2011年11月12日

伝統的な塩作りに迫ったドキュメンタリー映画「ひとにぎりの塩」

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、石井かほりさんです。

石井かほりさん

 新進気鋭の映画監督・石井かほりさんは、能登半島の最北端、石川県の珠洲(すず)で今なお行なわれている伝統的な「揚げ浜式」という塩作りに携わる職人や能登の風土に迫ったドキュメンタリー映画「ひとにぎりの塩」を製作されました。
 今回は石井監督に、塩作りの職人技や能登の自然のお話などうかがいます。

塩作りは職人の成せる技

※「ひとにぎりの塩」という映画は、能登半島の最北端、石川県の珠洲に残る伝統的な塩作りにフォーカスした映画なんですが、この映画を作ろうと思ったキッカケは何だったんでしょうか?

「キッカケはひょんなことだったんですけど、今は道の駅になっている、奥能登塩田村で働いている知り合いから『塩田で塩作りをやっているから、観に来て』というお誘いがあったんですけど、 “塩田”という言葉の響きに惹かれて、行ったのがキッカケでした。」

●行ってみて、どうでしたか?

「驚きました。なんで驚いたかというと、まず“塩を作る”ということを意識したことがなかったことに気づいたことに驚きました。そこでの作り方というのは、海水を汲み上げて、砂地に撒き、太陽と風の力で乾かし、それによってできた塩を含んだ砂をかき集めて、海水でろ過して、濃い海水で取り出したものを、一昼夜かけて釜で炊きあげるという方法で塩を作ります。
 それを炎天下の中で、汗ダクダクになりながら、やっている風景を見学させていただいき、夜中寝ずに薪を入れる職人さんとお話しながら、目の前の海水がゆっくりと白い結晶となっていくところを見たときに、“初めて塩を見た”気がしたんですね。」

●“初めて塩を見た”ですか。その塩は、食卓に並んでる塩とは違って見えたんですか?

「自分が食べるあらゆる物が地球上の物ですけど、それらをスーパーで買うと、既に出来上がっているものだったり、加工されていたりして、作られているということを感じなかったんですね。でも、目の前で海水が形を変えて白くなっていくところを見たときに、『塩ってこれなんだ!』と思いました。この塩が生まれてきてからずっと自分の体を支えてきてくれたっていうことを思うと、意識が広がって、地球上の色々な命を支えているものが、塩であり海なんだということを、釜を見ながら思いました。」

●確かに、塩って私たちにとって毎日食べているほど、すごく身近で、無くてはならないものですけど、普通の生活をしていたら、本当に無くてはならないものだということが、感じづらいですよね。

「そうなんですよね。塩って、何かに溶け込んでいる状態が多いじゃないですか。なので、塩を塩としてじっくりと見るということが、なかなかないことだと思うんですね。だけど、それだけ身近にあるものに対して、塩を作っている職人さんたちは、自分の人生をかけて作っているんですよね。大量に作れる方法があるのにも関わらず、あえて、その方法で作っている姿を見て感動して、『この姿を残さないといけない! この美味しくて体にいい塩を作っている人がいるということを伝えないといけないんじゃない』と思って、この映画を製作しました。」

海水を撒く量の調整は、職人のなせる技

※普段、私たちがお料理で使っているお塩がどうやって作られているのでしょうか?

「海水は電気によって分解されるので、プラスとマイナスの膜を入れて電気分解させます。そこから、塩の成分となる塩化ナトリウムだけを取り出すという方法で作っています。」

●それって、理科の実験でやったことあるかもしれないです! そんな科学的に作られているんですね。

「ただ、実は科学的という言い方が誤解を招いてしまっているんですね。本来は、科学的に“操作している”のではなくて、科学的に“分けている”という考え方なんですね。だから、遺伝子操作とかではなくて、単に電気分解によって取り出しているということなんです。」

●必要な部分だけを抽出しているということですね?

「そうですね。」

石井かほりさん

●一方、今回の映画のテーマにもなっている、石川県の能登半島にある珠洲で作られている塩は、先ほど説明していただいたように、海水を汲んできて、塩田に撒いて、乾かしているんですよね。これは、どのぐらいの期間を経て、作られるんですか?

「塩田に撒く作業は早朝に行なわれていて、昼の一番暑い時間帯に砂を集めて、海水を取り出すといった工程です。逆にいうと、一日で取りきれないぐらいの量の海水を撒いてしまうと、職人として未熟だと判断されてしまうんです。」

●では、職人さんはどういう風にして海水を撒いているんですか?

「そこが難しいんですよね! その日の風の向きと天気を読んで、海水を撒く量を決めるんです。」

●それは職人さんの感覚なんですよね?

「そうなんですよ。だから、テレビや新聞に載っている天気予報はあてにしていないと言ってましたね。自分の肌と、海の向こうに小さい島があるんですけど、その島にかかる水平線の水位や雲などを見て、判断しているみたいです。」

●本当に、日本の職人さんってすごいですね! その塩作りは、能登半島の自然は欠かせないものですか?

「塩作りの歴史を紐解いてみると、海の近くで盛んに行なわれていたんですね。能登半島より瀬戸内の辺りの方が、比べようがないぐらい、もっと盛んに行なわれていたんです。でも、日本の塩作りの歴史の中で、塩田が割に合わないということで止めていった中で、なぜか珠洲には残ったんです。その“なぜか”が、映画の中に入っているので、是非見てもらいたいなと思います(笑)」

●(笑)。知ってビックリしたんですけど、400年以上も前から続いているんですよね。

「ただ、塩って、体の中や物質の中に溶けてしまうので、文献が残りにくいんですよね。なので、いつから始まったのかハッキリ言えるものが残されていないというのが現状なんです。」

●でも、長い歴史があるということは間違いないんですよね。その歴史の中には、色々な紆余曲折があって、現在まで続いているということですよね。

「そうですね。今回の揚げ浜式の塩に関していうと、気持ちがベースにあるんですけど、なぜ今その地域で盛り上がり始めているのかといったことが、映画の中では、今まで語られてこなかったこととして残しています。」

塩には“小さな海がある”

●実は私、この方法で作った塩を一度食べたことがあるんですけど、海の味がしてビックリしました! 私ダイビングをするんですけど、ダイビングで失敗をすると、口の中に海水が入ってくることがあるんですね。そのときに感じた海の味が、この映画で取り上げられた方法で作られた塩から感じられたんですよね。

「先ほど話に出た食卓塩との大きな違いは、塩化ナトリウム以外にも、色々なミネラルが含まれているのが、今回の塩の特性で、カルシウムやマグネシウム、にがりなど、都合のいい部分だけを抜き出すということではなくて、そこには“小さな海がある”と思って、塩をいただいくことを、日本人は昔からやってきたんじゃないかと思います。」

●考えてみれば、私たちって自然の恵みをいただいて生きているんですよね。

「本当は、そういうことって言葉にするまでもなく、当たり前のこととして、先人たちはやってきたことですし、今もやってきていることだと思うんですけど、能登半島に行ってロケを進めていく中で、それを意識していなかったり、忘れていたということを実感しました。」

石井かほりさん

●石井監督は、この映画を撮るために、一年間という長い期間、能登半島に滞在したということですが、それには理由があって、それだけの期間滞在していたんですか?

「一年間滞在したということではなくて、クランクインしてから一年以上かかっているんです。塩作りのシーズンになると、一定期間滞在をして、撮影をするということをしてきました。」

●塩作りの期間はどのぐらいあるんですか?

「日差しが強い時期の間に行なわれますので、5月から9月の終わりぐらいまでですね。」

●その期間以外にも滞在していたのには何か理由があったんですか?

「滞在中は、一軒の空き家をお借りして、自炊をしながら生活をしていました。撮影は5月ぐらいから始めたんですけど、滞在しているうちに地元の人たちと仲良くなっていきまして、旬の物の差し入れをいただいたりするようになりました。そういう地元の人たちとの触れ合いや、旬の物を毎回いただけるぐらい、自然と共生されている姿を感じ取れたときに、『塩作りだけではなくて、その塩作りがこの地域の人たちにとって、どういうものなのか?』というところまで気になり始めて、『塩作り以外のシーズンも、他の人たちが暮らしているのか?』といったところを見ずにはいられなかったというのが、一年間滞在した理由です。」

●都会にいると、衣替えはしますけど、春の暮らし方や夏の暮らし方など、その季節に合った生活というのは、あまり意識していない気がするんですよね。逆に、石井監督が今回行った能登半島の人たちは、季節に合った暮らしをしているんですね。

「そうですね。むしろ、そういう自然と共生していかないと、死活問題になってくると思うんですよ。だから、その自然の厳しさを生活の中で感じながら暮らしているなというのが、ほんの少しの期間ですが、私が現地の人と交流をして気づいたことです。」

●石井監督ご自身も、そういう生活をすることによって、季節毎の暮らしぶりや色が今回の映画に生かされているんですね?

「そうですね。それを、映画を観て感じてもらえたらと思います。」

●改めてお聞きしたいのですが、今回の映画の見所と、「ここを見てほしい!」というところを教えていただけますか?

「“手塩をかける”という言葉の語源にもなった塩作りですし、命を支える塩を人生かけて作っている職人さん方の姿を感じていただけたらと思います。あと、塩作りを通じて、地元の方々が自然とどのような感じで共生しているのかというところを、映像の中から感じ取れたらと思っています。」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 私も一足先に映画を観させて頂いたんですが、風や気温を感じながらの塩作りは、まるで自然と対話しながら行なっているようで、懸命な職人さん達の姿がとても印象的でした。
 そして私達は、自然の恵みを“いただいている”んだという事を改めて知らせてくれる映画だと思うので、興味がある方は是非観にいってみて下さい。

INFORMATION

石井かほりさん情報

映画『ひとにぎりの塩』

 映画監督・石井かほりさんの最新作となる今作。
能登半島の最北端、石川県の珠洲で今なお行なわれている伝統的な「揚げ浜式」という 塩作りをテーマに撮った作品です。

◎上映期間:11月25日まで
◎上映映画館:ユナイテッド・シネマ豊洲

イベント

 映画公開中には、塩を知って楽しむイベントが開催されています。
 ・11月13日:ピアニスト・谷川賢作さん他によるミニライブ
 ・11月16日:パティシエ・辻口博啓さんのトークイベント
 などが予定されています。

◎会場:ユナイテッド・シネマ豊洲
◎詳しい情報:映画「ひとにぎりの塩」の公式ブログ


公式サイト

 石井監督の詳しいプロフィールやこれまで手がけてきた作品などを知りたい方は、 ぜひ石井監督のオフィシャルサイトをご覧ください。
また、ご自身のブログでは、最新情報をこまめに公開されています。
こちらも是非チェックしてください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. CHANGE THE WORLD / ERIC CLAPTON

M2. 晴れたらいいね / DREAMS COME TRUE

M3. OLD DAYS / CHICAGO

M4. RIDE LIKE THE WIND / CHRISTPHER CROSS

M5. (WHAT A)WONDERFUL WORLD / ART GARFUNKEL

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」