2013年6月8日

山を続けていれば、新しい人生が開けるよ。

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、岩崎元郎さんです。

岩崎元郎さん写真

 登山インストラクターの岩崎元郎さんは無名山塾を主宰して32年。本格的な登山教室や講習会から、初心者でも気軽に参加できる遠足のようなツアーまで、多くの登山愛好家を山にいざなう、幅広い活動を行なってらっしゃいます。現在も国内の山々はもちろん、海外の山にも積極的に出かけ、山の魅力や山登りの楽しさを発信。その一方で、登山の指導者として、山の危険や危機管理の大切さも伝えてらっしゃいます。今回はそんな岩崎さんに、登山を始めたころのお話や、山の心得などうかがいます。

キャラバンシューズが登山のキッカケ

●今回のゲストは、登山インストラクターの岩崎元郎さんです。よろしくお願いいたします。

「よろしくお願いいたします。」

●岩崎さんが初めて登った山は、いつごろで、どんな山だったんですか?

「中学1年生のときに、『背が高くなるから』と言われて、バスケットボール部に入ったんですが、すぐに退部してしまいました。中学2年のときに赤胴鈴之助が流行っていた影響で、剣道部に入ったんですが、面をもらうと後頭部に入ってクラクラするので、すぐ辞めました。そして、中学3年生のときに荻村という卓球選手が世界大会で優勝したので、日本が世界一だったこともあって、卓球部に入ったんですが、ネットに当たって、ネット際に落ちた球が取れなかったので一生懸命やらずに高校までやっていったんですね。そのときに、クラスメイトからキャンプに誘われて、河口湖にキャンプに行ったんですよ。そのときは、僕たちはバスケットシューズを履いていました。
 実は、昭和31年に、世界で14山しかない8,000メートル峰のうちの1つであるマナスル山が日本隊によって登頂されたんですね。今ではマナスルのベースキャンプまでヘリで行けますが、昔は1ヶ月ぐらいかかっていたらしいんですよ。そうなると、運動靴じゃすぐ壊れるし、登山靴じゃ足を痛めてしまいますよね。それで生まれたのが“キャラバンシューズ”なんです。それが昭和35年のことなんですが、マナスル山登頂の影響で、空前の登山ブームが起きて、若者はみんな山に登ったんですが、初心者はみんなキャラバンシューズを履いて登ったんですよ。でも、僕らはまだバスケットシューズだったんで、『いつか、あのカッコいいキャラバンシューズを履いて、山に登りたい』と思ったのが、山に登り始めるキッカケになったんですよね。」

●キャラバンシューズがあったから、山に登ろうと思ったんですね! その後、キャラバンシューズを履いて、山に登ったんですよね?

「はい。高校1年の秋に貯めたお小遣いでキャラバンシューズを買って、高校2年の5月から山登りを始めました。初めて登った山は奥多摩です。全部自分で計画を立てていったんですが、友達と2人だけだったので、すごく怖くて心細かったんですが、当時あった営林署の小屋があって、そこに行ってみたら早稲田大学の学生さんたちがいて、『君たち、どこ行くの?』って聞いてきたので、『雲取山に行きます!』と答えたら『すごいねー!』って言ってくださったんですが、すごく不安だったんで、そのお兄さんたちに『一緒に行っていいですか?』ってお願いしたんですね。彼らは雲取山に行く途中にある天祖山までだったので、そこまで一緒に行ったんですが、今思うと、初めての登山なのに、よくそんなところに行ったなと思いますね。未だに自分自身で感動してます。」

●そのときからずっと、登山に飽きることはありませんか?

「飽きることはないですね。ただ、23歳ぐらいのとき、僕らの同世代である長谷川恒男さんなど、有名な登山家がいっぱいいて、『とてもじゃないけど、僕が彼らに勝てるはずがない』と思ったんですね。僕は20歳のときに父が亡くなったんですが、その父親代わりとして、父親が仲良くしていた友達のところに、母と一緒に年に1回遊びに行っていたんですが、23歳のときに『これ以上、登山はできそうにないから、そろそろ止めて、何か他のことをやろうと思っているんだ』と、その人に相談をしたら、『山を続けていたら、また新しい人生が開けるよ』と言ってくださったんですよ。この言葉は胸に突き刺さりましたね。その瞬間、他のことをやろうという気持ちは吹っ飛んで、それ以来、今日まで登山をずっと続けています。」

それぞれの山には、それぞれの雰囲気がある

※16才から山登りをはじめた岩崎さんには、転機となった登山があったそうなんです。それはどんな登山だったのでしょうか? そして、68才になった岩崎さんですが、最近はどんな山に登っているんでしょうか?

岩崎元郎さん写真

「1981年の3月半ばから5月半ばぐらいまでの2ヶ月間、ネパールに初めて行きました。ただ、カルチャーショックで登山には失敗しました(笑)。そのころの日本は高度経済成長時代で、一生懸命働いて、お金を稼ぐという時代だったんですが、ネパールに行ったら、貧しくてもみんなが明るく楽しく暮らしているんですよ。そこで『あんなに一生懸命働いてお金を稼ぐより、もう少し自分がやりたいことをやった方がいいんじゃないか?』と思って、日本に帰国後、会社を辞めて、“無名山塾”を作りました。」

●岩崎さんにとって、ネパールは重要な場所なんですね!

「そこからネパールが大好きになって、ここ数年は毎年のように行ってます。特に、アンナプルナ・エリアが好きなので、今年もまずそこに行って“ラリグラス”というネパールの国花が満開に咲いているのを見ながら、“タトパニ”というネパールの温泉に入ってきました。とても楽しかったですね。
 そして、今年4月に台湾に行ってきたんですが、あそこは3,000メートルを越える山が200以上あるんですよ。日本は20ぐらいなので、その凄さが分かるかと思いますが、台湾には“台湾百岳”という、日本百名山みたいなものがあるんですが、それを全て登るわけにはいかないので、飛行機に乗れるうちに、その中から5つを選んだ“台湾五岳”を目指そうということで、今年は“南湖大山”に登ってきました。5月に、数年前に岸壁に登山ルートができたボルネオ島のキナバル山に行ってきました。ボルネオだから、毎日のようにスコールがあるんですよ。でも、運がいいことに、滞在中スコールにあうことなく登ってきました。」

●今話をうかがっただけでも、色々な山の話が出てきましたが、それぞれの国の山の特徴があると思いますが、どうなんですか?

「やっぱり、それぞれの雰囲気が違いますよね。キナバル山は世界遺産になっているぐらいの大きい花崗岩の塊ですし、台湾は僕が大好きな南アルプスをさらに大きくしたような山なんですよ。特に南湖大山は、深田久弥さんが日本百名山を“山の品格・歴史・個性”という3つの条件で選定したんですが、その“品のある山”だと思うんですね。『山の品って何だ?』と聞かれると困るんですが(笑)、南湖大山に登ったら『いい山だ、品のある山だ!』と僕は感じましたね。」

山は危険な側面もある

※富士山の世界遺産認定間近ということで、富士登山を計画されている方も多いかと思います。そこで、岩崎さんに、富士山に登るときの心得をうかがいました。

岩崎元郎さん写真

「富士山って、3,776メートルあるじゃないですか。この高さというのは、すごい高さなんですよ。日本で2番目に高い山というのは、南アルプスの北岳で3,193メートルなんですよ。ちなみに、高尾山は599メートルなので、北岳に高尾山を乗せると富士山と同じぐらいの高さになるんですよ。そう考えると、すごく高い山なので、もちろん高山病の心配があるんですよね。
 高度が100メートル上がれば、気温は0.6度下がるんです。なので、ざっくりとした計算ですが、富士山の高さを4,000メートルとすると、24度下がるんですね。例えば、東京が35度の真夏日だとしたら、富士山の頂上は24度低いということになります。それに加えて、風速1メートルで、体感温度はマイナス1度なんですよ。ということは、富士山の頂上で、天候が悪く、風速10メートルぐらいの風が吹くと、体感温度は0度に近くなるんですよね。そうなってくると、低体温症になってもおかしくないんです。なので、富士山を登るときは、十分に注意してほしいと思うんですが、富士山を登ろうとする方って、どうも“登山”という認識がないような気がするんですよね。」

●確かに、そういう印象がありますね。「みんなが行っているから、私も行けるんじゃないかな」って思ってしまうところがあります。

「そうなんですよね。ちゃんと道具を揃えて、速乾性のある服を着て、しっかりとしたトレッキングシューズを履いて、クオリティの高い雨具を用意してから登ってくれればいいんですが、去年の夏にもかなり見ましたが、ジーンズに運動靴、ビニール製のカッパで登ってる方が多いんですよね。僕が『登山って危険なんだよ』って言っても『分かってますよ』って言ってくるんですよね。それを聞いていつも『分かってねぇだろ!』って言いたくなるんですよ。でも、直接言うわけにはいかないので、僕としては、色々な教室を開いて、無料で学べる機会を作って、少しでも山岳遭難事故が減ればいいなと思っています。」

●その活動の一環が、岩崎さんが理事長を務めている“日本登山インストラクターズ協会”なんですね?

「そうですね。この協会で、そういった活動を具体的にやっていきます。既に6〜7月の計画はできていますし、僕自身、68歳になったので、あと何年ぐらい動けるか分かりませんが、少なくとも人生の最終コーナーに入っていると思いますので、その最終コーナーを使って、安心登山のアピールをしていきたいと思っています。ここまでの人生、楽しませてくれた山に対する最後のご奉公にしようと思っています。」

(この他の岩崎元郎さんのインタビューもご覧下さい)

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 今回、岩崎さんには登山のお話をたくさんうかがいましたが、その中で、“登山の魅力”についてうかがったところ、“無心になれる事”だとおっしゃってくださいました。私もそこまで高い山は登ったことはないのですが、確かに、登っている時は一歩一歩と前に進む事に集中することができて、余計な雑念が取り払われ、心が一つになった気がします。これから本格的な登山シーズン、是非、皆さんも安全に気をつけて、楽しい山登りを満喫してみてはいかがでしょうか?

INFORMATION

無名山塾

 岩崎さんが主宰している「無名山塾」では、登山教室・講習会・登山ツアーなど定期的に行なってらっしゃいます。また、アルパイン・ツアーサービスと一緒に「岩崎さんと行く“地球を遠足”」シリーズという海外ツアーも実施中です。詳しくは、「無名山塾」のオフィシャルサイトをご覧ください。

日本登山インストラクターズ協会

 今回のお話にも出てきた「日本登山インストラクターズ協会」では、自立した登山者の育成、登山インストラクターの養成、そして安心登山のアピールを目的に、今年4月から本格的な活動をスタートさせています。詳しくは日本登山インストラクターズ協会のホームページをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. JOHNNY B. GOODE / CHUCK BERRY

M2. AIN'T NO MOUNTAIN HIGH ENOUGH / MARVIN GAYE & TAMMI TERRELL

M3. KEEP ON LIVING / BOBIN

M4. L-O-V-E / NAT KING COLE

M5. STAND BY ME / OASIS

M6. TOP OF THE WORLD / CARPENTERS

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」