2007年5月13日

ノンフィクション・ライター、森沢明夫さんの
「日本の渚を1本の線で繋ぐ旅」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは森沢明夫さんです。
森沢明夫さん

 日本の渚を一本の線でつなぐ旅を続けている、エッセイスト/ノンフィクション・ライターの森沢明夫さんをゲストに、旅で出会った人々や風景、そして忘れられない食べ物のことなどうかがいます。

4年かけて進行中の壮大な日本旅

●森沢さんは2003年の4月からずっと、日本の渚を旅していらっしゃいますが、この旅を始められたキッカケはなんだったんですか?

「『オーシャンライフ』っていう海とボートの雑誌があるんですけど、そこで旅もののエッセイをやろうという話がありまして、編集長と何をやろうかっていう話をしていたときに、せっかくだから壮大なものをやろうよって話になって、そしたら『日本の海岸線を隅々まで全部繋いでいっちゃおうか!』ってことで始まったんですね。それで、最初は4年くらいかければ終わるだろうと思っていたんですけど、いまだに本州一周し終わっていないという状況なんです」

●今、どのくらいまで進んでいるんですか?

「今まで繋いだのが、東京湾から房総半島をグルっと回って外房に出て、太平洋沿いを東北に向けてずっと上がっていって、青森を日本海側に回って、日本海の背骨を山口まで行って折り返して、瀬戸内海をずっと行って、紀伊半島をぐるりと回って、愛知県の知多半島をぐるりと回ったところで、今止まっています」

●ある程度は終わっているんですね。

「あとは愛知県から東京までの間ですね」

●本当に壮大な企画になりましたね。

「予想外です(笑)。こんなに長くなるとは思いませんでした」

●そもそも渚にこだわった理由とか、1本の線で繋ごうっていうのも、パッと浮かんだアイディアだったんですか?

「そうですね。もともと、雑誌自体が『オーシャンライフ』といって海とボートの雑誌なので、その雑誌ではボートから見る海っていうのはあるんですけど、陸地から見る海っていうのがないので、陸から見たらどうだろうと思って始めました。で、僕がボートのライセンスを持っていないので、内側から陸地をグルっと回りましょうと」

●この旅の移動手段はどうしていらっしゃるんですか?

「基本的には前回の旅が終わった場所の近くまで新幹線で行って、そこでレンタカーを借りて次を繋ぐという感じです」

●移動の基本は車なんですね。

「はい。カメラマンも一緒に連れて行って、できるだけ日本中の海岸線のきれいなところを全部撮っていこうっていう狙いもあります」

●この「日本の海岸線を1本の線で繋ぐ旅」はどこから始められたんですか?

「福島県からスタートしたんですけど、なぜ福島かというと、この連載が面白くなかったら途中でやめられるように近場から行ってみようっていう理由からなんですね(笑)」

●なるほど(笑)。

「それで、福島の相馬の辺りから太平洋沿いを南に降りてきて、千葉県をぐるっとまわって東京湾に達したところで、編集長が『これはイケる!』ってことになって、今度は福島から北に行こうかと思ったんですけど、季節の関係上、今度は青森から岩手の方に出て福島まで繋いで、太平洋側の東日本編をそこで1回終わって、今度は青森から日本海側に出て、そのあとはずっと1本で繋いでいますね」

旅で出会ったおいしいもの

森沢明夫さん

●パッとアイディアが出たこの「日本の海岸線を1本の線で繋ぐ旅」なんですけど、実際に4年かけて旅をしてみて、最初のイメージとは違いましたか?

「それが、あまり変わらないんですよ。実は僕、10代の終わりから20代の中ごろにかけて、野宿でずっと海岸線を旅していたことがあって・・・」

●えっ!? じゃあ、海岸線を旅するのが好きな人?(笑)

「好きなのかなぁ(笑)。当時、本当は川の旅をしていたんです。あと、海岸線だと海に潜れば魚とかが獲れるじゃないですか。お金がないのでたんぱく質を摂るために海藻を獲ったりとか、漁師さんとかと仲良くなるとご飯をくれるので、海岸線は結構廻っていたんですよ。日本も3周くらいしちゃっていたんですけど、改めてちゃんと大人になってから、大人の目線で海岸を旅してみようかなぁっていうのもキッカケの1つですね」

●海もさることながら、地域地域によって人も全然違うじゃないですか。旅の醍醐味の1つとして、その地域の人々との出会いや触れ合いが挙げられますよね。渚をずっと歩いているっていうことは、色々な漁師さんと出会ったり、食べ物も味わったんじゃないですか?

「面白い人ともたくさん出会いますよ。僕の一番の得意技は、見ず知らずの人に『こんにちは』って平気で話しかけられることなんです。なので、漁師さんもたくさんの人と会いましたね」

●旅人がそういう方たちに「こんにちはー。釣れていますか?」って声をかけたときっていうのは、普通に返事してくれる人が多いんですか?

「大体は大丈夫なんですけど、1回、『完全に失敗したな』と思ったのが、サングラスをかけてハンチングをかぶって、『こんにちは』ってアサリを獲っている家族に話しかけたんですよ。そのときは完全に引かれましたね(笑)」

●確かに、渚でハンチングにサングラスは怪しいですもんね(笑)。さらに、森沢さんはおひげを生やしていらっしゃるので、かなり怪しいですね(笑)。

「(笑)。カメラマンに『それは俺でも怖いからやめてくれ』って言われました(笑)」

●(笑)。そういう方たちとお話をする中で、地域の特徴だったり、おいしいもののお話とか、思い出せないくらいたくさんあると思うんですけど、印象に残っているものってありますか?

「おいしいものでいえば、カルチャー・ショックって言っていいくらいおいしかったのが、山形県の遊佐町っていうところで、鳥海山に降った雨が伏流水になって染み込んで海の中から懇々と湧いているところがあるんですね。そこで獲れるイワガキがあるんですけど、日本一美味いって言われているんですね。それも、7月の最終週が抜群に美味いって言われているんです。で僕、たまたまその時期に通りかかったので・・・」

●狙って行きました?(笑)

「それが、たまたまなんです(笑)。市場の人とかに『ここで一番美味いのは何?』ってきいたら、『まさに今週はイワガキだ』って言われたので、業者の人に『雑誌で紹介しますので、一番美味いのを出してください』って言ったんです(笑)」

●そういう時、「雑誌で紹介します」とか言えるっておいしいですよね(笑)。

「(笑)。基本は、『雑誌で旅をしている』とか何も言わないで、とりあえず仲良くなって、あとで『書いてもいいですか?』って言うんですけど、そのときばかりは最初に『一番美味いの出してくださいね』って言ったんです」

●そのイワガキはおいしかったですか?

「それはすごく美味かったです。『これが海のミルクか!』っていうおいしさでした」

●漁師さんとか地元の人の食べ方とかって、私達がスーパーから買ってきて食べるのとは全然違う食べ方があったりしますよね。

「ありますね。例えば、三重県の尾鷲っていう雨がすごく多いところがあるんですけど、そこにアウトドア作家の甲斐崎圭(かいざき・けい)さんという方が住んでいらっしゃって、すごくかわいがっていただいているんですね。それで、甲斐崎さんの地元の漁師さんたちに教えてもらった刺身の食べ方があるんですけど、それがトラノオっていうその辺にだけ自生している青唐辛子があって、それを細かく刻んでしょう油に浮かべるんですね。そうすると、辛味がしょう油全体になじんできて、それをつけて食べるっていうお刺身があって、僕はわさび派なんですけど『これもアリだな』と思いましたね」

日本は「浦文化」

●「日本の渚を1本の線で繋ぐ旅」が2003年の4月から始まって、もう4年が過ぎてまだ終わっていないという壮大な計画を実行中の森沢さんなんですが(笑)、日本は海に囲まれているから海岸線がすごく長いじゃないですか。それぞれの海の特徴なども色々あると思うんですけど、景観として印象に残っている美しいスポットはどんなところがありますか?

「青森県の下北半島に仏ヶ浦って呼ばれている観光地があるんですけど、そこは海の中でそそり立っている岩がたくさんあるところで、そのスケールが日本とは思えないくらい感動的でしたね。そこに行くまでの間は『クマ出没注意!』なんですけどね(笑)」

●感動の前には恐怖もあるんですね(笑)。

「カメラマンとどっちが食われるか、ジャンケンで決めてから行きました(笑)」

森沢明夫さん

●(笑)。この番組をやらせていただいていて、カメラマンの方たちがよく言われるのが「先輩たちから『自然を撮るカメラマンとして、明日よりも今日、今日よりも昨日、1日でも早い方がよく撮れるよ』って教えられる」ってことなんですね。どんどん失われているものが多いそうなんですが、森沢さんは20代からずっと旅をされて、今回改めて旅をする中で「ここ、こんなふうになっちゃったんだ」っていう驚きってありましたか?

「昔よりよくなったって思うところはないですね。例えば、歩くと『キュッ』って音がする鳴き砂の海岸ってあったんですけど、そういうところはほとんどなくなっていますね。本州で鳴き砂がよく鳴くのって、島根県の琴ヶ浜っていうところくらいですね。そこは裸足でアイススケートをやるみたいに滑っていくと、『キュー、キュー』って鳴るんですけど、そのくらい見事に鳴く砂はそこくらいしかないんじゃないですかね」

●昔、旅をしたときはどうでしたか?

「他のところでも鳴いていたと思うんですよね」

●あと、砂浜がなくなってきているってよく聞くじゃないですか。それも実感としてありましたか?

「ありますね。特に、もともと砂浜が狭かったところに、もう1回行ってみたりすると、ほとんど砂浜がなかったりするんですよ。なので『こんなになくなっちゃうんだぁ』って思って、山と川と海との関係をもう1回ちゃんと見つめていかなきゃいけないんだなぁって気がしますね」

●それでも、森沢さんのエッセイを読ませていただいていると、すごく美しいところもたくさんあるんだなぁって感じました。

「『日本の海岸線ってこんなにきれいなのか!』って思ったところはたくさんありましたね」

●森沢さんは海外の海岸線を旅されることってあるんですか?

「はい。釣りが好きなのであります」

●そういうところと比較してみても日本はきれいですか?

「日本って『浦文化』って言われているんですけど、日本人って昔から、波静かな湾こそが美しいといわれている文化なんですね。で、それが今でも日本では言葉で残っていまして、『浦』って心だって言われているんですね。なぜかっていうと、『うらやましい』とか『うらめしい』とか、今、日本では『うら○○』って言葉がたくさん残っていて、それを全部、心に置き換えられるんですね。『うらやましい』っていうのは心がやましい状態。で、心が女々しいと、『うらめしい』。心を切ると『裏切る』とか、そういうのがあって、日本って昔から白砂青松(はくさせいしょう)っていって、白砂があって背後に松の木が青々と生えている波静かな海が一番美しいといわれているんですね。でも今でも日本にはそういう渚がたくさん残っていて、それはそれで和みますね」

●日本人の心を渚に例えるなら、なおのこと、砂浜を取り戻す努力をしないといけませんよね。

「そうですよね。砂がなくちゃ白砂青松じゃないですもんね」

●「うら」が嫌な意味でばかり使われるようになってしまうんじゃ悲しいですもんね。

「『浦』がなくなってしまうというのは、心がなくなってしまうということですからね」

旅は癒し

●渚の旅はもう少しで終わりそうですね。

「本州はね」

●あ、そっか! まだ本州だけなんですもんね(笑)。

「北海道と九州と四国など、それ以外の場所が残っているんですよ(笑)」

●2003年の4月から始まって5年弱で本州が終わるっていう感じですか?

「そうですね。編集長がすごく面白い方で『ゆっくり行っても駆け足で行っても何してもいいし、何も言わないから好きに旅していいよ』って言って下さっているので、途中であまりにも面白いことがいっぱいあると、なかなか先に進めなくなるんですね。で、面白いところがないと一気に進んでしまうので、いつ終わるのか分からないですね。でも多分、来年くらいに本州が終わって、そのあとどこに行くかは季節によって決めようと思っています」

●まだ終わっていないんですけど、この渚の旅を振り返ってみてどうですか?

「一言で言うと、癒しですかね。普段、忙しく仕事をしていて、渚の旅に出るっていうときは僕にとって癒しの時間なんですね(笑)。毎日、潮風を浴びて、サンライズ、サンセットを浴びて、海と共に生きている人達と触れ合って。また、そういう人達って優しい方が多いんですね。おいしい魚介類を食べて、いっぱいお酒を飲んで、ニコニコしながら夜寝るっていうのを繰り返していると、『日本人っていいなー』って思うので、この旅が終わって欲しくないくらいですね」

●まだまだ終わらなさそうですね(笑)。千葉にはいい海岸がいっぱいありますので、私達、旅人ではない人達が週末などにちょっと渚を訪れるのもいいですよね。

森沢明夫さん

「そうですね。僕、海が好きになったのは千葉からだったんですけど、小さなたも網などを持って、タイドプール(潮だまり)に出てもらって、イソスジエビとか小エビを獲って、それを塩振ってあぶって、ビールのおつまみにするとか、そうやって遊んでもらうと、海のことをどんどん好きになるんじゃないかなと思いますね。ただ眺めているだけだと分からないですからね」

●オススメのポイントとかありますか?

「僕は基本的に南に行けば行くほど好きなんですけど、外房で言えば勝浦がオススメですね。タイドプールにエビなどがたくさんいますからね」

●これからどんどんいい陽気になってきますから、みなさんも是非、お出かけいただければと思います。また、本州の旅が終わったらお話を聞かせてくださいね。

「本州の旅が千葉の船橋で終わるので・・・」

●じゃあ、そこにお出迎えっていうのもいいんじゃないですか?

「是非!」

●最後の数歩を一緒に歩ければと思いますので(笑)、そのときが決まったら教えてくださいね。

「ありがとうございます」

●今日はどうもありがとうございました。

■このほかの森沢明夫さんのインタビューもご覧ください。

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■エッセイスト/ノンフィクション・ライター、森沢明夫さん情報

『あおぞらビール』
『ラストサムライ〜片目のチャンピオン武田幸三』

「オーシャンライフ」連載記事『渚の旅人』
 2003年以来、日本の海岸線/渚を1本の線でつなぐ旅を続けている森沢さんが毎回旅の模様を綴ったエッセイ。各地で仕入れた雑学なども満載!
 海とボートの雑誌「オーシャンライフ」は毎月5日発売。現在、6月号が書店にて発売中!!

エッセイ『あおぞらビール
オーシャンライフ社/定価1,365円
 川下りや野宿と、森沢さんが青春を謳歌していた頃のエピソードをまとめた、笑える野遊びエッセイ。
 

ラストサムライ〜片目のチャンピオン武田幸三
角川書店/定価1,575円
 第17回 ミズノ・スポーツライター賞の優秀賞受賞。ムエタイ王者として活躍した格闘家、武田幸三さんの半生を描いたドキュメンタリー作品。
 

・森沢明夫さんのオフィシャルブログ: http://blogs.yahoo.co.jp/osakana920

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. 渚 / スピッツ

M2. LET ME BE / DAN ARBORISE

M3. TELL ME WHERE YOU'RE GOING / SILJE feat. PAT METHENY

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. THE VALLEY ROAD / BRUCE HORNSBY & THE RANGE

M5. PLAYING IN THE SAND / WILLIAM LYALL

M6. SOMEWHERE ONLY WE KNOW / KEANE

油井昌由樹ライフスタイル・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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