2010年7月11日

飯島正広さんが感じる、野生動物の魅力と今

 今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、飯島正広さんです。
飯島正広さん

 写真家、そして動物映像作家の「飯島正広」さんは、世界中のフィールドで野生動物を撮影し、これまでに写真集映像作品を数多く出されています。NHKの「生き物地球紀行」や「ダーウィンが来た」などの映像も手がけている飯島さんに、野生動物の魅力などうかがいます。

 

野生動物を撮るときに必要なこととは?

●今回のゲストは、写真家、そして動物映像作家の飯島正広さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします。」

●飯島さんは、これまでに動物の写真集や映像作品を多く出され、また、NHKの「生き物地球紀行」や「ダーウィンが来た」などの映像もたくさん手がけていらっしゃいます。飯島さんにまずお聞きしたいのが、アジアの野生動物を撮影して、30年になるんですよね?

「1980年ぐらいから撮りはじめたんですけど、その頃のアジアって、私の胸の中ではワクワクするような熱帯の世界だったんですね。それまで日本の動物を撮っていたんですけど、子供の頃からアジアという世界に興味があって、当時はインターネットなんてなかったので、自分で行ってみたくなったんです。最初にマレーシアに行って、オランウータンの撮影から始めたんですね。それから30年が経ったっていう感じですね。あっという間でした。
 もちろん日本の動物も追っかけていました。私は群馬県の山の中に住んでいて、ツキノワグマを追っかけていたんですね。その頃からアジア志向があって、アフリカには興味がなかったんですよ。ツキノワグマの方が一段落ついたので、『アジアの森に行ってみたい』というのが前からの夢で、やっぱりアジアの動物たちを撮りたいと思って、行き始めたんです。」

●野生動物を撮りたいと思う前に、動物を撮っていたということなんですが、動物を撮り始めたきっかけは何だったんですか?

「動物が好きだったんですね。子供の頃は昆虫少年で、写真を撮り始めたころ、東京の郊外の山で昆虫採集をしていたんですね。夜に蛍光灯を付けて昆虫採集をしていると、ムササビが出てくるんですよ。それを見ていると『面白いから撮影したいな』って思うようになって、うちにあるカメラを持ってきて、昆虫を撮ることからムササビを追っかけるようになりましたね。それがひとつのきっかけになりました。だけど、夜、山の中に入って探しているから、懐中電灯も強力なものもないので、なかなか撮れないんですよ(笑)。それが上手く撮れるようになってくると、『他の動物を撮りたい』っていう想いが出てきたんですね。写真が好きというより、動物が好きだったというのが始めたきっかけですね。」

●ムササビを撮るのは結構難しかったとおっしゃいましたけど、野生動物を撮る難しさはどこにあるんですか?

「まず動物の生態を知らないと出会えないですよね。写真を撮ることは、今はいいカメラが多いので、難しいことではないんですけど、その前に、動物に出会うというところから始まるので、狙っている動物が“どこにいるのか・何時頃出てくるのか”から始まるんですよ。その動物の痕跡を探して、見つけることから始めて、そこから撮影するんですね。だから、動物の生態を知らないと、撮影は始まらないですよね。」

●ということは、下準備に時間がかかるということなんですね?

「そうですね。それがあって、初めて動物が見ることができるんですよね。パッと行っても、動物は逃げちゃいますから(笑)」

●なるほど(笑)。

「やっぱり“何時頃出てくるのか・どんな場所にいるのか”を知らないと撮影できないですね。」

●そうですよね。パッと行って、撮影できるものじゃないですよね。

「動物園みたいなところで撮影するならいいんですが、野生動物を追いかけるというのは、ちょっと違うので、動物の生態や行動をある程度熟知して、例えば先回りをするなどの予想をするなどして、頭で考えていかないと、撮影はできないんですよね。」

●野生動物の生態ってどういう風に調べているんですか?

「当時は本などで一応調べて、残りは自分の足で動物のいるところを探しましたね。やっぱり山の中を歩いて、動物を足あとがあったり、フンがあったり、ひっかき跡があったりすると『ここにいるんじゃないのか』という予想を立てるんですね。例えば、ムササビは夜行性の動物ですので『何時頃から待とうかな』という予想を立てた上で行ってみて、居ればいいですけど、なかなか上手くいかないので、難しいですよね。」

 

撮影は、動物との知恵くらべ

●先ほど、日本の山で動物を見つけるときには、動物の足あととか、木のひっかき傷を見るとおっしゃっていましたが、アジアの動物でも下調べはされるんですか?

「そうですね。やることは日本のときと同じですよね。地元の人の話を聞いて、足あとやフン、ひっかき傷を見つけたり、サインポストという、動物たちが『ここは自分の縄張りだ』という印を付ける場所があるんですね。そういう場所を見つけると、出会える可能性が高くなるんですよね。そういうものを見つけるには、やっぱり歩いてみないと見つけられないですよね。探して、見つけて初めて撮影ができるという感じですね。」

●探して「ここは出そうだな」という目星が付いたら、そこからはどうするんですか? トラだったら、木の上でじっと待つんですか?

飯島正広さん

「そうですね。例えばトラだったら、ブラインドという、隠れられるようなものに入ったんですよ。だけど、トラの方が1枚上手なんですよ。『あそこに変なやつがいる』って分かるんですね。次の日ブラインドを通して、足あとを見ると、私を避けて通っているんですよ(笑)」

●避けているのが分かるんですね(笑)。

「これだと『1週間待ってもダメだな』って思ったんですね。そこで今度は、地面に穴を掘ったんですね。」

●そうなんですか!?

「葉っぱで隠した穴の中に入っているんですよ。そこで、初めてトラが出てきたんです。そのときは、こっちが知恵を使いました。そういうことは、場所によっても違うし、動物によっても違うので、臨機応変に考えないといけないですよね。そういう風に撮影をしてきました。」

●穴を掘って、その中に入るというのは意外でした!

「どうしようもないんですよね。木の上にいると、上からの画しか撮れないですから。やっぱり自分と同じ目線で撮りたいので、そうなると、自分が鉄の檻の中に入るかしないと撮れないですよね。」

●いざトラが出てきたら、穴から出てきて、写真を撮るんですか?

「そのときは、トラとの距離は12メートルぐらいだったんですけど、トラはこっちを気にしてくれなかったので、楽に撮影ができました。そのときは、こっちが知恵を働かせて、上手くトラを騙せたと思いましたけど、音に対しては非常に警戒心が強いんですよね。例えば、カメラのストロボの光は平気だったんですが、夜は寒いのでジャケットを着ていたんですけど、そのジャケットの擦れる音に反応して、こっちを見るんですね。カメラのシャッターも、昔のものだと、モータードライブの音がするんですよ。だから、その音がしないようにしたりします。動物は音に対してすごく警戒しますよね。森の中でしないような音がするわけですから。」

●動物によって、敏感だったり鈍感だったりするんですか?

「それはありますね。同じ種類でも、個体によって違うときもあります。」

●匂いに対してはどうなんですか?

「匂いも、種類によっては反応する動物もいますね。」

●その場合は、匂いを消すんですか?

「匂いは消せないので、動物が『これは危なくない匂いなんだ』と分かってもらうまで私がそこにずっといて、時間をかけて慣らすということをします。動物にとって、私が『平気だ』ということを分かってもらうまで時間をかけて追いかけていくという感じですね。」

 

動物を撮影するのに大事なことは“諦めないこと”

●辛かったり、大変なこととかあると思うんですけど、飯島さんが長く続けてこられた理由は何ですか?

「私は動物を見るのが好きなんですよ。1番いい位置で見たい、レンズを通して撮影をしたいという想いがあるんですね。身近にいるけど、見ることができない動物や、山の奥にいて数の少ない動物、日本の動物でも何をやっているか分からないような動物がたくさんいるんですよ。そういう動物をレンズを通して撮影をしたいという気持ちがありますね。」

●そういう風にうかがうと、探究心や好奇心も大事なんだと感じました。

「そうかもしれないですね。でも、動物を見ているのはすごく楽しいし、好きなので、それだけでもいいんですけど、やっぱりレンズを通して記録したいという気持ちがありますね。そうすれば、他の人にも見てもらえて、『こいつ、こんなことをやっているんだよ』っていうことを分かってもらえれば、もっと面白いので、そういう形でみんなに紹介していきたいです。」

●「こういうことをやっている」といえば、飯島さんの本の中に“モグラの生態”が書かれていて、すごく興味深かったんですね。私はモグラって、アニメぐらいでしか見たことがなかったので、実物を見たことがなかったので、「こんな生活をしていたんだ」と驚いたんですが、その話を詳しく聞かせていただけますか?

「このモグラの観察を5年以上かけてやっているんですけど、実はモグラってどこにでもいる動物なんですよね。例えば、都内だったら、新宿御苑にもいるし、皇居の中にもいると思いますね。だけど、私たちのほとんどは、モグラが地面のトンネルを補修して、それを外に出した土しか見たことがないんですよ。地面の中でモグラが何をやっているかということを写真にしたいと思って、始めたんです。でも、モグラを撮ろうと思っても、モグラのトンネルって5センチメートルあるかないかぐらいの大きさなんですね。その穴に入るカメラがないんですよ。どうすればいいかって考えるところから始まりました。」

●どうやって撮ったんですか?

「特殊な内視鏡があるんですけど、それを穴に入れて待つとかしましたね。それをやるためには、一度飼ってみないといけないと思って、許可を取って、モグラを捕獲しようとしたんですけど、なかなか捕まらないんですよね(笑)」

●(笑)。土の中での移動が早そうですよね。

「早いんですよね。モグラの捕獲用のトラップをトンネルの中に仕掛けるんですけど、モグラにとっては変な肌触りがするんでしょうね。そうすると、その場でひっくり返って、引き返しちゃうんですよ。もし、モグラが捕獲できたとしても、飼育するのが大変なんですよ。」

●確かにモグラを飼っているっていう人ってあまり聞かないですね(笑)。

「例えば、東京の多摩動物園のモグラ館に行けば分かると思うんですが、モグラは子供たちに大人気の動物なんですね。なぜかというと、モグラは知っているけど、見たことがないんですよ。それを私としては、アジアの動物と同じように、身近だけど何をやっているか分からない動物を、レンズを通して写していきたいという想いがあるんですね。それをやりながら、モグラを追っかけていたんですが、今度はモグラの赤ちゃんを撮影したくなったんですが、なかなか見つからないんですよね。5年近くかけて、ようやく撮影することができました。
 そこで諦めちゃったらお終いですよ。毎年モグラの巣を探しにいくんですけど、巣は見つかっても、赤ちゃんが見つからないんですよ。そういうことがほとんどで『今年はダメかな』って思ったんですが、最後の最後で撮影ができたんです。本当に嬉しかったですね。」

●本当に諦めないでよかったって感じですね!

「やっぱり諦めたらお終いですよね。」

 

飯島さんが思う、世の中の人に考えてほしいこと

●飯島さんは偕成社から本を出版されているんですよね?

「まだできたばかりなんですが、『日本哺乳類大図鑑』という本を作りました。今まで、動物の生活を見ることができる図鑑がなかったんですね。そういう暮らしを見ることができる図鑑を作りたいということで、偕成社さんと一緒になって作って、ようやくできました。本屋さんで見ていただければ嬉しいですね。」

●タヌキのように、私たちにとって身近な動物でも「こういう生態があったんだ」っていう風に、新たな発見がありました。

「そういう感じで見てもらえればと思います。みなさんはタヌキ自体は知っていると思うんですが、暮らしが分かるような図鑑が今までなかったんですよね。だから、写真で見ても楽しめるような図鑑ができたら嬉しいということで、企画しました。」

●図鑑っていうと、子供たちが見るイメージがあるんですけど、この図鑑は子供だけじゃなくて、大人も楽しめますよね。

「子供向きなんですけど、大人が見ても十分楽しめると思います。」

●日本の哺乳類のこともうかがいたいんですが、日本の哺乳類の中で1番大きいのは、私のイメージではヒグマなんですが、これは合っていますか?

「クジラがいるので、クジラの仲間を除けば、ヒグマが1番大きいですね。」

●ヒグマって、人を襲うイメージがあるんですけど、撮るときは大丈夫だったんですか?

「この頃は、人に慣れすぎて、人を恐れないヒグマがでてきているんですね。それは気をつけないといけないですよね。」

●それは、日本の今の環境のせいで、そういう風になってしまったんですか?

飯島正広さん

「人が住んでいる近くにでてきてしまうことがあるんですよ。日本って広いようで狭いんですよね。もちろん野生動物ですので、慣れているということはないんですけど、今たくさんの種類の動物が保護されていますので、逆に動物が人間のことを恐くなくなってきていると思うんですね。昔だと里山を手入れして、人間との干渉地帯があったんですが、今では里山を管理する人が段々居なくなってきて、そうすると、山と人間との間が非常に近くなったんですよ。そうすると、それが繋がっていて、ツキノワグマにしても、サルにしろ、イノシシにしろ、人間のすぐ傍にまで出てきてしまうんですよね。」

●そうすることによって、日本では絶滅してしまったニホンオオカミのように、今はまだたくさんいる野生動物でも、もしかしたら絶滅の危機にさらされている種類もいるんですか?

「そういう面はあって、例えばヤマネコという種類が、日本では『ツシマ』と『イリオモテ』の2種類がいるんですが、大体80〜100匹前後しかいないので、絶滅に瀕している動物ですよね。みんな車に乗っていると思うんですが、島でも、かなりのスピードを出すんですよね。そうすると、ヤマネコが道にでてきてしまうと、目がくらんでしまうんですね。そういう風に人間と接触する機会が多くて、それだけ数が少ないですから、難しいですが、車を運転する人は気をつけてほしいです。そうしないと、トキやコウノトリと同じように、数が少なくなってしまうと思いますね。」

●私たちがちょっと気をつけることで、野生動物が守れるということですよね。

「こういう本を読んでいただいたり、写真を見ていただいたりして、ちょっと頭に入れておいてくれればいいですね。同じ仲間がこの国に生きていますから、少し考えてほしいですね。動物もびっくりして飛び出てくることもあると思うんです。でも、ゆっくり走ってくれれば、その動物は助かるので、そういうことを考えながら、この本を見ていただければ嬉しいですね。」

●私もこの図鑑を見ることで「私たちって、こんなにたくさんの野生動物たちと一緒に生きているんだな」って感じました。

「そうなんですよね。しかも、身近なところに結構いるんですよね。ただ、私たちが普段気付いていないだけで、少し視点を変えて見てもらえれば、実は、人間のこんなに近くに動物たちが暮らしているんだということが、この本を見て分かってもらえばと思います。」

●まさか、新宿御苑の下にモグラがいたとは思いませんでした(笑)。

「行ってもらえれば分かりますけど、モグラがいた跡がありますよ(笑)。多摩動物園のモグラ館も面白いし、結構見れると思いますよ。」

●というわけで、今回のゲストは、写真家、そして動物映像作家の飯島正広さんでした。ありがとうございました。

このほかの 飯島正広さんのインタビューもご覧ください。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 今週は写真家、動物映像作家の、飯島正広さんにお話を伺いました。
 私も動物好きなので、良く野生動物のドキュメンタリーを見るのですが(飯島さんが手掛けられた『生き物地球紀行』も見てました!)、実はその映像の裏には、多くの準備とたくさんの時間がかけられていた事を知りました。
 これからは、心して見させて頂きたいと思います(笑)
 そして飯島さんがおっしゃっていたように、同じ仲間が生きているという事を忘れずにいたいと思います。

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「日本哺乳類大図鑑」

飯島正広さん情報

図鑑「 日本哺乳類大図鑑
偕成社/定価5,460円
 飯島さんが3年以上かけて作った渾身の一作。今までの図鑑にはない、野生動物の暮らしぶりなど、素晴らしい写真によって紹介されています。 まさに日本の哺乳類図鑑の決定版!
 

写真展情報
 品川のキャノンギャラリーSにて「WILD ASIA〜アジア野生王国へようこそ」が開催中です。ユキヒョウやトラ、ヒグマなど野生動物の生き生きとした姿をとらえた写真が展示されています。

 ◎開催:8月7日(土)まで。
 ◎開館時間:午前10時〜午後5時30分まで(日・祝は休館)
 ◎入場:無料
 ◎お問い合わせ:キャノンギャラリーS
 ◎TEL:03-6719-9021
 ◎HP:http://cweb.canon.jp/gallery/shinagawa/canon-gallery-s.html

 なお、7月17日(土)の午後1時30分から、飯島さんの公演会が開催されます。撮影時の裏話などを話してくださるそうです。

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オープニング・テーマ曲
「JAVA DAWN / SHAKATAK」

M1. DAYS LIKE THESE / ASIA

M2. YOU LEARN / ALANIS MORISSETTE

M3. SEND AWAY THE TIGERS(ACOUSTIC VER.) / MANIC STREET PREACHERS

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「UNDERSTANDING TO THE MAN / KOHARA」

M4. IT'S ONLY PAPER / OZOMATLI

M5. EVERY BREATH YOU TAKE / THE POLICE

M6. OTHER SIDE OF THE WORLD / KT TUNSTALL

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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