2013年2月23日

創刊当時、アウトドア=遊びのイメージはなかったんです。

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、酒井直人さんです。

酒井直人さん

 30年以上の歴史を誇る総合アウトドア雑誌「BE-PAL」は、日本のアウトドア文化に大きく貢献してきたメディアの一つです。そこで、今回はそんなBE-PALの編集長・酒井直人さんに、アウトドア・ムーブメントの変遷や、ご自身のアウトドア体験のお話などうかがいます。

男性はシャイ? 女性はアクティヴ?

●今週のゲストは、総合アウトドア雑誌・BE-PALの編集長、酒井直人さんです。よろしくお願いいたします。

「よろしくお願いいたします。」

●BE-PALの創刊は1981年なので、今年で32年目を迎えます。日本の総合アウトドア雑誌の中では、唯一無二の存在だと思います。

「唯一無二は大げさですが、総合アウトドア雑誌の中では頑張ってる方だと思います。BE-PALはアウトドアを始めようと思っている人に対して、自然の中で楽しい時間を過ごしてもらうための道具やノウハウなど、幅広く紹介しています。」

●私も毎月読ませていただいているのですが、内容が幅広くて、私のようなアウトドア初心者でもすごく楽しめる内容になっていますよね。

「雑誌を作る側も、毎回同じメンバーが製作していると、どうしてもハードルを上げてしまいがちになるので、そこをうまく抑えて、初めての人でも分かりやすい内容にすることを心がけています。」

●酒井さんは、何代目の編集長なんですか?

「7代目になります。」

●酒井さんは、入社してすぐにBE-PALを担当されたんですか?

「そうなんですよ。僕が入社して最初に配属されたのがBE-PAL編集部で、そこから“DIME”という情報誌に行って、その後に、新しい雑誌を作りたくて、“ラピタ”という雑誌を創刊して、その部署に10年ぐらいいたりしていました。なので、大きく分けると、BE-PAL→DIME→ラピタ→BE-PALという感じですね。」

●最初にBE-PALに配属になったときと、編集長になった今とでは、世の中のアウトドア事情は変わってきているんですか?

「そうですね。アウトドアは大きく変わりましたね。アウトドアの内容自体はそれほど変わっていないんですが、当時は“アウトドア=遊び”という感じではなかったですね。今だとアウトドアと聞くと、キャンプやボルダリングなどをイメージされるかと思いますが、創刊当時はアウトドアと遊びを直結している人はBE-PALの読者ぐらいでしたね。」

●では、いつごろからアウトドアという言葉が浸透し始めたんですか?

「BE-PALの読者以外だと、1980年代半ばから後半にかけて起きた“オートキャンプブーム”がキッカケとなって、一般的に浸透したんだと思います。」

●その前後で、アウトドアに対する認識が変わってきたんですね。一説では、1992年にブラジルのリオで行なわれた“地球サミット”がキッカケで自然や環境に対する意識が変わってきたと言われていますよね。

「それももちろんありますが、日本で限定すると、その少し前にバブルが崩壊していますし、さらにその前からBE-PALも関わっていた“カヌーイストによる長良川河口堰でのデモ”など、いくつかのムーヴメントがあったので、地球サミットよりも前から、そういう意識が高まっていたのではないかと思います。」

酒井直人さん

●そういった変遷の中で、BE-PALではどういったスタンスで対応していったんですか?

「BE-PALでは創刊から首尾一貫して、“自分たちが楽しいことをやって、それを提案していく”雑誌なので、基本的にはその路線は変わっていません。なので、環境問題も、有識者に意見をうかがうこともありますが、大上段に構えて語るのではなく、まず自分たちが遊んで、『自然の中で遊ぶことってすごく楽しんだ、だから自然は大事だ』と認識した人が、どんな形であれ、できる範囲での自然保護に繋がることをしてもらえればというスタンスで作ってきました。」

●BE-PALの読者の年齢層はどういった感じなんですか?

「創刊のころは20代がメインだったんですが、今は創刊からずっと読んでくださっている50〜60代もいますし、小学生ぐらいのお子さんをお持ちの男性の世代が、子供と遊ぶための入門書として読んでくれるパターンが多いですね。」

●最近では“山ガール”など、トレンドも女性よりになってたりして、今までにない流れがきてますよね。

「今の女性はすごくアクティブで、編集部に電話をかけてくる方って、女性の方が多いんですよ。例えば『来月屋久島に行きたいんだけど、一緒に行ってくれる人を紹介してくれない?』とか『富士山に登りたいんだけど、どこで何を買えばいいの?』といったお問い合わせがあったりするんですよね。男性の方ってシャイの方が多いので、そういう疑問があっても友達に聞いたりインターネットで調べたりして、問い合わせまでしないと思うので、そういう意味でも、女性はアクティブだなと思いますね。
 アウトドア業界はウェアを中心として、購買意欲のある女性向けに色をカラフルにしたり、機能性が高まっていたりしています。あと、登山に行くと、写真を撮ったりするじゃないですか。次の山に行ったときに、女性の方って、『同じウェアを着ていると恥ずかしい』という想いがある方もいるみたいなんですね。そういう方は、友達同士でアウターを交換したりするんですよ。それに対して、男性は同じものを着古していくカッコよさがあったりするんですよね。」

夜光虫とオーロラ

●酒井さんは、元からアウトドアが好きだったんですか?

「そうですね。僕の父は長野出身だったので、小さいころから川で魚を手づかみで取ったり、裏山に登ったり、冬にはスキーをしたりしていたので、好きだったと思いますが、学生時代はラグビーをずっとやっていたので、山岳部に入っていたというわけではないんですね。」

●BE-PALに所属されてから本格的に始めたという感じなんですね。

「でも、大学生のときにBE-PALを読んでいたので、テントを買って、家の庭で張って寝ていたりしていたので、BE-PAL予備軍であったのは間違いないです(笑)」

●(笑)。ということは、昔から興味があったんですね。

「そうですね。冒険とか大好きだったので、いつかやってみたいと思ってましたね。」

●実際にBE-PALの編集部に入って、取材でアウトドアをされるかと思いますが、誰かに習ったりしたんですか?

「たくさんの作家の方に習ってきましたね。例えば、僕がカヌーの担当だったときはカヌーイストの野田知佑さんに教わったりしましたね。そもそも、BE-PALのアウトドアって、誰かに教えるというよりは一緒に楽しんでいるうちに覚えていく感じなので、教わるというよりは遊んでいる感じですね。」

●野田さんと一緒にカヌーで遊ぶなんて、すごく贅沢ですよね!

「とはいえ、野田さんはそこまで敷居が高い人じゃないんで、遊びに行くと遊んでくれますよ(笑)」

●じゃあ、今度遊んでもらおうかな(笑)。それ以外にも、BE-PALの編集部の仲間だったり、他の作家の方と一緒に色々なところに遊びにいかれたりしたんですか?

「そうですね。BE-PALの取材中や取材後に遊んだりしていますが、それ以外にも、編集部のみんなとキャンプしにいったり、イベントもありますので、そのときにも編集部員とキャンプをしたり、焚き火を囲んで語ったりしています。」

●今まで行った中で印象に残った場所や出来事とかありますか?

「日本だと、取材で対馬にいったときなんですけど、対馬って内湾になっていて、夜になると、そこは電灯が全くないので、イカ釣りの船の明かりだけがある状態の中、カヌーで遊んだんですね。1時間半〜2時間ぐらい漕いでると、水面と空の感覚がなくなりましたね。それに、パドルで漕ぐと、夜光虫がパドルの形で光るんですよ。その様子に感動して、頭が抜けてしまった状態になりましたね。その体験は今でも忘れられないですね。」

●すごい体験ですね! お話だけでもその光景が浮かんできました!

「あれはもう一回体験したいですね。黒と銀の中に夜光虫の淡いグリーンが光っているだけの世界が、日本の旅の世界で忘れられないのと、海外ではオーロラがすごかったですね。特に、カナダのイエローナイフのオーロラは本当にすごかったですね。」

●どんな感じだったんですか?

「雪原に寝転んで見るんですけど、オーロラは360度出ている感じなので、全部を一度に見ることができないんですよ。そのときに『人間の視野って狭いな』って思いましたね。それに、音はしないんですが、金属的な音が耳の奥でしている感じがするんですよね。写真だとグリーンや赤といった単一の色をした、オーロラが止まっている瞬間の様子しか見ることができませんが、実際に見てみると、色々な色が変化しているんですよ。最初はすごく感動して見てたんですけど、それをずっと見てたら『これってCGなんじゃないか?』って思っちゃったんですよね(笑)。そう思う自分が、業界に毒されている感じがして嫌でしたね(笑)」

●編集者目線で見てしまったんですね(笑)

遊びながら道具やノウハウを学ぼう!

※続いて、防災という視点でアウトドアの道具や、野外体験の大事さについて語っていただきました。

「アウトドアグッズが震災時の防災用具として見直されましたし、火も暖を取ったり食べ物を温めたり調理をするためにも、使えるようになった方がいいということや、ランタンやロウソクなどで明かりを確保することができるだけでも、かなり安心度も変わってきますよね。特に大都市は、ライフラインに支障をきたすと、3日以上は止まってしまいますから、そういうときに、自分や大事な人を守るだけの道具やノウハウがあると、さらに安心感が高まるんじゃないでしょうか。」

●ただ、そのためには、その道具を使えるようになっておかないといけないですよね。

「そうですね。そのためには、防災訓練をするのも一つの手だと思いますが、キャンプをしながら実践してみると、より楽しくていいんじゃないでしょうか。」

●初めてテントの中で寝てみたときに思ったんですけど、テントの中って真っ暗じゃないですか。そのときに「電気がないって、こんなにも不便なことなんだ」ということに気づかされて、「アウトドアって学びが多いな」って思いました。

「明るさもそうですが、今の子供たちって火はボタン一つで点くものだと思っていますし、冗談みたいな話に思われるかもしれませんが、大学生になってもマッチを使ったことがない人とかいるらしいので、アウトドアを通じて、非日常の世界を体験できていたら、ちょっとしたことで焦ることがないと思いますし、焚き火ができなかったら、生死の境を分けることになると思ったら、そのぐらいはできるようになっておいた方がいいのかなと思いますね。」

●“火遊びはしちゃいけない”って子供に教えないといけないんですが、いずれは教えないといけないんですよね。

「火もそうですし、ナイフもそうですけど、危険な部分から目を背けるんじゃなくて、体験させながら、取り扱いと危険性の両方を教えていく方がいいと思います。」

●酒井さんにはお子さんがいるんですよね?

「はい。男の子が3人います。」

●そうすると、お子さんと焚き火をしたりするんですか?

「はい。子供たちは焚き火が大好きで、焚き火を見ている目が原始の目をしている感じがするんですよね。今の子供って、色々と忙しいじゃないですか。たまに焚き火をしてあげるといいなと思いますね。焚き火の中の薪をいじってたりすると、ずっと見てますね。」

●やり方を教えたりするんですか?

「もちろん、火の扱い方や危険性、消火の方法など、最初にちゃんと教えます。以前あったことなんですが、息子たちが一緒に学校から帰ってきたら誰もいなかったので、近くのおばあちゃん家にいったんですけど、おばあちゃん家も留守で家に入ることができなかったんですよ。その日は冬の寒い日だったので、家に焚き火台を置いてあるのを知っていたので、息子たちがそれを出してきて、庭で焚き火をしてたんですよ。しかも、お小遣いを出し合って、近所のスーパーでマシュマロを買ってきて、マシュマロを焼いて食べてたんですよ。そのときは、近所迷惑になるのと危ないことなので怒りましたが、同時に、たくましいなと思いましたね。」

●酒井さんのお子さんたちはワイルドに育ってるんですね!

「僕がキャンプの取材に行くと、焚き火の匂いをつけて帰ってくるんですよ。すると息子たちがその匂いを嗅いで『焚き火やってきたでしょ!? いいなぁ』って言ってくるんですよ(笑)」

●今時の子にしては、珍しいですね(笑)。逆に、酒井さんがお子さんから教わることってありますか?

「大人って、子供に色々なことをやらせたがったり、『ああじゃない・こうじゃない』って言っちゃったり、転ばぬ先の杖を用意するように、『危ない』とか言ってしまうじゃないですか。でも、キャンプや焚き火だと、じっと我慢して、子供のやることを見ている方がいいなと思いますね。失敗して分かることや危険なことが判断できますし、なにより、単純でも面白いことに子供が夢中になるんですよね。
 テレビゲームを禁止するのは簡単だと思いますが、それよりも、キャンプに連れていって焚き火をやらせたら、ゲームより面白いものがあるということに気づくと思うんですね。だから、僕の子供は長いこと焚き火をやらないと『焚き火やろうよ!』とか言ってくるんですよ(笑)。『今度の日曜日は焚き火で料理しようよ!』って提案してくるので、面白いなと思ってますね(笑)」

酒井直人さん

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 酒井編集長の息子さんたち、さすがBE-PAL編集長のお子さんですね! たくましい!! そして、今回は大人も子供も「体験する事の大切さ」を改めて教えていただきました。アウトドア体験はまだまだ少ない私なので、これからもっと色々なフィールドに出て、たくさんの経験を積みたいと思います。

INFORMATION

総合アウトドア雑誌『BE-PAL』

 30年以上の歴史を誇る総合アウトドア雑誌「BE-PAL」。3月9日に発売される4月号の特集は“アウトドアで体を鍛えよう”。登山やトレイルランニングなど、遊びながら体を鍛えるためのノウハウを紹介します。気になる方は是非チェックしてください。


東日本大震災・復興チャリティイベント『CYCLE AID JAPAN』

 “自転車で被災した各県を巡ることで、復興に繋げていきたい”という想いの元、スタートしたこのチャリティイベント。今回は岩手・宮城・福島の3県を走ります。このイベントにBE-PALも協力しています。

◎開催:6月1日(土)〜2日(日)、6月8日(土)〜9日(日)の2回
◎詳しい情報:CYCLE AID JAPANのホームページ


オフィシャルサイト

 その他、BE-PALのことをよく知りたい方は、BE-PALのホームページをご覧ください。

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今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1.  PRIDE(IN THE NAME OF LOVE)/ U2

M2. TAKE IT EASY / EAGLES

M3. BOOK OF DAYS / ENYA

M4. ワンダーフォーゲル / くるり

M5. あそぼう / ウルフルズ

M6. THROUGH THE FIRE / CHAKA KHAN

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」