2011年1月23日

吉村和敏さんが魅せられた、ごくわずかな時間
“MAGIC HOUR”の魅力

 今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、吉村和敏さんです。

吉村和敏さん

 2008年1月以来、2度目のご出演となる、写真家の「吉村和敏」さんは先日、小学館から『MAGIC HOUR』という写真集を出版されました。その発売を記念して、品川にある「キャノンギャラリーS」で写真展を開催。その写真展会場にお邪魔して、マジックアワーの魅力など、いろいろお話をうかがってきました。

 

優しく、ほっこりするような時間“マジックアワー”

●今回のゲストは、写真家の吉村和敏さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします。」

●先日出版した写真集、そしてそれを記念して開催された写真展のタイトルにもなっている「マジックアワー」なんですけど、これはどういったものなんですか?

「これは文字通り“魔法の時間”なんですね。どういうものかというと、太陽が沈んで、夜になっていく間の時間のことを言います。」

●ということは、かなり短い間のことなんですね

「そうですね。時間にして大体30〜45分ぐらいですね。」

●そうなんですか。その時間が吉村さんにとって、特別な時間なんですね。

「そうなんです。以前から、マジックアワーの時間帯が非常に好きで、意識をしてきたんです。なぜかというと、日中は太陽が出ているけれど、時間が経つと太陽が沈んで、マジックアワーの時間が始まると、全ての風景が光を失って、表情が優しくなっていくんですよ。空は夕焼け色に染まって、なんともいえない、淡い光に包まれて、非常にロマンチックで、特別な時間になるんですね。なので、僕はこの時間帯は非常に好きで、写真をずっと撮り続けてきました。」

●今回、吉村さんの写真を見させていただいたんですが、どの写真も心がほっこりするような気持ちになりました。

「日中に見る風景だと、太陽が頭の上にあるじゃないですか。なので、全ての風景が色鮮やかに、ストレートに飛び込んでくるんですね。それがマジックアワーの時間になると、強烈な光に照らされていない風景があるんですよ。だから優しく見えてくるんじゃないかと思うんですね。」

●確かにそうですよね。一緒に写っている建物や自然の風景もすごく優しく見えました。それはマジックアワーが演出する特別なものなんですね。

「そうですね。その時間帯だけでしか見ることができない特別な風景なんですね。」

●前回、吉村さんにご出演していただいたときは、「BLUE MOMENT」をテーマに写真を撮っていたかと思うんですけど、BLUE MOMENTとマジックアワーは違うんですか?

「基本的にはBLUE MOMENTの時間帯もマジックアワーに含まれます。なぜかというと、マジックアワーというのは、太陽が沈んでから始まりますよね。そのマジックアワーの後にBLUE MOMENTという時間があるんです。だから、マジックアワーが最初で、その次にBLUE MOMENT、そして夜が来るということなんですね。だから、BLUE MOMENTもマジックアワーと呼んでもいいんですよね。」

●前回撮ったBLUE MOMENTの写真と、今回撮ったマジックアワーの写真を比較すると、マジックアワーの方が、パステル調で、優しいような印象を受けるんですけど、その辺りもやはり違うんですか?

「そうですね。BLUE MOMENTはマジックアワーより周辺全体が暗くなっていて、空だけが青く染まっている時間なので、夜景に近いんですね。でもマジックアワーの場合は、それよりも地上の風景が見えていますよね? なので、BLUE MOMENTとマジックアワーとでは、違いが間違いなくありますね。」

●今回、BLUE MOMENTとマジックアワーのことを教えていただいたことで、「確かに、夕方から夜までの時間ってすごくキレイだな」っていうことを思い出したんですけど、吉村さん以外に、マジックアワーの時間帯の素晴らしさに気づいている人って多いんですか?

「どうなんでしょうか。僕は写真家なので、僕の場合は常に風景を見つめているんですが、普通の人は、マジックアワーの時間帯って、“意識していない・気づいていない”と思うんですね。時間帯的にまだ仕事をしている時間帯なので、仕事の最中に会社から外に出て、空を見つめるのはできないですよね。でも、仕事の手を少し休めて、外を眺めてみると、そこにはマジックアワーの美しい世界が広がっているんですね。なので、あえてその時間を意識することによって、初めてマジックアワーの時間帯に気づくということが、すごく大切なことだと思います。」

 

“待つ”ことも、作品つくりの一つ

●吉村さんは、マジックアワーをどのぐらい追っているんですか?

「写真家になったときから意識をしていたので、20年以上になります。」

●ということは、ベテランの域ですね(笑)。

吉村和敏さん

「そうですね(笑)。でも、マジックアワーだけを撮ろうと思ったのはここ4、5年のことなんですね。最初は“BLUE MOMENT”という写真集を作って、青い世界をずっと撮影してきました。そのときに『マジックアワーを一つの作品としてまとめたい』と思っていたので、そこから本格的に撮り始めましたね。」

●マジックアワーは30分という、すごく短い時間ということなんですけど、それを撮るというのは、もちろん大変なんですよね?

「そうですね。どの風景を撮るのもそうなんですが、まず被写体を探します。その被写体が決まったら、そこでずっと待っています。そして、自分が思い描く通りの、マジックアワーの美しい光に風景が包まれたとき、初めてシャッターを押しますね。」

●どのぐらい待っているんですか?

「長いときで2〜3時間は待ちますね。どの国に行っても、車の中でずっと待機をしていて、夕日が沈んで美しいマジックアワーの風景が広がってきたら、そこで初めて車から外に出て、シャッターを押します。」

●それは、忍耐力が必要ですね。

「そうですね。僕の場合ですが、一回の海外での取材で、一枚のベスト・ショットが撮れればいいかなと思っています。」

●では、今回の写真集に載っている写真って、これまでの写真から選りすぐりの、とっておきの写真ばかりなんですね。

「そうなんです。今回の写真集にはベスト・ショットを詰め込みました。」

●待っている間は、どんなことを考えているんですか?

「それほど風景のことは考えてないですね(笑)。その光が出たときには、真剣勝負で、その被写体に集中しますが、待っている間は、好きな本を読んだり、音楽を聴いたりして、他のことを考えていますね。」

●切り替えが大事なんですね(笑)。あれだけキレイな写真を撮るのって、色々な条件が揃わないと、撮ることは難しいんじゃないですか?

「美しい光を待つには、晴れていた方がいいんですよね。できれば、空気が澄んでいる、快晴の空がいいですね。そうすると、光が艶を持って、キラキラと輝きだしているんです。そこからBLUE MOMENTも出るという感じですね。」

●一日の中でマジックアワーになるのを“待つ”こともそうですが、一定期間として、条件が揃う日を“待つ”ということもあるんですか?「ありますね。海外取材の場合、大体2〜3週間ぐらいかけて行くんですけど、雨が4〜5日降り続けて、なかなか晴れないということもあるんですよ。でも、待っていると、やがて晴れるので、『ラッキー!』と思って、そのときを狙って、写真を撮りますね。」

●でも、雨が続くと焦ったりしないんですか?

「気分が滅入ってきますね(笑)。でも、それがいい作品に通じていると思いますね。待つことも、作品つくりの一つですね。」

 

色々なものが混ざっている風景こそ、日本ならではの風景

●今回の写真集に収められている写真を撮るために、かなり多くの国に行っていることも印象深かったんですけど、何ヶ国に行ったんですか?

「数えてみたら、19ヶ国に行きました。」

●その中で一番多かったのは、カナダの写真で、それ以外にもアメリカ・フランス・ドイツ・ベルギー・スウェーデンなどに行っていますが、なぜその国を選んだんですか?

「いつも行ってみたいところに行っているんですよ(笑)。最初は北米が好きで、カナダを中心に、アメリカに行ったりして、色々な風景を撮っていました。ここ10年ぐらいは、ヨーロッパによく行っていて、フランス・ドイツ・オーストリアなど、ドナウ川を巡る旅をしています。あとは、ノルウェーやスウェーデンなど、北欧にも行っていますね。」

●国によって、景色とか、色々と違うと思うんですけど、特に印象深かった国ってありますか?

「どこも好きですが、以前、一つのテーマを持ってやっていたことがありまして、それは“フランスの美しい村”なんです。フランスには“フランスで最も美しい村協会”というものがありまして、そこが選定した約150の村があるんですね。その村に全部訪れて、撮影しました。それぞれの村の風景が印象に残っています。」

●やはり美しかったですか?

「そうですね。文字通り、村の外から村の全体を見ると、その風景がすごく印象的で、ヨーロッパの村は本当に画になりますね。」

●マジックアワーも、国によって違うんですか?

「基本的に色彩は一緒ですね。ただ、北欧とかカナダなど、北の方に行くと、空気が澄んでいるので、僕らが普段見ているマジックアワーよりも色濃くなっているような気がしますね。例えば、夕焼けのオレンジ色が強くなっていたり、空の色が美しいピンクや紫色に彩られたりしているんです。そういう違いはありますね。」

●吉村さんは世界中を周っていますけど、世界と比較して、日本のマジックアワーや風景はどうですか?

「今回の写真展には、日本のマジックアワーも数枚入れているんですね。日本にも、他の国と同じように、美しいマジックアワーの時間帯があるんです。例えば、東京だと、東京タワーの写真があるんですけど、その写真を撮るために何度も足を運んで、マジックアワーの時間帯に写真を撮ったんですね。美しい夕焼け空でしたよね。」

●そうですね。手前に増上寺が写っていて、奥に東京タワーが写っているという有名なアングルでしたけど、東京タワーがキレイに赤く染まっていましたね。

「そうなんですよ! あれは狙いました!(笑)」

●(笑)。日本の風景と世界の風景で、似ていると思うところってありますか?

「例えば夕焼けとか、朝焼けなどの景色は全く一緒です。ただ、地上にある建物は違うので、日本で撮れば、いかにも“日本の風景”になるんですね。ですが、そこにあるものと組み合わさって一つの風景を作り出しているという感じなので、自然の美しさは一緒ですね。でも、色々な国を旅してきて最近感じているのは、日本の風景にすごく魅力を感じています。」

●どんなところに魅力を感じているんですか?

「最初は、日本の風景って、色々なものがごちゃ混ぜになっていて、個性がないように感じていたんです。ヨーロッパだと、街や村でも、画になるじゃないですか。でも、日本の風景には、それがないんですよ。でも、色々な風景が交じり合っている風景こそ、日本の形だと思ったんです。それこそ、日本の誇れる風景なんですよ! それに気づいてから、日本での旅が楽しくなってきて、日本の風景を撮ることに喜びを感じてきたんですね。」

●確かに、日本って高層ビルがあったりしますけど、ちょっと都会から離れると、田園風景があったりして、色々な要素がありますよね。

「そうですよね。例えば、お寺の横にカーディーラーがあったりして、面白い形で色々なものが混ざっているじゃないですか。それも一つの風景なんですよ。僕は最近、それを素直な気持ちで撮影をしています。」

●日本だけにいると気づかないけど、海外から帰ってきた吉村さんだからこそ、そのよさに気づいたんでしょうね。

「そうなんでしょうね。ずっと海外を見てきてから、日本の風景を改めて見つめなおしてみると、今まで気づかなかったことに、すごく気づくようになるんですね。」

●以前、この番組に出演してくれた方に、日本の四季はすごく美しいっていうことを教えていただいたんですけど、吉村さんもそう感じますか?

「それは感じますね。これだけ四季がはっきりしている国ってそんなにないと思うんですよ。最近は冬がとても寒くて、北国に行くと、必ず大雪が降るじゃないですか。それも日本ならではの特徴ですよね。だから、今、雪も撮りたくて仕方ないですね!」

 

これからも“ときめき”を撮り続ける吉村さん

●色々なところで写真を撮っていて、同じ場所で撮影をすることもあると思うんですが、数年経ってから、同じ場所で写真を撮ったとき、変化を感じたことってありますか?

「海外は、それほど変化していないですね。例えば、僕が好きな島で、カナダにプリンスエドワード島という小さくて美しい島があるんですが、そこで20年間以上撮影してきています。20年前に見た風景と今の風景とでは、それほど違いはないんですね。それだけ、海外の田舎の風景の時間の流れが、とてもゆっくりなんです。変わらないということも、一つの魅力だと思いますね。」

●それと比較して、日本は少し変わってしまったかなという印象ですか?

「かなりのスピードで変わっている印象を受けますね。一年前に行ったところの風景が、ガラリと変わっていたりしています。その変化こそ、一つの個性だと思います。」

●どちらがいいかって、難しいところだと思いますが、自然環境の面では、海外はそれほど変わらないと感じたんですか?

吉村和敏さん

「そうですね。街や村は人が住んでいる場所なので、どうしても変化はするんですけど、自然環境の部分を見てみると、地球ってそれほど壊れていないんじゃないかと思うときがあるんですね。例えば、北国に行くと、永遠に繋がっているように思える大草原とか、森林などが、美しい風景のまま残されているんですよ。そこで『どこが壊れているのかな?』と自分なりに考えてみたとき、そんなに分からないんですよね。だから、美しい自然を素直な気持ちで見つめて、自分なりに受け止めていくことが、地球の美しい自然を、永遠に受け継いでいくことにつながっていくと思いますね。」

●吉村さんが写真家として、思わずシャッターを押したくなる瞬間って、どんなときですか?

「美しい風景、美しい光が出たときですね。例えば、マジックアワーの時間も、すぐに写真を撮りたくて仕方ないんですよ。あとは、空が燃えているような、美しい夕焼け空とか、温かさを感じるような、美しい朝の光を見たときも、『今すぐにでも撮りたい!』と思いますね。一日の中で、常にときめいている感じがしますね。」

●それっていいですね! 吉村さんはこれからも、そういったときめきを撮り続けていくんですか?

「そうですね。そのときめきと出会うためには旅をしないといけないので、積極的に動いて、色々な場所にでかけて、何かときめきを見つけていくという感じですね。」

●今後、どこか旅に行く予定ってありますか?

「今年はまず、ヨーロッパに行きます。そして、僕の好きなカナダやアメリカに行こうと思っています。」

●前回ご出演していただいたときは、フランスを旅していたかと思うんですけど、フランスには行かないんですか?

「フランスの村を撮った写真たちが、ようやく作品集としてまとまったんですよ。なので、今年はフランスには行かないですね(笑)。実は今、“イタリアの美しい村”というテーマで写真を撮っているんです。イタリアにも、“美しい村協会”というものがありまして、そこが選定した約200の村があるんですね。今はそれを一つ一つ撮っています。」

●その写真集が完成したときには、是非この番組で、お話を聞かせてください。

「多分5、6年ぐらいかかるかと思いますね(笑)」

●そうなんですか(笑)。では、その前に何か別な写真集ができたら、この番組でそのお話を聞かせてください。というわけで、今回のゲストは、写真家の吉村和敏さんでした。ありがとうございました。

このほかの吉村和敏さんのインタビューもご覧ください。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 吉村さんが写真撮るのに大好きな時間帯「マジックアワー」は、空が淡いピンクと紫色のグラデーションになっていて、そのやわらかい光に包まれた風景は、なんとも言えない美しさなんですが、実は映画関係者の間ではもともと有名な時間帯だそうです。マジックアワーは、きっと映画関係者も思わず映像に残したくなる、美しさなんですね。これからは、そんな素敵な時間帯を、ちょっと意識してみようと思います。

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「MAGIC HOUR」

吉村和敏さん情報

写真集「MAGIC HOUR
小学館/定価3,150円
 吉村さんの最新の写真集「MAGIC HOUR」には、北米やヨーロッパ、そして日本でとらえた素晴らしい作品が90点掲載。“光の粒子につつまれた、ほんのりとあたたかみのある世界”を感じ取ることができます。
 

写真展「MAGIC HOUR」
 その写真集の出版を記念して開催された今回の写真展は、今回のお話に出てきたマジックアワーの風景を収めた作品約60点を展示しています。
◎開催:2月12日(土)まで(日、祝日を除く)
◎時間:午前10時から午後5時30分まで
◎入場:無料
◎会場:キャノンギャラリーS(「JR品川駅・港南口」より徒歩8分)
◎問い合わせ:キャノンマーケティングジャパン


ブログ情報
 吉村さんはブログをやっていらっしゃいます。吉村さんの日常を垣間見ることができるだけでなく、海外取材をしたときのレポート、写真展にいるかどうかのスケジュールなども掲載しています。気になる方は是非ご覧ください。

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オープニング・テーマ曲
「JAVA DAWN / SHAKATAK」

M1. EYE IN THE SKY / THE ALAN PARSONS PROJECT

M2. (WHAT A)WONDERFUL WORLD / ART GARFUNKEL

M3. SITTING, WAITING, WISHING / JACK JOHNSON

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「UNDERSTANDING TO THE MAN / KOHARA」

M4. 風景 / 秦基博

M5. 春夏秋冬 / スガシカオ

M6. MAGIC HOUR / CAST

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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