2006年10月1日

FoE JAPAN清水規子さんとJWCS戸川久美さんに聞く
幻の動物「アムールヒョウの保護」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは清水規子さん、戸川久美さんです。
JWCSの戸川久美さん(左)、FoE JAPANの清水規子さん(右)
清水規子さん、戸川久美さん

 国際環境NGO・FoE JAPANの清水規子さんと、野生生物保全論研究会(JWCS)の戸川久美さんをゲストにお迎えし、絶滅の危機にさらされている幻の動物、アムールヒョウの現状と自然破壊の実態に迫ります。

アムールヒョウがいる環境は自然豊かな環境

●まず、JWCSという団体はどういう活動をなさっているんですか?

戸川さん「野生生物保全論研究会っていう硬い名前なんですけど(笑)、保全論の『論』は理論の『論』で、やはり活動だけではなくて、何のために守るのかとか、きちんとした理論をベースにして動いていこうという、理事の先生方が始めた会なんです。で、今はワシントン条約、特に日本人が関わって絶滅の危機にある野生動物の取引についての提言を政府にしたりとか、あと、大事なのはトラ保護基金、ゾウ保護基金っていう保護基金を作っているんですね。で、ロシアのアムールヒョウだとか、アムールトラ、インドのレンジャーや、向こうで活動している人達に支援グッズを送ったりとか、現地の人達のサポートをトラ保護基金とゾウ保護基金でやっています。あとは教育とか、一般の方に知っていただくセミナーを開いたりとか、そういう3つが柱になっています」

●そして、国際環境NGO・FoE JAPANのFoEとは何の略なんですか?

清水さん「FoEはFriends of the Earthの略でして、Friends of the Earthというのは、世界70カ国にあるネットワークでして、その日本のメンバーがFoE JAPANになります。1980年に設立されたんですけど、主な活動は政策提言活動です。環境に関する政策提言活動でして、例えば、石油のパイプラインのような開発に伴う環境の問題とか、森林の違法伐採の問題とか、容器の使い捨て問題とか、そういったことに関する政策提言が主な活動ですね。その他にも、実際の活動を通して八王子で里山の保全活動をしたり、モンゴルで砂漠緑化の活動などもしています」

●そんなJWCSとFoE JAPANが手を組んで、取り組んでいるアムールヒョウの保護活動なんですが、アムールヒョウっていう生き物について改めてご説明していただけますか?

戸川さん「はい。アムールヒョウはヒョウの中でも最北に生息している大型の猫科動物なんです。マイナス30℃くらいになるロシアの沿海地方、新潟から1時間半ほどのすごく近い場所にあるんですけど、そこに生息していて、たった30頭〜40頭しかいないといわれているんです」

●世界で30頭〜40頭なんですか?

戸川さん「そうなんです。絶滅寸前といわれているヒョウなんです。私たちの活動はアムールヒョウを保護するというよりは、アムールヒョウがいることができる環境全体を守っていこうという活動をしているんですね。アムールヒョウがいられる環境っていうのが、餌になる動物たちも十分いて、その動物たちが食べる植物も十分あるということで、アムールヒョウがいる環境が自然が豊かな環境だといわれています」

●そんな、絶滅の一歩手前だというアムールヒョウをロシア政府は保護をしているんですか?

戸川さん「もちろんロシア政府でも保護していますし、IUCN、世界自然保護連合っていう一番大きなNGOがレッド・データー・ブックにも入れています。で、ワシントン条約という野生動植物の国際取引を規制する条約があるんですけど、そこでも取引が禁止になっています」

●生息域って、例えば日本でいうとどういう感じなんですか?

戸川さん「北海道の森林みたいな感じです。植生は北海道ととてもよく似ているんですよ。広葉樹林と針葉樹林の混交林になっていたり、どんぐりとか木の実がたくさん落ちていたりするような、秋なんかは紅葉がとってもきれいな素敵なところです」

●新潟から1時間半くらいで行けちゃうところに、いまも30頭〜40頭生息しているんですね。

戸川さん「ええ。そこにはアムールトラもいますし、クマもいます」

ロシアの総面積の5000分の1のところに絶滅危惧種の30パーセントが生息している

●アムールヒョウが更なる危機に陥る原因となっている、パイプライン計画というのがロシアで進められているそうですが、現在はどういう状況なんですか?

戸川さん「ロシア政府が4000キロ以上ものパイプラインをシベリアのバイカル湖の方から太平洋の方まで敷設するという計画なんです。で、日本政府がそれに公的資金を使って、融資するといっているところです」

●公的資金ということは私たち、日本人も加担していて、私たちのお金もそこに含まれるということですよね。

清水さん「そうですね。お金ももちろんですし、それから何よりもそこを伝ってくる石油を私たちが使うことになるので、あくまでも需要があってその建設が計画されているということを忘れてはいけないと思うんですね。今の生活スタイルを考えれば、もちろん必要なので、ノーとは言えないんですけど、ただ、一方でこのままどんどん開発していっても石油自体、限りあるものですし、他の多くの資源も限りあるものですから、これ自体にノーと言うわけではないんですけど、将来的なことを考えて自分たちの生活スタイルっていうものも、見直さなければならないんじゃないかなと思うんですね。そうしないと、世界のあちこちで色々な資源が採掘されて、パイプラインがあちこちに通って、このパイプラインを少し変えたからといっても、他のところにいっぱいパイプラインができてしまえば、仕方ないのでちょっとずつ自分たちの生活スタイルっていうのも、見直していかなくちゃいけないんじゃないかなと思います」

戸川さん「よその国のことだけど、日本人がロシアの環境を破壊させているっていうことを、日本人の私たちは考えなくちゃいけないんじゃないかなと思います」

●この計画はすでに進んでしまっているんですか?

戸川さん「はい。第一次工事が出発点のバイカル湖からは始まっています」

●8月末の新聞にロシアのプーチン大統領の指示で計画が若干変更されるって書いてあったんですけど、これはどう変わったんですか?

戸川さん「バイカル湖のすぐ側を通る予定だったのが、地元住民の方たちの要望があったり、ロシアや外国のNGOも反対をして、400キロ離れた所に移動することになったんです」

●でも、アムールヒョウの生息域っていうのはまだ考慮されていないんですね。

清水さん「そうです。それが今、こちら側が問題にしているところでして、そこの部分に関してバイカル湖でもパイプラインが移動になったように、そこの部分に関してもパイプラインと、太平洋岸に建設予定の石油積み出しターミナルというのがあるんですけど、これを他のところに建設してくださいということで、JWCSとFoE JAPANと他のNGOが一緒になって、これまでも日本政府に訴えてきました」

●代替案はあるんですか?

清水さん「これに関しては、ロシアの専門家とか各国のNGOとかが集まって、レポートを出していまして、この中で色々な代替案を検討しまして、そのなかでペレボズナヤといって、今、計画されている石油積み出しターミナル地があるんですが、そこは一番不適切であるといわれているんです。そのほかの代替案をいくつか検討した結果、ナホトカが一番最適なのではないかと、そのレポートの中でいっています。もともとペレボズナヤというのは何も開発されていないところなんですね。なので、ターミナル建設という意味ではインフラがないところなんですけど、ナホトカはすでに石油ターミナルとかそういう施設があるんですね。ですから、そのレポートの中でも、そういう既存のところを、できるだけ使っていくべきなのではないかというような話になっています」

●既存のところであれば、建設するための費用もセーブできますもんね。

戸川さん「そうですね。ある程度開発されているから、新たに自然が壊されるということもないので、そういうところを使った方がいいんじゃないかっていっているんです」

●それに関して先方はどういう反応を示しているんですか?

戸川さん「私たちは全然手付かずのところに建設した方がリスクも大きいと思うんですけど、何もないところだから少しくらい建設しても問題ないじゃないかと考えていらっしゃるようです」

●発想が全然違うんですね。

戸川さん「そうなんです。そこの場所ってロシア全体から見ると、5000分の1くらいの本当に狭い場所なのに、ロシアの絶滅危惧種の30パーセントがそこにいるんですね。小動物も入れて100種類くらいいます。で、その中の15パーセントはそこでしか生きられない固有種なんです。だから、そこを守らないと絶滅してなくなってしまうんですね。とても生態系が豊かな場所なのでどうしてもそこはそのままにして、もう開発してしまったところはある程度、開発が進んでも仕方がないというふうに考えています」

写真展で多くの人にアムールヒョウの問題を知って欲しい

清水規子さん、戸川久美さん

●アムールヒョウの危機的状況を受けて、保護活動というところでJWCSとFoE JAPANが10月2日からイベントを開催するというふうにうかがっているんですけど、そもそもこのイベントはどういう意図で企画されたものなんですか?

清水さん「今まで私たちは日本政府に対して請願をしてみたり、いろいろな方に協力していただいて、署名を募ってそれを日本政府に提出したりしてきたんですけど、非常に大きなプロジェクトですので、日本にしてもロシアにしても国家プロジェクトなんですね。なので、私たちの力だけではパイプラインの問題のルートを変更してくれという要望や、石油積み出しターミナルの場所を変更して欲しいという要望が、届かないんですね。なので、もっとたくさんの方にこの問題を知っていただいて、もっとその声を大きくしていきたい、そういった願いから写真展を開いて、アムールヒョウってなんだろうっていうところから知っていただいて、じゃあ、パイプラインでは今、どういう問題があるのかとか、アムールヒョウとパイプラインではどんな関係であるのかっていうのを皆さんに分かっていただこうと思いまして、そういう趣旨で開きました」

戸川さん「写真展の中には、ロシアでもパイプラインに対して活動している写真とか、私たちが今まで日本でやってきたこととか、JWCSはロシアでアムールヒョウとかアムールトラを守っているパトロール・チームを支援しているんですけど、そのパトロール・チームのレンジャーの仕事だとか、そういうのも展示して皆さんに分かっていただこうと思っています」

●今回のイベントでは募金も募るそうですが、この募金で実際に集まったお金はどういうところで使われるんですか?

清水さん「この写真展を開催するにあたって、色々な費用がかかってしまっていますし、さらに私たち、お金がない中で色々な活動をやっておりますので、その写真展開催の経費とかに当てさせていただきたいというのが1点ですね。それで、第2点目は先ほど戸川さんがおっしゃったような、現地で実際に活動をされている方々に支援したいという趣旨で募金を集めさせていただいております」

●このイベントの詳細は「INFORMATION」をご覧下さい。

関心を持ち、広めてもらうことが第1歩

●アムールヒョウが置かれた状況を色々とうかがってきたんですか、日本で暮らし、アムールヒョウを見たことがない私たちにできることは何でしょうか?

戸川さん「やっぱり、アムールヒョウのこういう問題が起きているっていうことを、もし、このイベントやセミナーやこの番組を聴いてくださったら、それをどなたかに話していただくことですね。そして、色々広げて、関心を持っていただいて、日本政府が公的資金を使って自然破壊に力を貸すことのないように、みなさんから訴えていただいて、世論を高めるっていうことが大事なんじゃないかなと思いますね」

清水さん「石油っていう、私たちにとっては日々、使っているものですけど、これを追求するがためにアムールヒョウ然り、アムールヒョウの生息地に棲むほかの動物然り、森林然りで、本当に色々な自然が失われてしまっていると思うんですね。ロシアのパイプラインの件だけではなくて、もしくは石油の件だけではなくて、世界で色々な資源が採掘されている中で、かけがえのない自然が失われてしまっていると思っていて、人間がどうやって生きていくかっていうことを真剣に考えないと、開発され続けて結局、何が残るのかなぁって思います」

戸川さん「最近、大雨が続いたりとか、今までなかったようなことが気候の上でも起きているし、それを『自然をいじめているから、自然が怒っているんだ』って言う方も結構いらっしゃいますよね。だから、それだったら今、みんなが気づいているし、まだ遅くないと思うんですね。でも、地球には人間だけじゃなくて、色々な動植物がいて、それらが構成して地球を作っているんだから、人間だけが威張って傍若無人に振舞って、動物たちはひっそりと影を潜めていなきゃならないようじゃ、フェアじゃないなと思います」

●何よりも、アムールヒョウが30〜40頭っていう数じゃなく、0があと3、4個増えるくらいの数になるような地球になって欲しいですよね。

戸川さん「本当にそう思います」

●みなさんも是非、今月行なわれるイベントなどに行って、まずは写真を見ていただければと思います。清水さん、今年の暮れは現地に行かれるそうなので、私たちを代表して、まだご覧になっていないという幻のアムールヒョウに会ってきていただきたいと思います。会えるといいですね。

清水さん「そうですね」

●戸川さんも、次に行かれるときには会いたいものですよね。

戸川さん「自然がそのままで残っていて欲しいなぁと思います」

●今日はどうもありがとうございました。


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■写真展『アムールヒョウに迫る危機〜シベリア-太平洋パイプライン』

 ロシア極東の沿海地域に生息するアムールヒョウは、森林伐採や密猟によって現在、約30頭しか生息していない絶滅危惧種。にも関わらず、東シベリア・太平洋石油パイプライン計画によって今、アムールヒョウのおかれている状況が益々厳しくなってきています。
 国際環境NGO/FoE JAPANとNPO法人/野生生物保全論研究会JWCSが主催する今回の写真展では、NHKスペシャル『絶滅から救えるか 伝説のアムールヒョウ』でも紹介された、ロシアの自然保護区のレンジャー「ユーリ・シブネフ」さんが撮ったアムールヒョウの素晴らしい写真を展示し、その美しい姿をみんなに見てもらい、その状況を知ってもらいたいという目的で開催されるもの。また、期間中は、様々なイベントも開催。
 更に、写真展の開催期間中、特別募金活動も行なっています。募金していただいたお金は、今回の写真展ほか、アムールヒョウ保護の啓もう活動に使われますので、皆さんのご協力、お願いいたします。

絵本『マカマカの地球歩き』
  • 会期:10月2日(月)〜14日(土)
       午前11時〜午後7時
       尚、日曜、祝祭日は休館
  • 会場:丸ノ内さえずり館
  • イベント内容:※各イベントの入場は無料ですが、ピアノ・コンサートや講演会などは事前の申し込みが必要。先着30名となっています。
    • 10月2日(月)午後7時〜と14日(土)正午〜:アムールヒョウも出てくる絵本『マカマカの地球歩き』のCDや数々のドキュメンタリー作品の音楽を手掛けているピアニスト「巨勢典子」さんのピアノコンサート
    • 10月6日(金)午後7時〜:アメリカのNGO「パシフィック・エンバイロメント」のロシア担当「リア・ジマーマン」さんの講演会
    • 10月13日(金)午後6時〜:世界で初めてアムールヒョウを映像に収め、NHKスペシャルで放映した、当時のチーフ・ディレクター「小林達彦」さんのトークショー
    • 10月13日(金)午後7時〜:「トリオ・マトリョーシカ」のバラライカ演奏
  • 問い合わせ/申し込み:丸の内さえずり館
    • TEL:03-3283-3536

・国際環境NGO/FoE JAPANのHPhttp://www.foejapan.org/
・NPO法人/野生生物保全論研究会JWCSのHPhttp://www.jwcs.org/

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. LIVING IN DANGER / ACE OF BASE

M2. AURORA NOVA〜THE WILD PLACES / DAN FOGELBERG

M3. IS THIS THE WORLD WE CREATED / QUEEN

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. SEASIDE WEEK END / ANTENA

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. PEACEFUL EASY FEELING / EAGLES

M6. あの頃 僕らは / 巨勢典子

M7. IN THE FOREST / VAN MORRISON

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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