「はい。ファイブ・フィンガーズ・ラピッズという瀬があって、その場所で結構人が亡くなっているんです。そういう情報ばかりが噂で入ってきていて、その時は本当に怖かったですね。その手前におばちゃん達に出会って、『楽しめばいいじゃない』『楽しいわよ、きっと。濡れちゃうけどね』っていう感じで元気づけられて(笑)」

●そういう感じだったんだ(笑)。彼女達はゴム・ボートだったんですよね?

「そうなんです。ラフティング用のボートだったので、ラフティングは波に強いですからね。ユーコンですけど、裏山に遊びに来たような気持ちで楽しんでいらっしゃいました」

●キャンプ・サイトがそれを物語っていましたね。ピクニック・テーブルのようなものを出したり、ワインとデザートまで用意された、ちゃんとしたディナーが用意されるっていう・・・(笑)。

「ちゃんとお料理して。将来ああいうおばちゃんになりたいと思いました。ああいうふうに年取っていこうっていう」

●フランク安田さんに会いたいっていう気持ちでビーバー村まで行って、色々なハプニングを通してやっと着いたビーバー村。着いた瞬間はどうでしたか?

「『着いたー!』って感じでしたね。着いたときは本当にホッとしました。やっと来たっていう」

●結局、日数的にはどれくらいかかったんですか?

「日数は44日間でした。日記を見ないと、あまり記憶にないんですけど(笑)。ビーバー村に着いたら色々なお年寄りに『フランクさんってどういう人だった?』って聞きたかったんです。でも、意外や意外、知る人があまりいなくて、逆に『君達日本人のほうがよく知っているでしょ? 小説になったんだから。だから教えてよ』って言われたくらいで。
 写真は1枚見せていただいたんです。旅に出る前は写真すら見たことがなくて、『フランク安田さん』って思い浮かべたときに影しか見えなかったんです。その影をずっと追いかけてユーコン川を漕いでいたんですけど、初めてフランクさんの顔を写真で見たときに、予想通りの人で本当にホッとしましたね。優しいおじいちゃんで、もうおじいちゃんの時の写真でした。でも、どこか強い芯があるような方でしたね」

●ひとつの旅を終えて、「ウーマンアローン」という本にまとまりました。でも、まだまだ廣川さんの人生という旅は続くし、それだけではなく、色々とやりたいこともあると思うんですが、その辺を聞かせていただけますか?

「はい、そうですね。旅はいつも終わらせないんです。必ず次の旅を見つけて、その旅を終えて、また次の旅に出てっていう感じですね」

●この本の最後では、フランク安田さんがいらっしゃったビーバー村に、改めてフランクさんを紹介する絵本のようなものを作って、持っていきたいって書いてありましたよね。

「そうなんですよ。子供達にフランクさんを知るキッカケを作ってあげたいなって思っているんですよ。でも、それは押し付けではなくて、小学校があるんですけど、そこの図書室にそっと入れておきたいなと思っているんですけどね」

●実行はまだ先になりそうですか?

「考えていますよ」

●絵も自分で描いて?

「そうですね。自分で描いてみたいですね。自分がフランクさんをどう描くんだろうっていうのも、自分の中で楽しみのひとつではありますね」

●そうですよね。最後に見ている写真があるわけですからね。どういう方かというのを分かった上で、旅の間で膨らんだであろうイメージや、廣川さんなりの思いがその絵には込められると思います。また新たな旅のメドがついたら、番組に知らせて下さいね。今日はどうもありがとうございました。


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ウーマンアローン

■廣川まさきさん情報

「ウーマンアローン」
 集英社/定価1575円
「第2回 開高健ノンフィクション賞」を受賞した「ウーマンアローン」。今回、出てきたお話はほんの一部で、本の中には44日かけて、目的地のビーバー村に着くまでのいろいろな出来事、出会いが書いてあり、そのひとつひとつが面白い。女性らしい視点で見つめたユーコンが新鮮です。

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. SAIL ON / COMMODORES

M2. HOTEL CALIFORNIA / EAGLES

M3. WILD WORLD / CAT STEVENS

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. STAR / EARTH, WIND & FIRE

M5. TAKE ME TO THE RIVER / ANNIE LENNOX

M6. 大空と大地の中で / 松山千春

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M7. I CAN SEE CLEARLY NOW / JIMMY CLIFF

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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