2010年2月21日

あこがれの存在を追いかけ、そして越えたときに感じたこと
〜プロ・フリーダイバー、篠宮龍三さんをゲストに迎えて〜

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、篠宮龍三さんです。
篠宮龍三さん

 プロ・フリーダイバーの篠宮龍三さんは、国際大会を中心に参戦。数々の大会で輝かしい成績を残し、2009年12月にバハマで開催された世界選手権では、水深107メートルという日本新記録を樹立しました。そんな篠宮さんから、水深107メートルの世界のことなどうかがいます。

 

フリーダイビングを始めたきっかけは?

●今週のゲストは、プロ・フリーダイバーの篠宮龍三さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします。」

●昨年、バハマで開催されたフリーダイビング世界選手権で、篠宮さんが記録した水深107メートルですが、これは日本新記録となりました。おめでとうございます。

「ありがとうございます。」

●しかも、あのジャック・マイヨールさんの記録を越えましたね。感想をお願いします。

「ようやくきたなという感じがしますね。」

●ジャック・マイヨールさんといえば、フリーダイビングを知らない人でも知っていると思いますが、「グラン・ブルー」の主人公のモデルにもなった方ですよね。篠宮さんは、世界ランキングでは、最高で2位なんですよね?

「そうですね。」

●日本人では、この記録はどうなんですか?

「世界ランキング2位というのは、僕しかいないですね。」

●そんな篠宮さんなんですけど、フリーダイビングという競技のことや、どんな種目があるのかなど、簡単に説明していただけますか?

「細かく分けると、全部で8種目あります。その中でも、プールの種目と海の種目がありまして、プールでは、潜水して横方向に行く種目や、水の中で息をずっと止める種目などがあります。海では、どれだけ深く潜れるかという種目になりますね。僕がやっているのは、足ひれを付けて、どれだけ深く潜れるかという、コンスタントという種目ですね。」

●今、日本でフリーダイビングをしている人はどのぐらいいるんですか?

「競技者としては、100名前後ですね。」

●世界ではどのぐらいいるんですか?

「イタリアとかフランスなど、1番競技者が多い国でも、100名前後ですね。」

●様々なスポーツがありますけど、それと比べると、競技人口は、少ない部類に入るんですか?

「そうですね。少ないと思います。世界全体でも、1000〜2000人ぐらいだと思います。」

●その中でも、篠宮さんはプロ・フリーダイバーですが、プロはどのぐらいいるんですか?

「日本では僕だけですね。世界でも、国に1人いるかどうかという感じですね。」

●フリーダイビングを始めたきっかけは何だったんですか?

「やっぱりジャック・マイヨールさんの影響ですね。20歳のときに『グラン・ブルー』という映画を見まして、そのモデルになっているジャック・マイヨールさんの本を読んだりしているうちに、『フリーダイビングってどんなスポーツなんだろう?』とか『実際に、自分も深いところに行ったら、どんな気持ちになるのかな?』ということを知ってみたくなりまして、それで始めたんですよね。『グラン・ブルー』を見た衝撃は、今でも忘れませんね。『世の中には、こんなチャレンジングで、美しくて、同時に危険なスポーツがあるんだ』と思いまして、『やってみたいなぁ』って思いましたね。
 ラッキーなことに、通っていた大学の近くにダイビング・ショップがありまして、そのショップのオーナーさんが、ジャック・マイヨールさんと知り合いだったんですね。ジャックさんのトレーニング・パートナーを務めていたこともあったらしく、学校帰りにジャックさんのお話を聴かせてもらったり、写真を見させていただいたりしているうちに、さらにやってみたいなって思ったんですよね。」

●(笑)。でも、フリーダイビングって、いきなりは潜れないですよね?

「そうですね。最初はそのショップのオーナーに教わりつつ、仲間と一緒になってやりながらスタートしていきましたね。」

●篠宮さんは、どのぐらいのトレーニングで、ある程度潜れるようになったんですか?

「トレーニングを始めてから、最初の素潜りで25メートルまで行けたんですね。当時の日本代表のレベルが、30〜35メートルだったので、そこを目標にトレーニングしていましたね。」

●初めて25メートル潜れたときって、どんな気分でしたか?

「もっと深く潜ってみたいって思いましたね。『この先に行ったらどんな感覚が得られるんだろう』って思いました。 ●それで、どんどんのめりこんでいったわけですね?(笑)

「そうですね(笑)」

 

篠宮さんにとっての、105メートルという深さは?

●私もプールで3〜4メートルぐらいは潜ったことがあるんですけど、最初に行けた水深25メートル付近って、どんな感じなんですか?

「最初、素潜りで遊んでいたエリアって、大体5メートル前後だと思うんですけど、そことは違うなっていう感覚がありましたね。見上げると水面がすごく遠く感じました。海の底の感覚って、陸上ではとても得られないような、とても静かで、おだやかな感じでしたね。『水中の世界に来てしまった。陸の世界は遠いな』って感じがしました。」

●ダイビングとは違って、ボンベを背負っていないし、魚と一緒に泳いでということとは違うじゃないですか。だけど、そこには海の生き物たちがいて、それを横目で見ながらずっと息を止めているわけですよね?

「そうですね。」

●(笑)。それってなかなか想像できない世界ですね。

「陸上では得られない感覚を感じましたね。それを、もっと深く長く感じてみたいと思いましたね。」

●昨年、水深107メートルという、日本新記録を樹立されましたけど、ジャック・マイヨールさんは水深105メートルでしたよね?

「そうですね。ジャック・マイヨールさんがやっていたのは、ノーリミットという種目でして、重りにつかまって潜るんですね。」

●あ、そうだ! グラン・ブルーで見た! 何かにつかまって、ダーッって下げられるんですよね?

「そうですね。帰ってくるときは、エア・バックにつかまって帰ってくるので、ほとんど自分の体は動かしていないんですよね。」

●息をずっと止めて、水圧に勝つという感じなんですね?

「そうですね。それに対して、僕がやっているコンスタントという種目は、足ひれ1枚を付けて、自分のキック力でどれだけ行けるかというものなので、体を動かしている分、酸素の消費が多くなってきますから、より過酷な種目になるんですよね。」

●初めて、コンスタントという種目で105メートルに到達したとき、聞くまでもなく、すごく嬉しかったと思うんですが、どうでしたか?

「嬉しかったですねぇ。ちょっと燃え尽きましたね。」

●(笑)。そこからさらに潜るというときは、どういう気持ちでしたか?

篠宮龍三さん

「105メートルまで行ったときは、すごく嬉しくて、達成感もあって、『ようやく、ジャックさんに並んだな。これでいつ辞めても悔いはないな』って思ったんですけど、やっぱり『まだいける』という感覚や、『もっと行ってみたい』という感覚が、じわじわ沸いてきて『まだ辞めるわけにはいかない』って思ったんですよね。それで『自分が目標としていた人と同じところまでたどり着いて、そこで終わりにするのもいいけれど、もう1歩先に行ってみようじゃないか』って思ったんですね。今までは105メートルという記録に向かって10年間トレーニングをしてきて、ずっとジャックさんの背中を追いかけてきたんですけど、これからの、105メートルを越えた世界というのは、自分だけの物語を作れる、自分だけの旅ができるといった深さだと思うので、そこで自分なりのストーリーを作ってみたいなと思ったんですよね。」

 

潜ることよりも、浮上するほうが大事

●水深25メートルの世界って、陸が非常に遠い世界ですが、そこから何倍もある107メートルというのは、どんな感じなんですか?

「光は全く届いていないですし、音もなく、もちろん水中ですので、空気もなく、重力もほとんど感じないんですよね。宇宙にいるような、そんな感覚なんですよね。」

●競技のときは、ライトが当てられたりとか、そういうことはないんですか? それとも本当に何もなく、純粋に1人だけで潜っていくんですか?

「まず、ロープがありまして、それに沿って潜っていきます。前の日に『107メートルまで行きます』と申告します。試合当日は、107メートル分だけ、ロープが下ろされています。ロープの1番下には、プレートがありまして、それ以上深くには行けないようになっているんですね。そのプレートにライトがありまして、プレートの上には、深度を証明するタグが付いていて、それを引きちぎって、帰ってきます。そのプレートに向かっていく瞬間は、スロー・モーションを見ているかのような感じですね。プレートの上にあるライトが、暗闇の中から差しているんですけど、その様子が、宇宙ステーションにドッキングするような感覚なんですよね。」

●肉体ドッキングっていう感じなんですね(笑)。シャトルになったような気分になるということですね?

「そうですね。宇宙の中で、何かに接近して、ドッキングしていくような感じがしましたね。」

●例えば、107メートルぐらいまで潜ったあと、浮上するときって、一気に浮上しても大丈夫なんですか?

「素潜りの場合は、大丈夫です。」

●浮上に対する心配はなく、自分がしっかり目を開けて、方向感覚などがしっかりしていれば、普通に上がってこれるんですね?

「そうですね。大丈夫ですね。」

●多分、水深107メートルの光にたどり着いたときも、『やった!』って思ったでしょうけど、水の上にきた瞬間も、同じ感覚になるんでしょうね。そこで初めて終了ですからね。登山家の方たちも、ピーク・ハンティングをしても『頂上にたどり着いて、『やった!』と思うのはもちろんだけど、無事に下山して、そこで初めて終わる。上るときよりも、下るときの方が危険がある』ってよく言うんですけど、フリーダイビングも、下るよりも浮上する方が、危険なんですか?

「深く潜って、到達しても、まだ半分なんですよね。帰ってくるときって、ずっと泳いで帰ってくるので、酸素の消費量が潜るよりも多いんですね。水面まであと10メートルというところが1番酸欠になりやすくて、危ないゾーンなんです。そこで、しっかり意識をフォーカスして、気を失わないようにするということが大事です。」

●恐い思いをしたことってあるんですか?

「息を止めて運動していますから、どうしても酸欠になってきますね。終盤になると、意識がちゃんとコントロールができていればいいんですが、途中で焦ってしまったり、ネガティブなことを考えたり、パニックになったりすると、脳が酸素を使いすぎて、酸欠による失神、それをブラック・アウトと呼んでいるんですけど、これを起こすことがあります。ブラック・アウトを起こすと、非常に大きな恐怖を味わうことになるんですよね。」

●本当に、体張っての、すごく過酷な競技だなって思うんですけど、真っ暗の中にいますから、周りの景色を楽しむような余裕って、ないですよね?

「景色はほとんど見ていないですね。」

●(笑)。ひたすら、上と下の光に向かって、進んでいくっていう感じなんですか?

「そうですね。目の前には白いロープがありまして、そのロープの向こう側には青い海が広がっていて、その色がグラデーションによって、どんどん深くなっていくんですね。上の方はライト・ブルーで、進んでいくと、青い色が濃くなってきて、ディープ・ブルーになり、ダーク・ブルーになり、最後はグラン・ブルー、大いなる青といわれる世界になっていくんですけど、その青のグラデーションの変化を見ているのが、とても綺麗で、その瞬間がすごく好きなんですよね。」

 

篠宮さんが伝えたい「One Ocean」とは?

●篠宮さんが、フリーダイビングを通じて伝えたいことってなんですか?

「素潜りのスポーツ、フリーダイビングをやってきて思うことは、人間の体と地球ってすごく似ているなって思うんですね。なぜかというと、海の中に潜っていくときに、持っていける空気の量って肺活量で決まってしまいますよね。素潜りの場合は、途中で空気を補充することができないので、水面で吸い込んだ一息だけで潜っていかないといけないわけです。なので、持っていける空気の量は限られているんですね。これを有効に使わないと、100メートルを越えて、無事に帰ってくることができないです。有効に使うにはどうしたらいいかというと、まず“無駄な動きをなくす”、そして“無駄な思考をしない”、さらに“体自身を効率のいい酸素消費ができるように陸上でもトレーニングしておく”ということが大事です。これは今、地球が抱えている問題と似ていると思うんですね。“無駄を省く”ということですよね。
 あと、体ってすごく面白くて、息を止めていると、体の中で酸素が失われていきますよね。そういうイメージで、みんな『苦しい』って思うじゃないですか。だけど実は、体の中の酸素が減ってきて、二酸化炭素が増えてくるんです。人間の体って、減っていく酸素の量ではなくて、増えてくる二酸化炭素の量に対して、神経が反応して『苦しい』って感じるんですよね。それが、今の地球が抱えている環境問題と近いと思うんですね。だから、人間が感じる苦しさって二酸化炭素が原因なんです。なので、素潜りで感じる苦しさというのは、もしかしたら地球が感じている苦しさとリンクするところがあるのではないかと思うんですよね。それで僕は、フリーダイビングというのは“地球の苦しさを感じるスポーツ”だと思うんですね。」

●それを感じることによって、自分もそうですけど、地球に対して、どうやって楽にしてあげるかっていうことも考えやすいかもしれないですね。そういう意味で、フリーダイビングを通して、篠宮さんご自身が変わったことってありますか?

篠宮龍三さん

「海にいると、ビーチにたくさんのゴミが打ち上がっているのが見えるんですね。そのゴミは、必ずしも日本のものだけじゃなくて、他の国のゴミも混じっていたり、昔のものがあったりしますよね。なぜ、そういうものが打ち上がっているのかというと、海って1つに繋がっているからなんですよね。隣の国が海にゴミを出せば、自分の国に来てしまうし、その逆もしかりで、こっちでゴミを出せば、隣の国に行ってしまう。よく『7つの海』とか言いますけど、海は1つに繋がっているんですよね。だから、自分の身近な自然や海を綺麗にしていけば、隣の国にゴミも行かなくなりますからね。逆に、余計なことをすれば、汚いものが自分に返ってきますから、そういう意味では、海というのは、鏡みたいなものだと思うんですよね。そういう、想いとか感じたことを軸にして、僕は『One Ocean』というメッセージを出しているんです。この『One Ocean』はなにかというと、環境に対する気づき、それから、繋がり、海の繋がりもそうですし、人と人との繋がりという繋がりもあって、“エコ”と“コミュニケーション”の2つを『One Ocean』という言葉の中に込めています。」

●イベントやトークショーでは、この『One Ocean』というテーマで活動されていて、今後もこのテーマで活動されるんですか?

「そうですね。『One Ocean』というメッセージをもっと色々な人とシェアするために、今年は、これをプロジェクトに変えまして、1年を通じて、たくさんの『One Ocean』というイベントをやっていこうと思っています。中でも、子供たちに対するメッセージをどんどん出していきたいと思っていますし、子供たちが感じる、海の現状などをシェアしていきたいなと思っていますね。」

●水深107メートルという新記録を樹立した篠宮さんですが、更なる記録を目指して頑張ってほしいんですが、次の目標は何メートルぐらいですか?

「やっぱり、世界記録の123メートルに挑戦したいですよね。」

●ちょっと笑ってしまう数字ですね(笑)。

「そうですね(笑)。でも、世界一を目指すという夢はずっと持って、やっていきたいですよね。」

●『One Ocean』の中で、是非、世界新記録を打ち立ててください。

「そうですね。新記録を作って、『One Ocean』というメッセージを多くの人とシェアしていきたいなと思います。」

●楽しみにしています。これからも頑張ってください。

「ありがとうございます。」

●今週は、プロ・フリーダイバーの篠宮龍三さんをお迎えして、お話をうかがいました。ありがとうございました。

 
AMY'S MONOLOGUE〜エイミーのひと言〜

 地球上の陸地は“海によって分断されている”と思うか“海によって繋がっている”と思うかはその人の気持ち次第。でも特に温暖化など、地球規模の問題を多く抱える今の時代では“海によって繋がっている”と考える方が自然のような気がします。
 海岸に立ち、手や足をつけた水の先には、同じように手足を水につけている見知らぬ人たちがいる・・・。またその水の一部は蒸発して空へと上り、雨となって地上に降り注ぎ、山から川を通じて海へと戻っていく・・・。その間、その水はどれだけの生命と触れるのでしょうか?“ONE OCEAN〜一つの海”、“ONE WATER〜一つの水”によって世界中の人々やほかの種の仲間たちが繋がっている・・・。今回、篠宮さんのお話をうかがってそんなことを改めて考えさせられました。

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プロ・フリーダイバー「篠宮龍三」さん情報
 国内でただひとりのプロ選手として国際大会を中心に参戦中、数々の大会で輝かしい成績を残し、昨年12月にバハマで開催された世界選手権では、水深107メートルという日本新記録を樹立、更なる活躍が期待されている篠宮龍三さん。


パフォーマンス
 篠宮さんは、3月22日(月・祝)に、新江の島水族館で開催される『世界水の日こども議会』の特別ゲストとして、イワシの水槽でパフォーマンスを行なうそうです。
 パフォーマンスはどなたでもご覧いただけるそうなので、ぜひお出かけ下さい。 詳細は「世界水の日こども議会」のHPをご覧下さい。


オフィシャルサイト『APNEA WORKS』
 篠宮さんのプロフィールやフリーダイビングの競技のこと、また、篠宮さんが主催しているフリーダイビング・スクール情報やイベントなどを掲載。篠宮さんの近況や写真など、マメに更新しているオフィシャルブログにも飛んでいけるようになっているので、ぜひ覗いてみて下さい。

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1.  BREATHLESS / THE CORRS

M2.  OCTOPUS'S GARDEN / THE BEATLES

M3.  TOP OF THE WORLD / CARPENTERS

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4.  ON AND ON / STEPHEN BISHOP

M5.  IN TOO DEEP / GENESIS

M6.  海 / サザンオールスターズ

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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