2011年4月30日

気候変動に揺れる島「ビューティフル・アイランズ」

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、海南友子さんです。

海南友子さん

 環境問題をライフワークにしている、新進気鋭のドキュメンタリー映画監督、海南友子さんは、気候変動に揺れる3つの島、南太平洋の島国・ツバル、イタリアの海上都市・ベネチア、そしてアラスカ・シシマレフ島を撮った最新作「ビューティフル・アイランズ」で注目されています。
 今回はそんな海南友子さんに、各島の現状などうかがいます。

 

人々の暮らしが消えていく・・・

※最新作「ビューティフル・アイランズ」に登場する3つの島、ツバル、ベネチア、シシマレフ島が
 現在どんな状況にあるのか、お話していただきました。

「ツバルとベネチアに関していうと、島自体が潮の満ち引きに従ったり、あるいは、ベネチアだと年間80回ぐらい潮位が上がり、最高で160センチぐらい海面が上昇するので、島が水に沈んでしまうぐらい、一年のうちに特定の時期になると、陸が水に浸されてしまいます。ですが、アラスカのシシマレフ島は、氷の上に島があるような感じの島なんです。私たちは時々、シロクマが氷の上に乗っかっているシーンを見ますけど、極端にいうと、アラスカのシシマレフ島の場合は、人間がそういう状態なんですね。600人ぐらいしかいない小さな島なので、土壌がどんどん解けてしまっているんです。
 ある時、ロケでシシマレフ島に行ったときに海岸に立って、海を見ていたら、遠くに石が規則的に並んでいたんです。気になったので、地元の方に『あれは何ですか?』って聞いたんですね。すると『あれは10年前までの堤防です』と答えたんですね。つまり、その堤防から私が立っていた海岸までが、海面上昇と氷が解けたことによって無くなった部分なんです。そこにはもちろんたくさんの家がありましたし、住んでいた方もたくさんいました。たくさんの人の暮らしが、今では海の中に消えた状態なんですよね。」

●今回の映画を見て、印象に残っているシーンがあるんですけど、アラスカのシシマレフ島にある断崖絶壁のようなところに、家が建っていて、今にも波によって家が崩れ落ちそうな状態だったんですね。そういう状況になったのは、地面が解けていっているのが関係しているんですか?

「そうですね。人は普通、そういうところに家を建てないじゃないですか。本当は海岸まで土地がたくさんあったのに、どんどん解けてしまって、今にも崩れそうな状態になってしまったんです。なので、シシマレフ島はかなり深刻で、島の人は皆さん移住を決意していて、今は新しく住む場所を探しているんです。
 シシマレフ島やツバルって、自然に近い暮らしをしているんですよ。ツバルは、今でも自給自足をしているところもあるし、シシマレフ島もアメリカ人でありながら、アザラシを捕って食べるという食生活をしているんです。ベネチアも先進国ですが、車が入れない街なので、みんな徒歩で移動しているんですね。そういう意味では、電気をあまり使っていないし、車を使っていないので、ツバルもベネチアもシシマレフ島も、環境に与える負荷が比較的小さいんですよね。そういうところから被害者になっていくというのは、すごく皮肉なことだなと思っています。もっと環境に悪い暮らしをしているところから影響がでると、みんなの感じ方が変わってくるのに、同じアメリカでも、ニューヨークじゃなくてアラスカの離島から環境の変化が始まっているということが、一番皮肉なことだなって、三年間、周りながら思ってきたことですね。」

●そのことについて、そこに住んでいる人たちはどのように感じているんですか?

「色々な感じ方があるんですね。例えば、『先進国で工場をたくさん建設して、CO2をたくさん出している人たちのことをどう思いますか?』っていう、ちょっと意地悪な質問をたくさんしてきたんですけど、『その地域に住んでいる人たちには、それなりの理由があるから、誰かだけが悪いと決めつけて、攻めて解決するなら、そういう風にするけれど、残念ながら、それですぐ解決する問題じゃないから、これは全員の問題なんだ』って答える人が多かったですね。
 ツバルだと、みんな『神様がなんとかしてくれる』と、合言葉のように言うんですよ。それは、どこかの宗教のような神様ではなく、日本語で“苦しいときの神頼み”という諺があるように、誰に何をしてもらえれば、どう助かるのかということが誰にも分からないので、“神様がなんとかしてくれる”という言葉にしているんだと思います。逆をいえば、自分たちだけでは解決できない深刻な状態になっているということだと思いますね。」

マイ長靴は必需品!?

海南友子さん

※ドキュメンタリー映画「ビューティフル・アイランズ」を観た長澤は、海南さんにこんな疑問をぶつけてみました。

●そこに住んでいる方たちは様々感じ方をしていると思うんですが、私はもう一つ印象に残っているシーンがあるんですね。それは、ベネチアで高潮警報が出て、水位がどんどん上がってきていて、レストランやホテルが水浸しになっていったんですね。もし、私がそこにいたら「大変!」って慌ててしまうところなんですけど、現地の方たちは普通にレストランに食事をしにきたり、ホテルに泊まりにきたりしているじゃないですか。そういったことに対して、うまく共存しているように思うんですけど、実際はどうなんでしょうか?

「確かにそうですね。ロケを始める前、私はどこかの島で、その環境から逃れようとして、恐い思いをしている人たちを撮影することになると思って、覚悟をしていたんですね。ですが、実際にロケを3年間やってみると、そういう方はほとんどいないんですよね。なぜかというと、水面上昇との闘いが、彼らにとって日常茶飯事なんです。年間で80回も水が上がってきて、その度に店を閉めていたら、店の経営が成り立たないですよね。
 ベネチアのサラリーマンやホテルマンたちって、漁師みたいな、マイ長靴を持っているんですよ。それを履いて出勤したり、働いたりしているんですよね。でも、私はそれってもっと恐いなと思うんです。何十年、何百年に一回の災害なら、人って逃げたくなるし、逃げざるをえなくなると思うんですけど、ベネチアで起きていることだと、どうやって共存していくかを考えていくしかないんですよね。でも、水辺の都市に住んでいる人たちは、今のままだと、何年か経ったら、マイ長靴を持っていないと生活できないようになってしまうかもしれないですね。」

●そうですね。そうなったときに、ベネチアの人たちのように覚悟を持って「この街で暮らしていくんだ! 長靴を履いてでもお店をやるんだ!」という気持ちが持てるかどうか考えると、不安な気持ちになってしまいました。

「ベネチアの人たちは、プライドがすごく高いので、『この街を自分たちの代で終わりにしてはいけない』という想いがすごく強いんですね。とはいえ、人口はこの30年ぐらいで、多い時の3分の1ぐらいにまで減っているんですよ。商売はしたいけれど、自宅は別のところにしたいという人が多くて、“街は守りたいけど、生活は安全なところで”というスタイルが現状なんですよね。」

●そうなってくると、そこで長年に渡って守られてきた文化や習慣が、失われてしまうかもしれないですね。

「そうですね。今回の作品のもう一つのテーマに“失われていく文化”というものがあるんですね。ベネチアにはベネチアングラスや大理石の建物などがベネチアの文化ですし、ツバルにすごく素晴らしいダンスがあるんです。今回、そのダンスシーンを撮影しているので、よかったらDVDでたっぷりと観ていただきたいんですが、実はツバルって、ラジオ局はあるんですけど、テレビや新聞がない島なんですよ。それでも、みんなの絆の強さみたいなものがあって、いつもみんなが集まって歌を歌っているんですよね。その光景ってすごく美しいなと思いました。
 例えば、晩ご飯を食べる前に、日本人が“いただきます”をするのと同じように、ツバルの人たちは家族全員で合唱をするんです。その中でも、私が一番好きなシーンがあって、あちこちの家から合唱が徐々に始まっていくんですけど、それはすごく美しかったし、そこには、家族の一体感とか色々なものが込められているんですよね。そういうものも含めて、地球温暖化の影響によって、土地がなくなるだけではなくて、そこに根付いた文化も危機にさらされているという印象がありましたね。」

 

東日本大震災とビューティフル・アイランズ

※環境問題をライフワークにしている海南さんの最新作は、気候変動に揺れる3つの島、南太平洋の島国・ツバル、イタリアの海上都市・ベネチア、そしてアラスカ・シシマレフ島を撮ったドキュメンタリー「ビューティフル・アイランズ」ですが、今回の東日本大震災を経験して、自分が撮った映画やモノの見方が変わってしまったそうです。

「私の映画の舞台は、地球温暖化が原因で厳しい環境となってしまったところが中心なんですけど、今回の地震や津波は、事象は違うけれど、みなさんが大事にしていたところが消えていってしまいましたよね。そういう意味ではすごく似ていると思います。うちのスタッフが、DVDの発売にあたって、今回の作品をもう一度見たんですが、『3月11日よりも前に見たときと、3月11日よりも後に見たときとでは、見え方が全然違う』って言ったんです。私は、映画の中で“失われていく物の美しさ・愛おしさ”を一生懸命描いていて、私が描いた島は、何十年後といった、長い期間をかけて地球温暖化の影響を受けて、消えゆく運命を背負っているところばかりなんですが、先日私たちが経験した、一瞬で大切なものが消えていく瞬間に立ち会ってしまってしまいましたよね。
 私、3月は色んなところの上映会に呼ばれていたんですけど、どうしても映画の話じゃなくて、地震や津波の話をすることになるんですね。まさか、こんなに身近で私が描いてきたことを日本でたくさんの人が体験するなんて思ってもみませんでした。実は、ツバルの人たちから『日本は大丈夫ですか?』といったメールをいただいたりしていたんですよ。

 あの日から、自分たちはどういう風に生きていくかということが、被災された方々たちにとっては大事なことで、今までとは違う自分たちで生きていかないといけないと思っています。今回、DVDが出ますけど、ただ、映画を観てほしいというより、みなさんにも故郷や自分に思い入れのある土地があると思いますので、そこが消えることの痛みということは、地球温暖化や津波でも共通していることなので、そういうことをもう一度感じる機会になってもらえたらと思います。
 仕事の関係で、津波で被害に遭ったところに行ったんですけど、私はそこに何があったかって知らないんですよね。実はちゃんと知っていた場所って、東北や北関東、千葉にはないんですよ。そんな中で、津波で失われたところに立ってみて、果てしない喪失感を感じたんですけど、もしここに何があったかを私がもし知っていたら、もっと苦しい気持ちになるはずだと思いました。だから、失われた物の大きさということを、私は本当の意味では分かっていなかったんですね。地元の方やゆかりのある人たちの痛みって計り知れないなと思います。」

 

今でも見たいツバルの夕陽!

海南友子さん

※学生時代にアジアから南米まで、のべ1年近く旅をし、映画監督になっても世界をフィールドに活躍している海南さん、今でも思いだす風景があるそうです。

「最近だと、どうしてもビューティフル・アイランズのロケに行ったところになってしまいますけど、特にツバルがすごくよかったんですね。ロケがあってもなくても、毎日の夕方には海に行って、沈んでいく太陽を見にいっていました。そこって、少しアクセスが悪いところにあるので、観光化が全然されていないんですね。なので、美しい海が自然のままにそこにあって、サンゴ礁もものすごく美しかったです。そこでダイビングをしてみたかったんですけど、『ダイビングはできますか?』って聞いたら、あの国には機材がないんですよ(笑)。だから、素潜りで海の中に入ったんですが、とにかくものすごく美しいところでした。あと、吹き抜ける風の優しさをすごく感じました。
 私たちって、東京や千葉に住んでいても、太陽は毎日沈んでいますよね。でも、毎日沈む時間に夕陽を見にいきたいとはあまり思ったことはないんですよね。だから、ロケから帰ってきて、夕方に渋谷を歩いていると『ツバルでは毎日見にいっていたのに、渋谷を歩いている今は、そう思わないな。なんか不思議な気持ちだな』って思いましたね。ツバルの夕陽は、今でも毎日見にいきたいぐらい、とにかく素敵でした。当たり前ですが、毎日雲の色とか形が違いますよね。それを見ているだけでも、すごく楽しい時間でした。」

●私もいきたくなりました!

「是非行ってみてください! 片道3日はかかりますけど(笑)。」

●そうですか(笑)。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 海南さんの監督作品「ビューティフル・アイランズ」は、気候変動の影響によって消えゆく島々がテーマで、その事は重く受け止めて考えていかなければならないのですが、映画の中に登場する子供達の笑顔だったり、美しい風景に救われた思いがしました。この作品を象徴する、とても印象的なシーンが冒頭にあるので、ぜひ興味がある方は、この映画を最初からじっくり観て下さいね!

INFORMATION

海南友子さん情報

「ビューティフル・アイランズ〜気候変動 沈む島の記憶〜」

最新作『ビューティフル・アイランズ〜気候変動 沈む島の記憶〜』

 DVD:紀伊國屋書店/定価:3,235円
 フォトブック:角川メディアハウス/定価:1,300円

 ドキュメンタリー映画監督・海南友子さんの最新作『ビューティフル・アイランズ〜気候変動 沈む島の記憶〜』が、DVDとなって緊急発売されました
 ナレーションやBGMをあえて入れていないので、ありのままの映像が自然音や街の音と共にリアルに伝わってくる作品となっています。

「ビューティフル・アイランズ」フォトブック

 DVDのほかに、角川メディアハウスからフォトブックとしても販売されています。興味のある方は是非ご覧ください。

DVD発売記念展示会

 DVD『ビューティフル・アイランズ〜気候変動 沈む島の記憶〜』の発売を記念して、5月中旬まで、TSUTAYA六本木店の2階DVDコーナーで、3つの島の写真や海南さんのメッセージなどが特別展示されています。お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りください。

公式ホームページ

 海南友子さんのオフィシャル・サイトには作品の概要や、3つの島の説明なども詳しく載っています。さらに、海南さんのプロフィールやグッズの購入案内など、盛りだくさんの内容となっていますので、是非ご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. LAZY DAY / YAEL NAIM

M2. GOD ONLY KNOWS / THE BEACH BOYS

M3. LOSING MY RELIGION / R.E.M.

M4. ISLAND IN THE SUN / WEEZER

M5. WHO'S CRYING NOW / JOURNEY

M6. WATERLOO SUNSET / THE KINKS

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」