2007年3月11日

天体写真家・林完次さんと「東京星空散歩」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは林完次さんです。
林完次さん

 天体写真家の林完次さんをお迎えし、大都会・東京でも出来るスター・ウォッチングの楽しみ方や、お勧めの場所、そして観察に適した春の星座や星についてうかがいます。

東京でも楽しめる星空観察

『東京星空散歩』

●本当にお久しぶりなんですけど、林さんは先月、中央公論新社から「東京星空散歩」という本を出されました。東京を散歩しながら星空を楽しむためのご本なんですよね。でも、東京で観察できるんですか?

「これね、2通りのとり方がありまして、東京を散歩しながら星空を眺めるというのが1つと、もう1つ、星空の中を散歩するという意味合いも込めたんですね。夜空の中の散歩。空の散歩」

●そっちの方がロマンチックでいいです!(笑)

「そうですか(笑)。東京からずっと離れて空が澄んだところへ行ったときと比べれば、か細い星しか見えないんですけど、全くないわけではないんですね。見上げるといくつか見えてきますから、その星が『なんていう星座のなんていう星なのかなぁ』っていうのを考えてみると、私の場合、頭の中で周りの星まで見えてきちゃうんですね」

●実際に目には見えていないけれど、雲やスモッグの裏に隠れているであろう星々も見えてくるということなんですね(笑)。

「そうですね(笑)。ですから、山の中に入って木立の上に光っている星も素敵なんですけど、ビルのネオンと一緒に星が見えるというのもまた別の魅力があるんですね」

●それは「東京星空散歩」の中の写真を見ていると分かるんですけど、銀座四丁目のお写真があって、「えっ!? これって町の写真!?」って一瞬思ってしまうんですけど、よく見ると黒い空の中にポツポツと星が見えているんですよね。

「そうなんです。よほど注意して見ないと見えませんけどね。空を見上げない人も結構いますからね。でも、取材をしていて私が空を見ていると、通りかかった人達が『何があるんだろう?』って一緒になって見てくれるんですよ(笑)。ちょうど、宵の明星が見えたときなんですけど、『あの星は何ですか?』って聞いていかれて、そこで会話が生まれましてね、結構、楽しいですよ」

●歩いていて偶然通りかかった人にとっても、ちょっとした癒しの瞬間ですよね。でも、東京で星空を見上げるようになったキッカケっていうのが、品川区で行なっている天体観望会だそうですね。

「ええ、そうなんです。これ20年以上やっているんですけど、五反田といいますと、山手線の1つの駅ですから、『星は見えないだろう』と最初は思っていたんですが、意外にも星が見えるんですね。例えば、冬の時期だと、有名なオリオン座の下にオリオン大星雲っていう星雲があるんですよ。それなんかも見えますし、アンドロメダ銀河っていう渦を巻いている銀河があるんですけど、それなんかも見えます。地方で見るよりは薄いですけどね。ポツンと1つしか見えていなくても、何光年何十光年とはるばる光の旅をしてきたのを今、見ているわけですから、言ってみれば、過去の光を見ているわけですよね。やっとやってきた光を見て、それが周りのネオンにかき消されないで、けなげに光っているというね(笑)。『やぁ、こんにちは』という感じで、これが結構楽しいんですね」

●私達も林さんに見習って、今日から通勤通学の帰りにちょっと暗くなってきたら、夜空を見上げてみようかなっていう気持ちはあって、見上げてみるんですけど、「あれ、何の星なんだろう?」っていうのがあるし・・・(笑)。

「(笑)。プラネタリウムなんかに行くと、星がきれいに出て、それで星座の絵が重なってとても分かりやすいんですけどね。実際の空でもそうやって星座の絵が重なってくれるといいんですけどね(笑)」

●(笑)。一番明るくて、どこにいても見えるのってシリウスですか?

「今の季節だと、シリウスがよく見えますね。『星座の見つけ方を教えて』ってきかれることがよくあるんですけど、星座の数っていうのは全部で88なんですね。で、88のうち、日本から分かりやすく見えるのが60余りなんです。全部覚えても大したことないなって思うんですけど(笑)、60個を覚えるのって大変ですから、私はそれぞれの季節に1つだけ覚えてくださいって言っているんです。ですから、1年で合計して4つ。例えば、冬だとオリオン座。春だとしし座っていう具合に1つ覚えると、例えばそれの上のほう、下のほう、左のほう、右のほうっていう感じで覚えるきっかけになるんですよね。ま、星空の場合は上とか下ってあまり言わないんですね。上の場合は北の方角、下は南の方角という言い方をするんですけど、そういうふうにして1つを覚えると、周囲の星座も見つけやすくなります。それがヒントですよね。地図なんかを見ると、『ここの角にパン屋さんがあって、こっちの角に交番があって・・・』ってありますけど、星空にはそういう目印がありませんから、1つだけ星座を覚えると・・・」

●それが目印になって、次へと繋がっていくんですね。

「そうです、はい」

林さん的星空観察の七つ道具とは!?

●林さんは先月、中央公論新社から「東京星空散歩」という本を出されたんですけど、この本の中には上野公園や日比谷、表紙の東京駅など、本当に東京のど真ん中の星空が写っていますね(笑)。林さん的に意外だった東京の星空とかってありますか?

「私、本当は大気の澄んだ暗い場所で見るのが好きなんですけど、いつもそういう場所にいられるとは限りませんよね。で、むしろそうじゃなくて、自分の住んでいる周りのほうが圧倒的に見る機会が多いんですよね。そうすると、東京に住んでいるからって星を見るのをあきらめちゃうのかっていうと、それもちょっと寂しいものですから、私は晴れていると窓をガラッと開けて、まず夜空を見て『今日はどんな星が見えるのかなぁ』って観察するんです。で、目が少し慣れてくるとポツンポツンと見えてくるんですね。で、双眼鏡を持ち出してちょっと見てみようかなんていうと、思いのほかまた星の数が増えてきて、東京でも結構星が見えるよっていうことで、それだったら東京都内の主だった場所ではどんな見え方をするんだろうって気になったんですね。五反田ではよく見ていたんですけど、他の場所ではどんな見え方をするのかなぁっていうのが、この本を書くキッカケになったんですね」

●今、私達が座っている机の上に色々な物が並べられているんですが、星空を観察するのに必要な七つ道具があるそうですね。

星空観察の七つ道具

「そうですね」

●それがここに並んでいるものですね?

「ええ。必ずしもこれを揃えなさいということではないんですけど、私はいつもこれを持って歩いております。ちなみにご紹介いたしますと、この丸いのが星座早見盤というものでして、見たい日付と見たい時刻を合わせますと、楕円の円盤の中にその星空が表れるというものです」

●なるほど。これは365日いつでも時間を合わせれば、この辺にはこの星座っていうのが分かるんですね。

「分かります。で、私が今たまたま持っているのが裏表の星座早見盤です。表が日本用で、裏が南半球用なんです」

●それ、いいですね! 海外に行くときも持って行けば、どこにいてもどこの星空も分かるんですね。それが早見盤。これがまず1つ。これは絶対あったほうがいいですね。

「そうですね。それから、野外でこれを使いますから、実際に使うときは暗いわけです。ですから、照明が必要なわけですね。それで、こんな小さなコンパクト・ライトです。ただ、闇に目が慣れてきますと、これくらいの光でも結構眩しいんです。ですから、赤い光が出るライト、結局車のテール・ランプと同じですね。目に刺激を与えないという」

●それがあると便利なんですね?

「はい。それから、私はあまり使わないんですけど、方位磁針ですね。磁石があると、東西南北がすぐ分かります。星がすぐ分かるようになると、北極星を見つければいいわけですし、オリオン座が見えているときなんかは、オリオンに三ッ星っていうのがあるんですけど、あれは昇ってくる方角が東なんですよね。で、沈むのが西なものですから、そういうことからも分かりますね。それから双眼鏡ですね。これは、あるのとないのでは大分違ってきますね。補助的に使う場合でしたら、そんなに重たい双眼鏡でなくても、小さなもので十分活用できると思います」

●今回、林さんがお持ちいただいたのも、手のひらサイズくらいのコンパクトなものですもんね。

「そうなんです。空の広い範囲が見える双眼鏡なんですよ。倍率が高めの双眼鏡っていうのは部分部分になってしまうんですね。そうすると、今一体自分がどこを見ているのかって分からなくなってしまうこともあるんです(笑)。ですから、広めの方が使いやすいと思いますね。なので、倍率が低いもの、私が今使っているのは5倍しかありません」

●それくらいで十分なんですね。

「ええ。一般的なのは7倍〜10倍のものが使われていますけど、私はあえて5倍くらいのものを使っています。それから、カメラですね。人によってはいらない人もいるでしょうし、当然カメラで撮影する場合は露出時間が長くなりますから三脚も必要になりますね。三脚に取り付けて、東京都内だと空が明るいですから、そんなに長い露出をしなくても適正露出になります。使うのがデジタルカメラの場合でもそんなに露出を長くしなくても十分だと思います。それから、そのカメラの露出を見る場合は時計が必要になりますね」

●なるほど。これで6つ出ました。そして最後はなんでしょうか?

「観測帳ですね。これはあってもなくてもいいんですが、ただ見っぱなしっていうのもあまり面白くありませんから、『何月何日どこそこでこんなものを見た』っていう感じで書き留めておくといいんじゃないでしょうか。ま、日記ですね(笑)」

●林さんが今ぺラペラめくっていらっしゃるんですけど、ウチの家計簿よりも細かいです!(笑)

「ハッハッハ(笑)」

●ここまで聞いて、七つ道具を目の前にしてしまうと、私も実際に星が見たくなってしまいました! 林さん! 是非、このあと、スタジオの近くに公園があるのでそこで実際に探しに行きましょう!

「行きましょうか!」

実際に東京の星空を観察!

●今、私達はスタジオを出てスタジオの向かいにある都心の小さな公園に来たんですけど、ビル街の真ん中にある公園なので、周りのビルのライトも煌々と光っていて明るい感じがするんですが、今日は空も曇っちゃっていますね。

林完次さんとエイミー

「そうですね。ポツリポツリは見えますけどね」

●お月様がしっかりと見えていますね。

「そうですね。今日の月齢は10なんですけど、上弦の月から少し経った月なんですけどね。こういうふうに月が煌々と照っているときっていうのは、夜空に電気がついたような感じでちょっと見づらいことは見づらいんですよね」

●星を観察するにはちょっと不利な状況なんですね。それでも月からちょっと離れた辺りにはいくつか星が見えていますけど・・・。

「今、月がありますけど、月の左側に見えていますのが、ふたご座の兄弟の名前をかたどったカストルとポルックスなんです」

●あの小さく見えている星ですね。

「そうです。で、ギリシャ神話に登場してきますけど、アルゴ船という快足船がありましてね。ヘラクレスとか音楽の名人達を乗せて、一緒に双子の兄弟も乗ったんですけど、あるとき、嵐に遭いまして、オルフェウスという音楽の名人が琴を奏でたら、2人の頭の上に星が2つ輝いたっていうんですよ。それ以来、航海の守り神っていわれているんです」

●じゃあ、今日本に向けて航海中のホクレア号にとっても守り神として輝いているんですね。

「そうですね」

●ちょっと赤っぽく見えているあれはなんですか?

「あれは、ぎょしゃ座という星座がありまして、ぎょしゃ座のカペラという星なんですね」

●カペラ? 車の名前でも聞き覚えがありますね(笑)。

「そうですね(笑)。星座の絵を見ると、御者っていうのは馬車の手綱を引っ張る人なんですけど、その人がヤギを抱っこしているんですよ。そのヤギというのがメスの子ヤギなんですけど、カペラってメスの子ヤギを指すんだそうです。でも、子ヤギといいましても、よく太陽に似た黄色っぽい星だというんですけど、実際にも太陽の23倍くらいあるといわれている大きな星なんですね」

●それが、これだけ小さく見えているということは、相当遠いということなんですね。でも、キレイに輝いてくれています。そして、カペラから右の方にも赤っぽい星があるんですが、あれはなんですか?

「あれは、ペルセウス座っていう星座があって、アンドロメダの危機を救った英雄なんですけど、それをかたどった星座のアルファ星ですね」

●赤っぽく見えているのはなぜなんですか?

「東京の空だからじゃないですか(笑)。これが、実際に澄んだところへ行って双眼鏡を向けると、このあたりは星がいっぱいなんですよ」

●残念ながら、今日は1つだけポツンと、寂しく輝いています(笑)。でも、見えていないだけで、周りにはたくさんの星があるんですね。そして、さらに真上に1つ、すごく明るく輝いている星があります。

「あれは、おうし座という冬を代表する星座のひとつなんですけど、それのアルファでアルデバランという星です。これは、○○に従うものっていう意味なんですけど、おうし座には有名な散開星団といいまして、星の群れがあるんですよ。プレアデスっていうんですけどね。日本ではスバルっていわれています。で、スバルに従うものっていうことで、実は東の空から昇ってくるときはスバルの方が先に昇るんですよね。それで、それに従うものっていう意味らしいんですね」

●かなり明るく輝いてくれていますね。

「そうですね」

●それからお月様をはさんで反対側にもう1つ、赤っぽく見えるあれはなんですか?

「あれは、ちょうど見頃になっている土星です」

●あれは土星ですか!?

「土星です。地球の惑星の仲間ですよね。で、今ちょうど明るさが1等星よりも1ランク上の0等くらいなんですね。ですから、ちょっと明るく見えます」

●それで、こんなに曇っている日でも見えているんですね。これはこの時期が見頃なんですか?

「今いいですね。実は私、このスタジオへ来るとき、夕方西の空を見ながら歩いてきたんですが、宵の明星が見えていたんですよ。金星ですね。これは、まだ西の空が明るいうちに見えていましたから、明るさがマイナス4等っていう明るさなんですよ

●すごい!

「これは単純に計算しますと、1等星の100倍明るいんですね」

●すごい!(笑) それも都心で見えていたんですか?

「ええ、そうです」

●じゃあ、私達は本当に見ていないだけなんですね。

「そうなんですよね。ですから、気をつけて空を見上げていれば、大体どこにいてもポツンポツンと星は見えていると思いますね。ただ、降るような星というわけにいきませんから、ポツンポツンと見えてちょっと星座の形を掴むには難しいんですけど、逆にそれが推理力をかきたてまして、『この1つ見えている星は何座の星なのかな?』って推理するのも楽しみの1つなんですね」

●みなさんも是非、通勤の帰りに歩きながら空を見上げて推理してみていただきたいと思います。

夜空を見上げてみよう!

林完次さん

●先月、「東京星空散歩」という本を出された林さんなんですけど、私達も少し、東京星空散歩して参りました(笑)。案外見えるものなんですね!

「見えますよね」

●ネオンの方が明るかったりするんですけど、そんな中でもけなげに私達の目に届くような光を放ってくれている星達なんですけど、これは是非見上げるべきですね。

「そうですね。よく山の中に入って降るような星を見ているんですけど、そういう星空がもちろん魅力的なんですけど、大都会で色々な種類の光が溢れている中で本当にポツンポツンと見えているだけでも、一生懸命輝いているんだなって思いますよね。それを見るだけでも私は幸せな気持ちになりますね」

●3月のオススメの星座を教えていただけますか?

「先ほど実際に見たふたご座がちょうど見頃です。それから今、土星が光っているところにしし座というのがあります。これも見頃ですね。しし座の目印っていうのが、クエスチョン・マークを裏返しにしたような形に星が並んでいるんです。そんなふうに星が並んでいまして、一番最後の点のところに1等星のレグルスという星が光っています。これが真っ白でキレイな星です」

●みなさんもこれからは、そんなに曇っていても毎日空を見上げて、見つけていただきたいなと思います。私もこれから探していきたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

■このほかの林完次さんのインタビューもご覧ください。

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■天体写真家・林 完次さんの新刊

東京星空散歩
中央公論新社/定価2,100円
 これまでに『宙(そら)の名前』や『天の羊』など素晴しい本を出されてきた林さんの最新刊『東京星空散歩』には、勝鬨橋の夕月や永代橋の夕暮れ、東京駅や新宿副都心の満月ほか、狭山湖で見た水星、金星、夏の大三角形、また、富士山麓・忍野八海や八ケ岳の星空など、とてもステキな写真と文章が掲載。本の帯に書いてある通り“帰り道、夜空を見上げたくなる”一冊。
 

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. TWILIGHT TIME / WILLIE NELSON

M2. STAR / EARTH, WIND & FIRE

M3. WAITING FOR A STAR TO FALL / BOY MEETS GIRL

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. DOWN BY THE SEA / HARRY NILSSON

油井昌由樹アウトドアライフ・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M5. A WINTER'S TALE / QUEEN

M6. 見上げてごらん夜の星を / 坂本九

M7. WHEN YOU WISH UPON A STAR / OLIVIA NEWTON-JOHN

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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