2008年6月1日

東京農業大学・教授、近藤三雄さんの「屋上緑化、都市緑化のススメ」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンは、近藤三雄さんのインタビューです。
近藤三雄さん

 屋上緑化のエキスパート、東京農業大学 地球環境科学部 造園科学科・教授の近藤三雄さんをお迎えし、都市緑化の課題や屋上を緑にする方法などうかがいます。

日本の屋上緑化の現状は?

●はじめまして、よろしくお願いします。近藤先生の得意分野は、造園技術を活用した屋上緑化なんですよね?

「今、そういうことを中心としてやっている部分もあるんですが、色々なことを研究して、都市全体を緑化するということでどんな効果がもたらされるかとか、そういう効果を科学的に検証しています。今、時代は色々な面で屋上緑化に注目していますので、それに関わる研究を中心に頑張っているところです」

●日本の都市の緑化とか屋上緑化って、世界から見ると進んでいるほうなんですか?

「比較の仕方が難しいんですね。僕なんかが見たり聞いたりする情報によれば、日本はすごく進んでいると思います。どういった形で進んでいるかというと、都市を緑化するための国の政策とか、自治体の施策だとかが非常に整備されていますね。屋上緑化にしても都市の緑化にしても簡単にできると思われるんですけど、やっぱり屋上というのは色々な制限もあるんですね。例えば、重さの制限とか、色々問題がありますので、その中できちっとした緑を作っていくということになると、色々な技術が必要なんですね。そういう技術開発のようなことでも、開発された技術の数だとか、欧米の先進諸国より日本のほうが進んでいて、世界のトップクラスであることは間違いないと思います」

●最近、温暖化がかなりフィーチャーされ、特にヒートアイランド現象という言葉が浸透してしまった今、屋上緑化っていう言葉も一般的に使われるようになって、一般の方の間でも広まってきましたけど、屋上緑化の現状は今、どんなふうになっているんですか?

「先日も国土交通省が今年度、どれくらい全国で屋上緑化がされたかという統計資料を発表したんですね。全部のデータを整理したわけではないんですが、そのデータによれば、昨年度、日本全国でトータル30ヘクタールだそうで、あまり多くないんですね。だけど、今から10年位前の状況からすれば、倍くらいの屋上が緑化されました。で、それは1つ、お話にあったようなヒートアイランド対策としての意味合いが強いんだと思いますね。建物の屋上や表面のコンクリートというのは直射日光が当たると、60℃以上の暑さになりますので、その熱が大気中に拡散していって、都市の温度を押し上げているんですね。ですから、熱源なんですね。それを植物で覆ってやると、表面は気温以上にはならないので、場合によっては表面温度が20℃も30℃も低いということになりますから、おのずとヒートアイランド現象を緩和してくれるんですね。それから、植物は生きていますので、蒸散作用をするんです。で、そのときに周辺の暑い熱も吸い取ってくれるという働きもありますので、屋上緑化をすることによって、緩和されるんですね。今の日本の都市部に限っての一番大きな環境問題、社会問題はヒートアイランド対策をどうするかということだと思うんですが、その切り札になっているのが、屋上緑化なんです。熱源となっている屋上を冷たい植物でシールしてやって、少しでも冷やすということでしょうね」

●でも、簡単に言っても建物の上に緑を植えるわけですから、土の地面に植えるのとはまた違うじゃないですか。それなりの難しさもあれば、それに適している木、環境もあると思うんですけど、簡単に言うと、どういう仕組みになっているんでしょうか?

「1つは建物の構造形態に応じて、大きな柱だとか梁がありますけど、重さの制限っていうのがあるんですね。どれくらいの重さまで屋上に載せていいかという過重制限っていいます。で、一般の建物は180キロから300キロ。一般の建物っていうのはデパートの屋上とか、お役所の公共建築物の屋上だとかそういう建物なんですが、それが180〜300キロなんですね。ただ、そうはいっても、なかなか実感が湧かないと思いますが、普通の土を20センチ載せると、300キロ相当になってしまうんですね」

●土だけでそんなになっちゃうんですね!

「ええ。ですから、その中でどういう工夫を凝らすか、少しでも軽い土を使って薄く土を載せて、そこに植物を植えるとかですね。そういう問題もありますし、もう1つ大きな注意点がありまして、屋上緑化をすることはいいんですが、そこに土を載せて植物を植えるということになりますと、屋上面のコンクリートの防水層を破壊して水漏れをきたすという懸念もありますので、屋上緑化をすることは、ヒートアイランド対策上いいということがあったとしても、水漏れが起きたら大変な問題ですからね。我々はそういうことが起こらないように、技術的にそういう資材を開発したり、どれくらいの土の厚さを用意して載せれば、それくらいの木が育つかとか、そういう実験や研究も行なっているんですね。そういう意味では日本での技術的な問題はほぼクリアされています。ですから、どんな建物でも要望に応じて、しかるべき緑を作ることが出来るんですね」

●じゃあ例えば、一軒家でもフラットトップだったりすれば、そこを緑化することは可能なんですね。

「必ずしもフラットトップでなくても、勾配屋根、傾斜屋根でも加重が非常に小さいものですから、厚い土を載せて、庭を作るようなことは出来ませんけど、芝生やセダムと呼ばれるような多肉植物で勾配屋根を緑化するという技術も開発されています」

緑の手入れも日々の楽しみに

●私が初めて「屋上緑化」って言葉を聞いたときに思い描いたイメージっていうのが、プランターやコンテナに色々な植物を植えて、それを屋上に置いていくっていう光景だったんですね。実際にうちの近所にもそういうところがあるんですけど、それが一番手軽だし、土も交換してあげたり出来るしって思っていたんですけど、それは素人レベルで出来る緑化っていうことですよね。

近藤三雄さん

「そうですね。各集合住宅やマンションのベランダ的なところを利用するときには、プランターとかコンテナに植えたものを並べて楽しむということも出来るでしょうし、私が見た限りでは、オーストラリアでは、屋上緑化をするといって人工の地盤を作って、そこに庭を作るような形よりも、かなり大きなコンテナに植栽された植物を並べて、色々な空間をデザインするというやり方が主流になっていますが、僕自身もいくつか設計して作っているんですが、目黒区役所の庁舎の屋上なんかは、焼き物の信楽焼(しがらきやき)ってご存知ですか?」

●はい。

「大きなコンテナに、木が1メートル以上ある盆栽仕立ての五葉松(ごようまつ)を植えつけて、それをメインに並べて、日本庭園的な空間を作っています」

●和なイメージですね!

「ええ。是非、見ていただければと思います」

●そこは一般の人も見られる場所なんですか?

「ええ。お役所が開いている9時から4時くらいまでは公開されていますし、6月8日くらいまでは土日も公開されています」

●このチャンスにみなさんも是非、ご覧になってみてくださいね!

「うちの学生達と力と知恵を出して作った十五庭(とうごてい)という庭園です。目黒区役所の建物というのは有名な建築家だった村野藤吾さんの建築作品なんですね。そこに1000平米くらいの素晴らしい庭を作っていますので、私の力作と言えば力作だと思いますが、是非、見ていただければと思います。やはり、コンテナも使いようですね。ですから、草花を植えて、イングリッシュ・ガーデン風の雰囲気を出すのも結構だと思いますし、和の雰囲気を出すことも出来ます。やはり、和の雰囲気を出すためには、信楽焼だとか、盆栽仕立ての五葉松というのが、非常に効いているんですね。是非、見に行っていただければと思います」

●コンテナでも、ちゃんと地面に植えたものでも、手入れを怠れば、なんでもなくなってしまうので、試す方は手入れもちゃんと考えてやらないといけませんよね。

「そうですね。当初はキレイな緑になったとしても、地べたの緑地以上に手を入れなきゃいけないんだと思いますが、現実問題としてなかなか手入れする時間や労力や暇がないということもありますので、我々も緑化をするときにはなるべく最低限の時間で済むようなアドバイスをしたり、使う植物ややり方を工夫すると、比較的、維持管理がある程度楽な緑も作り出せるんですね。そういう管理も苦しいことだと思わずに、草をとったり剪定をするのも日々の楽しみと思ってやってもらうと、一番いいのかもしれませんね。目黒区庁舎の屋上も私達の研究室の学生が一部ボランティアで維持管理をしたり、一番大きな担い手は役所のスタッフなんですね。それは所属の担当者じゃなくて、目黒区役所に勤めている他の部署の担当者が、庭の手入れをしたり、木の手入れをしたりというボランティア・グループを作りまして、その人たちが維持管理をしてくれているんですね」

●例えば、仕事の合間でも、土をいじったり、雑草を抜くっていう作業であっても、緑に触れているだけでリフレッシュできるし、癒し効果もありますよね。

「そういうことだと思いますね。日々、色々なことで悩んでいる方も、そういう意味で少し気分転換してもらうとか、鬱積した思いを草を抜くことで晴らしてもらうというツールにもなると思いますね(笑)」

●「これは○○部長だ!」なんて言いながら雑草を抜いてもらうのも楽しいかもしれませんね(笑)。

「だから、うちの学生が私のことを思いながら、日頃思っている鬱積を草取りにぶつけて抜いているケースもあるかもしれませんね(笑)」

●「根までちゃんと抜くぞー!」なんて言いながらね(笑)。でも、そうやって楽しみながら、手入れをして、きれいになったお庭を見ると、またそこでさらに和めますからね。全ての作業が楽しめれば一番ですね。

「そうですね」

気配りと木配り

●実は近藤先生のお名刺には、「農大命 造園命」と漢字6個が並んでかなりインパクトがあるんですが(笑)、そんな近藤先生が理想とする都市の緑化とはどういったものですか?

「そこに多くの人が楽しめるものじゃないでしょうか。例えば、海外から日本で作られた庭園とか公園、屋上緑化が素晴らしいからそれを見に来ようかとか、多くの人が休日にそういう場所に訪れるといったように、人が来るということが最大の大きな魅力だと思うんですね。ですから、最近は郊外等々でも芝桜の群生地を作って、人を集めるような仕掛けが随分行なわれていますけど、やはり、人が来なければ意味がないと思うんですね。誰でも来られるような空間を作るというのが我々の理想ですね。『ここで生まれ育ってよかったな』とか、『今日、この公園に来てよかったな』って思えるような空間がベストだと思います」

●近藤先生が書かれた「建築家・園芸科のための都市緑化読本」という本があるんですけど、こちらの本の中に「木配り」という言葉があって、すごく素敵な言葉だなって思ったんですが、この言葉を簡単に説明していただけますか?

「公園や庭を作るときや、屋上緑化をするときに、どういう種類の木をどこに配置するかによって、その空間が本当に素晴らしい空間になるか、ダメな空間になるか非常に微妙なんですね。で、そこは木の特性や個性をよく知って、デザイン・センスを発揮して、どう配植するかがプロなんだと思うんです。やはり、そういうところをきちっとやるところが、多くの人が楽しめるか楽しめないかという境目になって来るんだと思うんですね。それは気持ちの気配りも同じなんですね。気配りしながら木を配置して、みんなが楽しめるような、素晴らしいと思えるような空間を作り上げる。ただ、もうひとつ難しいのは、我々が取り扱う樹木材料というのは、年年歳歳成長するんですね。最初はおさまりのいい木配りになっていても、10年、20年経ちますと、それぞれが倍のように太り、高くなりますからね。そこも計算していかに並べ立てるかということが難しいところなんですね」

●先生は都市緑化のプランなどに関わられることも多いと思うんですけど、そういう際っていつをイメージして木配りするんですか?

「一番きいていただきたくなかった質問ですね(笑)。難しい質問なんですね(笑)。我々も学生に教えるときに、『木は成長する素材だから、少なくても30年後、50年後も頭の中に入れながら考えなさい』とは言うんですが、そうすると最初の設計が非常に貧弱で寂しい、小さくて細い木を植えざるをえなくなってしまうんですね。ですけど、そこで生活して働いている人たちは、今、楽しみたいわけですよね。ですから、そこが難しいんですね。将来を見据えながら、今も楽しませなきゃいけないという。ですから、場合によってはスギやヒノキの造林地がそうなんですが、あれは当初は小さいスギを密植するんですね。風で倒れないように、みんなでスクラムを組んで、風に負けないで頑張るようにと密植するんですが、成長にしたがって間伐・間引きをするんですね。で、150年から200年経って、立派なスギやヒノキの美林を作るんですね。
 私も個人的に色々なところで申し上げているんですが、都市の緑化も30年後や50年後に少しずつ間引くとか、そういうことも了解できるような社会的なルールを決めてやっていくのも1つかなと思います。CO2の吸収効率を高めるという意味でも、地球温暖化で都市の緑に対して非常に期待が高まっていますけど、切ってはいけないということではないんですね。むしろ、そうした樹林よりも、きちっと間引きされた樹林のほうがCO2の吸収効率はいいんですね。そういうこともありますので、将来を見据えながら、少しずつ間引きするっていうのも都市緑化のやり方として、認知してもらうことも大事だと思います。ただ、都市に植えた木を切るということは、多くの人が気になるところだと思いますので、それをどう伝えていくかだと思いますね」

●今、温暖化という問題で、緑化という言葉に非常に期待されていると思うんですね。今後ももっと注目されていくと思うんですけど、いろいろな意味で専門家の方に相談し、ヘルプを受けながらそういうものに取り組むっていうのが一番ですよね。

「そうですね。そういうプロの人達もたくさんいますからね」

●もっと緑溢れる都市であってほしいなと思います。今日はどうもありがとうございました。

AMY'S MONOLOGUE〜エイミーのひと言〜

 最近、星空の綺麗な気持ちの良い夜などは、ベランダで、寝袋で寝たくなってしまうことが多いのですが(笑)、そんなとき、例えマンションのベランダであっても緑溢れる空間があれば更に気持ち良く眠れるでしょうね〜。
 ちなみに、近藤先生の話では、日本で屋上に庭園が作られたのは、本格的にコンクリート建築が作られ始めた明治40年代以降だとされ、当時、銀座では多くのデパートがお客さんを集めるための戦略として屋上に庭園を造っていたんだそうです。また現在、個人で屋上緑化を楽しみたいという場合、だいたい1平米あたり5万円くらいかけると素晴らしい公園的な空間ができるそうですが、やり方次第では2〜3万円くらいでもそれなりのものは造れるだろうとのことでした。

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東京農業大学 地球環境科学部 造園科学科 教授・近藤三雄さん情報

『建築家・園芸家のための都市緑化読本』

著書『建築家・園芸家のための都市緑化読本
NTS/定価1,680円
 タイトルにあるように、建築家や園芸家に向けた本ではあるが、写真もふんだんに使われているのでとても理解しやすく、都市緑化の現状や技術、問題点などを知るにはうってつけの一冊。屋上緑化や都市の緑化に興味のある方はぜひお読み下さい!
 

東京農業大学「食と農」の博物館
 常設の展示や企画展、様々なイベントが行なわれている同博物館では、現在は『センサーカメラで見る野生動物の世界』展や『水利用から見たアフリカ乾燥地開発』展を開催中。
 尚、詳しい内容、および、アクセス方法などは下記のホームページをご覧下さい。
 HPhttp://www.nodai.ac.jp/syokutonou/index.html

近藤先生が設計した「目黒十五庭」
 近藤先生が東京農業大学の学生達と協力して、目黒区役所の屋上に作った庭園「目黒十五庭」。写真や図面入りで紹介されています。
 HPhttp://www.city.meguro.tokyo.jp/shisetsu/shisetsu/chosha/teien/index.html

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. THAT GREEN GENTLEMAN (THINGS HAVE CHANGED) / PANIC AT THE DISCO

M2. UP ON THE ROOF / CAROLE KING

M3. OASIS / ROBERTA FLACK

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. SO MUCH IN LOVE / ART GARFUNKEL

M5. SOWING THE SEEDS OF LOVE / TEARS FOR FEARS

油井昌由樹ライフスタイル・コラム・テーマ曲
「FLASHES / RY COODER」

M6. MR.BOJANGLES / THE NITTY GRITTY DIRT BAND

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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