2008年1月27日

蒼い瞬間「BLUE MOMENT」を撮り続ける
写真家の吉村和敏さんを迎えて

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは吉村和敏さんです。
吉村和敏さん

 地球が見せる美しさにこだわる写真家・吉村和敏さんをお迎えし、最新の写真集「BLUE MOMENT」ほか、「赤毛のアン」のふるさと、カナダのプリンスエドワード島のお話などうかがいます。

24時間中、約20分しかない「BLUE MOMENT」

●吉村さんは去年の12月に小学館から「BLUE MOMENT」という写真集を出されているんですけど、表紙もまさに「BLUE MOMENT」(蒼の瞬間)という言葉がピッタリのお写真ですね。ちょっと暗めの青から、明るくなっていくグラデーションの中に夕焼けのようなオレンジ色の空があって、水平線が見えている中、手前には灯台が写っているという素敵な写真がカバーの写真集なんですけど、この「BLUE MOMENT」という言葉に特別な意味合いがあるんですか?

『BLUE MOMENT』

「ええ。まさに、文字通り『蒼の瞬間』ですよね。これは、北欧の人たちがこの時間帯のことを『BLUE MOMENT』って言っているんですよ」

●北欧にだけある独特の瞬間ってわけではないんですよね?

「はい。そういうわけではないんです。蒼い時間というのはいつ来るかというと、太陽が沈みますよね。そして、夕焼けが訪れます。で、その次に夜の闇が来るじゃないですか。夕焼けと夜の闇の間に空が真っ青に染まる瞬間があるんですが、ご存知ですか?」

●意識したことはないですけど、言われてみるとありますね。

「時間にして10分から15分くらいですね。ですから、あっという間に終わってしまうんですよ。その瞬間を捉えた写真なんです」

●それで、暗めの青から少しずつ明るくなっていく、このグラデーションが出来るんですね。

「そうなんです。1日に2回訪れるんですね。夕方と空が明るくなるとき、つまり朝です」

●朝といってもかなり早朝ですよね?

「ええ、早朝です。早朝の闇がとけて、だんだん明るくなっていきますよね。そのときも空が真っ青に染まる瞬間ってあるんですよ」

●その2つの瞬間を様々な場所で捉えた写真が、この「BLUE MOMENT」にはたくさん収められています。

「そうですね。僕の好きなカナダとかヨーロッパとかを旅する過程で、青い時間を狙ってずっと写真を撮り続けてきたわけなんです」

●北欧の方々が呼んでいる「BLUE MOMENT」っていう蒼い瞬間の時間帯のことっていうのは、吉村さんは昔からご存知だったんですか?

「ええ。写真を始めたのは今から20年くらい前なんですけど、最初は、夕焼けとか朝焼けとか美しい光を撮っていたんですね。で、その過程で夕焼けを撮影し終わって、さて帰ろうかって時にふと空を見上げたら、真っ青に染まっていたんですね。そのときに『もし、この時間に写真を撮ったら、どういうふうになるのかなぁ』って思ったんですよ。そして、実際に撮ってみたら素晴らしい作品に仕上がったんです。意識し始めたのはそこからですね」

●1日のうちに2回、それも10分程度ずつということは、24時間中、約20分あるかないかってことですもんね。

「そうなんですよ。それも、晴れないとダメなんですよ。雲があると、蒼い時間は訪れないんですね」

●確かにそうですね!

「晴れの中でも、雨上がりの晴れとか、台風が過ぎ去ったあとに空気が澄んでいるときがありますよね。そのときは非常に美しい青が出ます」

●相当、限られた時間なんですね。

「そうですね。特別な時間とも言えますね」

●この写真集、結構たくさん写真が収められていますよね。

「ええ。大体、100点くらいの写真が入っています」

●どれくらいかかったんですか?

「15年くらいかけて撮った作品の数々です」

●特に北欧やカナダ、そして日本の「BLUE MOMENT」を収めた写真もあるんですけど、確か、1枚だけニュージーランドの写真がありましたよね?

「はい。あります。去年の1月にニュージーランドを旅行しまして、そのときも美しい『BLUE MOMENT』が見られましたので、今回、1枚だけ写真を発表してみました」

●写真集を拝見していて、やっぱり北欧とか北半球のほうが「BLUE MOMENT」が似合うのかな、「BLUE MOMENT」がキレイなのかな、こだわりがあるのかなって思ったんですけど、1枚だけニュージーランドがあったので、気になって聞いてみました(笑)。

「(笑)。やはり、僕が好きなのは北国なんですよね。カナダとか、ヨーロッパとか北国を中心に旅をしていると、とても空気が澄んでいるんですね。ですから、非常に美しい光を見ることができるんですよ。そんな理由から今回、北国の写真が中心になりました。でも、必ずしも、北国だけの時間ではないんです。南の島に行っても当然、『BLUE MOMENT』という時間はありますし、いつかは全世界の写真を『BLUE MOMENT』の時間として発表してみたいですね」

●光という意味では同じ蒼い瞬間なんですけど、表紙の写真のように自然が中心となっている風景もあれば、古いお城のような建物が写っていたり、一方では、新宿のビル群の明かりと「BLUE MOMENT」だったり、写っているものは様々なんですけど、全部が温かいなって感じました。

「そうですね。僕は自然の中で見る『BLUE MOMENT』も、街中で見る『BLUE MOMENT』も全て同じだと思っているんですよ。その中でも好きなのは、人が暮らしている場所の『BLUE MOMENT』なんです。というのも、夜、暗くなっていくにしたがって、明かりが灯り始めますよね。特に街中は街灯がふっと灯ります。その街灯と蒼い空を重ねて見ると、非常に美しい風景として完成するんですよね。ですから、1枚の絵を作り出していくような感覚でずっとシャッターを押してきました」

●写真集を見ていると穏やかな気持ちになるんですが、これが「BLUE MOMENT」マジックなんでしょうかね。

「そうですね。青の色彩というのは不思議な力がありますよね。心を癒したりとか、心のモヤモヤ感を全て取り払ってくれるような不思議な力があると思いますね」

吉村さんの第二のふるさとは「赤毛のアン」のふるさと!?

●吉村さんは1年間、カナダで暮らしたことがあるそうですね。

吉村和敏さん

「今から20年前なんですけど、1年間カナダで暮らしました」

●カナダのどの辺にいらっしゃったんですか?

「カナダは世界で2番目に広い国で、色々な要素が詰まっているんですが、僕が暮らしたのは東の方なんです。東といえば、アメリカではニューヨーク、ボストンがありますよね。その上辺りの地域です。そこら辺は大西洋に囲まれている地域でして、アトランティック・カナダと呼ばれているんです。そこに、有名な島でプリンスエドワード島という島があるんですよ。ご存知ですか?」

●はい。「赤毛のアン」で有名な島ですよね?

「そうなんです。『赤毛のアン』のふるさととして知られていますよね。で、その島の景観が非常にお気に入りで、まずプリンスエドワード島が持つ牧歌的な景観に心奪われたんですよね。そこで、暮らしてみようと決心してしまったわけなんです」

●その頃はまだ、写真家としての活動はされていなかったんですよね?

「ええ。そのときは『カメラマンになりたい!』っていうときだったんですよ。つまり、海外に出てたくさんの写真を撮って、日本に帰ってきてカメラマンとしてデビューしたいなという夢を抱いた撮影旅行だったんです。そういった意味でも、カナダという国、プリンスエドワード島という島は僕自身の中で思い出深い島ですね」

●吉村さんはこれまでにも何冊か、プリンスエドワード島で撮った写真集も出されていますけど、そういう意味では吉村さんにとってある意味、第二のふるさとともいえるのかもしれませんね。

「そうですね。帰国してからも何度もプリンスエドワード島に足を運んで、多い年だと1年で6回海を越えたことがあるんですよ。それで、10年間写真を撮り続けました。で、30歳のときに僕のデビュー作となる『PRINCE EDWARD ISLAND』という写真集を出版することが出来たんです」

●島自体はどれくらいの大きさで、どういった特徴があるんですか?

「島は四国の愛媛県とほぼ同じ面積なんですよ。ですから、結構大きいんですよね。一日で車で周るのは結構厳しいかと思います。島を巡るには2日、3日は必要ですね」

●日本からの観光客がすごく多いそうですね。

「ええ。それほど美しいんですよ。というのも、『赤毛のアン』に憧れてこの島にやってくる人もたくさんいますし、あとは北海道の富良野とか美瑛の景観に非常に似ているんですよね。ですから、そういったような風景が好きな人はプリンスエドワード島に一度は訪れてみたいと思ってやってきますね」

●あちこち旅をされた中でも、吉村さんの中ではプリンスエドワード島がNO.1ですか?

「そうですね。やはりカナダの中では、この島の景観というのが一番好きですね。パッと見て、心が落ち着いてくるような風景なんですよね。丘が連なっていて、向こうのほうには真っ青な海があって、そして、その海から延びている入り江があります。入り江と丘と真っ青な空があるんです。そういったものを重ねて見ることができるんですよ。特徴的な風景としては三角屋根のかわいらしい建物があります。そういった民家が島のいたるところに点々としているんですよね。ですから、おとぎの国に迷い込んだような、非常に心休まる風景が広がっているんです」

●そういうのを全部収めた「プリンスエドワード島」という写真集から始まったんですね。

「全ての始まりがプリンスエドワード島にあるんですよ」

最近は日本にカメラを向けています

●吉村さんは去年の12月に小学館から「BLUE MOMENT」という写真集を出されているんですけど、この写真集の中ではどちらかというと、北欧、カナダ、日本と北半球の写真が多いんですけど、撮影旅行は北に限らず、あちこちに行かれていらっしゃるんですか?

「そうですね。南の島に行くことはあまりないんですが、各地を旅しています。最近ではフランスを撮影したりとか、先月はチェコのプラハをずっと撮っていました」

●あちこち行かれていている中で、被写体としては何に一番惹かれますか?

「それぞれ国に特徴があってまちまちなんですけど、僕自身、国というこだわりはないんですよ。やはり、旅先で積極的に動き回って、そこで見つけた心に響いてくる景観を写真に撮っているという感じです」

●「BLUE MOMENT」には蒼い瞬間の中での様々な景観が収められているんですけど、どんな明かりの中でも吉村さんがお撮りになると、温かい感じのオレンジがかった色が多い気がします。それは意識されていることなんですか?

「美しい光が出るまで結構待つんですよ。最低でも現地に2週間はいるんですね。ですから、その間に自分のお気に入りの光が出るのは大体、1日か2日なんです。そのときにベスト・ショットを生み出していますね」

●逆に、ずっと海外で写真を撮られていると、日本に帰ってきたときに、ふと日本の良さを再発見することもあるんじゃないですか?

「ええ。実際に最初の頃は日本という国があまり見えなかったんですね。海外への憧ればかりで撮影を続けていて、もう写真も20年続けていると、最近、だんだんと日本に興味を覚え始めてきたんですよ。で、日本の風景が非常に美しく感じてきたんです。ですから、近頃は日本にカメラを向けていますね。

●この番組でもたくさんの写真家の方にお話をうかがっていて、特に自然を撮っていらっしゃる方がよく言われるのが、自然を被写体にしていると、ここのところ色々言われている環境破壊の問題もあって、明日よりも今日、今日よりも昨日、写真家になったほうが、いい写真がたくさん撮れるというくらいに、刻一刻と自然環境が変わっていっているということなんですね。吉村さんも写真を撮られていて、お気に入りの場所が変わってしまったり、なくなってしまった経験ってありますか?

「どこもそうですよ。少しずつ変わっていくと思います。ただ、僕の場合は自然風景というのではなくて、生活風景なんです。つまり、必ず自然の中に人の暮らしの営み、建物とか道とか、街中だったらビルといったものが入り込んでいるんですよ。ですから、生活風景というのをずっと見つめてきて、やはり、人の暮らしが溶け込んでいる分だけ、移り変わりは激しくありますよね」

●逆に「BLUE MOMENT」という意味ではどうでしょうか? 大気汚染も含めて青さに影響はないんですか?

「あまり感じませんね。というのは、雨が降ったり、嵐が来たりすると、全てが洗い流されてしまいますよね。そうすると、また美しい地球の姿が見えてくるんですよね。ですから、確かに街中ではスモッグとかが発生して空気が淀んでいるんですが、それも当然、天気の悪い日が続いて、いきなり晴れ間が来るとキレイな青空が広がりますから、やっぱり自然は動いているなぁという感じを受けますよね」

1日2回の「蒼い瞬間」を見てみよう

●吉村さんは写真集「BLUE MOMENT」の最後に「私の使命は、この地球のどこかに潜む美しさを見つけ、作品として残していくことなのかもしれない。今、日々の暮らしの中でブルーモーメントを意識することが、楽しくて仕方がない」と書かれているんですけど、お話をうかがっていると、まさに「BLUE MOMENT」という瞬間は、どんなに生活が苦しくなっても(笑)、忙しくても、イライラしていても、自然が変わってしまっていても、この瞬間だけは全てが美しく・・・。

吉村和敏さん

「見えますよね。東京で生活しているときも、必ず空を意識するようにしているんですよ。特にこの『BLUE MOMENT』という時間と出会ってからは、1日2回は必ず見るようにしています。で、忙しい中でこの瞬間と出会うと何か心が落ち着くんですよね。僕自身はその瞬間が好きですね」

●今くらいの季節だと、大体何時くらいですか?

「夕方5時半くらいですね。で、朝も日の出ですから、6時前後ですよね」

●じゃあ、全然見られますね!

「朝はちょっと早起きすれば見られますよね。夕方は会社の中にいても、誰でも見ることができると思いますね。窓の外をちょっとのぞけば、蒼い世界が広がっているという感じですね」

●気象条件が整った日があったら、蒼い瞬間に目を向けることによって気持ちも変わってきますよね。今後も、「BLUE MOMENT」をたくさん撮っていかれると思いますが、この先、行ってみたい場所や撮ったみたいものはありますか?

「いくつもあるんですよ。そして今、実際それを精力的に撮影しているわけなんですが、僕の場合は1度まず旅をしてみるんです。で、旅をしてそのときに見つけたものを、『よし! これをずっと追いかけてみよう!』とテーマとして決めるんですね。そして、それを何年もかけて撮影していくというスタイルなんです。今はヨーロッパに盛んに足を運んでいまして、1つ、正直にお話をすると、あるフランスの村を撮影しているんですよ。各地に点在している非常に美しい村があるんですね。それを1つ1つ旅して周って、村の表情を写真に撮っています」

●それはいつくらいに見ることができそうですか?

「1つのテーマを完成させるまでには、最低でも5年から10年はかかりますからね。ですから、フランスの村をまとめるには、あと3年から4年は必要かなぁと思いますね」

●では、この番組もそれまで頑張って続けて(笑)、そのときにお話をうかがいたいと思います。それ以前にでも、途中経過などを番組に知らせてくださいね。今日はどうもありがとうございました。

このほかの吉村和敏さんのインタビューもご覧ください。
AMY'S MONOLOGUE〜エイミーのひと言〜

 蒼く染まった空の下で人々の営みが色を添える・・・。そんな吉村さんの写真を観ていると、環境を破壊し、色んな問題を起こしている人間の暮らしも、ブルーモーメントの中では自然の風景に溶け込み、温かみさえ感じさせるんだなぁって、なんだかホッとします。皆さんもぜひ吉村さんの写真集「BLUE MOMENT」、ご覧ください。

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■写真家・吉村和敏さん情報

『BLUE MOMENT』

写真集『BLUE MOMENT
小学館/定価3,150円
 光と構図にこだわった美しい写真を撮る写真家として評判の吉村和敏さんの最新の写真集。朝日が昇る直前と、夜の闇が始まる寸前の、12分足らずの“蒼い瞬間〜BLUE MOMENT”を捉えた写真の数々が収められた写真集。
 

 尚、吉村さんはこの他にも1年間暮らしていたというプリンスエドワード島(カナダ)の写真集や、カナダの美しい紅葉をとらえた『ローレンシャンの秋』など、たくさんの写真集を出されています。詳しくは、吉村和敏さんのオフィシャル・サイトをご覧下さい。

・吉村和敏さんのHPhttp://www.kaz-yoshimura.com/
・吉村和敏さんのブログhttp://kaz-yoshimura.cocolog-nifty.com/blog/

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. JANUARY / PILOT

M2. LIFE'S A MIRACLE / PREFAB SPROUT

M3. A CASE OF YOU / JONI MITCHELL

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

油井昌由樹ライフスタイル・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. LOVE IS FREE / SHERYL CROW

M5. BLUE MOON BLUE / 今井美樹

M6. LEAVE A TENDER MOMENT ALONE / BILLY JOEL

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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