2009年12月27日

ザ・フリントストーン・アーカイブス第2回目
ゲスト:油井昌由樹さん(夕陽評論家)

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンは、アーカイブス第2回目(ゲスト:油井昌由樹さん)です。
油井昌由樹さん
西麻布にある油井さんのお店「アフター・ザ・サンセット」で。
2002年1月の撮影(?)。顔がまる〜〜い油井さんです(笑)。

 今回は、当時の内容をなるべくそのままお届けする、ザ・フリントストーン・アーカイブスの第2回目です。
 13年前の1996年4月13日にゲストとして出演していただいた、「油井昌由樹」さんです。油井さんには、これまでアウトドアやライフスタイルなど、様々なお話をして下さいましたが、初めて出演していただいた96年4月では、「夕陽」について熱く語っていただきました。そのときの模様をお届けします。

 

アウトドアに目覚めたきっかけは“道具”

(1996年4月13日放送より)

●先週からこの番組でコラムが始まりましたが、そのコラムを担当していらっしゃる、夕陽評論家の油井昌由樹さんです。おはようございます。
(当時は、油井さんのコラムが開始されたばかりでした)

「おはようございます」(当時は土曜の朝10時からの放送)

●今日はコラムではなく、ゲストということで、油井さんに色々お話をうかがいたいと思います。

「分かることなら、なんでも聞いてください。」

●今後も、コラムで色々お話されると思いますが、今回は、油井さんの「日本のアウトドアのパイオニア」、また「草分け的存在」の部分のお話をお聞きしたいと思います。

「これね、別にアウトドアとかキャンプとか山とか釣りとかが好きだというわけじゃなくて、アウトドアの道具がすごく素敵でね。実用性を追求して、華飾を捨てたあの美しさに魅せられたんですよね。『山が好き』とか『自然が好き』というのではなくて、『この道具キレイだな』というところから入ったんだよね。で、実際に道具を手に入れて、使ってみようと思って、森に行くようになったんで、ちょっと変わってますよね。
 でも、それがきっかけで1972年に『そういう道具をみんなに紹介したいな』ということで、輸入の会社を起こしたんですね。それが72年だったんで、誰もアウトドアを知らなかった時期にアウトドアショップを始めたわけですから、先駆者とか言われますが、専門家でもなんでもなくて、単純に道具が好きだったっていうだけなんですよね。」

●この世界には、道具を実際に使おうということで入ったんですね?

「そうですね。最初、釣りをやっていたんですよ。ルアーとかフライなどの釣りの技法って、当時まだ日本にはなかったんですね。今やフライ・フィッシングっていうと、リスナーの方はすぐにポンと、ムチみたいにラインを出すっていうことが頭に浮かぶと思うんですが、当時は誰もそんなこと知らないわけですよ。僕も知らなかったんで、『こういう釣りがあるんだ』って友達から教わりましたね。

 日本って、昔は釣果を期待して釣りにいくっていうことじゃなかったんだよね。当時はまだ魚は今より多かったけど、人間が行きやすい場所の魚は既に餌釣りの人に釣られてしまって、いないっていう状況だったのね。
 で、ヤマメやイワナなどのいい魚たちを見ようとして、川の奥まで釣りにいって、帰ってきちゃうと、次の日にまた釣りにいこうとしたときに、またそこまで行かないといけないんだけど、そこで1泊すると、さらに奥に行けるということで、泊まれるような道具を持つようになったんですね。」

●道具や魚など、釣りというところから入ったわけですけど、キャンプって家族で行ったり友達で行ったりと、色々あるじゃないですか。釣りのときって仲間と一緒に行くんですか?

「釣りのときは1人だったり、男友達と一緒にって感じですね。で、1人のときは特になんですが、道具立てがあるわけ。アザラシのあぶらびきの布でできた、触るとベトベトになるような、防水のザックがあるんですけど、それに釣りのパックロッドを入れて、道具一式と昔ヨーロッパにあった、スベアっていうストーブと燃料と、シェラカップも入れていったわけですよ。それで山の川べりをずっと登っていって、静かなところでお茶を飲んだりね。スベア・ストーブっていうのは、すごい音がするんだよね。火を付けると“ゴーッ”っていう音がするんですよ(笑)」

●周りもビックリしちゃいますよね(笑)

「魚とかも驚いたでしょうね(笑)。それで釣れなかったのかな?(笑)」

●(笑)。最近のキャンプというとどういうキャンプをしているんですか?

「ただ1人で森にいるというキャンプですね。」

●1人で行かれるんですか?

「1人が多いですね。」

 

生きものの“生命感”を感じるソロ・キャンプ

「ソロキャンプに目覚めたというのは、単純な理由で、当時、犬がいなかったからなんですよね。で、突然行く気になって行ったんで、ランタンとかも持っていたんだけど、面倒臭くて点けなかったんだよね。暗くなったら焚き火をしてね。言ってみればプリミティヴなキャンプを1人でしていましたね。別に豪華な飯を作るわけでもないし、大抵材料がグチャグチャ入っているんですよ。
 スパゲッティとか乾燥食品系が入っている箱があって、『これでも食うか』って思って、それを出してきて、その辺の野草を摘んで、バターや油で炒めたりして、黒豚のベーコンとかをそいで、ジュジューって焼いて、ビールやテキーラを飲んだりする。これがいいんだよねー。全然孤独じゃないしね。」

●孤独じゃないですか?

「孤独じゃないですね。自然の中だからね。まぁ、あれが独房みたいなところにいたら孤独でしょうけどね(笑)。虫とか動物とかいるじゃないですか。見えないだけでね。そういう生命感みたいな、気配ってあるじゃないですか。虫一匹でも気配っていうのはありますからね。だって、体に付けばかゆいんだから(笑)」

●暖かいときって寄ってきてくれますよね。

「寄ってきますね。酒を飲んでるときとか、プーンって寄ってくるからね。そういえば、カナダでね、すごいことがあったんだ。『こんなところ、行ったことございませんよ。こんなところ、写真に撮ったってしょうがない』ぐらいキレイな場所に行ったのね。そこの景色、どこを撮ったって絵ハガキになりそうなところなんだよね。そこにヘリコプターで行ったのね。着いたら、ヘリコプターが行っちゃうわけ。」

●そのときもお1人で行ったんですか?

「そうそう。さぁこれからって思って、テントを張ってね。夕方、飯の時間っていうのは、魚も一緒なんでしょうね。僕が食べようかなって思っていたら小鳥も来るし、そうすると羽虫が湖に落ちたりすると、それをもじりに来るわけですよ。その時間に釣りをするわけね。シーンとして、向こうの方で小鳥のさえずりがしてて、湖を渡る風がヒューってして、ハモがスーッと動いて、そこでフライ・フィッシングをするわけ。
 フライのリールって、バッキングしてあって、出すと、ジーッジーッって音がするでしょ? あれが湖中に響き渡るわけ。ジリリ、ジリリ、ムッフッフーみたいなね(笑)」

●俺のものだぞって感じですよね(笑)。

「で、そのあと、いい加減な場所に糸を投げてね。ま、実際、そのときは全然釣れなかったんですけどね(笑)一匹も釣れないんだから!(笑) 頭にきたね、そのときは(笑)。ま、それはいいとして、ちょうどその時間にね、蚊も飯なんだろうな。小さなブヨみたいな蚊が、気付いたらブワーってくるわけ。霞んじゃうぐらい来る。そしたら、僕の全身にバァーって蚊がつくのね。くわれたりするから、我慢できなくて、『もうダメだ!』って思って、竿とか色々なものを置いたまま、ダーッって走って逃げて、振り向いたら、蚊が俺の形にいたのね(笑)」

●それちょっと話作ってませんか?(笑)

「いや、本当本当!(笑) 正に蚊柱だね(笑)。そのぐらいいたの。ところが、20分ぐらい経ったら、蚊が一匹もいなくなっちゃったのね。夜中にくわれたりしないし、テントの中でプーンっていうのもないんだよね。全然こない。その夕飯時に沸いて出てくる。これ、学術的にどうなのか全く知らないよ。」

●蚊って規則正しい生活をしているんですね。

「体内時計に沿った生活をしているんでしょうね。」

●ソロ・キャンプの話から、蚊の話に流れていってしまいましたね。

「流れてしまいましたね。」

●犬を連れていかれるときと、ひとりで行くときがあると思いますが、1回、1人で行ってみて、それがいいなって思うようになってから、ちょくちょく行ってますか?

「そうですね。1人だと行きやすいじゃない? 誰かと行くとなると、その人の支度もあるし、犬連れていくにしても、犬の色々なものを準備しないといけないからね。それとは違って、すぐ行けるわけ。こういう風にキャンプの話をしていると、行きたくなるじゃないですか。『この放送終わったら、行っちゃおうかな』って思ったら、1人だとすぐ行けるわけですよ。そういう意味で行きやすくなったんですよね。」

油井昌由樹さん
 

油井さんが、キャンプをする人たちに感じてほしいこと

●今、オートキャンプというのがすごく流行っていて、そのオートキャンプ場の便利さがあるから、アウトドアとかキャンプっていうのが盛り上がっているっていうのもあると思うんですね。でも、例えば、川で釣りがしたくて、1泊すれば、もっと山の奥までいけるっていう感覚でどこかに泊まるとなると、そこは設備も何もないようなところじゃないですか。そういうときに、『コーヒーが飲みたい』と思ったときに、『水はどうするんだ?』とか『電気がない』とか、ちょっとした不便っていうのが嫌だなって思って、行かない人もいるんじゃないですか?

「いると思いますね。大体ね、都会が明るすぎるんですよ。案外ね、明かりってほんの少しあるだけで十分なんです。例えば、晴天の夜だったら、星の光だけでも明るいわけですよ。満月の夜なんて、雲さえ出なければ、全然火なんていらないぐらいだから。それに3日もいるとね、視力も聴覚も嗅覚もいきなり3倍ぐらいになっちゃうから(笑)。
 都会にいるとね、平均焦点距離って5メートルぐらいなんだって。それが、いきなり無限大になっちゃうんだよ。しかも周りは緑でしょ? 音もね、例えば、ブナの葉っぱの転がる音というのが、『ブナっぽいな』っていう風に聞き分けられるようになりますよね。そういうことを体験すれば、別に何もいらないんじゃないかって思えるんですよね。水の確保にしても、湧き水とか一生懸命探すんだけど、あれは案外、活断層のところに行って、ちょっと湿っている土にスコップで掘れば、水が溜まってきたりするところがあるんですよ。もちろん、上にミミズとか出てきたりすると、ちょっと嫌だなって思ったりするけどね(笑)。でも、キツネの寄生虫がいる北海道の川はダメだけど、本州の山奥の川っていうのはちょっと沸かせば飲めるんだよね。」

●そういうところにスコップで掘って、水が出てきたら、それを少しでも溜めていけばいいんですね。

「そういうのが、イベントとしていいじゃないですか。物がない状況をどう乗り越えるかみたいなね。」

●その良さって、森に入ると、1時間が秒針のようにゆっくりと動くように、時間の動き方が変わってきますよね。森の中だと『いつまでにしなきゃいけない』とか『何時までに行かなきゃいけない』っていうことがないじゃないですか。あるとすれば、『日が落ちるまでにテントは立てておきたいな』っていうことぐらいじゃないですか。それを考えると、気持ちの余裕やゆとりっていうのを全部一緒に考えれば、すごくゆったりと過ごせますよね。

「本当にそう。時間という概念がなくなるぐらいの感覚ですよね。時計見なくても、『そろそろ暗くなってきた』とか『影がこっちにきちゃった』とかっていうことで時間って分かって、慣れているキャンプ・サイトだと、季節感さえ持っていれば、別に腕時計っていらないんだよね。冬と夏では太陽の位置とか全然違うでしょ? そういうことが感覚としてわかっていれば、自然に体が動くんだよね。『夜の冷え込みに備えなきゃ』とかじゃなくて、自然に立ち上がって、その辺の葉っぱを拾っていたりとか、落ち葉を集めておいたりするっていうのがあるんですよ。何日か泊まっていて、自分がそういうことを自然に動けるようになってくると、鳥とか帰ってくるようになるのね。もちろん、彼らもテリトリー意識があるから、僕の存在って違和感があってね、近くに逃げてるわけじゃないですか。でも『あいつはその辺にいるクマとちっとも変わんないわ』って思うようになると、鳥は自分のテリトリーに戻ってきて、チッチッチってうるさいぐらい近くに寄ってくるんですよね。だから、そこに逆らわずに存在しているとね、元々住んでいる連中も受け入れてくれるんだよ。そういうのをみんなに味わってほしいんだよね。」

●それを1番味わいやすい状況になれるのは、ソロ・キャンプっていうことですか?

「そうなんだよね。ソロ・キャンプだと、そういうこと1つ1つに感動できると思うんですよ。いくら親しい友達といえど、誰かいるということは、言い方は悪いけど、自分の趣向の方向性はいつも分断されているのは事実なんですね。でも、それがたった1人で行ってみると、自分で自分の趣向を勝手に分断することはストレスにならないじゃない。実にすがすがしいっていうかね、そういうことがあるんですよ。」

●私たちも、行きと帰りはみんなで行って、着いたらバラバラのところでキャンプをするっていう形もアリですよね。油井さんは今後も、この番組ではコラムで毎週話してくれるんですよね。

「勝手なこと言いますが、許してください(笑)」

●これからもよろしくお願いします。ということで、今日は夕陽評論家というか、ソロ・キャンパーの油井昌由樹さんをお迎えして、色々お話をうかがってきました。どうもありがとうございました。

「どうもありがとうございました。」

このほかの油井昌由樹さんのインタビューもご覧ください。
このほかの「ザ・フリントストーン・アーカイブス」もご覧ください。

AMY'S MONOLOGUE〜エイミーのひと言〜

 1996年、今から13年前に油井さんのお話をうかがったあと、「今度一緒にキャンプに行こう!」と約束したのに、実際にご一緒させていただいたのはその10年後のことでした。96年以降、コラムを通して色々なお話をうかがってきた私としては、油井さんのキャンプスタイルに興味津々だったのですが、まさに“その場の自然に逆らわずに溶け込む”というスタイル。そしてその場の自然だけではなく、私たちフリント家にも溶け込み、まるでいつも一緒にキャンプしているような雰囲気さえあったのです。
 そんな油井さんは、本当はすごい人なのに(笑)、誰に対しても気取ることなく、いつも優しい笑顔で接して下さいます。油井さんオススメの卵かけご飯を食べに行かれた際、もし油井さんがいらしたら、皆さんもぜひ気軽に声をかけてみて下さいね。

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夕陽評論家・油井昌由樹さん情報

スポーツトレイン・カフェ
 西麻布にある油井さんのお店「スポーツトレイン」はスポーツトレイン・カフェ、略してSTカフェにリニューアルして営業中。コーヒーやワインなどの飲み物はもちろん、目玉メニューは、油井さんが惚れ込んだ「つまんでご卵」という、黄身が指でつまめるほど素晴らしい卵を使った卵かけご飯。ご飯のおかわり自由で、お味噌汁とお新香がセットになってなんと500円!美味しいと評判の卵かけご飯、皆さんもぜひ一度召し上がってみて下さい。
問い合わせ:スポーツトレイン
  TEL:03-3409-8321

 油井昌由樹さんは俳優、そして映画プロデューサーとしても活躍中。また、一般社団法人・世界環境写真家協会の副会長として「世界環境写真展」の開催などを行なっていますが、2010年が黒澤 明監督の生誕100年ということで、黒澤監督に可愛がられた油井さんしか知らないような、監督とのエピソードなどを現在、執筆中。来年本として出版予定。

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1. TOP OF THE WORLD / CARPENTERS

M2.  ONE FINE DAY / CAROLE KING

M3. TRAVELING BOY 〜解き放たれた矢のように〜 / 江口洋介

M4. YOU'VE GOT A FRIEND / JAMES TAYLOR

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M5. NATURAL THING / THE DOOBIE BROTHERS

M6. 森を歩く / HEATWAVE

M7. HEARTS AGAINST THE WIND / LINDA RONSTADT & J.D.SOUTHER

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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