2012年6月23日

「アファンの森」取材レポート第二弾!
〜植林活動を通じて、森を感じる〜

松木さんに指導を受ける長澤。松木さんが手に持っているのはブナの苗木。
松木さんに指導を受ける長澤。
松木さんが手に持っているのはブナの苗木。

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンも「アファンの森」取材リポートをお送りします。「アファンの森」とは長野県の北部、上水内郡信濃町にある里山で、作家のC.W.ニコルさんと地元の林業家・松木信義さんが、80年代半ばから、森の再生活動に取り組んでこられました。2002年からは「C.W.ニコル・アファンの森財団」の管理のもと、森の再生のみならず、環境教育や癒しの場としても活用し、森の再生事業のモデルとして国内外から注目されています。
 そんな「アファンの森」の取材リポート、第二弾の今回は、元・森の番人「松木信義」さんの指導のもと行なった、長澤ゆき初めての植林体験の模様ほか、松木さんのアファンへの思いに迫ります。また、前回に続いて、ニコルさんにもご登場いただきます。

長澤ゆき、初めての植林体験!

※まずは、長澤ゆき初めての植林体験です。まずは、元・森の番人、松木信義さんに手順を説明していただきました。

「あっちをあんたに植えてもらうから、こっちは俺が植えるからね。それを、文句も言うから、よぉく聞きながら見るんだよ! まずは掃除をするけれど、全部が当てはまるとは限らないけど、できるだけ枯れた落ち葉や枝を手で刈ります。徹底して取ります! これが、乾燥時期に行なう植林の基本です!次に穴を掘りますが、大体30センチ程度掘ります。スコップは寝かせないで、立てる!」

(松木さんが実際に穴を掘ります)

●足でグッと押すんですね! 力強いです!

(そして、苗を植えます)

●松木さん、これは何の苗なんですか?

「ブナです。」

※ここで改めて植林の手順を説明すると、まず指定された場所に穴を掘る前に、大事な作業があります。穴を掘ったときに、枯葉などが穴の中に入らないように、掘る場所の周りをきれいにします。それは植えたあとに、木の根に直接、枯葉などが触れてしまうと、根の成長を妨げてしまうからです。掘る場所がきれいになったら、スコップで穴掘りをします。植える苗木の大きさによりますが、穴の直径はおよそ30センチ、深さは20〜30センチ程度です。そして、このときはブナでしたが、苗木を穴に入れ、砕いた土を上からかけます。根が見えなくなるまで土をかけたあと、根の隙間に土が行き届くように、苗木を上に少しひっぱり上下させます。最後は、苗木を手で支えつつ、苗木を中心に、苗木の周りをぐるぐる回るように足で踏み固めます。仕上げは、乾燥しないように根元に枯れ葉などをかけ、目印の棒を立てて、おしまいです。ではいよいよ長澤ゆきの植林初体験です!

●松木さん、もし間違ってたら、ビシバシ言ってください! まずは、草たちを片付けるところからですね。

(片付け終わったあと、土を掘ります)

「次は土を掘るんだよ!」

いざ、自分でやってみるとなかなかうまく穴が掘れません。
いざ、自分でやってみるとなかなかうまく穴が掘れません。

●スコップをお借りして、掘らないといけないですね! スコップを立てて、足でグッと押して…。全然、入っていかないです(笑)。

「そんなに痩せてたらダメだー。じゃあ、少しだけやってやるよ」

(再度、松木さんにやってもらいました)

●あ、上からもっと押せばいいのかな。

「こういう風にやるんだよ! 世話焼けるなー。」

●ありがとうございます! では!

(再度、穴掘りに挑戦します)

●よし、できた!!

「おいおい! せっかく片付けたのに、散らかってるじゃないか! もう、世話焼けるなー。」

●すみません…。何で松木さんがやるとうまくいくのに、私がやるとダメなんでしょうか? きっとキャリアの差ですよね。

「そうじゃないだろ?」

(徐々に穴堀りを進めています)

「まだまだ! スコップが地面に付くまで掘って!」

再度、穴掘りに挑戦します

●うんっしょ! うんっしょ…!

「ほら一気に! 力がねぇなぁ。」

●すみません…。

※苦労の末、穴を掘り終えて、ブナの苗木を植え、土をかぶせ、最後の仕上げにかかりました。

●苗木を持って、少し振ったら、また穴に戻すんですね。

「そこから、土を埋めて、埋めたところを強く踏みつけます。」

●了解しました! 苗木に靴を沿わせて、苗木を持って、踏みつけるんですね。

「苗を上に引っ張るような感じで持って、力がどこかに逃げていかないようにしないといけないよ! 両足で踏みながら、苗木を中心にして回ります。」

●苗木を周りを少しずつ回りながら、根元部分を踏みつけています。

「そうすれば、苗木が簡単に抜けない力が付きます。これで、絶対に枯れません!」

●これは、育つのが楽しみですね!

木には必ず役目がある

※植林体験のあと、元・森の番人、松木さんに森の入り口にある“松木小屋”の前でお話をうかがいました。

森の入り口にある松木小屋(右)、左側に見えるのは炭焼き用の窯。
森の入り口にある松木小屋(右)、左側に見えるのは炭焼き用の窯。

●私は今回、初めてアファンの森に来たんですけど、歩くだけで癒されて、素敵な森だなと思いました。アファンの森をこんな素敵な森にしたのは松木さんだということですが、どういう風にして、こんなにも素敵な森にしたんですか?

「“素敵な森”って言ってますが、俺は“素敵な森”がどんなものなのか知らないんだよね。ただ、そこにある木を一番の特長を生かした方法を考えて、手入れをしただけです。最初は、昔から山は好きだったけれど、実際に触ったことがなかったんだよ。だけど、その土地にあった良質な木を重点にして、色々な木を植えた方がいいんじゃないかと思って、植えました。色々なところを掘ったりしていたら、種が出てきたりするので、『昔はこういう木があったんだ。じゃあ、ああいう木が育つんじゃないか』と思って、トチやブナ、カツラなど、元々はなかった木も植えました。」

●ということは、森を新しく造るというより、“元に戻す”といった感じでしょうか。

「そうですね。昔からあるような木など、存在感のある木を育てた方がいいんじゃないかと思って、手入れをしました。ニレだって、大して役に立つような木じゃないけど、うろになりやすい木なので、それを育てると、フクロウやヤマセミといった鳥たちが入ってくるんで、材質的にはあまりよくないんだけど、うろを作りたいから残してある木がいっぱいあります。」

●そうなんですね! ここにある木は全てに意味があるんですね。

「どんなに良い木であろうと悪い木であろうと、人が嫌がるような木であろうと、絶対に絶やすことはないです。つるが嫌いでも、ちゃんと残しています。俺たち人間は知らなくても、必ず何かの役にたっているんです。なので、それを生かすようにして、種類を多く育てるようにしています。」

●今回歩いていて印象的だったのは、笹もあったんですね。こんなにもたくさんの種類がある中で笹もあることがすごく意外だったんですけど、それも意味があるっていうことなんですね。

「大いに意味があります! ただ単に残してあるような木や草はありません。なぜ笹を残しているかというと、まずはウグイスのためです。ウグイスは笹がないと育たないです。それから、営巣させるために笹を残しています。すると、他の動物が隠れ家にしたり休憩所にしたり、避難場所にしたりするので、ところどころに残しています。」

●色々とやっていく中で、大変なことがあったんじゃないですか?

「そんなことはないです。ただ、笹なら笹しか、つるならつるしか育たない場所があるんですよ。そういうところにはそれだけを残すんです。だけど、それよりも他の木の方が育つなら、他の木の方を残して、そっちをみんな刈ってしまうんです。そういうところは大量になくてもいいから、ある程度の面積を残すんです。スギだって、みんな嫌いだけど、野鳥にとって、冬の夜に他の鳥や動物などに襲われず、風もある程度当たらないようにするための隠れ家や休み場になるように残しているんです。」

●本当に、無駄なものってないんですね。

「『俺はこの種類が気に入らない』っていうことで絶やすことは絶対にしません。必ず残します。そして、できる限り、色々な種を知っておいた方がいいです。なぜ色々な種を知っておいた方がいいのかというと、人間だって同じ種類でも好き嫌いがあるじゃないですか。昆虫も、色々な種類がいるから、その昆虫の好き嫌いを知っておくと、色々な種類の昆虫がいっぱい育ちます。すると、そこに小鳥が好きな昆虫をエサとして食べます。そうやって、鳥も色々な種類が育つようになるんですね。」

●まさに生物多様性ですね!

「そうなるように木を植えて、日光が当たるようにして、風も当たるようにすると、夏になれば真っ青ですよ! 木の花が見えるような山じゃダメです!」

アファンの四季は、どれも楽しい!

松木信義さん

※「アファンの森」を知り尽くしている松木さんに、季節ごとの森の特徴など話していただきました。

●アファンの森の春は、どんな感じなんですか?

「春は、冬眠したものが目覚めて、芽が出てくるんだけど、一度に芽が出てくるわけではありません。なので、全く同じ風景という日がありません。365日変わってます。そこが一番楽しいところであり、面白いところです。」

●その後、夏になると、どんな感じなんですか?

「夏になると、木々は新緑になりますが、早い小鳥だと、子育てが終わって、子供と別れて、二回目の子育てをします。中には、一年に三・四回もする種類もいます。どうして、そんなに子育てをするのかというと、エサが豊富にあるからなんです。四季を通じてエサが多いから、一年中住むことができるんです。だから、猛禽類は一度に、大・中・小の三匹育てるんです。その中で、一番小さいものは、エサがないと、仲間に食われてしまうんですよね。逆に、エサがあれば、三匹とも育ちます。」

●アファンの森だと、エサが豊富だから、三匹育つんですね。

「豊富であれば、育ちます。でも、三匹育ったのは一度で、大体は二匹だね。」

●そして、秋になると、実りの季節だから、色々なものができるんですか?

「そうですね。太いブナの木があれば、実を作ります。その実は、人間にとっても、とてもおいしい実です。でも、この森は元々ブナの木がなくて、俺が数本植えただけなんですよね。ドングリは、隔年でいっぱいできて、昨年はたくさんできた年だったけど、あれを拾うわけにはいかないんですよね。あと、トチの実もすぐ食えないので、拾うわけにはいかないですね。できれば、ブナの実がいっぱいできて、 その種が落ちていると、すごく面白いんですよね。」

●そして、冬になると、松木さんが猟に出るんですね!?

「そうですね。でも、今年から猟を止めたんですよ。でも、シシやクマ、シカは、いると困るし、銃器がなくても藁だけで獲れるから、『やってくれ』と頼まれるとやりますね。だから、今シーズンはシシを三匹獲りました!」

●冬には冬のアファンの森の風景があるんですね。

「冬は冬で結構楽しいんですよ。だから、四季を通じて自然を遊ぶなら、田舎でないとできないんですよ。田舎の特権を十分に生かして初めて田舎に住む価値があるのであって、都会の方に目がいっている人が田舎にいても何にも面白くないんだよ。そういう人は、都会に行った方がいいんだよ。逆に、都会に住んでいる人で、田舎暮らしに合う人は、田舎に帰ってきてもいいんだよね。田舎ほど、楽しいところはないんだよ! 一年中自然と遊べるんだよ。必ず、何か遊べる仕事があるんだよ。」

“原生林が残っている”と思ってもらえるような森にしたい

※「アファンの森」はC.W.ニコルさんと、松木さんが26年ほどかけて手入れを行ない、育ててきた森なんですが、この先、50年後、100年後、この森がどうなっていて欲しいか、お二人にお聞きしました。まずはニコルさんからです。

C.W.ニコルさん

ニコルさん「僕と松木さんは同じ思いです。まずは、大人二人分の大木と若木があるような森にして、この森に来た人から『原生林が残っているな』と思ってくれるようにしたいですね。ただ、気候が色々と変わっているので、ブナが生きられるかとか、色々と、ちょっと心配ですね。もし、ミズナラに病気が少しでも入ったら、すぐに伐採して、燃やしています。例えば、野尻湖の周りの国立公園のミズナラは、何百という数が死んでいます。まさに“昆虫が運んでくるカビ”ですね。誰かが手入れをしていたらいいけど、僕がいなくなったら、どうなるか分からないですね。でも、多分、大丈夫だと思いますね。」


※続いて、松木さんにお聞きしました。

●松木さんがこの森に携わって、26年ということですが、このアファンの森は松木さんの理想の形になっていますか?

「理想の形どころか、まだ林にも森にもなっていないです。“森”って、木を三つ書くじゃないですか。ということは、木の大きさが大・中・小あって森なんですよ。“林”は、木が二つ並んでいるんですよ。でもここは、どっちでもないんですよ。まぁ、林と言われれば、そういう風に思えるし、森かと言われたら、そういう風に思う人もいるかもしれない。でも、俺にとって“森”って、大・中・小、様々な大きさがあって、森なんです。林は同じような木が並んでいて、林なんです。でも、ここは、そういうところがあんまりないんですよ。表現するなら、“林に近い森”ですね。」

●それでは、今後、どういう風になっていけば、松木さんが理想としている森になるんですか?

「林になっているところを切ってしまいます。全部は切りませんよ。ちゃんと木を見て、将来性のある木だけを残して、他を切っていきます。そこに、次世代の木を植えて、育てます。そういう風にすれば、いい木の芽が出てきます。それを育てればいいんですよ。他から苗を持ってきて植えるようなことをしなくても、ここは日当たりがいいから、いずれ出てきます。それを育てながら、邪魔な木が出てきたら、それを間伐していけば、自然とそうなります。
 この辺りの木々も、もっと切らないといけないんです。三分の二以上切らないといけないです。できれば、四分の一にしたいですね。そうすれば、森になります。」

●切ったところに、色々な新しい木を植えていくんですね。

「今、ここにはナラしかないけど、次世代の木を植えることで、ナラ以外の木がどんどん出てくるから、それを伸ばすようにすれば、多種多様な混合林になって、とても面白いと思いますよ。」

●それは楽しみですね!

「そうなってくれればいいんですが、それまでには俺は生きてないので、見られないですけど、まだその理想的な森に近づけられるような育て方はできます。」

アファンの森を歩く


(この他の松木信義さんC.W.ニコルさんのインタビューもご覧下さい)

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 今回初めてやらせていただいた植林体験ですが、思った以上に大変で、たった一本ブナを植えただけですが、森を育てる大変さを少しだけ実感できました。一方で、初めて自分で植えた木は、なんだかとても愛おしくて、これからもアファンの森にお邪魔をして、その成長を見届けたいと感じました。

INFORMATION

C.W.ニコルさん情報

「徳川眞弓ピアノ・リサイタル」

 ニコルさんがピアノ組曲の演奏の合間に、 谷川俊太郎さんが書き下ろした詩を朗読するこのイベント

◎開演:7月17日(金)の午後7時
◎会場:東京文化会館・小ホール(JR上野駅からすぐ)
◎入場料:4,000円
(このコンサートの収益金は、アファン震災復興プロジェクトに当てられます)


「C.W.ニコル・アファンの森財団」

「C.W.ニコル・アファンの森財団」では随時、サポーターを募集しています。 会員になると、アファンの森の見学会や集いに参加できます。

◎会費:個人会員・一口5,000円から
◎詳しい情報: C.W.ニコル・アファンの森財団のホームページ

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. COUNTRY GIRL / PRIMAL SCREAM

M2. SWEET SEASONS / CAROLE KING

M3. SONGBIRD / FLEETWOOD MAC

M4. 田舎の生活 / SPITZ

M5. SAIL DOWN THE RIVER / C.W.ニコル

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」