2012年1月14日

プロ・フリーダイバー・篠宮龍三さんと
登山家・栗城史多さんとの奇跡のトーク・ライヴ
「TO THE YEAR 2012〜NO LIMIT 見えない明日へ」

篠宮龍三さんと栗城史多さん

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンは記録に挑む男性ふたりが登場! 以前この番組にも出演してくださったプロ・フリーダイバー「篠宮龍三」さんと、登山家「栗城史多」さんが先月、鎌倉で開催したスペシャル・トーク・ライヴ「TO THE YEAR 2012〜NO LIMIT 見えない明日へ」の模様をお送りします。
 アジア記録115メートルの記録を持つ、海に深く潜るダイバーと、エベレストの単独無酸素登頂を目指す登山家。海と山というフィールドの違いはありますが、共通点は「無酸素」! そんなふたりが鎌倉の「光明寺」というお寺の本堂で対談形式のスペシャル・トーク・イベントを行ないました。今回はそんなイベントの中から、お二人の印象的な言葉をお届けします。

(以下、篠宮さんのお話の部分は“篠”、栗城さんの部分は“栗”と表示します)

重要なのは“脳の使い方”

※酸素ボンベをつけずに水深115メートルまで潜る篠宮さんと、エベレストの単独無酸素登頂を目指す栗城さん。ふたりに共通するのは、“一人”そして“無酸素”。まずは、栗城さんのこだわりトークからです。

栗:「ヒマラヤといった山に行く人たちの多くは、酸素をつけて、たくさんの人達とグループを組んで登山をするんですけど、それをやるのかと聞かれたら、多分やらないと思います。なぜかというと、行けると分かっているし、人がたくさんいればいるほど、甘えちゃうんですよね。僕よりも経験ある人はたくさんいますので、その人たちと一緒に行くと、甘えてしまうんですよ。自分がダメになっても『きっと誰かが助けてくれるだろう』と思ってしまうので、100パーセントの力を出そうとしなくなるんですけど、一人だと山と向き合うしかないので、感覚的にも冴えてきますし、ちょっとでも『危険だな』と思ったら、自分の判断で降りたりできるんですよね。
 そうならないように、酸素ボンベに頼る人もいるかと思いますが、あれも完全じゃないんですよね。レギレーターというのがあるんですけど、寒さで凍るみたいなんですよ。それに気づかないで、酸素が入ってこなくて死んでしまう人もいるみたいなんですよ。今のものは、性能的にかなりよくなっているみたいですけど、自分の体だけだと判断がつきやすいというのがあるので、そういうふうにやりますね。」

篠:「僕の場合は水の中に入ってしまうと、論理的な思考ができないんですよ。なぜかというと、脳が一番酸素を使うんですよ。そこに酸素を奪われてしまうと、他の大事なところに回せなくなってしまいますし、それによって脳も酸欠によって失神してしまうんですね。だから、計算とか難しいことをなるべく考えちゃいけないんですね。なので、大脳の働きはある程度スリープさせておかないといけないんです。その代わり、“小脳”という、生きる上で一番大事な“生きるか死ぬか”というところだけを見ているので、そこをしっかりと動かしてあげれば、『これ以上いたらダメだ』とか『いける』といった、直感的なところが冴えてくるんですよね。
 その直感を頼りにして、『もうダメだ』と思ったら、すぐに引き返します。その直感に従えば、無事に帰ってきてこられるんですけど、『違うな、今日ダメだな』と違和感があるのに突っ込んでいくと、水面に帰ってくるまでに必ずトラブルが起きますね。」

栗:「無酸素で行くと、脳細胞がかなりやられるみたいなんですよね。なので、最近『記憶力がなくなってきたな』と感じるんですよね(笑)」

篠:「僕もそうですね(笑)」

栗:「さっきの篠宮さんの話で、すごく似ているなと思ったことがあって、実は、山も8,000メートルといったクラスになると、最後は筋肉とかじゃなく、脳の使い方が重要なんですよね。
 脳が酸素の三割ぐらいを使っていまして、最後アタックするときがものすごく苦しかったり、怖かったりするんですけど、そこで大きな声を出したり、気合を入れたり、力んだりすると、酸素の消費量が悪くなってきます。なので、いかに脳をリラックスさせるかというのが、最後にいけるかいけないかといったポイントになってくるんですね。」

篠:「栗城君は登山のとき、よく音楽を聴いてますよね。それはや、リラックスさせるために聴いてるんですか?」

栗:「そうですね。でも、聴いている音楽もPerfumeとかなので、『リラックスと関係ないじゃないか!』と思うようなものを聴いているんですよね(笑)」

苦しみと戦うな!

※先ほど、脳がいちばん酸素を使うというお話がありましたが、続いては、篠宮さんの脳に関するディープなお話です。

篠:「脳のパートを大きく三つに分けていくと、一番上から、論理的な思考とか、イメージを司っている、人間らしい部分である“大脳新皮質”というところがあります。」

栗:「僕は多分、そこがかなり小さいんだと思いますね(笑)」

篠:「僕はそこがちょっとやられているかもしれないですね(笑)。そして、その下にあるのが、感情を司っている“大脳辺縁系”ですね。“アニマルブレイン”と呼ばれていて、“好き・嫌い”や“快・不快”を判断しているところです。そして、一番下にあるのが“小脳”や“脳幹”と呼ばれているところです。“爬虫類脳”と呼ばれていて、 “心拍数”や“血圧”、“ホルモンバランス”といったところを司っている、生きるために一番大事なところなんですね。
 水の中で、大脳新皮質や大脳辺縁系で無駄なことを考えてしまうと、酸素がいっぱい使われてしまうんですよ。なので、なるべく無駄なことを考えずに、生きるための一歩一歩や、一蹴りといったことに集中するのが一番いいと思いますね。なので、上の方にあるヒューマンブレインのスイッチを徐々に切っていって、スリープ状態にさせて、一番下にある爬虫類脳だけを生かしてあげれば、生きる上で大事なところなので、そこだけを使えればいいと思うんですよね。」

栗:「“脳をリラックスさせる方法”で似ているなと思ったのは、僕も“呼吸法”だと思うんですね。山は酸素が少ないので、吸おうと思えば思うほど、入ってこないんですよ。どうやったら入るかというと、『吐くしかない』と思って、吸うんじゃなくて吐くことを意識的にやりますね。
 あと、僕は本当に苦しい事とかに“感謝”するようにしているんですよ。特に8,000メートルの最後あたりになると、感情も荒くなってくるので、そういう時に『ありがとう』と小声で言うんですね。そうなると、自分の心がものすごく落ち着くんですよ。心が落ち着くと、脳もリラックスしてきて、無駄な酸素を使わないようになるので、そういうことをやったりしていますね。」

篠:「苦しい時って、その苦しみと戦うとダメですよね。それから逃げようとしたり、見ないフリとかするとドンドンでかくなって、一気に追いかけてくるんですよね。でもその時に、感謝するというのが一番すごいと思うんですけど、ちゃんと見たり、受け入れたりすることができると、『そうでもなかったかな』とか『コントロールできる範囲だったな』って、冷静に見られるんですよね。」

栗:「そうですよね。山に登り始めたら、苦しみには特徴があるということが分かったんですね。まず、篠宮さんがさっき言っていたように“戦っちゃダメだ”ということ。苦しみというのは、自分が作り出したものだと思うんですよね。そこで戦っちゃダメだし、戦えば戦うほど、ドンドン苦しくなるし、別なことを考えて、その苦しみから逃げても、逃げられないですよね。そこで僕は“感謝”という方法を選んだんです。
 もう一つは、“苦しみは絶対喜びに変わる”ということなんですね。それは、篠宮さんにとっては、水面に上がってきたときかもしれないですけど、山も、頂上に着いたときに、それまで苦しかった分が180度回転するんですよ。逆に苦しくなかったらあんまり感動しないんですよね。なので、苦しみって、決してマイナスなものじゃないということに気づきました。」

日本人の強さは“自然との調和”

篠宮龍三さんと栗城史多さん

※篠宮さんにとっては映画「グランブルー」のモデルになった「ジャック・マイヨール」がヒーロー、そして栗城さんの憧れが、世界の8,000メートル級をすべて無酸素で登頂した伝説の登山家「ラインホルト・メスナー」。続いてのトークはそんなお話から、世界を目指す二人だからこそ感じる“日本人らしさ”のお話です。

篠:「ラインホルト・メスナーさんが無酸素でエベレスト登頂をやったのは何年前でしたっけ?」

栗:「1980年の秋ですね。」

篠:「それ以来、誰もやっていないですけど、それに挑戦するというのはすごいことだと思うんですね。僕は、山のことはそんなに詳しくないし、分からないこともいっぱいあるんですけど、メスナーさんの名前はすごく有名ですし、フリーダイビングをやっている人にも知られているんですが、彼が8,000メートル級の山を全て無酸素で登ったことって、すごいことだと思うんですよね。そういうことを日本人がそれをやろうとしているのも、渋いなと思うんですよね。是非、栗城君に成し遂げてほしいですよね。」

栗:「やりたいですね。」

篠:「1970年代に僕の目標としていたジャック・マイヨールさんが、人類初の水深100メートルに到達して、1980年秋にメスナーさんがエベレストを無酸素で登りましたよね。そういうことを70年代〜80年代にやってしまうイタリア人やフランス人ってすごいなって、僕ら日本人は思っていたと思うんですよね。それを今、日本人がやろうとしているじゃないですか。これを期に、日本人の底力を世界に見せつけていきたいなと思うんですよね。」

栗:「今の話を聞いていて、『そっくりだな』と思うのは、僕にとってメスナーさんって、篠宮さんにとってのジャック・マイヨールさんなんですね。日本人の強さって、“自然との調和”だと思うんですね。海外の登山家って“山をいかに征服するか”といった考え方なんですね。例えば、戦争で使うような言葉をそのまま使ったりするんですけど、僕はそうじゃなくて、“いかに登らせてもらうか”という精神や調和といったところが、海外の人たちより、日本の人の方が強いと思うんですね。」

篠:「そう思いますね。」

栗:「篠宮さんは、ジャック・マイヨールさんがもしいたら、お会いしたいと思うじゃないですか。でも亡くなってしまったので、無理じゃないですか。でも、僕がすごく幸運だったのは、メスナーさんってまだ生きているんですよ。僕は、ネパールと日本で二回お会いしていて、色々とお話をうかがうことができたんですけど、ちょっと違うんですよね。」

篠:「どんな風に違うんですか!?」

栗:「体がデカイんですよ。着ぐるみを着ているような感じで、体の厚みがすごいんですよね。あと、写真を検索していただければ分かると思うんですが、ジョージ・ルーカスにそっくりなんですよ! そこで僕が『ジョージ・ルーカスにそっくりって言われないですか?』って質問したら、爆笑していましたね(笑)」

篠:「メスナーさんになんてことを言うんですか!(笑)」

栗:「(笑)。それでも、メスナーさんって、考え方が日本的だなと思うところがすごくあるんですよね。
 京都の小石川にある枯山水を見て『ここはヒマラヤと同じだ』と言ったりして、山を攻めるように登る登山家と全然違うなと感じるところがあるんですよね。そういった日本人的な感覚って、ジャック・マイヨールさんとかも持っていて、そういう感覚が自然の中で生かされている力になったのかなって思うんですよね。」

篠:「ジャックもメスナーも潜る前や登る前に瞑想して、“山や海と一体となってから入る”というんですよね。そこに自分の意識とかをチューニングして、その場に馴染ませてから一体となっていくのかなと思うんですけれども、それってすごく日本人的な感覚だと思うし、それを僕らが逆輸入して取り入れなければいけないところなのかなと思いますね。そういう自然との調和って今、失われつつあると思うので、日本人がもうちょっとしっかりして、どんどん伝えなければいけない部分だと思いますね。」

“マグロになりたい”と思っていた栗城さん

※続いては、篠宮さんが栗城さんに投げかけた質問で、おちゃめな栗城さんの素顔が明かされてしまった、そんな場面です。

篠:「最初に対談させていただいた時に『山に入る前に肉は食べないし、酒も飲まない』と言っていて、『あまり我慢すると、逆によくないよ』って言ったと思うんですが、今でもそうですか?」

栗:「今は、肉は少し食べるようになりました。初めて篠宮さんとお会いしたときには『マグロしか食べない』って言ったんですよ。あの時は、“マグロになりたい”と思っていたんですね。なぜかというと、マグロって、少ない酸素の中で長時間泳いでいるじゃないですか。ああいう赤身の筋肉が欲しいと思っていたんですけど、『それは食べ物から作っていくしかない』と思って、マグロばっかり食べたんですよ。
 そうしたら、貧血を起こし始めたんで、病院に行ったら、先生から『何でこんなにタンパク質が足りないんだ!?』と言われたんで、『僕、マグロになりたくて、マグロばかり食べていたんです』と答えたら『そんなの全然関係ない!』と言われちゃいました(笑)。それからは肉も食べるようにして、バランスよくするようにしたんですが、お酒だけは断っています。」

篠:「今でも断っているんですね。」

栗:「そうですね。」

篠:「それは、エベレストを登りきるまで?」

栗:「カドマンズ登頂から帰ってきてから祝い事で一杯みたいなのはありましたけど、友達と飲みに行くにしても、友達があまりいないので、そういうこともないですね。」

篠:「じゃあ、今日あった時に『ちょっと酒臭いな』と思ったのは気のせいですかね?」

栗:「そんな事ないじゃないですか!? あ、分かりました! 何かというと、同じ服を三週間着ているんですよ。今着ている服ですけど、公演に来ている人は分かると思うんですが、この服で地方をずっと回っていたので、多分それかなと思います(笑)」

篠:「ここ山じゃないので、変えてもらっても大丈夫だと思います(笑)。変えないと、動物っぽい匂いも混じっちゃいますよ(笑)。」

※では最後にお二人の今後の目標に関するお話です。 栗:「今後の篠宮さんの方向性とかってどんな感じになっているんですか?」

篠:「僕はジャック・マイヨールさんの記録は超えましたけど、彼の存在や彼の残したメッセージとかっていうのは全然超えていないと思いますし、むしろ、やればやるほど彼の偉大さを感じるんですよね。彼が最終的に言っていたのは“自然との調和”だったり“イルカのいる海を大切にしよう”というメッセージだったと思いうんですね。もちろん世界記録を狙っていきますが、それに加えて、僕は“One Ocean(海は一つ)”というメッセージを伝えていきたいですね。それによって、海や自然と関わっていく上で、それらをより大切にするといったキッカケを与えられたらいいなと思っています。栗城君は何かありますか?」

栗:「僕もエベレストに挑戦していきますけど、僕も登るだけなら、ここまで大きくなれなかったと思いますね。それは、山というのは、人がなかなか行かないところではあるんですけど、僕は“冒険の共有”ということをやっていて、夢をたくさんの人たちと共有することで、一人で持っていた夢が実現するんじゃないかと思っているんですね。それをたくさんの人に伝えていきたいと思いますし、僕自身のこれからの目標としては、『栗城は登って、すごいんだ!』というのはあまり興味なくて、僕が登っている姿を見て、『僕もこんなことやってみよう』と思ってくれる人をどれだけ増やせるかというのが、僕の本当のチャレンジになってきているんですよね。多分僕ら二人とも、海に行ったり山に行ったりしますが、仕事としては、いか伝えていくかみたいなところが重要じゃないかと思いますね。」

篠:「“チャレンジ”と“伝える”というのって、同じバランスですよね。」

栗:「伝道師みたいな感じですよね。でも最近伝えすぎて、公演ばかりやっていたんで。足腰が固くなってきているんですよね(笑)。そこのバランスを、どううまく取っていくかというのもありますよね。」

篠宮龍三さんと栗城史多さん


(この他の篠宮龍三さんのインタビュー栗城史多さんのインタビュー、もご覧下さい)

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 実は私も今回のシンポジウムに行かせていただいたんですが、ご自分たちで無酸素兄弟と仰っているだけあって、お二人の雰囲気や表情がなんだか兄弟のように似てらっしゃるのがとても印象的でした。これはきっと、世界記録への挑戦という大きなチャレンジをしながらも“自然との調和”を意識し、苦しい時にはその苦しみを“受け入れる”という共通の思いが、海と山という、全く違ったジャンルの二人を結びつけているんだなと思いました。

INFORMATION

篠宮龍三さん情報

フリーダイビング・スクール

 プロ・フリーダイバーの篠宮龍三さんがプロデュースするフリーダイビング・スクールが今月から3月にかけて沖縄で開催。初心者から上級者までの幅広いプログラムが用意されています。

◎定員:各プログラム4名
◎お問い合わせ:篠宮龍三さんのオフィシャルサイト

「心のスイッチ」

新刊「心のスイッチ」

 竹書房/定価1,470円
 篠宮さんの最新刊。人類史上5人しか達成していない、水深115メートルの世界は、死に向かい合った極限の状態。そこで篠宮さんは何を見て、どんなことを感じたのかが分かる内容となっています。


栗城史多さん情報

講演会情報

 登山家・栗城史多さんは講演会で全国を走り回っています。近い所では1月30日(月)に横浜駅からすぐの「崎陽軒本店6階」で開催します。

◎開催時間:午後7時から
◎会費:3,500円

「TEAM KURIKI」会員募集

 「TEAM KURIKI」では、「冒険の共有」を応援してくれる会員を募集中。会員になると遠征時に現地から絵はがきやメールが届くなどの特典があります。

◎年会費:5,000円
◎詳しい情報:栗城史多さんのオフィシャルサイト

番組出演情報

 栗城さんは、BS12ch TwellVにて放送が開始される『トークロック』にて、作家・乙武洋匡さんとの対談の模様が放送されます。

◎日時:1月22日(日)の午後6時
◎詳しい情報:トークロック・オフィシャルサイト

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. WILD BOYS / DURAN DURAN

M2. ポリリズム / PERFUME

M3. HUMAN NATURE / MICHAEL JACKSON

M4. MAN ON A MISSION / DARYL HALL & JOHN OATES

M5. FLY AWAY / LOS LONELY BOYS

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」