2006年6月4日

舵社の田久保雅己さんが伝える「海からのメッセージ」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは田久保雅己さんです。
田久保雅己さん

 ヨットやボートの総合出版社「舵社(かじしゃ)」の常務取締役、編集局長の「田久保雅己(まさみ)」さんをお迎えし、海の男として見てきた国内外のマリン事情や、変化している海の環境についてうかがいます。

意外に安い!? ヨットで日本1周

●大変、ご無沙汰しております。

「ご無沙汰です」

●田久保さんとフリントストーンはON THE WATERというシリーズで、雑誌「KAZI」にも載せていただいて、私はこの番組で培った海のもの、ヨットやボートの知識は全部、「KAZI」&田久保さんのおかげです!(笑)

「ありがとうございます!(笑)」

●おかげでここまでやって来れました!(笑) そんな田久保さんが今年、本を出されました。タイトルが『海からのメッセージ』というご本なんですけど、これはどういう本かご説明していただけますか?

『海からのメッセージ』

「私が『KAZI』というヨット&ボートの雑誌の編集長を昨年までやっていたんですけど、その巻頭言、編集長の一言というのを10年分1冊にまとめたものなんです」

●本を読んでいくと、時代が昔の話もあるので「あの頃はそうだったなぁ」とか、「そうだったんだぁ」っていうことを思いだしたり学びながら、現在に至っているんですが、『海からのメッセージ』にもあるように、車とか色々な移動手段がある中で、船っていうのは移動手段のひとつであり、遊ぶもののひとつでもあるんだっていうのを最初の頃、お話をうかがったときに田久保さんがおっしゃっていたと思うんですね。その中でも海の上だと降りることが出来ないじゃないですか。だから、一緒に乗る人間関係が見えてきちゃうっていうのもこの本の中で書かれていますよね。「いいヤツだな」と思っていたけれど、降りる頃には「嫌なヤツだったな」とか、「2度と一緒に乗りたくないな」とかってなっちゃうんですか?(笑)

「そうですね(笑)。国際レースでメルボルンから大阪まで来る2人乗りのヨット・レースがあるんですよ。約30日〜2ヶ月くらいかけて5500キロをどこにも止まらずに。で、最後に大阪に着くと、カップルだったら別れますね(笑)。『2度と顔も見たくない』と(笑)。レースだから特にそうなんでしょうけどね。それとはまた別で、クルージングで世界中を回っているご夫婦とかカップル、それからご家族の方達は逆に絆が深くなりますね。中には仲違いする人達もいますが、のんびり風にまかせて『今日はタヒチだ』『今日はボラボラへ行こう!』とか言って世界中を巡っているわけですよね」

●そういうお話をうかがって「いいなぁ。うらやましいなぁ」って思っちゃうんですけど、でも、「その間ってどうやって食い繋いでいるんだろう?」とか(笑)、「収入はどうしているんだろう?」とかって考えると、「やはり船の遊びやレジャーっていうのは、お金持ちじゃなきゃ出来ないのかなぁ」って思っちゃうんですよね。

「最初の船を買うときはお金がかかりますよ。だけど、例えば今の日本だと世界で1番中古艇が安いんです。中古のヨットで30フィートといいますと、約9mくらいあります。9mくらいあるヨットですと、中に最低4人分くらいの寝る場所があります。トイレもついています。台所もついています。で、あまり乗っていなければ程度がいいので300万円くらいかな。この間聞いた中で1番安かったのは150万円。あとは、セイリングですから動力は風です。出入港の時にエンジンを回すので軽油をちょこっと使いますけど、大体20リッターあったら1ヶ月もちます。それでいくと、最近、少し出てきているのが、夫婦である港から日本1周の旅に出るんですよ。のんびり行けば3、4年かかりますから。ひとつの港に1週間くらいいて、その近くを観光したりとか、で、漁港は基本的にはお金は要りません」

●あ、そうなんですか!

「ええ。少し取るところもあります。で、買い出しして料理を自分達で船の中で作れば、どこにいたって3食は食べられるわけですよ」

●テント泊みたいなものですからお金はかからないですもんね。

「そう、宿泊代がかからない。要するに、食事代と若干の軽油代だけあれば日本一周を何年かかっても出来るということなんですね」

●そっか! そう考えると、そんなにお金はかからないんですね。

「そうなんです。日本一周を終えて戻ってきたら船を売っちゃうという人もいますしね。そうやって日本1周を5年くらいかけてやるとかね」

●そう考えると、狭い道で渋滞に巻き込まれて車走らせるよりも、全然、世界が広がりますよね。

「そうですよ。今、この時にでも世界中に最低でも15、16艇は日本の船がクルージングしていますから。メールできますからね。『只今、パナマ運河通過中』とか『そろそろ大西洋へ出ます』とか写真で来たりしますから」

冒険をしよう!

●ザ・フリントストーンが以前、ON THE WATERシリーズで色々なものを体験させていただいて、私はあれをキッカケにヨットの魅力を知り、「この際、車の免許じゃなくて船の免許を取って、車を買うのではなくて、ヨットを買っちゃおうかな」って真剣に思ったくらいだったんですね。でも、もしかしたらまだ日本って、海でのアクティビティは浸透していないのかなって感じがします。

「そうですね。まずひとつ、子供の頃から海は怖くて危険な場所だって教えられるじゃないですか。最近、僕も嘆いているんですけど、臨海学校がないでしょ。で、ある小学校が沖縄へ学校として行ったらしいんですよ。そしたら、浜で『膝から上は入っちゃいかん!』と言われたそうなんです。そういうことをやっている学校があるらしくて、要するに、怖いものには触らせない、寄らせないっていうことが、さらにヨットとかボートとかそういう海の遊びの壁になってきちゃってる感じがしてとても残念です。
 僕、別で植村直己冒険賞の推薦委員会の委員もやっているんですけど、それも毎年、冒険をする人数が減っているんですよ。10年前は海の冒険、山の冒険、縦横断とかを全部足して400件くらいあったのが、今は100件くらいに減っているんですよ。ひとつは経済の動向に関係するっていうのもあるんですけど、やっぱり冒険心がだんだんなくなってきた。で、冒険賞っていうのはプロのスポーツには出さない、それからイベントとか競技に関しては出さないって決まっているんですね。アマチュアリズムだということになると、例えば、ウィットブレット世界一周レースなんていったら、多分、世界で最高に過酷なレースじゃないかなと思いますね。海のパリダカって呼ばれているんですけど、過去に何人も死んでいます。それから、白石康次郎君の世界一周無寄港ヨット・レースだとか、ああいうのはかなり危険性が高くて冒険的要素がある。だけど、危険だから冒険かっていうとそうでもないし。
 例えば、三浦半島の先の油壺からヨットで大島まで行くのも冒険なんですよね。そうすると、さらに小さくして一昨年に法改正になったんですけど、3メートル未満のボートはエンジンが2馬力以下だったら免許もいらない、船検、車でいう車検ですけど、それもいらない。それでも乗れますよっていうことになると、それも小さな冒険だと思うんですね。3メートルくらいのボートっていったら手漕ぎボートみたいなものですよね。それにエンジンを付けて『あそこまで行ってみよう!』と、これはもう冒険だと思うんですよ。で、そのときに『危険だ! 危険だ!』って言うんじゃなくて、『危険だけど、安全策をこうすれば安全にあそこまで行けますよ』っていう楽しみを教えることが必要だと思いますね。で、ボートも体験じゃないかなっていうことで、720キャンペーンなんかもずっとやっています。去年で10年経ちまして、今年が11年目ですから。今年も7月17日の海の日を中心に全国展開でやります」

●初めてでどこに行ったらいいか分からないという人にとっては、本当にいい始めの1歩になるキャンペーン・イベントですよね。

「そうですね。『海で遊ぼう720キャンペーン』で」

変わりつつある日本の港湾事情

●この10年の間にも海では様々なことが変化していると思うんですけど、田久保さんから見て1番変わったなと思うところはどういうところですか?

「都市部の港湾とか河川、運河が流通、物流の関係でどのように利用、活用したらいいかという気運が高まっていますね。例えば、東京都なんかは運河ルネッサンスっていうのをやっていて、とてもいいことだと思います。水質の管理についてもそうですけど、水際でどういうふうに利用したらいいかっていうことを行政も含めて考えるようになってきた。最近は国の色々な委員会で発言する立場でもあるんですよ。例えば、木場貯木場とかあるじゃないですか。そういうのも木を輸入に頼っている部分があって、貨物船を岸壁に横付けしないで沖で小舟に小分けして運んでいるんですね。そうすると、岸壁がいらなくなってきて、しかもそこにあった倉庫街までいらなくなってきたんですよ。そうすると、そこの有効利用はどうしたらいいかということを国も考え始めてきて、国レベル、地方レベルでも沿岸水域の有効利用ということで委員会が出来ていまして、東京都の運河ルネッサンスのほうでは、できるだけ水際を民間に許可をしていこうと。で、あるところでは分譲マンションに桟橋つきで、その分譲マンションを買うと自動的にマリン・クラブの会員になって、予約制で、例えば今度の日曜日に釣りでもしたいからっていうと、ちゃんとボートが来て乗れる。で、自分もそこの会員で免許を持っていると、ボートだけ送ってきてくれてそれで乗れるということが出来てきたんですね」

●そういう意味では、また新たな1歩を踏み出し始めているんですね。そのまだ序盤戦という感じなんですね。

「そうですね。まだ先は長いですよ。僕らの目が黒いうちは欧米並みにはいかないかなと思っているんですけどね。でも、それをするための種を蒔くことくらいは、僕らの世代でできると思うので、それを全国的にやっていきたいですよね。それから、国を絡めて孫の世代くらいには、例えば、お台場にヨット・クラブが出来て、そこに世界からヨットが集まるとかね」

自然を汚せるのは人間だけで、自然を治せるのも人間だけ

田久保雅己さん

●海の環境も色々と変化し、悪くなってしまった部分、また、徐々によくなってきている部分と多々あると思うんですけど、これから夏になると海に行かれる方も増えるかと思います。そういった方たちへ向けて、田久保さんからメッセージはありますか?

「すごく悲しいのは、車で走っていて信号で止まるじゃないですか。で、中央分離帯にちょっと緑があると、そこにゴミや空き缶がいっぱいなんですよ。要するに、車から捨てているわけですね。こんな国珍しいって思うくらいビックリします。去年の春にオーストラリアに行って、ライフセービングの大会があったんですね。ビーチにはゴミひとつ落ちていないんです。で、看板に『ゴミを捨てたら1000ドル』って書いてあるんです(笑)。そういう罰則のおかげもあるんでしょうけど、みなさん海にゴミを全然捨てないですよ。町の中もキレイですからね。なんか、恥ずかしいですよね」

●海に行く以前の問題ですね。

「中央分離帯にゴミがいっぱいあるのを見るたびに悲しくなりますね。ひどいですよ。『海からのメッセージ』にも環境エッセイのところに書いていますけど、地球を汚すのは人間しか出来ないんです。ということは、治すのも人間しか出来ないということですよね。他の動植物は地球に対して何のアタックもしていないですから。ダメージを与えていないですから。やっているのは人間だけですから、治せるとしたら人間しかいないと僕は思います」

●人間は破壊できる特技から、治す特技に変えないといけませんよね。これからも田久保さんは海とずっとつき合っていかれると思いますが、そんな田久保さんにとっての海の魅力を教えていただけますか?

「海へ行くと、母なる源っていうか、戻った感じがしますよね。『戻った!』っていう感じがします。アイランド・セラピーっていうものがあるってご存知ですか?」

●名前は聞いたことがあります。

「だから今、セイリング・セラピーっていうのもあるんじゃないかって唱えているんですよ。ある、糖尿病を患った方で我が業界では有名な方がいらっしゃって、しばらくヨットに乗れてなかったんですけど、そろそろ『目にもちょっと来たな』という感じだったので、沖縄にとにかく3ヵ月間行っちゃおうということになったんですね。で、そこで毎日ヨットに乗って遊んでいたら、どんどん改善しちゃったらしいんですよ。だから多分、潮風を受けながら自然の中を走っていくというのが、体にいいんじゃないかという説を唱える人がいるんです」

●あと、遠くをずっと見ていますから、目にもいいでしょうしね。そんな「戻った!」っていう感じを最近、フリントストーンで感じていないので、90年代にTHE FLINTSTONE ON THE WATERシリーズでやらせていただきましたが、21世紀になったことですし、世代もアップしたことですし(笑)、また改めてON THE WATERで連れて行っていただけますか?

「いいですよ」

●じゃあ次回、お会いするときには海の上でじっくりとお話をうかがえればと思います。今日はどうもありがとうございました。

■このほかの田久保雅己さんのインタビューもご覧ください。

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■「舵社」の「田久保雅己」さんの著書紹介

『海からのメッセージ』
舵社/定価1,575円
 ヨットやボートの総合出版社「舵社」の常務取締役・編集局長「田久保雅己」さんが月刊誌『KAZI』に10年間掲載した「編集長コラム」から厳選したものと「環境エッセイ」で構成された本。「田久保」さんの海やヨット/ボートに対する想いや、国内外のマリン・レジャー事情など、とても興味深い内容となっている。
 尚、舵社のホームページからの購入も可。
・舵社のHP:http://www.kazi.co.jp/

■『海と遊ぼう720キャンペーン』

 ヨットやボートの個人オーナーやマリン・クラブなどが、一般の人たちに実際にヨットやボートに乗ってもらい、海を体験してもらおうという「海の日」関連のキャンペーン・イベント。今年も7月17日の「海の日」前後に各地で体験試乗会が行なわれる。詳しくはホームページをご覧下さい。
・『海と遊ぼう720キャンペーン』のHP:http://www.mjc.gr.jp/720.html

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. OCEAN BLUE / ABC

M2. SAILING ON THE TIDE / CARPENTERS

M3. 海へ来なさい / 井上陽水

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. 夏の思い出(LIVE)/ 野田知佑

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. TIME PASSES ON / ORLEANS

M6. ME BY THE SEA / EDIE BRICKELL

M7. ROCK ME ON THE WATER / LINDA RONSTADT

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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