2008年5月18日

ISPAの理事・ロバート仙道さんによるヨット・船旅のススメ

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンは、ロバート仙道さんのインタビューです。
ロバート仙道さん

 カナダのバンクーバーを拠点に、クルージング・スクールを行なう「インターナショナル・セール・アンド・パワー・アソシエーション(以下:ISPA)」の理事、ロバート仙道さんをお迎えし、ヨットや船旅の魅力などうかがいます。

誰でも楽しめるヨット・クルージング

●はじめまして、よろしくお願いします。早速なんですが、ISPAという団体について教えていただけますか?

「はい。この団体は名前の通り、セール・アンド・パワーということで、パワー・ボートを含む、日本でいうヨット、大型のボートのトレーニングを行なう団体です。ベースはカナダなんですが、もともと欧米では日本でいうヨットを、きちんと体系的に教えるという制度が古くからありまして、単にセーリングで船を走らせるということではなくて、セール・ボートを使って旅行をするために必要な知識と技術を、体系的に教えるという伝統が欧米にはずっとあったんですね。で、いくつか教える団体があるんですが、その中で、カナダをベースにして活動している団体がISPAという団体です」

●いつぐらいに設立されたんですか?

「1994年ですね。比較的に新しい団体なんです」

●それが、ISPAジャパンとして日本にもあるんですよね?

「ええ、そうです。私はISPA自体の設立にも関わっているんですが、当時、日本にはクルージングを体系的に教えるシステムがなかったんですね。ヨットに乗る方はいらっしゃるんですが、団体的にヨット・クルージングを教えるという団体がなかったので、是非、日本にも広めていきたいと思いまして、2001年にこの団体を日本に作りました」

●この団体はNPO法人ISPAジャパンとしてあるんですが、このISPAジャパンのシステムのベースになっているのは、横浜なんですか?

「はい。横浜ベイサイドマリーナがISPAのスタンダードを使ったスクールを運営しています。いわゆる公認スクールという形で運営しています」

●ISPAが作ったスタンダード・プログラムやスクールのノウハウにはどういったものがあるんですか?

「簡単に言いますと、例えば『来月、地中海に行きましょう』となったとします。で、向こうでセーリングをしましょう、ヨットを使って旅行をしましょうってなったときに何が必要になるかというと、まず、きちっとプランニングを立てることですよね。まず、どういう情報を集めなければいけないか知らないといけないし、チャート(海図)を用意して、きちんとプランを作って、途中でどういうところに寄って、燃料がなくなったらどこで給油するかとか、こういうことを全部事前に調べておくことから始まりまして、で、現実に現地へ行きまして、今、実は非常に久遠な時代でして、多分、20〜30年前にはそうはいかなかったんですが、レンタカーと同じように世界中で大きなヨットを借りられるようになっているんですね。ですから、そこまで準備をしておいて現地へ行って、後はレンタカーと同じで船を借りると。で、そこから船を動かして、自分が行きたいところをクルージングすると。そうすると当然、船は動かせないといけないですよね。もちろんセーリングは出来ないといけないんですが、クルージング・ボートですから、風がないときにはエンジンで走ります。で、港から港へずっと走っていく。で、それに関連して何が必要になるかといえば、例えば、エンジンがちょっと調子が悪いってなったら、自分でエンジンのチェックも出来る。それから、簡単な故障だったら直せる。例えば、セールが破けたら自分で応急処置が出来る。あとは、例えば陸と違って、誰かが怪我をしたとします。こんなことは普段はないですけど、仮に起こったとしたら、応急処置が出来なければならないとか。要するに、全部自分で出来るようにならなきゃいけないわけですね。で、そういう知識や技術を自分のものにするというのが、クルージング・シーマン・シップと呼ばれていることなんですね。一朝一夕にはなかなかいかないんですが、そういうことを時間をかけて段階を追って学んで行こうというのが、ISPAのスタンダードの内容ですね」

●その中には、クルージングするとか船に乗るには、免許が必要になってきますよね?

「はい」

●そういう免許もとれるようになっているんですか?

「はい。実は、そのライセンスの役割を果たすのが、ISPAが発行しているサーティフィケートというのが、実態的なライセンスなんです。で、これをチャーター会社に見せて、『自分はこういう経験があって、こういうライセンスを持っています』と言えば、チャーター会社のほうで船を貸してくれるんですね。ですから、国際ライセンスのようなものですね」

●陸で例えて言うなら、キャンピング・カーをレンタルして、海外のあちこちにキャンプに行くノウハウを教えてくれた上、国際免許もプログラム終了後に出してくれるということなんですね。

「そういうことなんです。非常に素晴らしいライフスタイルなので、是非、みなさんに始めていただきたいなと思ってやり始めたんですね。大体、ヨットのイメージとして、レースとか、大変だとか、力が必要だ、お金が非常にかかるといったイメージをお持ちだと思うんですが、現実はそんなことなくて、それぞれその人なりに楽しむことが出来る。それから、力もそんなにいらないんですね。例えば、夏なんかにカナダへ行って、クルージングしている船を見ると、60歳過ぎくらいのシニアのご夫婦2人で、15メートル級のサイズの船を平気で動かしているんですね。要はゆっくりやればいいんですけど、きちんとした技術と知識さえあれば、誰でも楽しめるというのがヨット・クルージングなんですね」

旅の目的はどう「いい時間」を過ごすか

●この番組でも雑誌『KAZI』との共同企画で編集長の田久保さんにお世話になりながら、ON THE WATERシリーズというのをやらせていただいて、色々な船に乗せていただいて、ヨットにも何度か乗せていただいたんですけど、私、色々な船の中でヨットって気持ちよくて、大好きだったんです。「乗れるようになったらいいなぁ」と思いながらも、船舶免許をとったりとか、すごくハードで難しいような気がしちゃって、二の足を踏んでとれないまま、今に至ってしまっているんですけど、そんなに難しく考えなくてもいいんですよね?

ロバート仙道さん

「ええ。難しく考える必要は全くありませんし、女性でも全く問題ありませんし、先ほど申し上げた通り、欧米では楽しんでいる方のほとんどがシニアの方ですから、ゆっくりやればいいんですね。一番大事なことは、自分自身がそうしてきたんですけど、楽しみながら学ぶこと。楽しんでいるうちに、いつの間にか乗れるようになっていたということになるんじゃないでしょうか」

●年齢を重ねてからでも始められるというセーリングなんですけど、仙道さんから見たヨットの魅力、セーリングの魅力ってどんなところですか?

「クルージングと言ったほうがいいと思うんですが、あらゆる要素が入っているんですね。結論を先に言いますと、だから面白い。あらゆる要素とは何かというと、我々が海の上、船で生活するのに必要な、エンジンを直せなきゃいけない、天気も見られなきゃいけない、電気のことも分からないといけない、色々なことを全部理解しないといけない。で、大きく大別すると、1つは自然に関することですね。空模様を見ながら、天気はどう変わっていくかなっていうことを常に敏感に感じていないといけないし、例えば、海には潮の満ち引きがあるんですね。都会で生活をしていると、知識として誰でも知っているんですけど、そんなことがあるということを認識も意識もしませんよね。船に乗っていると、そういうことに敏感にならざるをえない。で、いつもそういうことを考えるようになっていくんですね。なぜかというと、潮の満ち引きが非常に激しい場所に行くと、ある時間には安全な岩が、ある時間になると、船にぶつかる位置に来るとかね。そういう単純な話ではありますが、普段の日常生活ではあまり気がつかない自然の動きに敏感にならざるをえない。同じことが風とかあらゆることについて言えるんですけどね。
 あと、世の中が専門家の時代でして(笑)、みなさん何かのスペシャリストで、日常生活で言うと、例えば家庭で電気が何かおかしくなったとします。すると、電気屋さんを呼びましょう。車がおかしくなったら車屋さんを呼びましょう。あるいは、オイル交換すら専門家にやってもらいましょう。現代の我々の生活の身のまわりっていうのは、みんなブラック・ボックスばかりなんですね(笑)。私も、もちろんそうだったんですけど、船に乗ると、それこそ全部、自分である程度理解して、メンテナンスやとりあえずの修理なんかは、自分で出来るようにならないといけないんですね。でも、実はこれが非常に面白いんですね。
 一方で自然のことがよく分かってきて、自然をますます身近に感じていき、一方でレーダーとか、無線機とか、GPSといったハイテク機器にも強くならなきゃいけない。これが面白いんですね。それで、これにどっぷり浸っていったということなんです。
 客観的に見るとどういうことかというと、自由になるには知識と技術が必要なんですね。例えば、自分を例に取りますと、僕は船さえあれば他人のお世話にならずに世界中どこでも行けるわけです。全く自由なんですね。これが、知識や技術が全くないと、船長に頼まないといけないとか、人に頼まないといけない。人間は社会的な動物ですから、もちろん、みんなで協力し合って生きるわけで、人に頼むのが悪いという意味ではないんですけど、自分でやれたほうが面白い。そのほうが自由に感じますよね。そこらへんが面白いところじゃないでしょうか。
 もちろん、クルージングの場合、ヨットなんかだったらスピードはせいぜい5ノットか6ノット、時速で言うと10キロから15キロくらいしか出ないわけですね。ゆっくりゆっくり動く旅なんですね。あとはそのスピードじゃないと見えないものがたくさんありまして、我々のようにスピード優先の時代に生きていますと、点から点への単なる移動に終わってしまっているんですね。いわゆる旅というのはどういういい時間を過ごすかが1つの旅の目的だと思うんですね。そうすると、例えばパワー・ボートと比較してみると、パワー・ボートで時速20ノットくらいで1時間走るとすると、多分その間は騒音以外は何も聞こえないと思いますね(笑)。そうやって1時間過ごす。一方でセール・ボートは5ノットくらいしか出ません。でも、風の音を聞いて、水を切る音を聞いて、陸に近い場合は風で木がそよぐ音などを聞きながら1時間過ごす。どちらの1時間がいいかといったら、僕はセール・ボートの1時間がいいですね」

●私もそっちのほうがいいでーす!(笑)

「(笑)。そういうことだと思うんですね。それがセール・ボートの1つの良さだと思うんですね」

●ヨットって贅沢というイメージがあるんですが、それは、贅沢な時間を過ごせるという意味でもあるんですね。

「そうだと思います。多分、一番贅沢なことじゃないですか。それが残念ながら、今まで日本ではあまり紹介されていなかったということですね」

無線を積めば海上の事故は減る

●ヨットでクルージングっていうのがあまりされていない日本では、欧米に比べると遅れているというか、海との親しみ方の1つを忘れてしまっている状況かと思いますが、興味のある方は安全に海の上を渡れるような技術と知識を身につけてから海に出ていただきたいですね。

「そうですね。マナーという面では、特に我々のようなプレジャー・ボートに乗っていると、一番大事なのが安全でして、そういう点から日本の海を見ると、カナダ辺りと比べてちょっとマナーが欠けているかなというシーンは見受けられますね。ただ、とても大きな問題というレベルまではいっていないと思いますけどね。あとは、プレジャー・ボート用の無線や法律っていうのが、欧米諸国と比べると非常に厳しい内容になっていて、ほとんどのプレジャー・ボートが海上での共通の無線機、専門用語で言うとマリンVHFっていうんですが、いわゆるVHF無線機の搭載率っていうのが非常に悪いんですね。実はこれが非常に大きな問題でして、その辺が今後、国際標準並みになっていかなければ、将来大きな問題になるのではないかとは思っています」

●素人の私からしても「無線を搭載していなくて大丈夫なんですか!?」って思っちゃいます(笑)。

「ここで簡単に世界の標準の話をしますと、タンカーや漁船、我々のようなプレジャー・ボートといった海の上を動く船は全て、この周波数帯を聞いていましょうというのが決められているんです。で、欧米はほぼ100パーセントに近い普及率で、みんなはチャンネル16というんですが、みんなそれを聞いているんですね。で、何かあると、そのチャンネルに向かって喋ればそれでいいということになっているんですね。ですから、例えば向こうから大きな船が近づいてくる。でも、大きな船からすると、向こうから小さな船が近づいてくる。危ないなと思ったら、そのチャンネル16に向かって喋ればいいんですね。相手の船の名前が分かっても分からなくてもいいわけです。『どこどこ付近を航行中の白いこういう船、ちょっと危ないですよ』という感じで喋りかければそれでいいんですね。そういういつでも共通に聞いていて、いつでも共通に話しかけられるチャンネルが決まっていて、それが日本の場合、プレジャー・ボート、それから漁船も含まれると思うんですが、ほとんど普及していないというのが日本の実態なんですね。この辺が改善されなければいけないと思いますね」

●共通のチャンネルが設置されていれば、もしかしたら海洋事故も大幅に削減できますよね。

「そういうことです。それがあれば避けられた事故っていうのが過去にたくさんあったと思います。それがないために、こちらから喋りかけたくても喋りかけられないという状況が発生している。欧米へ行くと、みんなその無線を気軽に使っていまして、遭難とまでいかない状態でも、『エンジンが止まっちゃったから、ちょっと引っ張っていってくれない?』とか(笑)、そういうのに使うわけですね。周りに船が見えなくても、無線で大体の自分の位置を言って、『この辺にいます。誰かいませんか?』と言えば、大体の場合は誰かがいて、海の上では基本的に助け合うという基本的な取り決めがありますから、助けてくれるんですね。もちろん、僕たちもそういう経験がありますし、自分が助けられたこともあるし、お助けしたこともあるし、そういうことってしょっちゅうあってはいけないのかもしれませんが、結構、気軽に行なわれているんですね。ですから、そういう無線があればそういうふうに気軽に助けを呼べるはずのことが、無線がないために助けが呼べなくて時間がかかってしまうとか、甚だしい場合は事故になってしまったりってことが結構多いと思うんですね」

●そういう意味では、ISPAのプログラムを通して、何が必要かということを教えていただけるので、是非、この夏トレーニングを受けて、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。

「エイミーさんも、是非ヨット・ウーマンに!(笑)」

●私もですか!?(笑) 私も頑張ってシー・ウーマン・シップをとれるようにしたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

AMY'S MONOLOGUE〜エイミーのひと言〜

 仙道さんはカナダのバンクーバーを拠点に小学生から高校生くらいを対象とした、海の環境について学ぶ航海プログラムも指導していらして、将来的には日本でも夏休みなどを利用して子供向けのプログラムを実施したいとおっしゃっていました。やはり小さいころから海に接することって大事ですよね。でも実は仙道さんがヨットを始めたのは40代に入ってからなんですって。最近では定年を迎えた方々がご夫婦で、キャンピング・カーで旅をしたり、豪華客船で世界一周に出たりしているようですが、ご夫婦でスクールに入ってヨットでクルージングを楽しむのもいいかもしれませんね。ちなみに仙道さんによると、日本は海に囲まれてはいますが、クルージングを楽しむ場としてはけっこう難しいそうです。ただ難しいからこそ、トレーニングを積むにはいいフィールドだとおっしゃっていました。自然とハイテクの両方の知識と技術を身に付け、自由を味わえるクルージング。皆さんもチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

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「ISPAジャパン」のスクール情報

公認スクール『コンピテントクルー・コース』
 カナダのバンクーバーに拠点がある非営利団体「インターナショナル・セール・アンド・パワー・アソシエーション/ISPA」の姉妹団体「ISPAジャパン」が「横浜ベイサイドマリーナ」で行なっている公認スクールの5つのコースのうち、初心者向けの「ステップ1」。ロープの結び方や海の安全、救助法など、船に乗るクルーとして必要な技術や知識を学ぶコース。

近い日程:5月21日(水)〜26日(月)
     6月11日(水)〜16日(月)
     7月16日(水)〜21日(月)
      いずれも6日間
募集人員:各回4名
参加費:15万7,500円(受講料やテキスト代を含む)

 尚、スクールに入る前に「体験セーリング」も行なっていますが、いずれも詳しくは「横浜ベイサイドマリーナ」のホームページをご覧ください。

 横浜ベイサイドマリーナISPAクルーザースクールのHP
  http://www.ybmarina.com/ispa/index.html
 ISPAジャパンのHPhttp://www.ispa.jp/

「ウィンドバレーセーリングスクール」情報

 ISPAの理事でもあるロバート仙道さんがインストラクターを務めるカナダのバンクーバーにあるISPA公認スクール。カナダをベースに世界中でクルーズ・トレーニングを実施。日本語によるプログラムあり。

 ウィンドバレーセーリングスクールのHPhttp://www.windvalleysailing.com/

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. CRUISING FOR BRUISING / BASIA

M2. SAIL ON / COMMODORES

M3. SAILING / ROD STEWART

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

油井昌由樹ライフスタイル・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M4. GIMME THAT WINE / LEW LONDON

M5. SAIL ON WHITE MOON / BOZ SCAGGS

M6. STEPPIN OUT / JOE JACKSON

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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