2005年9月18日

写真家・吉野信さんの「自然は神、野生は友」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは吉野信さんです。
吉野信さん

 30数年のキャリアで初めてモノクロ写真の写真展「自然は神、野生は友」を開催した動物・自然写真家の「吉野 信」さんを写真展会場に訪ね、モノクロ写真で表現した北米大陸の自然や野生動物のことなどうかがいます。

初のモノクロ写真展

●この写真展は全作品がモノクロなんですが、吉野さん自身、モノクロの写真展っていうのは初めてなんですか?

「写真展でモノクロというのは初めてです」

●けっこう前の写真もありますね。

「20年以上前から写真を撮っていたけども、発表する機会がなかっただけですね」

●先ほど会場で作品を拝見していて、モノクロ写真のインパクトって、カラー写真よりすごいなって思いました。

「『分かりました?』ってそんなこと言っちゃいかんか(笑)」

●(笑)。カラーの素晴らしさっていうのもあるんですけど、逆にモノクロだからこそっていうのを感じました。

「(写真展を)やっている僕でさえ『やってよかったなぁ』って思うし、個展にしろ何にしろ、今までカラーしかなかったんですね。確かにテレビにもモノクロの時代はあったんだけど。動物を中心に撮る僕の仕事ではカラーで撮って、それをモノクロにすることはあったけど、基本的にはカラーで仕事としてはやってきたんですよ。やはり写真の原点はモノクロじゃないかなぁと思ったんですね。なおかつ、僕の思いの中に『いずれ身体が動かなくなったら、暗室にこもってプリントするのもいいかなぁ』という気持ちがない事はないんですよ(笑)。それもあって自分の好きなものを撮ってみたいなぁって思ったんですね。そうやって撮り溜めてきたからこそ出来たのであって、撮り溜めてこなかったらこういう写真展も出来なかったよね」

●私すごくビックリしたんですけど、オーロラのモノクロ写真って初めて見たんですよ。パッと見た瞬間はネイティブ・インディアンの・・・。

「狼煙か何かだと思ったでしょ(笑)」

●一瞬見えました(笑)。でも、よく見てオーロラだと分かったときに、イマジネーションがどんどん膨らんでくるんですよね。『どんな色なんだろう』『ここはもしかして淡い紫なのかな』とか、見るもののイマジネーションをも膨らますのがモノクロ作品の魅力なのかなと思いました。

「その通りですね。会場に来た人から『モノクロのオーロラ写真を初めて見た』ってよく言われるんですよ。今はカラーが全盛でしょ。見てはいるけど『モノクロで写す人なんているのかね』なんて言われちゃったりしてね(笑)。オーロラの写真は一見すると煙みたいに見えるでしょ。よく見ると星があるから紛れもなくオーロラです(笑)」

●(笑)。森を下から写した作品なんかも、もう版画、墨絵の世界ですよね。

「言われてみるとそうかもね。こっちは木の神秘性なんかを撮ったつもりなんだけど、版画的とおっしゃった作品は雨が多いところの写真なんです。だけど、僕はなぜか晴れ男でねぇ(笑)、雨が降ってくれないんだよね。しっとりした写真を撮りたいと思ってもさ、カラッとしちゃったからあんな感じになったんだよね」

●それで余計に白と黒のコントラストがハッキリついたんですね。

「そうですね。今度は雨滴るようなところで撮りたいね。撮影は大変ですけどね。そういう所でやってみたいという気持ちはありますね」

●モノクロのほうが天気とか背景を考えても、白と黒と灰色しかないので楽なのかなと安易に思っていたんですけど、そうでもないんですね。

「そうでもないんですよ。カラーにしろモノクロにしろ、森の写真っていうのはあまり天気が良くても影がきつく出ちゃって、マイナス面が多いんですね。だから、薄曇りとか曇りのほうがいいですね。だけど、空が白いとカラーの場合は難しいんですよ。バランスが違ってくるので、僕自身あまり好きではないんだけど、それをいかにコントロールして作品にするかというのがひとつの問題ですね」

「自然は神、野生は友」

吉野信さん

●現在、開催されている写真展のタイトルが「自然は神、野生は友」なんですけど、究極のタイトルですね。このタイトルをつけた理由は何なんですか?

「話せば長くなるというか宗教じみているんだけど、誰から言われたわけじゃなく、僕が写真を撮っている中で自然に出て来た言葉なんですよ。去年、佐伯さんという「カメラ毎日」の編集長とかされていた人が、僕にこの写真展はどうかという話を持ってきて下さったんですよ。彼が僕に依頼して『コニカ』というカメラ雑誌の月間サークル誌に2年ほど連載させていただいたんです。その時のタイトルが『自然は神、野生は友』だったわけ。それで今後は北アメリカでまとめたいと思って、『北アメリカの野生と動物』じゃ月並みなタイトルでしょ。それでどうしようかなぁと考えたときに思いだして、これをタイトルにしたわけです。これは僕が活動を続けている中から自然に生まれてきた言葉で、誰からか言われたわけでもなく、時々僕はそれを使っています。これだと、また次は『インド編』だとか色々なっていくのかなぁって考えています(笑)」

●(笑)。私達もこの番組を通して色々な自然に触れてきましたが、優しくもあり時には厳しく、母のような部分もあり、私達にはどうしようも出来ない大いなる力が働いていたり、そこに存在しているのを「神」という言葉で言うのであれば、自然って本当に神なんだなぁって思いますよね。そして、そこに暮らす生き物達っていうのは、同じ生き物としての兄弟であり、親子であり、また「友」であるっていう、本当の意味で究極だなぁと感じました。またそれをモノクロ写真で見ると余計にそういう感じで作品を拝見できますよね。

「そういう思いを持ってみなさんに見てもらえたらさらにいいと思いますね」

●吉野さんは写真展に「自然は神、野生は友」というタイトルをつけていらっしゃいますけど、10年以上前に初めてこの番組に出ていただいたときに、野生の馬に追いかけられて、カメラを振り回してやっとの思いで追い払ったというお話をうかがったんですけど(笑)、あまり「野生は友」とは呼べないような経験もなさっていますよね(笑)。

「ハハハ(笑)。確かにね(笑)」

●でも、大きな意味で吉野さんにとって「野生は友」なんですね。

「そんな感じがしますね。あの時は群れのボスが『ちょっと変なのがいるから』っていうんで、視察に来たわけですよ。それで近づいてきて、あまりにデカイからそのまま蹄で叩かれちゃ大変だったから、飛び上がってカメラを振り回して・・・って、よく覚えていますね!(笑)」

●そういうことだけは覚えているんです(笑)。

「野生を撮っているというと『熊とか虎とかの猛獣が怖くないのか』という話がすごく出るんだけど、あまり怖さを感じたことはないですね。近寄りすぎちゃって威嚇されたっていうことはありますけどね。それは大体、草食獣です。自分達を守るために威嚇したんでしょう。それから、なるべくこちらから近づかない。相手から近づいてくる分には全然問題ないんですけどね。そんなことをやりながら今日、僕がここにいるわけですからね(笑)」

●(笑)。今回、吉野さんの写真の中で拝見していないなぁと思ったのが、吉野さんが大好きなネコ科の動物なんですが、これはどうしてなんですか?

「キツイところ言ってくれたなぁ(笑)。北アメリカにはピューマ、オオヤマネコ、ボブキャットなんているんだけど、これが一番会いにくいの。僕、十何回出かけているけど、1度も出会ったことがない。だからこそ写真がないんですよ。会いたいけど会えない。まだそういう被写体がいるわけですね」

●私の大好きなオオカミがいたので、私的には満足なんですけど(笑)、長年撮り続けていても会えない動物はいるんですね。

「願っていても会えない動物はいるんですね」

●ピューマのモノクロ写真っていうのも迫力がありそうですね。

「撮ってみたいですね」

●被写体としてじゃなくても会ったことがないんですか?

「ないですね」

●それだけ数が少なくなっているということなんですか?

「場所によってハンティングされているので、警戒心が強いみたいなんですよ。彼らの生息地の近くに住んでいれば、出会う可能性がもっと高くなるかもしれないけど、日本と行ったり来たりじゃ、見せてくれない世界もあるんじゃないかって思うんですよね」

●吉野さんが今後ぜひ撮りたいという被写体のひとつは・・・。

「アメリカ圏のネコ族です」

日本の観光地事情とは?

●最後に吉野さんにお会いしてから2年半経ってしまっているんですけど、その間に吉野さんは中国にもお出かけになっていますよね。

「中国、インド、色んなところへ行きましたね」

●やはりメインは・・・?

「自然ですね。動物が出て来れば撮りますけど、動物がいないところだってあるので、予想していないところで動物に会うっていうのは非常に楽しいことだけど、それよりもその地域の自然景観というのが楽しくてしょうがないので、どこに行っても楽しんでいますよ」

●初めて吉野さんを番組にお迎えしてお話をうかがったのが1992年ですから、番組が始まった年なんですけど、それから13年くらい経ちまして、自然環境は悪化もし、少しずつまた戻り始めていますが、そんな自然景観や野生動物の写真を撮っていて、一番変化した点はなんですか?

「変わっているのは日本でしょうね。あまり大きな声で言いたくないけども、国立公園というのは海外のは広さに関係なく、保護されているわけですよ。民間の施設は基本的に何もないです。日本の場合は名前だけでしょう。その中にゴルフ場やお土産屋から色々なものがあるわけですよ。それはそこに住んでいる地域のことをやったわけで、環境からして仕方なかったんだけど、海外は国立公園にするためにはその中にいた人を移住させる。インドでも部落を外に移すということをやっているわけですよ。そうやって基本的に守っている国とは全然違うから、その辺の話をするととても政治的な話になっちゃうからね。そういう意味ではイエローストーン国立公園なんかは山火事があって、自然が変えるという形で変化はしても、基本的には変わっていないですね。十何年通い続けていますけどね。ただし、今回のハリケーンみたいなことでニューオリンズが壊滅状態になったでしょ。ああいうことは自然の力なので、何とも言えないですね。そうやって変えないかぎりは基本的に自然は変わっていないと思います」

●日本では、知床が今年、世界遺産に登録されましたが、これに関して吉野さんの感想、ご意見をお聞かせ願えますか?

「いずれ行くでしょうし、行ったこともありますけど、聞いた話によると、指定された直後はすごい観光客だそうですね。人が来るということは荒れるということだし、去年、僕、屋久島に行ったんですね。初めてだったんですけど、遊歩道があって歩けるところが限られているでしょ。それでなおかつレンジャーがたまたま誰かのポケットから落ちたであろうゴミをリュックにしまってちゃんと持ち帰ってました。だから、とてもキレイでしたね。そういう守る姿勢っていうのを気を付けていかないと守れないと思うし、実際、あれだけ柵があってガードされた屋久杉の幹を削ったとかいうニュースもあったでしょ。いくらやっても人間のやることは、冒す者もいるんだけど、守ろうという姿勢を大事にすることによってキレイにしていくし、ひとりひとりの心の中に自然をキレイにするっていうことは、自分の家をキレイにすることと同じだと思うんだけど、そんなことは関係なく車の窓からジュースの缶を放ったりする人に言っても分からないんだと思うのね。分かっている人はそんなことをしないですからね。そういう話をしたくないけど、基本的なことじゃないかと思うんですよ。
 僕、写真を写していて一番気になるのが、鍾乳洞なんかに入るとよく『○○地獄』なんてあるんだけど、いちばんいいところに看板があるわけよ。写したくないのが入っちゃうわけなんだよね。それと、立派な巨木を守るために柵がありますよね。柵は人が入らないためのものなのでしょうがないんですけど、その前のど真ん中に『○○桜』って言う看板があるわけよ」

●名所がわざわざ書き出されているんですね。

「そんなことしなくたってみんな分かると思うんだけどね。行政のほうでもうちょっと美観というものを考えてほしいなぁと思うことが多くありますね」

●写真を撮ろうと思って、被写体として見ると余計に際立って見えてしまうんですね。

「邪魔なものになってくるんですね」

●私達が普段、観光で訪れて読んでいるということは目立つところにあるということなんですね。

「はい。なくていいと思うんですけどね」

●今後は日本の自然もモノクロで撮られたりするんですか?

「『今後は』?(笑) 今後はじゃなく、日本の自然はずっと撮っていますよ(笑)」

●発表は?(笑)

「発表はいずれ出来るかどうか分かりませんけど(笑)、ぜひやってみたいですね」

●今までずっと吉野さんの写真を拝見してきましたけど、今回モノクロという新たな魅力を目にしてしまったので、これからはもっともっと期待したいと思います(笑)。

「そうですか。期待して下さい(笑)」

●今のところは、写真集として出す予定などはあるんですか?

「今のところはないですけど、それなりに考えているのはあります」

見つけたら話しかけて下さい!(笑)

吉野信さん

●吉野さんがまだ行ったことのない場所ってあるんですか?

「たくさんありますよ。写真集を作ろうと思うと、四季がある国とか、四季がなくても乾季と雨季とか色々な違いがありますよね。それと同じ乾季であろうと雨季であろうと、行く度に違うわけですよ。そうなるともう一度見てみたくなって何度も通って、10回くらい当たり前に行っちゃってるわけですよ。だから、海外に出ている割には色々なところには・・・、人よりは行っているかなぁ(笑)。だけど、行っている国はそんなに多くないですよ」

●ぜひ、行ってみたい国はどこですか?

「南米のイグアスの滝ですね」

●まだそこは行かれたことがないんですか?

「行ってないです。南米にはまだ行っていないんですよ」

●それも意外な感じがします。

「接点がなかったんですね。ナイアガラとビクトリアの滝を見たので、三大瀑布(ばくふ)のひとつのイグアスにはぜひ行ってみたいですね」

●実現することを祈りつつ、行ったらぜひ、お土産話を聞かせて下さいね。今回の写真展「自然は神、野生は友」は9月25日まで開催されていますが、会場を訪れる方にこんなふうに見ていただきたいというのはありますか?

「とにかく来ていただいて、僕、毎日会場にいると思いますから、どんなことでも質問していただければお答えできると思います。僕が当たり前に思っていることでも、見る人が色々な面で疑問を感じることが多いんですよ。だから、逆にその辺を教えてもらうと僕も僕なりに新鮮さを感じるんですよ」

●では、吉野さんを見つけたらみなさん、どんどん話しかけて下さいね!(笑)

「(笑)。こんな顔を見ていると怖いんじゃないかと思って、話しかけない人が多いんですけど、ぜひ、顔に関係なく話しかけて下さい(笑)」

●とっても気さくな方なので、ぜひみなさんも声を掛けていただきたいと思います(笑)。今日はどうもありがとうございました。

■このほかの吉野 信さんのインタビューもご覧ください。

このページのトップへ

■動物・自然写真家「吉野 信」さん情報

写真展『自然は神、野生は友』
 現在開催中の今回の写真展の特徴は、すべてモノクロ作品だということ。アラスカのオーロラ、イエローストーンの温泉が作り上げた造形、レッドウッドの巨樹、モンタナのシロイワヤギ、カナダのホッキョクグマ、アラスカのオオカミやアカリスなど、北米で撮った自然景観や野生動物のモノクロ写真70点を展示。
 会期中は「吉野」さんも会場にいらっしゃるそうなので、ぜひ気軽に声をかけて下さい。

  • 期間:9月25日(日)までの毎日、午前10時〜午後5時
  • 会場:JCIIフォトサロン(東京メトロ半蔵門線・半蔵門駅4番出口すぐ)
  • 入場:無料
  • 問い合わせ:JCIIフォトサロン

吉野 信さんのHP:http://www.yoshinouniverse.com/index_j.htm

このページのトップへ

オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. PHOTOGRAPH / RINGO STARR

M2. BLACK AND WHITE / THREE DOG NIGHT

M3. ALL GOD'S CHILDREN / BELINDA CARLISLE

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. 夏の風車 / ウォン・ウィンツァン

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. ARE YOU HAPPY NOW? / MICHELLE BRANCH

M6. WHAT A WONDERFUL WORLD / ROD STEWART featuring STEVIE WONDER

M7. TALK TO ME / KERI NOBLE

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
このページのトップへ

新着情報へ  今週のゲストトークへ  今までのゲストトーク・リストへ  イベント情報へ
今後の放送予定へ  地球の雑学へ  リンク集へ  ジジクリ写真館へ 

番組へのご意見・ご感想をメールでお寄せください。お待ちしています。

Copyright © UNITED PROJECTS LTD. All Rights Reserved.
photos Copyright © 1992-2005 Kenji Kurihara All Rights Reserved.