2010年2月28日

1人だから感じることができた、自然の厳しさと人の温かさ
〜サイクリスト、松尾由香さんをゲストに迎えて〜

今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、松尾由香さんです。
松尾由香さん

 サイクリストの松尾由香さんは、2007年5月から、およそ1年7ヶ月かけて、ユーラシア大陸を自転車で、しかも、たったひとりで横断されました。そんな松尾さんに、ユーラシア大陸・自転車旅についてうかがいます。

 

ユーラシア大陸を横断しようと思った理由とは?

●今週のゲストは、サイクリストの松尾由香さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします。」

●松尾さんをザ・フリントストーンのゲスト出演に推薦してくださったのが、以前この番組にも出演してくださった、冒険サイクリスト、最近では気球にはまっている、安東浩正さんなんですが、安東さんとは、長いお付き合いなんですか?

「旅に出る1年ぐらい前に、初めてお会いしたんですけど、お名前はもっと前から知っていました。安東さんと同じJACC(日本・アドベンチャー・サイクリスト・クラブ)に所属していて、それがきっかけでお会いしたんですね。」

●安東さんから「女性1人で、海外を自転車で長距離走っている人は珍しい。ユーラシア大陸をおよそ1年7ヶ月かけて、単独横断した日本人女性はいない。すごい奴なんですよ!」とうかがっていたんですね。そんな松尾さんが昔、ネパールに行ったことがきっかけで、ネパールにはまり、ロイヤル・ネパール航空で仕事をしていましたけど、そういう経緯もあって、2008年に終えられたユーラシア大陸横断の旅も、ネパールからスタートしたんですか?

「そうですね。ネパールにはすごく思い入れがあったんですね。初めてネパールに行ったときに、自転車で一人旅をしたんですけど、そのときに出会った人々とか、色々な影響を与えてくれた国なので、それから何度も通って、友達もたくさんできて、第2のふるさとと思えるような所なので、この旅のスタートにネパールを選びました。」

●なぜ、ユーラシア大陸を横断しようと思ったんですか?

「まず、行きたい国々を繋いでいくと、ユーラシアの国々だったんですね。あと、私はロマの音楽が大好きで、彼らは何世紀も前に、インドのラジャスタン地方から、なんらかの理由で西へ西へ移動していったんです。今では、東欧とかヨーロッパ全土に散らばっているんですけど、ロマは、流浪の民として、移動していたという歴史があるので、ロマに対するあこがれの気持ちから、そのルートを選びました。」

●ロマの音楽から、この旅は始まっていたんですね?

「そうですね。」

●その音楽を聴くと、ワクワク・ドキドキしますか?

「そうですね。心が揺さぶられるような感じですね。喜怒哀楽がむき出しの音楽で、アイデンティティも強くて、どんどん流れていっているんですけど、多少、その土地の楽器が変わるので、その土地の影響は受けているんですね。でも、芯はすごくしっかりしている、彼らにしか出せないリズムやメロディを持っている音楽です。」

●ここで1曲お送りしたいと思うんですが、実は、そのロマを描いた「ガッジョ・ディーロ」という映画がありまして、その映画のサントラからのナンバーです。「トゥッティ・フルッティ」

(放送ではここで、O.S.T(ガッジョ・ディーロ)の「トゥッティ・フルッティ」を聴いていただきました)

 

旅は気候との戦い

●聴いていただいたのは、映画「ガッジョ・ディーロ」のサントラから「トゥッティ・フルッティ」というロマの音楽なんですけど、やっぱりこう聴いていると、スタジオでお話しているのが嫌になりませんか?(笑)

「そうですね(笑)。聴き入ってしまいますね。」

●また自転車に乗って、旅に行きたいっていう気持ちになりますよね。

「はい。なりますね。」

●自転車でのユーラシア大陸横断の旅はネパールからスタートしたんですが、どういうルートを通って、ゴールはどの辺りだったんですか?

「まずネパールから南下して、ロマのふるさとと言われている、インドのラジャスタン地方を目指したんですね。そこから北上して、パキスタンに入ったんですが、入ったときには、非常事態宣言が出ていて、パキスタンの一部は走れませんでした。そして、中国の新疆(しんきょう)ウイグル自治区にある、カシュガルに行って、キルギス、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、イラン、アゼルバイジャン、グルジア、アルミニア、一旦グルジアに戻って、トルコ、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリー、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア・モンテネグロ、アルバニア、マケドニア、最後にコソボに寄りましたね。」

●24ヶ国ですか?

「はい。」

●これをどのぐらいの期間をかけて行ったんですか?

「約1年7ヶ月ですね。」

●走った距離は、約1万4000キロ・・・。

「はい。」

●女性ひとりで行ったんですよね?

「そうですね。」

●このルートを聞いただけで「大丈夫なの? 普通に旅をするだけでも危ないんじゃない?」って思える国がいくつかあったんですけど、最初から1人で行こうと思っていたんですか?

「そうですね。」

●誰も連れていこうとは思わなかったんですか?

「思わなかったですね。」

●恐くなかったんですか?

「出発前は恐かったですね。だけど、好奇心の方が大きかったです。やっぱり1人で旅に出たいと思いましたね。」

●1人旅の魅力って何ですか?

「1人と2人以上の違いってすごくあって、1人旅だと、色々なことが、ダイレクトに感じられたり、出会いの機会が多くなったりするので、1人旅と2人旅は、全然違うものだと思うんです。誰か身近な人が傍にいると、自分のバック・グラウンドを引きずるというか、何かがあって旅をしているような、間にフィルターがあるような感覚になってしまう気がするんですね。なので、私は好んで1人旅をしています。」

●このルートで、1番キツイところってどの辺りなんですか? 各地域でキツイところってあるんですか?

「地形よりも、気候が厳しかったのが、インドと中央アジアでした。まずインドなんですけど、私が行った時期が、雨季に入る前の1番熱い時期だったんですよ。」

●何もそんなときに行かなくてもいいじゃないですか(笑)

松尾由香さん

「そうですねぇ(笑)。日中は50度ぐらいあったんですけど、その中を必死で走っていましたね。熱くて死にそうだと思ったのは、このときが初めてでしたね。『本当に死ぬかもしれない』と思って、水を何度も体にかけて走っていたんですけど、すぐに乾いてしまうんですね。すると段々、水をかけても体温が下がらなくなってしまって、木陰もなくなってきたときに、見えたのが、中央分離帯の木陰だったんです。デリーが近かったので、4車線ずつあるような、大きな道路の中央分離帯だったので、4車線分、車線変更をしないといけないんですよ。でも、そんなことはいっていられないので、必死になって車線変更をして、中央分離帯に座って、水をかけて、バタンと2時間ぐらい倒れて、寝たりとかしていました。」

●両サイド4車線ずつ走っているドライバー達は「あの子は何をしているんだ!? 生きているのか?」って感じで、ビックリしたでしょうね。色々なところで、たくさんの思い出があると思うんですけど、1番辛かったのが、インドの灼熱地獄だったんですか?

「あと、中央アジアの、マイナス15〜マイナス20度ですね。ちょうど、40年振りの大寒波が来ていて、大雪が降っている中を走っていたんですけど、そことインドが1番キツかったですね。」

●気候って、私たち人間にはどうしようもできないけど、旅をしていく上では避けては通れないだけに、その極端な温度差はキツイですね。

「そうですね。たまたまそんな時期に当たってしまいましたね。」

●今、振り返れば、いい思い出ですよね?

「そうですね。それがきっかけで出会った人もいるので、人の温かみもより一層感じることができたので、結果的にはよかったかなと思います。」

 

環境の変化への対応は大変

●ユーラシア大陸の旅は2008年12月に終わって、それからしばらく経ちましたが、今、改めて振り返ってみて、どうですか?

「かけがえのないものを得た旅だったので、何度思い出しても、心がジーンっとしますね。出会った人たちの顔が今でも浮かんできますね。」

坂本達(たつ)さんが話していたんですけど、坂本さんってヒゲを生やしているじゃないですか。「ヒゲを生やしていると、向こうの人たちは、すごく親しみを持って接してくれる」って言っていたんですね。でも中東あたりを、女子が1人で自転車旅をしているっていうのは、どうなんでしょうか?

「どうなんでしょう。イランの場合なんですけど、私がイランに入る前は『イスラム色が強い国なので、女性が1人で自転車旅をしているのは、あまりにも危なすぎる』と言われていたんですが、行ってみると、温かく迎えられて、地域の人が守ってくれるっていう感じだったんですね。なので、『異様な目で見られるかな?』って思っていたんですけど、そんなことは全然なかったです。」

●そうなんだぁ。聞くところによると、お巡りさんに先導してもらったこともあるということなんですけど、本当ですか?

「はい。それもイランです。旅の途中、お世話になった方の家にいたときに、警察の方がやってきて『明日から、私たちがエスコートします』って言ってきたんですね。だけど、警察といえど、まだ信頼できるかどうかが分からなかったのと、先導されてしまうと、気をつかって、止まりたいところに止まれなかったりしますよね。」

●1人旅した意味がなくなってしまいますよね(笑)

「そうなんですよね(笑)。そういうこともあって、最初は断っていたんですけど、『どうしてもエスコートさせてほしい』ということで、エスコートしてもらうことになりました。数キロで戻ってくれると思っていたんですけど、いざ走ってみると、3日間ずっと付いてくれていました。途中で管轄が代わるんですけど、管轄が代わるところで、次の警察の方が待っているんですね。」

●お巡りさんのバトンタッチ・リレーのようですね(笑)

「そうですね(笑)。エスコート・リレーが繰り広げられていました。」

●イランって、とっても紳士な国なんですね。

「そうですね。野犬とかも追い払ってくれたりとか、色々お話とかしたりして、割と楽しいエスコートでした。」

●泊まりも、警察の方にお世話になったんですよね?

「そうですね。1泊目は『村の診療所の女医さんが住んでいる家に泊まりなさい』ということで、女医さんに事情を説明してくれて、全部手配してくれたんですね。2泊目は、警察署内にテントを張りました。」

●なんか、ちょっとしたツアコンよりも気の利いた、信頼さえできれば、とっても安心なツアコンですよね。

「そうですね。」

●言葉ってどうなんですか? ネパールから、ユーラシア大陸を横断するといっても、国によって違うじゃないですか。

「そうですね。どんどん変わっていきますね。」

●松尾さんは、ネパール語は大丈夫なんですよね? それ以外の言葉は、どうなんですか?

「ヒンディー語は、ネパール語の親戚みたいな感じで、耳にも馴染みやすかったので、割とすぐ覚えました。その隣のパキスタンは、ウルドゥー語なんですけど、文字が違うだけで、話す言葉は、ほとんどヒンディー語と同じなんですね。なので、その辺りまでは、割とネパール語をベースに対応できたんですけど、キルギスとか中央アジアの国々になると、ガラリと言葉が変わるんです。外国人に対しては、現地の言葉ではなく、ロシア語で話してくることが多かったんですね。ロシア語はさっぱり分からない状態で入っていったので、まずは本を頼りにコミュニケーションを取っていきました。色々な家族や、色々な人たちとお話をしているうちに、同じことを聞かれたり、同じことを答えないといけないシチュエーションがよくあったんですけど、その中で少しずつ覚えていきました。」

●食べ物は問題なかったですか?

「食べ物は基本的には問題なかったですが、中央アジアの冬の食事はちょっと厳しかったですね。」

●何が問題だったんですか?

「野菜が少ないんですよ。日本だと、冬でもスーパーに行くと、色とりどりの色々な野菜が並んでいるんですけど、冬の中央アジアのスーパーには、ほとんど生鮮野菜は並んでいないんです。たまにピクルスみたいなニンジンとかは手に入るんですが、ほとんど、ジャガイモ・タマネギ・肉・脂っていう食事だったんですね。なので、健康面の管理が難しかったですね。」

 

女性の自転車1人旅で気をつけることは?

●松尾さんの場合は、1人で自転車での旅をしていますけど、松尾さんにとって、自転車の魅力って何ですか?

「旅にでたり、山を走ったり、街を散策したり、競技に出たりという風に、色々な楽しみ方ができるということが、まず1つ。そして、旅ということでは、自転車だったら、ゆっくり自分のペースで行けますし、周りとの距離が近くなるので、バスとか電車では通り過ぎてしまうような小さい村に寄ったりとか、話すことがなかったかもしれない人とお話したりできるので、自転車はとっても魅力的な乗り物ですね。」

●「松尾さんって、そういうことやっているんだ。私も自転車で旅に出てみたいな」って思って、自転車1人旅に憧れている女性もたくさんいると思うんですが、そういう人たちへの注意点を含めて、アドバイスがあれば、お願いします。

松尾由香さんが旅で使った自転車
松尾由香さんが旅で使った自転車
 

「自転車1人旅のアドバイスとしては、女性には女性なりのリスクがあるので、何かが起こってから対応するのは難しいんですね。なので、何かが起こらないように、自分で警戒したりとか、対策をとっていないといけないので、服装や行ないを気をつけないといけないですね。具体的にいうと、肌が見えすぎる服装で走っていると、国によっては、挑発的な感じで見られたりしますし、行動もきちんとした行動をしないと、誤解されてしまいます。サイクリストに限らず、バックパッカーも、そういう基本的な部分を忘れなければ、『女性だから、より危ない』っていうところはないですね。」

●まず、国内から始めるとしたら、松尾さんのおススメの場所ってありますか?

「私は、瀬戸内海が好きですね。母の実家が瀬戸内海の小さな島ということもあって、西に向かって走っていくことが多いんですけど、のどかな雰囲気が残っているので、是非とも行っていただきたいと思います。」

●みなさんも、友達とでもいいですし、1人でもいいので、まずは国内から自転車旅を楽しんでみてはいかがでしょうか?私も地元から始めていきたいと思います。

「是非ともやってみてください。」

●(笑)。今週は、サイクリストの松尾由香さんをお迎えして、お話をうかがいました。ありがとうございました。

AMY'S MONOLOGUE〜エイミーのひと言〜

 ユーラシア大陸をたった一人で1年7ヶ月かけて自転車で旅してきた女性と聞いたとき、私は外見的にも“逞しい”女性をイメージしていたのですが、実際にお会いした松尾さんは小柄でとてもかわいらしい方で、正直ちょっとびっくりしました。そして、考えてみたらこれまで一度も一人っきりで旅をしたことのない私は、一人旅を通してたくさんの素敵な出会いや体験をなさってらした松尾さんのお話をうかがいながら、ちょっと羨ましくもなりました。もちろんマイナス15°〜プラス50°までの体験は別ですが(笑)。
この先私がどんな旅に出るかはまだわかりませんが、たった一度の人生、悔いを残さず、より多くのことを経験していきたいと思います。
 最後に、松尾さん、次のビッグな海外自転車一人旅をなさるときは、ご家族にちゃんと言ってから出かけて下さいね!(実はユーラシア大陸の旅をなさった時は、一人で自転車で旅をすることはご両親に伝えていなかったそうなのです!)

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サイクリスト「松尾由香」さん情報
 2007年5月から、およそ1年7カ月かけて、たった一人でユーラシア大陸を自転車で横断した女性サイクリスト「松尾由香」さん。
 そんな松尾さんのホームページ『クッキーの自転車ひとり旅』には旅に出た理由や計画、装備、写真入り日記など、旅の模様が細かく掲載されています。
 また、こまめに更新されている松尾さんのブログ『クッキー日記〜大好きなこと楽しく』もぜひご覧下さい!

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1.  SMALL WORLD / HUEY LEWIS & THE NEWS

M2.  トゥッティ・フルッティ / O.S.T
(映画「ガッジョ・ディーロ」オリジナル・サウンド・トラックから)

M3.  GO YOUR OWN WAY / FLEETWOOD MAC

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4.  WHERE YOU LEAD / CAROLE KING

M5.  I STILL HAVEN'T FOUND WHAT I'M LOOKING FOR / U2

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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