2012年10月27日

昔のような、豊かでキレイな東京湾にしたい

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、木村尚さんです。

木村尚さん

 今回のゲストの木村尚さんが中心となって、10数年前に「NPO法人・海辺つくり研究会」を設立され、東京湾とその沿岸をメイン・フィールドに、ワカメやアマモを子供達と一緒に育てる活動などを行なっています。今回はその事務局長を務める木村さんに、東京湾の変化や子供達への思いなどお話いただきます。

お台場で生まれた子供たちが、
自分のふるさとに誇りを持てるようにしたい

※まずは、「海辺つくり研究会」はいつ頃、どんな目的で設立されたのでしょうか?

「1990年代終わりごろに『こういう活動をやった方がいいんじゃないか?』と思って、設立しました。そのころって、色々な法律が変わってきていて、“開発や経済発展一辺倒じゃなく、人間が人間らしく過ごすことや、身近な海を大切にしようじゃないか”と、世の中の考えが変わってきているころだったんですね。でも、一般の方にしてみたら、何をしたらいいのか分からないんですよ。そうなってくると、分かりづらかったりして、なかなか行動に移せないですよね。それを一般の方でもできることを探したり、分かりやすいことを提唱したりするために作った会ですね。」

●具体的にはどういった活動をされているんですか?

「海草を育てて海をキレイにしたりしているんですが、“みんなの胃で海をキレイにしよう”ということで、ワカメといった、普段僕たちに親しみのあるものを育てて、海草に海をキレイにしてもらいながら、成長したらその海草を食べるという活動をしています。
 あと、“海のゆりかご”と呼ばれているアマモという海草があるんですが、昔はたくさんあったんですけど、それが埋め立てによって、どんどん無くなっていってしまったんで、それを少しでも増やすための活動をしています。具体的には、種を取って、苗を作って、みんなで植えてます。首都圏の後背地には三千万人ぐらい住んでいるんですが、その人たちが一人・一株ずつでも植えたら、あっという間に海がキレイになるじゃないですか。そういうことを考えて始めた活動ですね。 それと、お台場に人が住み始めて十五年ぐらいなんですが、身近に海がありながらも“臭い・汚い・危ない”って言ってたりするので、『せっかくいいところに住んでいるんだから、もっと身近な海を大切にして、海と一緒に生活していこう』ということを分かってもらいながら、子供たちが育ったときに、自分のふるさとであるお台場に誇りを持てるようにできないかと考えたときに、昔お台場で海苔を作っていたことを思い出したんで、お台場で海苔を育てる活動をしたりしています。

 あと、『みんなで楽しみながら調査ってできないかな?』と思って、『ハゼをみんなで釣って、“いつの時期に、どこでどのぐらいのサイズのハゼが釣れるのか”ということをみんなでデータ化したら、すごくいいデータが取れて、海の環境が分かりやすいんじゃないか』と考えて、それを実行してみたり、東京湾って船がたくさん通るので、干潟を作ろうとしてもなかなか作れないんですが、『家の庭の砂を、みんなでバケツいっぱい入れて、海に入れたら干潟できないかな?』って思ったんですが、そういうことってできないじゃないですか。そこで、国土交通省と協力して、船の邪魔にならないように、テラスのような階段型の干潟を作る実験をしてみたりしています。」

木村尚さん

●“お台場で生まれた子供たちが、自分のふるさとに誇りを持てるようにしたい”ということですが、お台場って確かにテレビ局やショッピングセンターなどがたくさんありますけど、それは一部の面だけで、海があったりして、色々なところがありますよね。

「去年、東日本大震災があったじゃないですか。そのときに多くの命が失われていきましたが、それがキッカケで“海って、すごく怖いものだ”って思い込んでしまったところがあると思うんですよね。でも一方で、これまでの長い歴史の間で、その怖い海と付き合いながら生活してきているので、“怖いところだから、みんなで助け合おうよ!”っていう考えが継承されていたんですね。だからこそ、多くの人命が救われたと思っていて、東北の人たちもそう考えてるんじゃないかと思うんですね。
 なので、“お台場で自然を相手にしたとき、地元の人たち同士が繋がって、助け合っていかないといけない”という想いになったら、お台場って素晴らしいコミュニティになると思うんですね。そういうところで子供たちが育っていってほしいなって思っています。」

●確かにそのコミュニティは大事ですし、海に触れる機会が今の子供たちって少ないじゃないですか。テレビで見ているのと、実際に触れるのって全然違うじゃないですか。

「今の子供たちって、海でどうやって遊べばいいのか分からなかったり、どうしたら自分の身を守ればいいのか分からなかったりするんですよね。それってやっぱり、大人たちが教えていかないといけないと思うんですね。 僕たちの活動でも子供たちと一緒にたくさんのことをやっているんですが、なんで子供たちと一緒にやっているかというと、どうやら僕たちだけがやっただけでは、海の環境がなかなかよくならなそうだったんですよ。そうなると、“僕たちがやってきたことを子供たちの代に繋いでいかないといけない”っていう想いが強いんですよね。なので、子供たちが僕たちの仲間として一緒に活動して、次の世代を担ってほしいという想いから、子供たちと一緒にやることを中心に活動しています。」

ワカメで海をキレイに!

※先ほど、東京湾でワカメを育てているというお話がありましたが、具体的にどんな活動をしているのでしょうか?

「みなとみらいでワカメを育てていて、今年で十二年目になります。最初は二メートル×五メートルぐらいの面積でやっていたんですが、横浜の海でもワカメが育つことが分かったので、『そのワカメを取って食べたら、海をキレイにしたことになるよね』って思って、“横浜で育ったワカメをみんなで食べてみませんか?”という新聞広告を出してみたことがあったんですよ。すると、あっという間に人が集まったんですよ!
 そこで『こんなに人が集まるんだったら、最初から最後までその人たちにやってもらった方が楽しいよね』って思って、今年は二百五十人を募集して、“マイわかめ”として、みんなに名札を付けたワカメの種を海に入れてもらって、二ヶ月ぐらいで大きさ二メートルぐらいの、五キロぐらい重さになるので、そこまで育ったら、みなさんに持ち帰ってもらいます。それによって、採れたワカメ全体の重量で、海をどれだけキレイにできたのかが、計算で分かるんですよね。

 海の汚れの元になっているのは、窒素やリンといった栄養素なんですが、それのほとんどが、人間の生活排水から出てくるものなんですね。それをワカメが吸収して育つんですね。だから、汚れの元になっている窒素やリンがどのぐらい回収できたのかを、参加してくれたみなさんに説明しています。ワカメを二ヶ月育てたら、四人家族の生活排水の一年分ぐらいの量が回収できるんですね。」

●そんなにたくさんの量が回収できるんですか!?

「たくさんともいえるし、ほんの少しとも言えますね。それでも、そういうものを育てつつ、少しでもキレイにしていくことが大切だと思っています。おかげ様でリピーターが多くて、毎年10月1日の午前0時に募集を開始するんですが、午前五時までの間で二百五十人の枠が埋まりますね。
 実は、“ヨード”という、ワカメの成分にもなっているものがあるんですが、これの不足で東南アジアの山岳民族の子供たちに健康被害が出ている地域があるんですね。そこに、このプロジェクトに協力しているNGOに採れたワカメの一部を乾燥させたものを運んでもらって、そこの子供たちに食べてもらって、健康になってもらう活動もしています。」

“透明度が高い=キレイ”ではない

※木村さんは、調査でたびたび東京湾に潜ってらっしゃいますが、東京湾の海中はどうなっているのでしょうか?

「季節にもよります。素晴らしくキレイなときもありますし、五センチ先が見えないときもあります。でも、黒潮の分流が東京湾に差し込んでくるんですが、横浜沖に谷があって、その谷に沿って北上してくるんですね。その谷が横浜から川崎にかけたところでなくなって、上に浮き上がってくるんですね。東京湾は流れが反時計周りなんですが、その浮き上がってきたものと栄養いっぱいの河川水がぶつかって、プランクトンがたくさん沸きます。
 それによって、素晴らしく豊かな魚たちがいる海が昔の東京湾だったんですね。そういう水は今でも差し込んできているので、横浜の沿岸では、すごくキレイで、遠くまで見渡せるときもありますし、今の季節だと、南方の魚がいっぱい入ってきてるので、すごくカラフルですね。つい先日、五センチぐらいの大きさでしたが、クエの子供を横浜で捕まえた人がいたんですよ! 横浜で初ですよ!」

●クエが横浜にいたんですか!? それは驚きですね!

「『すごい瞬間を見たな!』って思って、興奮しましたね。」

木村尚さん

●実際に潜ってみると、そのぐらい豊かなんですね。ただ、透明度が悪い時期があるということですが、それはいつごろなんですか?

「5月〜9月までは水温が高くなるので、栄養がたくさんあるから、その分プランクトンが発生するんですよね。それによって、中には赤潮となって、全然見えないぐらいにまで濁る海になってしまうときもありますね。でも、よく“キレイな海”っていいますけど、それって『透明度が高い=キレイ』って思いがちなんですよね。例えば赤潮・青潮・黒潮とあったら、どれが一番キレイだと思いますか?」

●赤潮と青潮って、あんまりよくないイメージありますね。

「そうですよね。でも、色のイメージからいえば、赤や青の方がキレイで、黒って汚いじゃないですか。でも、黒の方が日本沿岸を沿って北上する海流なので、一番キレイなんですよね。赤はプランクトンが大量発生する海流ですし、青はそのプランクトンが死んで沈んだときに分解するために酸素をたくさん使うので、酸素のない水の塊ができて、それが風向きによって浮き上がったときに青く発色するものなんですよね。
 透明度がある海って、実際は栄養が足りなくて生き物が少ないという証拠なんですね。だから、見た目の透明度に惑わされることなく、“本当の意味でのキレイな海”ってどういうことなのか、見極めていく必要があると思いますね。」

●この豊かな海を、さらにいい状態にしていくには、私たちはどういったことをしていけばいいのでしょうか?

「よく“昭和30年ぐらいの海が一番よかったんじゃないか”といわれているんですね。それは、海水浴場もたくさんあって、みんなも東京湾の色々なところで泳いでましたし、漁獲量もピークに達していたんですね。そういったことって、昭和30年ごろで終わってしまったんですよね。そこから徐々に淀んだ汚い海になってしまったんですが、それに対して、多くの人が下水上の整備などといった努力をして、見た目はどんどんキレイになっていったんですね。

 ただ、先ほど話したように、三千万人が住んでいるので、その人たちからの栄養分が東京湾に流れ込んでくるから、結果的に酸素が足りない海ができてしまったんですね。見た目の美しさを追求したあまり、それはそれで効果はあったと思いますが、酸素が足りない海ができあがったという問題があるので、改善しないといけないことがまだたくさんあると思います。それを科学的に改善することも重要だと思いますが、一方で、長い間研究してきて、流れ込んだものを人工的に処理しようとしても処理しきれないことが分かってきたんです。それによって、干潟がないといけないことや、海草がたくさん生えてないといけないことに、みんなが気づき始めたんですね。だから、少しずつでもいいから、そういうところを作っていって、子供や大人たちがそこで遊ぶことで適度に管理していくことができれば、東京湾ってもっとよくなっていくはずなんですよ。なので、やらないといけないことはまだまだたくさんあって、もっと知ってもらう努力をしていかないといけないと思います。」

木村尚さん

●最後に、木村さんにとって、“海”ってどんな存在ですか?

「僕は生まれも育ちも横浜なんですが、海の原体験って石川県の能登半島なんですよ。なぜなら、母親の実家が能登半島にあるので、物心ついたら、海に入ってたんですよね。そうやって海で遊びつつ、その専門の勉強をしようと大学に行き、卒業後も海の環境に関係することをやってきて、今では“地元の海が大切”っていう想いから、色々な活動をしていますけど、僕も年になってきたので、その想いや活動を繋いでくれる若者や子供たちに託していかないといけないと思っているんですね。やっぱり、海に子供たちの笑い声が響いてる状況になっていたらいいなとずっと思っているので、是非とも、それを実現させたいと思っています。」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 木村さんが行なっている、子供たちと一緒にアマモやワカメを育てる活動は、本当に素晴らしいアイデアですね。ワカメやアマモを育てることで東京湾もきれいになりますし、なにより、ワカメなどを自分で育てて食べることで、東京湾をより身近に感じることができます。まさに、いいことだらけの活動なのではないでしょうか。みなさんもぜひ海辺つくり研究会の今後の活動を、オフィシャルサイトなどでチェックしてみて下さい!

INFORMATION

NPO法人・海辺つくり研究会

 事務局長・木村尚さんが中心となって10数年前に設立したNPO法人・海辺つくり研究会は、東京湾とその沿岸をメイン・フィールドに、ワカメやアマモを子供達と一緒に育てる活動などを行なっています。
活動内容など、詳しく知りたい方は、オフィシャルサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. RED / TAYLOR SWIFT

M2. FUTURE CHILD / DEF TECH

M3. IT DON'T COME EASY / RINGO STARR

M4. 海 / SOUTHERN ALL STARS

M5. NOTHING'S GONNA CHANGE MY LOVE FOR YOU / GLENN MEDEIROS

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」