2013年5月18日

実は、植物って戦略家なんです!

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、稲垣栄洋さんです。

稲垣栄洋さん写真

 静岡県・農林技術研究所の農学博士・稲垣栄洋さんは、植物の専門家で、雑草や野菜についてのとても面白い本をたくさん出してらっしゃいます。そんな稲垣さんの最新刊が「植物の不思議な生き方」。そこで今回は、本当に不思議で仕方ない、植物の生き方に迫っていきます。

植物の生き方には“無駄がない”

※稲垣さんが先頃出された本は「植物の不思議な生き方」。このタイトルには、なにかこだわりがあるのでしょうか。

「このタイトルは私が考えたんですが、一番こだわったのは“生き方”という部分ですね。実は、植物の生き方を見ると、したたかだったり、戦略的だったり、苦労していたりするので、非常に面白いんですよね。私としては、『植物には、そういう面白さもあるんだよ』ということを是非とも知ってもらいたいと思っています。」

●植物って、したたかなんですね?

「実はそうなんですよね。厳しい自然を生き抜くのは植物も同じなので、野生の植物は特にですが、非常にしたたかな生き方をしていると思います。」

●では早速、そのしたたかな生き方についてうかがっていきたいと思います。私たちが身近な植物を見ると、色や形が様々なんですが、それにはどういった意味があるんですか?

「植物の生き方を見ていて一番思うことは、“無駄がない”んですよね。『この花はどうしてこういう色をしているんだろう?』とか『この花はどうしてこういう形をしているんだろう?』とか『この花の種はどうしてこういう形で、この大きさなんだろう?』って疑問に思うと思いますが、その全てに、彼らの生き抜くための合理的な知恵が込められているんですよね。私たちが何気なく見ると『色々な花があるな』って思う程度なんですが、その形は、生息している環境に適応した形や色になっているんですよね。」

●例えば、○○色だったら、こういう意味があるっていうのを、教えてもらえますか?

「花というのは、人間を喜ばせるために咲いているわけではなく、ハチやアブといった虫を呼び寄せて、花粉を運んでもらうために咲いているんですね。花粉を運んでもらうことで、他の花に種を付けるんです。なので、花の色や形というのは『虫をどうやって呼び寄せようか』という工夫に満ちているんですね。私たちの世界でいうと、お店がお客さんに来てもらうような看板を出したり宣伝をしたりすると思いますが、そういうことを、花たちも工夫をして虫たちを呼んでいるんですね。
 春先に黄色い花が多いのは、アブの仲間は黄色が好きだからなんですね。アブの仲間って、比較的温度の低い時期から活動を始めます。なので、春先に一番最初に行動を始めるのはアブなんです。そのアブが好きな色は黄色なので、春に咲く花は黄色で、アブを呼び寄せているんですよね。」

●本当に理にかなってますね!

「ただ、アブって花粉を運んでもらうパートナーとしては問題があるんですよ。アブには失礼な言い方ですが、大好きな黄色の花であれば、ところ構わず飛んでいってしまうんですよね。これって、植物にとっていいことではないんですよ。なぜなら、植物というのは、その花粉を同じ種類の植物のところに運んでもらって初めて種ができるんですよ。例えば、タンポポの花粉を、同じ黄色の花とはいえ、菜の花のところに運ばれてしまっては困りますよね? なので、アブは花粉を運んでもらうパートナーとしては、あまりよくはないんですね。」

●では、どうすればいいんですか!?

「どうすればいいと思いますか?」

●できるだけ自分と同じところに行ってほしいですよね。

「そこで考えたのが、“集まって咲く”ことだったんです。集まって咲いていれば、アブはすぐ近くの黄色の花のところに行きますよね。なので、タンポポが集まって咲いていれば、アブが手当たり次第に行ったとしても、タンポポの花粉が別のタンポポに運ばれるようになるんですね。ということで、春の黄色い花って集まって咲くので、お花畑のように咲くんですよ。そういう風に咲くのは、彼らの一つの戦略なんですよね。」

●よく考えてますね

「何気なく咲いているように見えますが、その生き方には厳しい自然界を生き抜く知恵や工夫が必ず備わっているんですよ。逆をいえば、備わっている植物だけが身の回りにあるということなんですね。」

花の形にも全て意味がある!

※植物は自分の子孫を残すために虫を巧みに利用していますが、中でもミツバチは大事なパートナーなんだそうです。それはどうしてなんでしょうか?

「どうしてかというと、ミツバチは同じ種類の花を選んで花粉を届ける能力を持ってるんですね。それって、植物にとって非常に都合がいいことですよね。菜の花のように集まって咲いていなくても、ミツバチが選んで行ってくれるので、非常に嬉しいお客さんなんですよ。」

●それは是非来てほしいですね!

「なので、色々な花がミツバチに来てもらうために、たくさんの蜜を用意しているんですね。レンゲの花の蜜を吸って遊んだことがある人もいるかもしれませんが、ああいう風に蜜をたくさん持っているんですよ。ただ、問題があるんです。それだけ密があると、ミツバチ以外の虫も来てしまいますよね? でも、花としてはミツバチだけに来てほしいんですよ。普通のお店なら『あなたはお断りです』と言えるかもしれませんが、花はできないですよね。どうすればいいでしょうか?」

●お店なら、敷居を高くして“一見さんお断り”みたいな感じにしますよね。

「それと同じような発想かもしれませんね! 高級なお店って、気軽に入れる感じじゃないですよね。それと同じような感じで、タンポポのような黄色い花って、描きやすいシンプルな構造をしているんですが、スミレのような紫色の花は複雑な形をしていて、入りにくい構造になっているんです。」

●確かに、曲線を描いているような感じですよね。

「特徴的なのは、花が細長くて、一番奥に蜜を隠しているんですよ。そうなると、一番奥まで蜜を取りにいかないといけないんですよ。ただ、奥は細くなっているので、“後ずさり”しないと戻れないんですね。昆虫って実は、この“後ずさり”が苦手なんですよ。その“後ずさり”を得意としているのが、ミツバチなんですよ。なので、奥深くに蜜を隠すことによって、ミツバチだけが奥までいって、蜜を取って、後ずさりして戻っていくんですね。そういうのが基本的な流れです。
 あと、紫色の花は花びらに色々な模様があるのも特徴的ですね。その模様はなにかというと、“ガイドライン”と呼ばれているんですが、蜜のありかを示すための目印のようなものになっているんですね。紫色の花をよく見ると、花びらの一枚にそういう模様があることがよくありますね。」

稲垣栄洋さん写真

●私たちが「キレイな模様があるな」と思っていたものも、全て意味があるということなんですね。

「そうですね。そのガイドラインの秘密を解いて、蜜の入り口を探し当てられた虫だけが、蜜を取ることができるんですよね。そういう風にミツバチの知恵を試しているんですよね。頭のいい昆虫だけが蜜にたどり着けるように、秘密の暗号のようなものを花びらに託しているんですね。」

●それは面白いですね! 今度じっくり見てみます!

「もし、その仕組みが分かって蜜にたどり着いたミツバチにとって、同じ仕組みで蜜にたどり着ける花に行きたいと思いませんか? また新たな謎を解くより、同じ目印の花のところに行きたくなりますよね?」

●「同じおいしい蜜が吸える!」と思いますよね!

「行き慣れたお店みたいに、かなり行きやすくなりますよね? なので、同じ仕組みで蜜にたどり着ける花のところにミツバチは行くんですよね。つまり、ミツバチが同じ種類の花のところを回っているのも、実は紫色の花が考えた戦略なんですよね。」

●まんまと引っかかっているんですね!

芽が出たその環境で生きていくしかない

※先ほど、植物はミツバチを巧みに使っているというお話がありましたが、他にはどんな昆虫を利用しているのでしょうか。

「植物がよく利用している身近な昆虫だと“アリ”がいます。動けない植物にとって、種の遠くに運ぶことが、移動できる唯一のチャンスなんですね。なので、色々な植物が種を遠くに運ぶための工夫をしています。例えば、タンポポが綿毛を作って風に乗って飛ばすというのもそうですし、服にくっつく“ひっつき虫”って言われているものがあると思いますが、あれも人の服などにくっついて遠くに運ぼうとする植物の作戦なんですね。そういう中で、アリに運んでもらうという種類がいます。身近なところだとスミレなどがそうですね。
 スミレは、種に“エライオソーム”という、栄養がたくさん入ったゼリー状のものをくっつけるんですね。その物質はアリのエサとなるので、アリは『エサを見つけた!』と思って、スミレの種を取って、自分の巣へ持ち帰ります。なので、スミレの種はアリの巣の中に一度入ります。でも、そのままだと困りますよね? そのまま芽を出すわけにはいかないじゃないですか。ところが、エサを食べ終わった残りの種って、アリにとってゴミになるんですよね。アリは働き者なので、巣の中をキレイにするために、食べ終わったエサが付いていた種を巣の外に捨てにいくんですね。アリのエサのゴミ捨て場のようなところがあって、そこに種を捨てていきます。そういう風に一度巣へ持ち帰り、食べ終わった後、外に捨てにいくというアリの働きによって、スミレの種は遠くに運ばれていくことになるんですね。
 なので、都会のような土が少ないところだと、わざわざ土のあるところへ行ってくれて、撒いてくれている感じになるんですね。スミレって野原にあるイメージがありますが、東京のような街中でも、コンクリートの割れ目だったり、壁のコンクリートブロックの隙間のようなところに生えてたりするんでうすよね。この前、渋谷駅からスペイン坂に行く途中にスミレが生えてましたね。それは、アリが土のあるところを選んで、撒いているからなんですね。なので、スミレはアリとパートナーを組んでいることで、街中にも適応した野草となっているんですよね。」

●じゃあ、スミレを都会で見つけたら、「アリがここまで運んできたんだな」って思えるんですね。

「そうですね。そういう工夫があるということですね。」

●環境に適応しているというか、工夫がすごいですね。

「植物は動けないので、自分が生えている環境を受け入れるしかないんですよ。なので、その環境の中でどうやって成功するかといったところに力を注ぐんですね。それが色々な知恵や工夫になっているんだと思います。私たちも含めて動物は動けるので、少しでも環境がよくないと、『もっといいところがあるんじゃないか?』と追い求めたりしますが、植物は種が落ち、芽が出たその場所で生きていくしかないんですね。そういう風に“逃げられない”ことが、植物の色々な知恵や工夫に繋がっている気がしますね。」

●私たちが見ていると、そこに静かにたたずんでいるだけのように見えるんですけどね。

「非常に穏やかで、静かな世界のように見えますが、実はそこにはダイナミックで、どの植物も一生懸命生きているという世界があるんですよ。そこがすごく面白いですよね。」

雑草は踏まれると立ち上がれない!?

※実は、稲垣さんは“みちくさ研究家”という肩書きもあるんです。

「はい。自分で“みちくさ研究家”と言っています。周りの草を見ながら歩くのが好きというのもありますし、自分の人生を振り返ると、あまり一直線に進んでいるわけではないので、“人生もみちくさ食いながら、のんびりいこう”という意味も込めて、自称ですが、そう言っています。周りに気をつけて見ていると、銀座や新宿、渋谷といった、雑草が生えていないんじゃないかと思うようなところにも、野草があったりするんですよね。この前銀座を歩いているときに“春の七草”のうち三つぐらいはありましたね。なので、道端の植物を見ながら歩くというのも、たまにはいいかもしれませんね。例えば、雑草というと、踏まれても踏まれても立ち上がるイメージがありませんか?」

●あります! 「雑草のように強く生きろ!」ってよく言うじゃないですか。

「『雑草みたいに頑張れ!』って言われますよね? でも、実際は、踏まれても立ち上がるということはあまりないんですよね。“踏まれたら立ち上がらない”っていうのが雑草の戦略だと思いますね。雑草は、踏まれながら、どうやって生きようかと考えるんですね。“オオバコ”という雑草があるんですが、この雑草はよく踏まれるところに生えているんですね。そのオオバコの種は、水に入れるとゼリー状の物質を出して、すごくくっつきやすい種になるんですね。それを私たち人間が踏むと、靴の裏にその種がくっつきます。そうやって、オオバコの種が運ばれるんですね。
 タンポポが綿毛を作って、風に乗せて種を運んだり、スミレがアリに運ばせたりするように、オオバコは踏まれることによって、種を遠くに運んでいるんですね。なので、オオバコにしてみれば、踏まれることは耐えることでも我慢することでもないんですね。もう、踏まれたくて仕方ないんですよね。踏まれることで種を運んでくれるんですから、『どうぞ踏んでください! どうか踏んでくれ!』って思っているんでしょうね(笑)。もちろん、踏まれることは、植物にとってあまりいいことではありませんが、そういうマイナスの部分をプラスに変えることによって、オオバコは成功しているんですね。
 先ほど、銀座に春の七草のうち三つがあったという話をしましたが、その中の一つに“ハコベ”という草があったんですね。このハコベの種はギザギザしていて、靴の裏にくっつきやすいような構造になっているんですね。なので、春の七草に唄われるような、野に咲くハコベが東京のど真ん中の繁華街でたくさん見られるというのも、恐らく皆さんの靴の裏にくっついて運ばれているからなんですね。そういった感じで、踏まれることで成功している植物の一種だと思います。」

●そう考えると、私たちも虫たちのように、植物の戦略にはまっている可能性があるんですね?

「そうかもしれませんね。植物にまんまと利用されていたかもしれないです。『踏んづけてしまって、かわいそうなことしちゃったな』って思っていたら、実はそれによって、種を運ばされていたんですからね(笑)」

稲垣栄洋さん写真

●(笑)。そういうことをうかがうと、植物から学ぶことって、たくさんありますね!

「そうですね。植物の無駄のない行動や逆境をプラスに変えること、困難を克服する力など、植物の生き方から学ぶことは多いなと思いますね。植物の不思議な世界って、決してジャングルとかヒマラヤの奥地だけにあるわけじゃなく、私たちの足元にも不思議なことってあるんですよね。皆さんの日々の通勤途中や買い物に行く途中などにも、自然界の不思議があると思います。私も色々な研究をしたいと思いますが、皆さんも日常生活の中で自然の不思議や謎を感じてもらえるといいんじゃないかと思いますね。」

●私も帰り道、道に咲いているタンポポの生き方に注目したいと思います!

「是非、踏んで帰っていただければと思います(笑)」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 稲垣さんもおっしゃっていましたが、私たちの身近にも自然の不思議はたくさんあるんですね。花の形や色に注目してみたり、そこにどんな虫がいるのか観察してみたりするだけでも、不思議なことをたくさん感じることができそうですね。私もこの前、家の近くにコンクリートの隙間からたくましく生えているたんぽぽを見つけたので、今度じっくり観察してみたいと思います。

INFORMATION

「植物の不思議な生き方」

新刊「植物の不思議な生き方

 朝日文庫/定価651円

 稲垣さんの新刊となるこの本には、乾燥に強い植物のシステムや昆虫を利用するための巧みな戦術、そして花の色に隠された秘密等々、あの手この手で生き残り、分布域を広げていこうとする植物の生き方が、分かりやすく面白く書かれている一冊です。読んでいくうちに、植物の見方が変わるかもしれませんよ!

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. DIRTY FUNK / STEVE APPLETON

M2. LIFE IS A FLOWER / ACE OF BASE

M3. WILDFLOWER / SUPERFLY

M4. HEARTBEAT / ASWAD

M5. DANDELION / RIP SLYME

M6. 歩いて帰ろう / 斉藤和義

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」