2013年3月30日

森の音が聴こえる不思議なスピーカー“フォレストノーツ”

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、稲本正さんです。

稲本正さん

 この番組ではおなじみの稲本正さんが代表を務め、岐阜県の飛騨高山にあるオークヴィレッジは、木工芸を営む団体で、携帯ストラップなどの小物から大型の建造物までを作っています。創業当初から“100年かかって育った木は100年使えるものに”を合言葉に、持続可能な循環型社会を「木」という再生可能な資源で実現しようと提案。また、“子ども一人、ドングリ一粒”をモットーに、植林などを行なうNPO「ドングリの会」の活動も行なっています。そんなオークヴィレッジで開発・製造した不思議なスピーカー“フォレストノーツ”が話題になっています。見た目は空洞の木の箱、ところがそこから森の音が聴こえてくるんです。今週は稲本さんに、そのスピーカーのことや、森の再生活動のお話などうかがいます。

木の箱から森の音が聴こえる!?

●今週のゲストは、オークヴィレッジの代表、稲本正さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします。」

●今回はまず、先日発売されたスピーカー“フォレストノーツ”についてうかがっていきたいと思います。実は今、実物が私の前にあるんですが、形としては空洞のある四角い木の箱なんですが、これがスピーカーになるんですよね?

「そうなんですよ。」

●先ほど、その音を聞かせていただいたんですが、不思議ですよね。

「考えてみれば当たり前のことなんですが、バイオリンって、弦よりも箱から出る音の方が大きいから、そっちの音がみんなに聞こえるんですよ。弦だけだと大した音はしないんですよね。ピアノも、あの胴体から音が鳴っているからあれだけの音が聞こえるのであって、鍵盤を叩いた音って、そんなに大きくないんですよ。その原理で、スピーカーが“コーン”と呼ばれる薄い膜が前後に動かない限り、音が出ないと考えられていたものが、箱そのものが鳴れば、十分音が出るんですよ。でも、それをするためには、いい箱を作らないといけないんですけどね。」

●このフォレストノーツの音が鳴るシステムはどのようになっているんでしょうか?

「森の奥にマイクを設置して、それを有線で繋いで、近くに発信基地を設置して、そこから電波を発信するんですね。その電波をスマートフォンやタブレットPCなど、Bluetoothデバイスを搭載した機器で受信して、Bluetoothデバイスを通じて、フォレストノーツにその信号を送ると、音が出るという仕組みなんですね。」

●信号を受信して、この箱が振動するんですね?

「そうです。この箱の横に振動装置が入っていて、この装置が箱全体を振動させているんですよ。なので、箱が大きくなれば、その装置が大きくなるので、低音までしっかり出るようになるんですよね。ただ、そこで難しいところがあって、箱の振動を大きくしすぎると低音が強くなったりするし、特にこのスピーカーは木の振動なので、金属音がよくないんですよ。それに、ドラムみたいに、振動の強弱が激しい楽器を鳴らすと、飛び跳ねてしまって、音がちょっとおかしくなっちゃうことがあるんですよ。それらを総合すると、自然音が一番いいんですよね。
 鳥の声や虫の声、水の音や風の音とかが一番いいんだなって思いますね。木の箱の振動がそういう音を出しやすいんですよ。だから、このスピーカーの名前を“フォレストノーツ”、まさに“森のしらべを送ろう”ということになったんですよね。」

稲本正さん

●その森の音というのは、今の森の音を聴くことができる仕組みになっているんですよね?

「リアルタイムの音も聴くことができますし、アーカイブもあるんですよ。鳥って、すごく早起きで、明るくなったのとほぼ同時ぐらいから鳴き始めて、暑くなる日中になると休むから、鳴き声が少なくなるんですよね。川の音だと、オークヴィレッジの後ろにある森の中にある川では、今、雪解けなので、川の音がすごく聞こえるし、もう一つマイクを設置している宮崎県の諸塚村では今、ウグイスが来てるんですよ。うちの森ではセキレイが鳴き始めたりしているんですが、そういうことに注意しながら聴いていると、自然の変化が分かるんですよね。」

●その音を、リスナーの皆さんにも実際に聴いていただきたいので、ここで、アーカイブの音源を聴いていただこうと思います。

※放送では、アーカイブの音を聴いていただきました。

●何度聞いても、まるで自分が森の中にいるような、すごくリラックスした気持ちになりますね。

「これを既に買って、自分の家で使っている人がいるんですが、『これを聴いたら寝ちゃいました』っていう人が結構いますし、僕も、家の近くに川があるから、川の音を聞きながら寝る習慣がついてるんですよ。だから、東京に来ると、最初の日は寝られなかったりするんですよね。人間って慣れると寝られるんだけど、やっぱり、川の音を聞くと、その生活を39年続けてきたこともあって、すぐ寝られるんですよ。
 人間は、サルの遺伝子が97パーセントあるといわれているんで、森の音を聞くと落ち着きますね。音楽でも落ち着くものはありますよ。でも、あの坂本龍一さんでさえ『自然の音には勝てない』と言ったんですよね。もちろん、面白さを作り出すのは上手だけど、癒しといった面では、自然は強いですね。」

●癒されたい人には、ピッタリな商品ですね!

“五感を震わせる”

※なぜこのスピーカーを作ろうと思ったのでしょうか?

「元々、“五感を震わせる”をコンセプトに、最初は“木”で色々作ってきたんですよ。そこから“香り”をテーマにアロマなどを作り始めたんですね。そうすると、森に行ったような気分になれるんですよね。そんなアロマを作っているころから『森の音をいい形で聴くことができればいいな』と思ってたんですよ。そんなとき、ケンウッドに柳沼っていう人に出会って『それ、できるかもしれないです』って言い出すんですよ! それで作り始めたんですが、発売までに3年かかったんですよね。
 やっぱり“物ができる”のと“売り出す”のは違うんですよね。最初、すごく小さいものでも云十万になるってことで、めちゃくちゃ高くなったんですよ! それだと誰も買わないじゃないですか。そこから頑張って、59,800円まで値段を下げたんですよ。それに、音もずっと配信するのは難しいことだったんですよね。マイクをあまりにも高いところに置いてしまうと、風の音しか聴こえなくなるし、飛行機の音もかなり拾ったりするんですよ。だからといって、あまりにも低くしてしまうと、森の近くには谷川があるので、谷川の音しか聴こえないんですね。この問題に対して、世界中の自然の音を録音することを研究している東京藝術大学の川崎先生によると、下の音から適当な距離にマイクを置いて、水の音を拾うのがいいんだそうです。それと、“クマなどの動物に襲われない”っていうのも大事なんですよね。なので、動物に教われない程度に、鳥の鳴き声が聴こえるところにマイクを2つ設置して、うまくミックスして音を配信しているんですね。」

●そういう色々な工夫があって、音が配信されているんですね。

「やっぱり、“聴いた人が、その森に行った気持ちになってもらないといけない”じゃないですか。だから、そういう風にしたんです。」

稲本正さん

●スピーカーの形は最初からこの正方形だったんですか?

「この形は柳沼君が考えたんだけど、木でできてるじゃないですか。大きさは2.5リットルと30リットルがあるんですが、小さい方の2.5リットルというのは、“木が1時間に作り出す酸素の量”なんですね。もう一つの30リットルは、“木が1日に作り出す酸素の量”なんですよ。こうやって、人と木を繋いで、“森を大切にしよう”という気持ちを表しているんですね。」

●今、目の前にあるのは2.5リットルの方なので、この大きさが1日に作り出す酸素の量なんですね!

「私たちはこれで生きているんですよ! 人間は、この箱の15〜16個分の酸素を1時間で使っているんですね。贅沢ですよね! それに、文明的な生活をしようとすると、電気使ったりするじゃないですか。そうすると、この箱の300個分の酸素を使うんですよ。そう考えると、人間ってすごく贅沢な生き方をしてますよね。それなのに、私たちは植物や木がずっと働いて、酸素を作ってくれないと生きていけないんですよね。」

●空気って、目に見えないので、こういう風に形になると、実感できますね。

「僕はこれを“環境教育ツール”と呼んでいるんですけど、子供たちに環境のことを教えるには、すごくピッタリなものなんですよ。『これは、本当の森の音ですよ。この箱の大きさが1本の木が1時間に作れる酸素の量ですよ。これが15〜16個ないと、人は呼吸できないんですよ』って教えられると、都会に住んでいたとしても、実感できるじゃないですか。」

●本当に五感を使って、感じることができますね!

子供に元気になってほしい

●オークヴィレッジは今年の夏で40周年を迎えるんですよね?

「そうなんですよ! 僕もすっかり年を取ったねぇ(笑)。僕たちが今のところに住み始めたのが、一時期話題になった“列島改造論”の後、オイルショックがきて、列島改造論で別荘などを作ってきた会社がどんどん倒産していった後で、そのときは何もない荒地だったんですよ。そこから木を植え始めたので、家の周りにある木はほとんど38歳以上なんですね。この木が意外と大きくなって、昔は木が全然なかったのに、今は大きな木がいっぱいあるんですよね。」

●ということは、40年ぐらいで森を作り出すことはできるんですね!

「できますね。あの俳優の菅原文太さんが途中から隣に住み始めて、20年ぐらい一緒だったんですけど、彼も一生懸命手入れをしてましたね。木が育ってくると、木と木がぶつかったりするじゃないですか。そういったときには間伐をしたりしていたので、里山としては一番だったと誇れますね。僕の息子は中学校から海外に行って、帰ってきたときに、もみの木を鉢ごと捨てたんですけど、今では、その木がものすごく大きくなってるんですよ。」

●それだと、クリスマスの時期にはいいですね! 本当に40年の間に色々あったんですね。

「昔は、遠くからでも家が見えたんですけど、今はもう森で見えなくなってますね。」

●40周年ということで、一つの区切りを迎えたかと思いますが、今後はどういった活動をしていきますか?

「まず、“子供に元気になってほしい”って思ってるんですね。色々な種類の積み木や、“森の合唱団”という、同じ長さの木なのに、叩くとドレミが出る楽器とかを作ったりしてきたんですけど、今度は“子供イス”を作ろうとしてるんですね。能登半島の海にやぐらを立てて、ボラが集まってくるのをひたすら待って釣る“ボラ待ちやぐら”っていうのがあるんですけど、それを冥王星を発見したパーシバル・ローウェルという天文学者が絶賛してたんですね。その“ボラ待ちやぐら”をテーマに、子供がテーブルを見ていたら、食べ物が来るかどうかを待っているぐらいの子供イスを作りたいなと思っているんですよね(笑)。
 あと、今うちで一番仕事が多いのが、昔うちのテーブルやイスを買った人が、子供が家を出るときに持っていったから、夫婦のための小さめのものを買うっていうことなんですよね。または、結婚して、ここの家具を購入したことで、楽しい夫婦生活を何十年も過ごしたから、子供の結婚のお祝いに買うっていう人も結構多いですね。そういうことも、もっとやっていきたいですね。」

●人生と共に家具も一緒にあるっていうのは、いいですね!

「今ではアロマもあるし、フォレストノーツもあるから、“五感を震わせる”をコンセプトに、五感全体で感じてほしいですね。そうすると、森に行きたくなるじゃないですか。実際に、このスピーカーから森の音が流れてくると、谷川の風景が思い浮かんでくるんですよ。一回でもいい森に行ったことがある人は、森の音を聴くだけで、その森の風景が浮かんでくるんですよ。そうすることで、森の保全にも繋がるので、そういうことをどんどんやっていきたいと思ってますね。」


(この他の稲本正さんのインタビューもご覧下さい)

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 都会にいると忘れてしまいがちですが、新しい季節の訪れを音で感じることって、結構ありますよね。春に聴こえてくる小鳥のさえずり、秋の訪れとともに鳴き始める虫たちの声。自然には四季折々の音がある。フォレストノーツは、そんな大切なことも思い出させてくれるのではないでしょうか。

INFORMATION

フォレストノーツ

『フォレストノーツ』

 今回ご紹介したスピーカー「フォレストノーツ」で現在、リアルタイムで聴ける森の音は、岐阜県・飛騨高山と宮崎県・諸塚村の2カ所。録音された音源も同じく2カ所の音。今後はもっと増やしていく予定だそうです。5月6日まで注文すると、購入特典があるそうです。

◎価格:30リットルタイプ・315,000円、2.5リットルタイプ・59,800円
(通信機、バッテリー、アンプ、木に振動を伝えて音を出すエキサイターが内蔵)

オフィシャルサイト

 オークヴィレッジでは、日本産アロマ『結聲』を含め、様々な製品を開発・製造しています。興味がある方は、オフィシャルサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. MELODY FAIR / BEE GEES

M2. LOVIN' YOU / MINNIE RIPERTON

M3. THE SOUND OF SILENCE / SIMON & GARFUNKEL

M4. BANG THE DRUM ALL DAY / TODD RUNDGREN

M5. OVERJOYED / STEVIE WONDER

M6. THE MEMORY OF TREES / ENYA

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」