2012年1月21日

ラムサール・ネットワーク日本の陣内隆之さんと安藤よしのさんが
伝えたい日本の湿地の現状

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、ラムサール・ネットワーク日本の陣内隆之さんと安藤よしのさんです。

ラムサール・ネットワーク日本の陣内隆之さんと安藤よしのさん

 ラムサール・ネットワーク日本は、湿地を守るための国際条約「ラムサール条約」の下、「すべての湿地の保全と賢明な利用を通じて、持続可能な社会作りに貢献すること」を目標に活動しているNPO法人で、国内外のNGOや政府、地方自治体、企業など、色々な分野の人たちと一緒に、ラムサール条約に登録される湿地を増やすための活動ほか、干潟や田んぼなどの調査なども行なっています。
 今回は身近にありながら、あまり意識していない湿地のことを、ラムサール・ネットワーク日本の陣内隆之さんと安藤よしのさんに解説していただきます。

(以下、陣内さんの部分は“陣”、安藤さんのお話の部分は“安”、と表示します)

湿地は私たちの生活になくてはならないもの

※湿地というと“じめじめした場所”というイメージが強いかもしれませんが、陸地では川や湖、沼や湿原、田んぼやため池など、海辺では干潟や砂浜、岩礁やサンゴ礁、マングローブ林、そして干潮時に水深6メートル以内の浅い海も湿地といわれる場所なんです。そんな湿地は、多種多様な生き物を育む大切な場所として見直されていますが、人間にとって湿地はどんな役割を果たしてくれているのでしょうか?

安:「私たちに身近な役割だと、例えば、漁業などは、湿地が育てる生き物を獲って、私たちが食べるわけですから、食料を供給してくれる場所といえますよね。それから、台風や暴風雨の影響を和らげてくれる場所だといわれています。あと、水ですね。地球に降る水は淡水ですけど、その淡水ってすごく限られているので、それを集めて、浄化して私たちが使えるようにしてくれる大きなシステムだといわれています。さらに、私たちが汚した水を生物多様性の力で綺麗にしてくれるというような役割も果たしています。」

●ということは、湿地って、私たちの生活になくてはならないものなんですね。食物と水って、人間には絶対に必要なものですよね。例えば、釣りとか遊びに行ったりすることもできる場所でもあるじゃないですか。

陣:「レクリエーションの場所ということもありますよね。」

●そういった意味で、湿地はすごく大事なところなんですね。

安:「あと、忘れちゃいけないのが、“環境教育の場所”でもあるということですね。子供たちが生き物の豊かさに気がついて、一緒に生きる事を感じ取ることができる重要な場所ですよね。」

●私たちの生活にとっても、生物にとっても非常に大切な湿地ですが、その湿地が今、非常に厳しい状況に置かれているんですよね?

陣:「今、湿地の減少が本当に激しくて、湖沼でいうと、開発などによって明治・大正時代と比べて、60パーセントぐらいなくなっているし、干潟だけでも、埋め立てや開発などによって、1945年から1992年までの間で、4割ぐらい無くなっています。」

●そんなに無くなってしまっているんですか!

陣:「最近では、有明海にある諌早湾干潟というのが、堤防によって締め切られてしまいましたし、今では、沖縄の泡瀬干潟でも埋め立ての工事が進んでいます。」

●既にかなり減ってしまっているのに、更に減りそうな感じなんですか?

陣:「開発の勢いが止まらないところがあって、ほとんど埋め立てられてしまった東京湾でも、三番瀬といった、まだ残っているところも、数少なくあるんですが、そこも予断を許せない状況が続いています。」

●湿地が私たちの生活にとって、非常な重要ものだということですが、こういう風に湿地がどんどん無くなってしまうと、私たちの生活にどういった影響があるんですか?

安:「例えば、有害なものが私たちに降り注いで死んでしまうといったような、私たちの生活に直接影響してくるわけではないので、開発がなかなか止まらないんですが、私たちが地球で、これからもたくさんの人口を抱えて生活する上で、未来の人たちも湿地の恩恵を受けて暮らせるようにするには、これ以上減らしてはいけないです。むしろ、無くしたものを再生したりして、生き物と一緒に末永く暮らすためには、今がその分かれ道だと思います。」

陣:「例えば、諌早湾が締め切られたときなんですけど、締め切りの影響によって、そこで漁業をしていた人たちが苦しい思いをしているんですよ。どういうことかというと、締め切って干潟がなくなったことによって、魚の産卵とか育成の場が無くなってしまったんですね。また、締め切ったことによって、潮の流れが弱くなり、締め切ったところの外にある海も壊されてしまったというのがありますし、さらに、元々、川から出てくる水を干潟で自然に浄化したんですが、締め切ったことによって、その機能もなくなってきて、水質が悪くなった水がどんどん外に流れていくというのがあったりします。
 そういう風に、湿地を壊したことによって、私たちの暮らしだけじゃなく、地域社会全体が壊されていくという現実があるので、湿地というのが単に水取りのことだけではなくて、私たちの暮らしと密着しているんだということを皆さんに分かってほしいなと思います。」

ラムサール条約は湿地を守るための条約

※お二人が所属している団体の名前になっている「ラムサール」は、国際条約「ラムサール条約」からきています。その条約について説明していただきました。

安:「ラムサール条約というのは1971年に、イランのラムサールでできたので、ラムサール条約というんですが、正式名称は“特に水鳥の生息地として重要な湿地に関する条約”というんですね。これを聞いて、皆さんは覚えにくいのと、『じゃあ、水鳥の条約じゃないの?』とすぐ思われると思うんですね。」

●そうですね。私たちの生活にはあまり関係ないのかなと思ってしまいます。

安:「でも、英語って、“especially”といった言葉が後ろに来るじゃないですか。そうすると、それを日本語では先に訳しちゃうので、どうしてもそっちが先に来てしまうんですけど、本当は、湿地を守るための条約で、そのための色々な取り決めを国際協力で守っていくというような条約なんですね。日本は、1993年に釧路でCOP5を開催して、それ以来、ラムサール条約を私たちも言うようになりましたし、湿地の保全がすごく進んできたと思います。」

●その国際ルールであるラムサール条約で認定された日本の湿地はあるんですか?

安:「現在、37ヶ所あります。そして、今年COP11がルーマニアで開催されますが、そのときに新たに六ヶ所が増えると言われています。」

ラムサール・ネットワーク日本の陣内隆之さんと安藤よしのさん

●現在認定されている場所って、どんな所があるんですか?

安:「釧路湿原や谷津干潟、あと沖縄にある漫湖といったところが、北から南まで37ヶ所あります。」

陣:「あと、名古屋の藤前干潟もそうですし、北海道の湿地が比較的多いかなと地域的に感じました。」

●37ヶ所という数は多いんですか? 少ないんですか?

陣:「まだまだ少ないですね」

安:「“少ない”と私たちは主張していて、『100ヶ所くらいにしてください!』と言っています。国によっては、条約湿地をたくさん持っている国もあるし、一つの湿地がすごく大きい所もあります」

陣:「今、環境省で潜在的候補地というのが172ヶ所あります。これは、“価値としてはあるが、地元自治体の協力が取れないといったことで、なかなか登録できないところ”なんですけど、そういった意味では、37カ所というのは全然少なくて、172ヶ所全部登録して欲しいぐらいですね。」

※そんな中、様々な意味で注目されているのが、沖縄県沖縄市にあり、南西諸島で最大級の規模を誇る「泡瀬干潟」。そんな泡瀬干潟では、今でも新種が発見されているそうです。

陣:「新種は10種類以上いて、絶滅危惧種になっているものは174種類以上あります。あと、泡瀬干潟など、一部にしかいない固有種が何種類もあったりしますし、干潟の貝類で言えば360種類以上いるので、本当に豊かな干潟です。」

●これって、すごい事だと思うんですが、どうなんですか?

安:「すごいですよね。一昨年、名古屋でCOP10が開催されましたが、そのときに、泡瀬干潟の問題もクローズアップされたんですけど、あそこって、生物多様性の見本みたいなところじゃないですか。そこの開発の計画があるのにも関わらず、生物多様性守ると言っていたのを見て、『日本は本当に考えているのかな?』と思いましたね。ここを守れば『日本って、すごいじゃないか』と、逆に評価されるんじゃないかと思うくらい、すごいところですよね。」

●本当にそうですよね。湿地を守らないで、生物多様性が守れるとは思いにくいですよね。

陣:「先ほど、COP10の話が出ましたけど、そこの中で“愛知ターゲット”という、次の10年の目標ができたんですが、その中で“生物多様性の損失速度を減らす”といったことが書かれていて、具体的な数値目標も出ているんですよ。その一方で、泡瀬干潟という、たくさんの生物多様性がある干潟がどんどん埋め立てられているというのは、矛盾しているなと思いますね。」

●そのすばらしい泡瀬干潟が、大変な状況になっているそうですが、今どういった状況なんですか?

陣:「民主党のマニフェストの中で“泡瀬干潟の埋め立ては行なわない”という内容が盛り込まれていて、一時的に止まって、裁判でも“経済的合理性が認められない”ということで、判決も確定したんですが、一昨年の8月に埋め立ての計画を承認してしまったんですね。その流れで、去年の10月に、また埋め立て工事が再開してしまっています。今では、その埋立地の中に、土砂がどんどんと投げ込まれている状況です。」

●そうすると、泡瀬干潟の生態系がどんどん変わっていってしまいますよね。

陣:「そうですね。元々、埋立工事が始まった状況の中でも、環境の影響は随分あって、生物がどんどんいなくなっていたんですが、工事が一旦止まったことによって、ストップしたんですよ。でも、また再開した事によって、更に埋め立て地の外も含め、色々な生き物全部が大変な状況にあります。」

●もし、今、泡瀬干潟の開発が止まれば、間に合うんですか?

陣:「十分間に合います。埋立地は1区と2区があって、1区の囲いができているだけなので、ここで止めれば、囲いを少しずつ開いていって水を入れていけばいいんですね。今はまだ生き物がいっぱい残っているので、今止めれば十分間に合います。」

湿地を“楽しむ”ことが大事

ラムサール・ネットワーク日本の陣内隆之さんと安藤よしのさん

※ラムサール・ネットワーク日本で毎年行なっているイベントや活動について話していただきました。

安:「今、私たちが提唱しているのが“湿地のグリーンウェイブ”です。これは、諌早湾の再生を願って、4月から国際生物多様性の日の5月22日ぐらいを中心に、『生物多様性のために色々なことをして、それをグリーンウェイブとして登録して、湿地を守るための活動に参加しよう!』ということを提唱しているんですね。今年ももうすぐ呼びかけをします。
 あと、地域で色々なワークショップを開催したり、政府の人たちと交渉したり、今年はラムサールと生物多様性のCOP11があるので、そういったところに日本の現状を持っていって、アピールして、そこでできた決議といったものを日本に持ち帰って、保全のために役立てるといったようなことをしています。これは、今年だけじゃなく、いつもやっていることなんですが、それをもっとたくさんの人に広げていきたいなと思っています。」

●具体的には、どういった活動をされるんですか?

安:「観察会やシンポジウム、エコツアーを行なったり、湿地の手入れをしたりしています。これらを始めようと思ったのは、グリーンウェイブって植樹に限られているんですが、生物多様性って木だけじゃなく、湿地もすごく大事なので、まずCOP10が行なわれた年に“田んぼのグリーンウェイブ”ということで、田植えをやったんですね。これがフランスなどに評価されて、サイドイベントで紹介されたりしたんですけど、『田んぼだけじゃなく、湿地や干潟、マングローブも参加したほうがいい』ということで、湿地全体に広げています。
 なので、グリーンウェイブの中でも、異色なのかなと思うんですが、生物多様性条約とラムサール条約って、一緒に色々なことをやっていますので、“グリーンウェイブの生物多様性の湿地部門”として、ちゃんと役割を果たしたいと考えていて、この動きをもっと広げていきたいと思っています。」

●参加された方の反応というのは、どうでしたか?

安:「みなさんとても忙しい中で、色々なことをやってくださっています。例えば、子供たちと一緒に棚田で田植えをした人たちがいたんですけど、子供たちがすごく生き生きとしていたんですね。それこそ生物多様性を身近に感じつつ、楽しんでいましたね。その“楽しむ”という部分って、特に子供たちには大事ですよね。生き物を探してビックリしちゃうとか、自分が生物多様性のために何かやっているといった充実感を感じられる、とてもいい場所なので、みなさん色々な工夫をしながら続けられると思います。」

●確かに、子供たちって、泥だらけになって遊ぶのが大好きですよね!

陣:「子供たちだけじゃなく、大人も楽しいんですよ! 僕も干潟とか色々なところに行くんですけど、干潟で遊んでいると、色々な生き物がいたりしますし、静かにしていると、干潟から『プツプツ』といた音が聞こえてくるんですよ。それが、すごく心を落ち着かせてくれるので、日頃のストレスも吹き飛ぶんですよ。一見、何もないドロドロのところなんですけど、行ってみると、生き物が豊かだということを肌で感じることができるので、大人でも楽しいんですよね」

安:「楽しいですよね。ジッとしてると、穴からカニが出てくるんですよね。ちょっとでも音がすると、バーっと逃げちゃうんですけどね。そういうのを見ているだけでも、すごく楽しいですね。」

●それってすごくストレス解消になりそうですね!

ラムサール・ネットワーク日本の陣内隆之さんと安藤よしのさん

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 湿地というと、私たちの身近にありながら、あまり意識していない方も多くいらっしゃるかと思います。
 実は私も、毎週三番瀬を見ていながら、どんな生き物がいて、どんな役割をしているのか、あまり知りませんでした。これをキッカケに、これから湿地についても、少し勉強していかなければいけないと思いました。

INFORMATION

ラムサール・ネットワーク日本情報

シンポジウム

 栃木県の湿地で、広大なヨシ原が広がる「渡良瀬遊水池」でシンポジウムが開催されます。

◎日時:2月18日(土)


春の湿地保護全国キャンペーン「湿地のグリーンウェイブ」

 毎年、ラムサール・ネットワーク日本が主催する春の湿地保護全国キャンペーン 「湿地のグリーンウェイブ」が今年も開催される予定です。
詳細が分かり次第、ご連絡いたします。


会員募集

 NPO法人であるラムサール・ネットワーク日本では、会員を随時募集中。

◎年会費:一般正会員・5,000円、一般賛助会員・2,000円

いずれの情報も、詳しくは、ラムサール・ネットワーク日本のHPをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. ALMOST SATURDAY NIGHT / JOHN FOGERTY

M2. NEED YOU NOW / LADY ANTEBELLUM

M3. TAKE A CHANCE ON ME / ABBA

M4. THE SUN THE TREES / RUSSIAN RED

M5. 遊ぼう / ウルフルズ

M6. A PLACE IN THE SUN / STEVIE WONDER

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」