2005年12月4日

「房総の動物たち」と田辺浩明さん

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは田辺浩明さんです。
田辺浩明さん

 今週は、千葉県立高校の先生で、房総半島に生息する生き物の調査を行なっている「田辺浩明」さんをお迎えし、調査を始めたきっかけや、房総半島に棲むほ乳類のことなどうかがいます。温暖な気候に恵まれている千葉県には高い山はありませんが、山間部には常緑の広葉樹林などがあり、多くの生き物が暮らしています。そんな、意外と身近に棲んでいる動物達についてうかがいました。

生きているままの姿を記録に残したい

●田辺さんは本業が理科の先生ということで、フィールド・ワークも地質調査とか地形調査、天体観測などをメインに行なっていらっしゃるということなんですが、そんな田辺さんが10年前から房総の動物達の調査を始められたキッカケはなんだったんですか?

「もともと私は地学の教員なものですから、地形を調査したり、地質を調査したり、そういうことでフィールドや野山を歩くということは、普段からしていたんです。そんな中で1990年代の半ば頃に各地方自治体さんのほうで、自然のガイドブックを出すというような話がたくさん出て来たんですね。そういう中で千葉県立中央博物館であるとか、あるいは生態調査を専門にしている人達が調査に加わったんですけど、そういう中で写真が撮れる人が欲しいということで、お手伝いを始めたのが一番最初のキッカケになります。
 本音のところでいいますと、仕事を頼まれるまでは野生動物(哺乳類)に関する興味や関心はほとんど無かったというのが正直なところです。千葉県は自然が残っているといっても、例えば北海道であるとか東北であるとか信州であるとか、ああいったところの自然と比べると人の手が入って、あまり野生の動物、哺乳類が生息しているというイメージは持っていなかったんです。でも、実際に調べてみると、本当に農家の庭先や小さな裏山、そういうところにタヌキであるとか、イタチであるとか、そういった動物たちがたくさん棲んでいるということが分かってきたんですね。それで『あ、こんな近くに動物達がこうして生きているんだったら、誰かが記録に残さなきゃいけないのかな』という、そんな気持ちになったというのが正直なところです」

●田辺さんが開設していらっしゃいます「房総の動物たち」というホームページを拝見させていただいたんですが、最近、タヌキとかテンとかイタチくらいのサイズの動物を見なくなったなぁと思っていたら、房総半島にはまだまだいるんですね。動物達を意識される前に地質調査とか地形調査でフィールド・ワークをなさっていたときにも、目にはされていたんですよね?

「いえ、ほとんど目にしたことはありませんでした。多くの動物達は夜行性のものがほとんどですから、仮に人が近づいたとしても、彼らが気配を感じさせるということはほとんどありません。ですから、そうした動物達が生息しているど真ん中に家をもって住んでいる人達でも、おそらく自分たちの家の周りにそういった動物達がいるという認識は持っていないことが多いんじゃないでしょうか」

●だとすると、写真を撮ったり記録をとるというのは難しいんじゃないですか?

「全くの素人からのスタートですから、まず、そういったタヌキやイタチ、テンといった動物がどこを通るのか、それからどんな生活をしているのか全く知りませんでしたので、まずはとにかく歩いてみました。で、歩いてみると、所々糞が落ちていたり、あるいは食痕といって食べた跡があったり、そういったものを頼りに点と点で通り道を見つけていくんです。で、何度も何度も足を運ぶうちに、だんだん彼らがどういったところでどういった生活をしているかというのが、正しい像かどうかというのは分からないんですが、私なりに頭の中でイメージが出来てくる。で、そのイメージと自分が写真として撮りたいイメージと、そういったものがだんだん重なっていって、ここでこういう写真を撮りたいというのが出来てきます。ただ、ここでこういう写真を撮りたいといっても、決して演出した、『絵としてこういう写真が欲しいな』という写真ではなくて、彼らが実際に千葉県で棲んでいるそのままの形を記録に残したい。ですから、もし、そこにゴミが落ちていたとしたら、ゴミもそのまま写真に撮りますし、電柱やガードレールがそこにあるとしたら、それもそのまま撮ります。つまり、作った、イメージの美しい自然の中の生き物たちという形ではなくて、彼らの生きているそのままの姿を記録に残したいというのが私の考え方です」

南房総にはタヌキやハクビシンがたくさん!

田辺浩明さん

●田辺さんが開設されている「房総の動物たち」というホームページは、名前の通り房総に暮らす様々な動物達を中心として「〜の部屋」という形で、タヌキ、テン、イタチ、ニホンザル、ノウサギ、コウモリ、ネズミ、リス、モグラの仲間のヒミズ、アナグマ、ハクビシン、シカ、イノシシというそれぞれの部屋があって、田辺さんが撮られた写真とともにちょっとしたコメントとか、生態学的なこともちょこっと書かれて載っているんですけど、ホームページの中に「ハクビシンの谷」と名付けられた小さな谷があるんですが、これは市原市にあるんですか?

「はい。大福山という山があるんですけど、そのすぐ近くの谷になります」

●そこに水路に沿って短いトンネルがあって、そこでセンサーを使って撮影をされている連続写真のように、色々な動物達が行き交っているのが見えて面白かったんですが、撮られて田辺さん御自身もご覧になったときも、あれだけ色々な種類の動物達があそこを通っているって思いましたか?

「実は、撮影をする前にあそこをどんな動物が通るのかというのはあらかじめ分かっていたんです。足跡が砂地に残っていますので、あそこを利用しているのは、今、お話にあった、イタチ、ハクビシン、テン、ホームページにはアップしていませんけど、ネコ、それからイヌも利用しています。で、獣道というと本当に山の中の薮の中にあるように感じますけど、実はそうした動物達も楽をして移動したいんですね。苦労して薮こきして行くっていうのは人間だって嫌ですけど、そうした動物達だって嫌なんですね。そうすると、水路とか薮と薮の間を繋げるバイパスみたいなものがあると、多くの動物はそこを利用しています。ただ、お互い同志、時間差で通りますから干渉することはありませんし、利害関係もほとんどありませんので、そこで喧嘩が起きたり、いさかいが起きたりっていうことは、おそらくほとんどないと思います」

●そういう動物達が通りそうだとか、いそうな場所っていうのは、田辺さんの御専門であります地質学とか、地形学的に「こういうところ」っていうのはあるんですか?

「地形と動物の関係を深く考えたことはあまりないんですが、ただ、私がイメージしているのが、我々人も動物ですけど、動物も居心地がいいと思うところは同じだと思うんです。ですから例えば、野山を歩いて林道とか沢筋を歩いてみると、やたらと蚊がたくさん出てきてブンブンするような湿ったところ、こういうところはおそらく動物達も嫌だろうと思うんです。逆に、南側に面したポカポカ暖かいような斜面は我々がいても心地いいですけど、おそらく動物達にとっても居心地がいいだろうと思うんです。そういうことを考えていくと、多分、この辺にいるだろうな、この辺はいないだろうなというのは見当がついてきます。それから当然、食べ物になるものがなくちゃいけませんから、例えば植林されたスギやヒノキなど、1種類の植物がたくさん生えているようなところには、やはり動物の数も少なくなります。そうしますと、例えば神社の裏山であるとか、尾根筋のあまり植林がされていない、比較的自然の状態が残っているようなところに、数はたくさん棲んでいると考えています」

●動物達の居心地のいい場所が、人間に乗っ取られてしまっていることもクローズ・アップされ、居場所がなくなったことによって、民家に降りてくるというケースも多々ありますけど、長年フィールド・ワークをされてきて、動物が棲めるスペースがどんどん狭くなってきているなぁと感じられることってありますか?

「詳しくデータをとっているわけではないんですけど、例えば千葉県内でも、船橋、習志野、ああいったところにはわずかですけど、緑が残っていて、そうしたところにタヌキやイタチが生活しています。ただ、これが南房総ですと、森と森が全て繋がっていますから、彼らは自由に移動できるんですけど、そうした都会地の動物達というのは、離れ小島のように点々と断絶した少しの緑の中に生きていますから、お互い同士の交流が出来ない。あるいは、移動しようとすると、アスファルトで舗装された道路を通って、それこそ民家の庭先を通ってという行動になりますから、今、そういった動物達が見られるところでも、この先、宅地化がさらに進むと、徐々に少なくなっていくのかなと思います。ですから、時々タヌキを目にしたとか、ハクビシンを目にしたという話題が新聞などを賑わせたりしますけど、南房総のほうが数はたくさんいるんですね。絶対数で言えば数はたくさんいるんですけど、南房総ではそうした動物の目撃例が話題にならない。ところが、船橋や習志野といったところで話題になるというのは、逆に言うと、彼らの隠れる場所がないんですね。ですから、本来でしたら彼らとしては人の目に触れたくない。人と接触は持ちたくない。同じ環境下に共有していたとしても、人とは分かれた形で生活したいというのが本音のところなんでしょうけど、もう、そうしたところでは不可能になっているんではないかと思います」

「暗さ」を体験しよう!

田辺浩明さん

●今日、田辺さんが素敵なお写真を持ってきて下さったんですけど、「白神山地か!?」と見間違うくらい自然が豊かで、水辺にコジカが水を飲んでいるとってものどかな写真もありますし、イノシシとかニホンザルのかわいい親子の姿なんかもあるんですけど、私の目を引いたのがコウモリちゃんたち。コウモリちゃんたちって実はかわいいんですね。

「そうですね。近場で見ると『キャー!!』って悲鳴を上げる人も多いかと思いますけどね(笑)。千葉県にもコウモリはたくさん棲んでいますし、コウモリを専門にしていらっしゃる方の手伝いで廻っていますので、色々見たりはしています。でも、『コウモリがかわいい』って言われたのは初めてです(笑)」

●私も「かわいい」と感じたのは初めてでした(笑)。ベイエフエムがある千葉駅の近辺にもコウモリっていますか?

「たくさんいますね」

●やっぱりコウモリですよね!

「夕方にヒラヒラ飛んでいるのですよね?」

●はい! 駅からベイエフエムに向かって歩いてきたりすると、ネオンのところに集まっていたり、陰に隠れていたりして、「あれはコウモリかなぁ?」と思っていたんですけど、やはりコウモリなんですね。ということは、私たちも結構目にしていたんですね。

「そうですね。あれはアブラコウモリという種類で、俗にイエコウモリとも言われているんですけど、建物にわずかな隙間がありますと、そういうところに棲んでいますので、JRの高架であるとかビルの壁の隙間といったところにたくさん棲んでいます。私が勤務している千葉女子高校にもアブラコウモリがたくさん棲んでいまして、夕暮れどきになるとグラウンドで乱舞しています(笑)。外灯に集まる虫を食べに集まってきていますので、この近くですと千葉みなと駅やすぐ近くの千葉みなと公園にたくさんのアブラコウモリが棲んでいまして、じーっとしばらく観察していれば、あそこには小さな池があるんですけど、コウモリは飛びながら水を飲むんですね。ですからタッチ&ゴーのような形で(笑)、アブラコウモリが池にパーンと着地しながら水を飲む様子が観察できます」

●そういうものがこんなに身近で見られたんですね! 10何年、私はこのベイエフエムに来ていて、1度もそういうところに行って見てみようって思わなかったし、いるとも思っていなかったので、今度、行ってみます!

「楽しいですから是非、見てみて下さい」

●田辺さんの学校は女子高ですから、校庭でコウモリが乱舞していたら、生徒さんたちはキャーキャー言って、大変なんじゃないですか?(笑)

「いや、ほとんどは気が付いていないようです」

●ダメですね!(笑)

「ええ(笑)。ですから、ヒラヒラ飛んでいるのは見えても、トリだとかチョウだと思っているんだと思います」

●女子達、この番組を聞いたら、是非、コウモリをちゃんと見るように!(笑) そして、先生に報告していい写真を撮るように!(笑) 田辺さんは地質調査とか地形調査に加えて、天体観測もなさっているので、フィールドで何時間もカメラを構えていたりとか、じーっとしていることも多いかと思うんですが、そういう時、夜なんか私だったら怖いんじゃないかなと思うんですが、実際はどんな感じなんですか?

「天体観測などで一晩中、野外に出てという経験が多いものですから、自分自身は怖いというイメージは持ったことがないんですけど、木がうっそうとしているところでは、鼻をつままれても分からないくらい本当に真っ暗なんですね。今、千葉県も大分、都会化してきましたので、そこら中に街灯があったり、街の明かりがあったりしますけど、森の中に入ると全く何も見えないです。ですから、音も何もない闇夜なんですけど、そこに写真を撮るためだったり、気配を感じるために1カ所に座ってじーっとしていますと、明かりを消して30分から1時間も経てば、そのうちだんだん『自分の身の回りにたくさん生き物がいる』っていう感じが掴めてくるんです。それは、おそらく小さなネズミ達だと思うんですけど、コソコソっていう音や、葉っぱの上を何かが動く音、あるいは何か分からないんですけど、ガサガサと後ろのほうで動く音、冬であれば遠くでフクロウの声が一晩中聞こえていることもあります。そういう中で何時間か過ごしてみると、昼間、野外で感じる自然というイメージとまた違ったイメージ、うまく言葉では言えないんですけど、そうした中に生き物たちが棲んでいて、自分達人間もその中の一員なんだと感じることが出来ます。フィールドを歩かれる方はたくさんいらっしゃると思うんですけど、昼間感じる印象と、夜感じる印象っていうのは全く違ったものですので、もし、そういった歩くことを経験されている人がいたら、是非、夜も1度、経験してみてほしいですね」

●夜の場合は歩くのではなく、ひとつの場所にじーっとしてみると自然の中に溶け込める感じが味わえるんですね。

「そうですね。必ずしも森の中じゃなくてもいいですから、川筋でも海岸でもどこでもいいですから暗いところで少しじっとしてみる。我々は明るいところに慣れていますから、本当に暗いところってあまり経験がないんですね」

●房総半島でそういう体験が出来るおすすめのスポットはありますか?

「暗さを体験するだけでしたらどこでも構いませんので、すぐ近くの杉林でも森でもどこでも入って体験するといいと思います。ただ、今の時代ですからあまりゴソゴソやっていると不審者と間違われて通報されたりしてしまいますから・・・(笑)」

●師走ですし、ボチボチ空き巣の被害も多くなりますからね(笑)。

「そうですね(笑)。簡単に行けて体験しやすいところでは、勝浦、市原、君津、鴨川のあたりでしたら車で少し走れば山間部に暗い森、暗い林道がたくさんありますから、そうしたところで暗さというのを経験してみるのも面白いかなと思います」

●そんな暗さを経験したあとで、星空をふと眺めると、さらにまばゆい星達の明るさというのがありがたいというか、より実感できますね。

「そうですね。森といっても全てが葉で覆われているわけじゃありませんから、所々のぞき窓のように空が見えるところがあるんです。ですから、森の中をゆっくり移動していくと、のぞき窓のようなところからふたつみっつと、星がパーッと見えると、その明るさが天使の輝きなんていうと大袈裟ですけど(笑)、『ああ、そうだ! 星ってこんなに綺麗だったんだ!』と感じることが出来ます」

動物達が生きている証を残したい

●房総に生息する動物達を10年以上に渡り調査を続けてこられた田辺さんなんですが、本業ではないわけじゃないですか。

「はい」

●でも10年続けてきて、これからも動物達を写真に収めたり、記録していこうという思いはお持ちなんですか?

「はい。私は今、御紹介いただいたように専業じゃありませんので、素人ですから大したことが出来るわけじゃありませんけど、私自身が考えていることとしては、千葉県、房総に棲んでいる動物達っていうのは、人知れず生きている。おそらく、例えばタヌキであるとか、テンであるとか、野生動物というふうに聞くと、多くの人は『東北や信州といった自然が豊かな場所に生きる動物達』というイメージを持つと思うんですけど、本当に身近なところや裏山にもそうした動物達は生きているんですね。ところが、そうした動物達は誰も関心を持たないですし、仮に棲んでいたとしても、ほとんど誰にも気付かれないままひっそりと過ごしています。だけど、我々のすぐ近くにそうした動物達はたくさんいます。なので、やはり誰かがそれを記録に残してあげないと、これから先、開発が進んでいくと、彼らが生きている証というとちょっと大袈裟かも知れないですけど、彼らの生活というのが誰にも知られないまま、もしかしたら消えていってしまうかも知れない。だったら、自分がそれを記録に残せたらなと、そんなふうに考えて調査を続けています」

●これからもホームページの「○○の部屋」の種類が増えていってほしいなと思います。そしてこれからも撮り続けていっていただきたいなと思います。今日はどうもありがとうございました。


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■房総の動物たちの撮影/調査を行なっている高校教諭
 「田辺浩明」さん情報

 千葉県立千葉女子高等学校の先生でいらっしゃる「田辺浩明」さんは、房総に生息する野生動物の撮影や調査などを行ない、『房総の動物たち』というホームページで紹介しています。このホームページでは「・・・の部屋」という形で、タヌキ、イタチ、ハクビシン、テン、ネズミ、イノシシ、シカ、ニホンザルなど、房総半島に生息する動物たちの写真が満載。人知れず生きている野生の生き物たちへの優しさが感じられるサイトです。皆さんもぜひご覧下さい。

「田辺浩明」さんのHP『房総の動物たち』:
 http://www.asahi-net.or.jp/~gv8h-tnb/index.htm

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. THE ANIMAL SONG / SAVAGE GARDEN

M2. JUST THE WAY YOU ARE / BILLY JOEL

M3. BY YOUR SIDE / SADE

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. DECK THE HALLS / BRIAN WILSON

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. 手のひらの東京タワー / 松任谷由実

M6. STAR / BRYAN ADAMS

M7. BLESS THE BEASTS & THE CHILDREN / CARPENTERS

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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