2011年6月25日

裸足王子・吉野剛さんの裸足で走ることへのこだわり

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、吉野剛さんです。

吉野剛さん

 今回のゲストは、裸足ランニングの第一人者、裸足王子こと吉野剛さんです。吉野さんは、一般社団法人「日本ベアフット・ランニング協会」の理事長で、裸足ランニングを広めるための活動を行なっていらっしゃいます。今回はそんな吉野さんに、裸足で走り始めたきっかけや、裸足ランニングクラブのお話などうかがいます。

 

裸足の方が怪我をしない!?

※吉野さんが、裸足ランニングに注目するようになったキッカケは何だったのでしょうか?

「これまでは、子供たちに対しての裸足教育は進んでいたんですけど、大人たちに対しては進んでいないんですね。今の大人たちがシューズを履いて走っている中での足の故障が増えてきているので、『大人にも裸足がいいんじゃないか』と思って、大人に対しての裸足教育が進められている感じがしますね。」

●逆に、シューズを履くと、足の故障が増えるんですか!?

「今までは、シューズを履けば、怪我をすることが減ると思っていたじゃないですか。でも、よく考えてほしいんですが、『ランニングをしたら膝が痛くなるのは仕方ない』、『どこか痛くなるのは仕方ない』と言われていたのが当たり前だったんですけど、その“当たり前”が本当なのかなって思ったところから、裸足ランニングがスタートした感じですね。」

●それはすごく意外でした。裸足の方が足の裏を怪我したりすると思っていました。

「確かに、足を切ったりするという怪我はあったとしても、膝や腰を痛めたり、外反母趾、偏平足、“シンスプリント”といわれる、脛の辺りが痛くなる症状とか、“腸脛靭帯炎”という、足の横側が痛くなったりといったことが、ものすごく多いんですよね。でも、動物たちはシューズを履かないじゃないですか。昔でいえば、オリンピックで金メダルを獲ったアベベとかいたじゃないですか。あと、アフリカのブッシュマンみたいに、普段から裸足で生活している人たちもいますよね。その人たちが、同じような怪我をしているのかなって、疑問に思っていたんですよね。」

※裸足ランニングが注目されるようになったのは、ある本がキッカケだったそうです。

「裸足ランニングが注目を集めるようになったキッカケの本があるんですけど、それが“BORN TO RUN〜走るために生まれた”という本です。昔って、人はみんな裸足だったんですよ。人類の200万年という歴史の中で、人類がシューズを履いているときって、0.01パーセントというぐらいの期間じゃないですか。そんな中で“BORN TO RUN”という本が出てきたんですね。
 内容は、ダイエットや健康目的で走り始めた一般ランナーが、急に走り始めると、膝を痛めるんですよ。膝を痛めたら、シューズのお店で『もっといいクッションが効いたシューズを履きましょう!』と言われるから履くんですよね。それでも治らないんですよ。今度は靴の中敷の交換を薦められるんですね。それは大体がオーダーメイドになるので、アメリカ製のオーダーメイドだと4〜5万円ぐらいかかるんですよね。そういう高級なオーダーメイドの靴の中敷を入れて走るんですけど、治らないんですよ。そして今度はどうするかというと、膝が痛いから、痛み止めを打つようになるんですよ。でも、痛み止めだけを打って走っていたら、どうなると思いますか?」

●足はどんどん悪くなっちゃいますよね。

「悪くなっちゃいますよね! 痛み止めってその症状だけを取るだけで、原因を治しているわけじゃないんですよね。だから当然、悪化してしまうんですよ。最終的に手術ということになったときに『ちょっと待てよ? そんなにすごい距離走ってないよ?』と思うんですね。」

●それって、なんか違いますよね。

「そうですよね。そんな中でも、裸足で走っている人たちもいて、BORN TO RUNのお話にも出てくるのが、メキシコのタラウマラ族なんですね。彼らはウルトラマラソンをするんですね。今、日本でもマラソンって流行っていると思うんですけど、ウルトラマラソンって、100キロから160キロといった、普通のフルマラソンより長い距離を走るんです。そのウルトラマラソンで、世界のトップレベルで走っている人たちがタラウマラ族で、その人たちが履いているものが“ワラチ”といって、4ミリから5ミリぐらいの厚さしかない、薄いゴムに穴を開けて、紐を通して、足にくくりつけているんですね。なので、クッションやサポートなど、シューズに入っているようなものが一切入っていないんです。」

吉野さんのシューズ
これ、吉野さんのシューズです。

●逆に、そういう靴の方が、怪我をしないで、長距離を走ることができるということですか?

「そうじゃないかなと思わせてくれるじゃないですか。要するに、その人たちはものすごい距離を走っていて、故障とかしているかというと、していないんですよ。そういうことが書かれているBORN TO RUNがあって、それによって、これまでの常識や考え方を変えたんですよね。
 これまでは“怪我をするから、色々なものを付け足していく”ことだったんですけど、それだと、足がどんどん悪くなっていって、最終的には走れなくなってしまうんですね。そうではなくて、悪くなっていかないように鍛えていかないといけないんですよ。これは家と一緒で、家も上だけ強くしてもダメなんですよ。一番大事なところって、土台なんです。しっかりした土台なしには、どんなに見た目がいい家でもダメなんですよ。今でいうと、マッチョな人たちが筋トレですごい筋肉を付けたって、足を鍛えていなかったら、故障をするんですよね。最近、ラグビーの選手に話を聞くことがあって、思うことがあるんですけど、上半身はすごく強いんですが、足の故障って結構多いんですよ。だから、その土台をしっかり作っていかないといけないんですよね。」

裸足で走るときは、衝撃を“受け入れる”

※いつ頃から裸足で走るようになって、どんなことを感じたのか、お聞きしました。

「研究を始めた2005年からなので、6年ぐらいになります。」

●実際に走ってみて、どうでしたか?

「慣れるまでは、なかなか足が付いてこなくて大変でした。走ると、必ず衝撃がくるじゃないですか。その衝撃は、今までだと靴のクッションがあって、和らいでいましたけど、それがなくなるので、衝撃がどこかにくるんですよ。」

●それは膝とかですか?

「普通だったら、膝にきそうじゃないですか。今までの、踵から着地をするような走り方では、衝撃は踵や膝にくるんですけど、着地を足の前側の部分にすることによって、足でも分散されて、膝をも曲げて着地をするようになるんです。そうなると、どこに衝撃がくるようになるかというと、足のアーチやふくらはぎ、アキレス腱といったところにくるので、ふくらはぎとかパンパンになっていましたね。」

●裸足ランニングをするときには、シューズを履いたときのランニングとは違った走り方にした方がいいということですか?

「変えた方がいいですし、変えないと、痛くて走れないです。今までのシューズを履いての走り方って『こんな走り方じゃ、とてもじゃないけどできないな』と思うような走り方なんですよね。」

吉野剛さん

●裸足では、どんな風に走るんですか?

「分かりやすくいえば、足のつま先の部分で着地して、その後に踵が着地するような感じです。さらに、膝が曲がった状態で着地して、さらにそこから曲げるんです。それを“膝を抜く”といっているんですけど、膝を抜いて走るような感じです。」

●それは実際にやってみないと分からない走り方ですね!

「あとは、地面を蹴る感覚もなくなっていくような感じです。これまでは踵から着地をして、そのあと前側が着地をしてから、地面を蹴って走るというイメージだったかと思いますけど、地面を蹴ったら、摩擦で、足に豆ができて痛いですし、蹴るという行為自体、裸足だったら痛いんですよ。だから、走り方としては、前側から着地して、そのあと踵が着地をして、スッと足が離れるような感じですね。分かりやすく表現すれば、忍者走りのような感じですね。」

●すり足じゃないですけど、足を地面からあまり離さない方がいいんですね?

「そうですね。そんなに離さずに、着地したらスッと足を出していくという感じですね。」

●靴を履いていると、足と地面の間に壁が一枚あるような感じになるじゃないですか。それが素足だと直接触れることになりますけど、それによって、感じることってありますか?

「今までだったら、小さな凹凸だったり温度差などを感じなかったんですけど、それをすごく感じるので、ランニングに対するイメージがすごく変わりましたね。今までは、地面と戦っているイメージがありますよね。」

●確かに、地面を蹴りつけるイメージがありますね。

「裸足の場合はそうじゃなくて、“受け入れる”感じですね。その衝撃を体で受け止めて、それを利用して走るイメージです。地面が勝手に体を押してくれるような感覚があるんですよ。『この感覚ってなんだろう?』と思うので、走るのが楽しくなってくるんですよね。他にも色々と刺激的なところもあるんですが、体がうまく使えるようになってくると、それまでは、ランニングって苦しいイメージが強かったんですけど、それが楽しくなってきて、地面と調和しているような感覚で走れるようになりましたね。」

●裸足ランニングでは、いつもどういったところを走っているんですか?

「最初の頃は、陸上競技場を使っていました。安全で、凸凹もそれほどないし、落ちているガラスとか少ないじゃないですか。最初はそういうところから始めて、次はアスファルトの上を走ります。アスファルトの上を走ると、足を怪我しそうなイメージがあるじゃないですか。でも、地面をしっかり見るようになるので、当然、転倒を防げるし、実は僕、足を怪我したことがないんですよね。
 みんな、アスファルトの上が一番大変そうに思われているんですけど、実は、自然の中が一番大変なんです。山の中に入っていくと、色々な形の石があったりして、何が地面に落ちているか分からないんですよ。去年の秋に、奥多摩の日の出山に行ってきたんですけど、栗が落ちていたんです 。」

●それは踏んだら痛そうですね。

「そういう意味では、自然の中だと、どこに何が落ちているか分からないので、アスファルトより大変なんですけど、自然の中でも、土が多いところって、すごく印象に残りますよね。大自然の中を気持ちよく走っていくというのは、快感ですよね。でも、そういうことができるところってまだ少ないし、自分の足もそこまで強くないんですね。僕は研究目的で始めたので、元々は裸足で育っていないじゃないですか。そういう意味では、自分の足で自然の中を走ることができるところって少ないんですよ。高尾山ぐらいなら、裸足で登っちゃうんですけど、高尾山って人が多いじゃないですか。だから、自分の足でも走れるところがあったりしたら、すごく印象に残りますよね。」

裸足ランニングで感じてほしい“開放感”

吉野剛さん

※吉野さんは、一般社団法人「日本ベアフット・ランニング協会」の理事長でもいらっしゃいますが、どんな活動をされているのか、お聞きしました。

「簡単にいえば、裸足ランニングの普及活動です。メイン活動として行なっているのが“裸足DE RUN”というイベントで、これは裸足で走ることで、大人のための裸足教育をしています。今の大人たちが、いきなり裸足で走ろうとしても、今まで足がシューズで守られてきていたので、簡単には走れないんですよ。なので、裸足DE RUNでは、“なんで裸足がいいのか”、“どうやったら怪我が防げるのか”、“体がどういう風にできているか”を教えながら『だから裸足なんだ!』ということを理解してもらった上で、裸足での走り方を指導しています。そのイベントを、全国の色々なところに行ったりしていて、先日は石川県に行ってきました。」

●他にはどういったことをやっているんですか?

「普及活動の他には、“裸足ランニングクラブ”というものをやっています。これは、僕が住んでいるのが埼玉県なので、どうしても東京中心になってしまうんですけど、イベントに来てくれた人たちの中で“これからもやっていきたい”という人も多いので、そういう人たちのためにやっているクラブで、月4回ほど、練習会をやっています。」

●それは、どんな方でも入れるんですか?

「誰でも入れます。ただ、イベントには色々な人がたくさん来てくれるんですけど、“裸足ランニングクラブ”となると『敷居が高い』とか『皆さん凄そうなイメージがある』と言われるんですけど、そういうことは全然なくて、これまでランニングをしたことがなかった人もいるんですよ。なので、レベルは様々だし、色々な目的で参加している感じなので、これは、日本にあるランニングクラブの中でも珍しいことだと思います。」

吉野剛さん

※裸足ランニングの魅力を、吉野さんはこんな風に話してらっしゃいます。

「一言でいうと“開放感”ですね。何事にも変えがたいこの開放感というのは、やってみないと分からないですね。あと、走っているときの気持ちよさは、裸足ランニングならではだと思います。これを色々な人に味わってほしいなと思います。実際に、自分が開催したイベントに来てくれた人たちも、初めて裸足で走るじゃないですか。そのときのみんなの表情を見ていると、童心に戻ったようで、すごく楽しそうなんですよね。『走るって、こんなに楽しいんだ!』って思ってもらえているので、こういった思いを色々な人に味わってもらえればいいなと思っています。」

 

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 吉野さんの仰っていた、裸足で走る事で感じる“大地が押してくれる感覚”や“地面と調和する気持ち”、ぜひ体感したいです。でも、いきなり裸足で走る事は難しいと思うので、興味のある方は、まずは吉野さんがやっている「裸足DE RUN」などのイベントに、参加してみるといいかもしませんね。

INFORMATION

吉野剛さん情報

日本ベアフット・ランニング協会

 裸足ランニングの第一人者・吉野剛さんが理事長を務める一般社団法人「日本ベアフット・ランニング協会」では、裸足ランニングクラブの監修を行なっています。このクラブは裸足ランニングの普及を目的としたフリーでオープンなクラブです。裸足感覚を大事に、人それぞれのスタイルを尊重し、気軽に参加できます。通常は代々木公園周辺で開催していますが、郊外のトレイルで練習会も実施しています。興味のある方は、是非ご参加ください。

◎会費:1ヶ月・2,100円(体験会の参加費は2,000円)
◎詳しい情報:日本スポーツ&ボディ・マイスター協会

「裸足ランニングー世界初!ベアフット・ランナーの実用書」

著書『裸足ランニングー世界初!ベアフット・ランナーの実用書』

 ベースボールマガジン社/定価1,365円

 吉野さんは「裸足ランニングー世界初!ベアフット・ランナーの実用書」という実用書も出版されています。こちらも大変参考になります。気になる方は是非とも読んでみてください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. 遠浅の静かな入江 / TEMIYAN

M2. YOU'RE ONLY LONELY / J.D.SOUTHER

M3. BORN TO RUN / BRUCE SPRINGSTEEN

M4. IT KEEPS YOU RUNNIN' / THE DOOBIE BROTHERS

M5. GAIA / JAMES TAYLOR

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」