2008年11月9日

体験作家の中野純さんにきく「ナイトハイクと月夜の楽しみ方」

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンは中野純さんのインタビューです。
中野純さん

 ナイトハイクのスペシャリスト、体験作家の中野純さんをゲストに、お月さまと月夜の意外な楽しみかたや、千葉エリアのお勧めナイトハイク・スポットなどうかがいます。

中野さんはもともと、月が嫌いだった!?

●はじめまして、よろしくお願いします。中野さんの肩書きの体験作家っていうのは、体験したものを書かれるという意味なんですか?

「体験を作るという意味を込めていまして、自分で考えてちょっと工夫してみたら、こんなに新しい体験ができるというアイディアを色々出して、それを実際に体験して、それを自分で文章にするという意味で、ものを書くという意味と、体験を考えて作るという意味をかけて使っています」

●そんな体験作家の中野純さんが先頃、講談社から文庫本として、「図解“月夜”の楽しみかた24」という本を出されたんですけど、この本も体験を作ってまとめられた本なんですか?

「そうです。色々な月の光を使った遊びを考えて、色々試しています」

●本の中で、「日本は、星よりも月のことを表現しているほうが多い、月の国の末裔達だ」と書かれているんですけど、読ませていただきながら「確かにそうかもしれないな」と思うことが結構ありました。

「象徴的なのが、日本の昔の夜の表現の仕方っていうのは、星を全然描かないんですね。月がポンっと1つあるのが夜のシーンっていうのがほとんどですよね」

●星座も日本名はついていても、西洋から来たものですもんね。

「そうですね。星座にストーリーもほとんどないですしね」

●せいぜい七夕、天の川くらいですか?

「あれは中国から来たものですけど、日本の中で続いてきた物語ですよね。それくらいなんですが、七夕に関しても、昔は半分は月の夜だったんですね。七夕、旧暦の7月7日でちょうど半月の頃なんですが、半月を船に見立てて、月の船と言っていまして、月の船が天の川を渡るっていう夜でもあったんですね。それがだんだん星の話へと移り変わっていったんですね」

●昔のほうがロマンチックですね!

「そうかもしれないですね」

●お月さまが天の川を渡っていって、その月の船に織姫が乗っていたのかなぁと思うと、ただの星座物語よりもロマンチックですよね。

「星座、星というのもロマンチックなんですけど、ある意味ではただの点にしか見えないですよね。月というのは形が見えて大きいし、雲がかかったり、地平線の近くだと大きく見えたり、赤っぽく見えたりとか色々な変化があって、その分、物語にリアリティが出てきますよね」

●星座って見る場所によっては世界中あちこちで違いますけど、お月さまってどこで見ても月は月ですもんね。

「湿度が随分、影響するんですね。湿度が高い日本だと、おぼろ月が代表なんですけど、海外の乾いた地方に行くと、全然違うパキッとした月が見えたりしますよね」

●お月さま話に花が咲いているわけですが、実は中野さんは月があまりお好きじゃなかったそうですね?

「そうです。積極的に嫌いなほどでしたね(笑)。月遊びとか、月のことを色々と考えるようになったきっかけが、そもそもナイトハイクって夜の山を歩くことが大好きで、そのときに月があるというのが面白くないんですよ(笑)。せっかく暗いところを求めて夜の山を歩いているのに、夜の山が明るくなってしまうので、困るんですよ(笑)。子供の頃とかも、田舎のほうの空気がきれいなところへ行くと、まず何より天の川とか、満天の星を見たいという気持ちが強くて、それがたまたま日程の都合で月夜だったりすると、星があまり見えないので、がっかりしてしまって『月なんてなければいいのに』くらいの気持ちでいました(笑)」

●お月さまは邪魔な照明くらいの気持ちだったんですね(笑)。

「そうですね。『このライト消してくれ!』みたいな感じでしたね(笑)」

●(笑)。それが、何がキッカケで「図解“月夜”の楽しみかた24」という本を出しちゃうくらい、月にハマっちゃったんですか?

「7年前くらいに世田谷から西多摩に引っ越しまして、そこで古い家を借りたんですけど、家の周りは木が囲んでいて、その家だけ暗がりができていまして、その家にある晩、帰ってきたら、その家だけすごく青いんですよ。で、『あれ!?』と思って空を見上げたら、月が出ていて、周りは街灯があったりしてそうでもないのに、木が囲んだちょっとした暗がりがあるその家が、本当に青い月夜になっていて、『こんなちょっとした暗がりで、風景を青く染め上げてしまうというのは、月の光っていうのはどれだけすごいんだろう』ってそこで興味を持ちまして、月の光をちゃんと体験をしに、一度月夜の山を歩いてみようと思って、だんだんハマっていったという感じです」

月を飲む“飲月(いんづき)”という楽しみ方

●中野さんの最新刊が先頃、講談社から出された文庫本「図解“月夜”の楽しみかた24」ということで、月の光だけでのナイトハイクの楽しみ方が月にはまるきっかけになっている中野さんなんですけど、実際の月の光って懐中電灯がなくても歩けちゃうくらい明るいんですか?

「そうですね。初めて試してみたのが真冬の満月のときで、月の光が1年で一番強いときだったんですが、本当に眩しいくらいで、月の光でできる自分の影も、短くて濃くてはっきりで、まるで真夏の昼間を歩いているような錯覚をしてしまうくらい、光が上から強く“燦々と”という感じでした。ほとんど懐中電灯なしで歩けて、森の中はさすがに月の光があまり入ってこないので、ちょっと厳しいんですけど、ゆっくり歩けば木漏れ月(こもれづき)でなんとか歩けるくらいという感じで、結局その日は湯河原の山を一晩中歩いたんですけど、1回も懐中電灯を使わずに朝まで歩けましたね」

●ご本の中で、懐中電灯を持って歩く暗闇よりも、月明かりで歩くときのほうが、闇が濃いって書かれていらっしゃいましたよね。

「闇夜だとどうしても、特に森の中は懐中電灯を使わざるを得ないですけど、そこで月夜だと懐中電灯なしで歩けるんじゃないかと思うので、結局は全く懐中電灯を使わないっていうことは、闇夜を懐中電灯で照らしているよりも暗い森を体験できるんですよね」

「図解“月夜”の楽しみかた24」

●この文庫本、「図解“月夜”の楽しみかた24」の表紙は、お月さまが出ていて傘を差している絵なんですが、傘が黄色いドット柄の傘で、これは月見用の傘だそうですね。

「そうですね。日傘ではなく月傘(つきがさ)と呼んでいるんです(笑)」

●(笑)。傘に穴を開けてあるということなんですね?

「そうです。書類を綴じるために穴を開けるパンチを使って、ごく普通の雨傘に適当にボンボンと穴を開けていきまして、水玉模様に穴が開いている傘っていうのを作りまして、それを月夜に差して歩こうということなんです」

●そうすると、洋服に写っている水玉は模様ではなくて、傘からもれ入ってきたお月さまの明かりなんですね。

「そうなんです。傘で木漏れ月のような月の明かりを体験できるんですね。で、白い服を着ていると一番目立つんですが、白いシャツが月の玉、月玉(つきだま)模様になって、とても幻想的です」

●中野さんはお月さまと遊び、飲んだり食べたりしちゃうそうですね。

「飲月(いんげつ)といいます。おそらく水の上に月を浮かべるっていうことは、古くから世界中の色々なところでやられていたと思うんです。で、日本にもそういう風習がありまして、特に日本とか中国では、月を浮かべて飲むという風習があります。そうすると、月というのは満月に向かって満ちていくけど、その後どんどん欠けていってなくなっちゃいますよね。で、なくなったあと、すぐに復活してまた満ちていくっていうので、不老不死だとか、若返りの象徴になっていまして、で、月を杯に浮かべてぐっと飲み干す、月を体の中に入れると、長生きできるとか、縁起のいいものとしてやられていたようですね。それを色々な形で楽しんでみようと」

●それから、お子さまを始め、大人の方でも楽しめそうなムーン・ビーム・バトルという遊びもあるようですが、これはどういう遊びなんでしょうか?

「月夜をちゃんと体験してみて、何より驚いたのが、月の光が思っていたよりも非常に強いということで、太陽を使って遊ぶ遊びというのは、たいがい月の光でできてしまうんです。子供の頃に、よく太陽の光を鏡に反射させて、それを友達の顔に当てて、嫌がらせして喜んだりってあったと思うんですが、それを月の光でやってみようと。で、当てられると、意外に眩しいんですよ。ただ、眩しいといっても太陽の光と比べると弱い光なので、嫌がらせといってもやさしい嫌がらせ程度で(笑)、和やかに月夜に嫌がらせをしあいましょうという遊びです(笑)」

●(笑)。でも日本の場合、お月さまの光って“青い光”って表現をするじゃないですか。やはり、反射をさせて遊んでいても、太陽とは光の感じが全然違うんですよね?

「違いますね。相手の顔に当てると、相手の顔が青白く浮かぶんですね。言葉だけで聞くと怖い感じもしますが(笑)、実際にはほんのり青白く浮かぶという感じでいい雰囲気なんですよ。ただ、実際には月の光も太陽の光を反射しているだけなので、光の色としては太陽の光と同じものなんですよ。ですが、とても弱い光なので、光が弱いときに人間は青い色を強く感じるそうなんですね。それで、青く感じられるということで、実際に青いわけではないんですが、ただ、感じられるので、青としかいいようのない世界ですよね」

房総は丸ごと月夜のナイトハイクのオススメの場所!

●ベイエリア千葉でも月夜が楽しめるスポットがあるそうですね。

中野純さん

「そうですね。千葉というのは東京に近いところでありながら、高い山が全然なく、とても闇が深いところなんですよね。海に囲まれているというのもありますし、内陸の房総の丘陵が非常に深く、豊かな丘陵なので、ちょっとどこかに分け入れば、すぐ豊かな暗闇がある。で、豊かな暗闇があれば当然、そこで輝く月は何よりも明るく、月の光を存分に楽しめる」

●そういう意味では、ムーンライト・ナイトハイクをするにも、いい場所かもしれませんね。

「そうですね」

●オススメの場所とかってありますか?

「房総はある意味、丸ごと全部オススメくらいの気持ちですね(笑)。房総とよく比べられるのは、伊豆や三浦半島とかで、伊豆や三浦半島もそれぞれにいいんですけど、でも、気軽に闇の中に入ってふらふらするっていうことがなかなかやりにくくて、房総だとそれが簡単にできるんですね。で、外房とか南房総とかとてもいいですけど、例えば、船橋のすぐ先の東京湾の中の三番瀬というところなんかは、昼間は潮干狩りのイメージが強いと思うんですが、引き潮のとき、夜に行ってみると真っ黒な砂漠が延々と広がっているみたいな感じで、『ここは一体どこだろう!?』みたいな感じで、そこで月を楽しむのも不思議な体験でいいかと思います」

●海の近くであれば、月の光が海に反射して、月の道みたいにもなりそうですね。

「三番瀬のような干潟だと月への階段が見られることがあります。月への階段っていうのは、干潟にポツポツできた潮溜まりに月の光が長く反射して、それが階段のように見えるというものなんですね」

●お月さまの引力で月まで吸い込まれてしまいそうですね。

「そうですね。月の道の場合は、川でも池でも見られます。要するに、月がまだ出たばかりの、月が低い位置にあるときに、水面に長く光の道ができる。で、浅い川とか、遠浅の海だったら、それに向かって実際に月の道を歩いていくことができるわけですけど、実際に歩いてみると月に行けるような気がしちゃうんですよ。もちろん行けないんですけど(笑)、頭の中は月に行っちゃってるみたいな感じですよね」

●そういう意味では、お月さまは本当に気軽に自然を楽しめるツールのひとつですよね。これからの季節は空気が凛として見やすいかもしれませんね。

「ええ。昔は冬の月というのは、あまりに光が強すぎて凄まじいということで、嫌われていたんですけど、現代では都市の明かりが明るいので、月の光が強ければ強いほど、凄まじいではなくて、かえってロマンチックになるんですね。なので、現代の日本では何よりも真冬の満月に近いあたりが一番いいと僕は言っているんですよ」

●ということは、これからはまさに月を楽しめるシーズンがやってくるということですね。

「そうですね。ただ、真冬の満月は空高く上がるんですよ。で、まともに見ると首が本当に疲れてしまうので、逆に言えば水面に写る月とか、月の光そのものを楽しむとか、そういうほうに意識がいきやすいので、その意味でも冬の満月というのはオススメですね」

次回はナイトハイクで体が洗われる感覚を!

●中野さんはすでに次の本のご予定もあるそうですね。

「今月出す予定なんですけど、『東京“夜”散歩』という本を講談社から出す予定です」

●内容はどういった感じなんですか?

「さっきちょっとお話した三番瀬のお話も出てくるんですけど、主に東京都内で、昼間に散歩をするような気持ちで、都心部も郊外も散歩という気分で夜を歩いてみようというものです。ナイトハイクももちろん大好きなんですけど、それよりもより手軽にできるものですね。ただの夜の散歩でしかないんですけど、夜、風景を楽しむというと、高層ビルのレストランで夜景を見てみたいな、イメージが限られてしまうんですけど、そうではなくて、ごく普通に昼間歩くように、東京の色々なところ、例えば昼にしか行かない公園だとか、そういうところを歩いてみると、全然違う世界がそこにはあって、『東京ってこんなところだったのか』、『こんな場所が東京にあったのか』というのが、ただ散歩をするだけでとてもよく見えてきて、それを色々な形で書いています」

●発売になったら番組でもご紹介したいと思うんですが、中野さんには是非、お時間があったら房総のムーンライト・ナイトハイクをザ・フリントストーンと一緒に連れて行っていただければと思います。

「そうですね。実際に体験していただけると、ビックリするほど気持ちよさが分かると思います。デトックスとかいいますけど、心も洗われますし、何より本当に体が洗われていくような、外側も内側も全部洗われていくような感じがしますよ」

●私もそんなみそぎをしたーい!(笑) 今日はどうもありがとうございました。

このほかの中野純さんのインタビューもご覧ください。
AMY'S MONOLOGUE〜エイミーのひと言〜

 お月さま好きな私としては、ぜひ中野さんとのムーンライト・ハイクを実現させたいと思っているのですが、いったいどんな所をどんな風に歩くのか・・・考えただけでワクワクします!
 実は、今、私は4階建てのマンションの最上階に住んでいるのですが、ベランダには屋根が付いていないため、満月の夜にはお月さまの明かりがまぶしいくらい部屋の中に差し込むのです。そんな夜は、夕食のあと部屋中の電気を消してベランダで食後のコーヒーを楽しんでいます。これ、節電しながら自宅で月光浴が楽しめ、すごくリラックスできるので、皆さんもぜひ一度試してみて下さいね!

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体験作家、中野純さん情報

『図解“月夜”の楽しみかた24』

最新の本『図解“月夜”の楽しみかた24
講談社+アルファ文庫/定価840円
 ムーンライト・ウォークや飲月、月傘、霧吹きで作る月の虹「ムーンボー」など、タイトル通り月夜を楽しむ24の方法を紹介しているほか、月や月夜にまつわる興味深い話が満載!
 

新刊『東京“夜”散歩』発売間近!
 中野さんは11月中には「講談社」より『東京“夜”散歩』という新しい本も発売します。両国駅から隅田川、六本木から天現寺、王子駅から石神井川など、東京の夜の散歩コースを紹介しているこちらの本もぜひお楽しみに。
 

 中野純さんの公式HP『さるすべり家頁』http://www.sarusuberi.co.jp/

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. 月の裏で会いましょう / ORIGINAL LOVE

M2. MOON RIVER / AUDREY HEPBURN

M3. MOON BLUE / STEVIE WONDER

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4. MOONLIGHT SHADOW / MIKE OLDFIELD

M5. WALK ON WATER / EDDIE MONEY

M6. 月 / 桑田佳祐

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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