2014年7月19日

カリフォルニア・シェラネバダ山麓に暮らすハープ奏者、
古佐小基史「音楽と自然はつながっています」

今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、古佐小基史こさこもとしさんです。

古佐小基史さん

 ハープ奏者・作曲家・即興演奏家の古佐小基史さんは、1971年に愛媛県松山市に生まれ、地元の高校から東京大医学部に進学。在学中は勉強のかたわら、東大ジャズ研究会に所属。92年からプロのジャズ・ギタリストとして活躍します。卒業後は東大医学部の付属病院で看護師として勤務されますが、97年に退職し、アメリカに渡ります。そしてハープに出会い、独学で演奏テクニックを習得。現在はカリフォルニア州の州都サクラメント郊外、シェラネバダ山麓に家族とヤギやニワトリと暮らし、野菜を育て、自給自足的なライフスタイルを実践してらっしゃいます。今回はそんな古佐小さんに、自然と音楽について、色々お話をうかがいます。

ハープの音色に“癒し効果”

●今回のゲストは、ハープ奏者・作曲家・即興演奏家の古佐小基史さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

●プロフィールを見ただけでもすごく多彩で、色々なことをされているんですね。

「そうですね。多彩になろうという意図はなかったんですが、やりたいことをやっていて、それを書き出したら色々やっている感じになりましたね」

●古佐小さんは東京大学の医学部を卒業して、看護師として活躍されていたんですよね?

「活躍というほどでもないですが、働いてましたね」

●その一方で、プロのジャズ・ギタリストとして活動し、今はハープ奏者として活動されていて、アメリカのカリフォルニアで自給自足的な生活をされているんですよね。どうしてそうなっていったんですか?

「まず大学のときですが、医学部の保健学科というところに在籍していました。保健学科は医療全般を学びますが、以前から人間の心に興味があったので、僕は精神看護を専攻していました。音楽はただの音のデコレーションではなく、音楽から受ける印象やエネルギーによって、自分自身の人生が変わっていったりするようなものだと思うんですね。そういう“音楽の力”というものに強く惹かれましたし、音楽を生み出す能力にも憧れがあったので、ハープを始める前にギターと精神看護に関わったところが、今の音楽家としての自分にすごく影響を与えてくれましたね。
 ただ、ギターをやっていくうちに、僕の中で限界を感じていたんです。どういうことかというと、僕が始める前に偉大なギタリストがたくさんいて、僕もその人たちに影響を受けてやっていたんですが、どうしても過去の人たちが積み上げてきたものを少しいじって、かっこよく表現するというところから抜け出せなかったんですね。それに、心の中から沸き起こってくる音楽をギターで表現できてなかったんで、『音楽辞めようかな』って考えていたんですね。そんなときにハープと出会ったんです。そこからジャズや即興演奏を全部やめて、クラシックだけを数年やっていました。ハープで技術がついてきて、プロとして食べられるようになってから、今の即興演奏や作曲という方向に移っていきました」

●ハープの音色は、なんともいえないステキな音色ですよね。

「“癒される”と表現されるんですけど、アメリカでは“ハープセラピー学会”があるぐらい、癒しの効果が証明されていて、その音色には定評がありますね」

●是非、この番組のリスナーにもその音色を聴いていただきたいと思います。古佐小さんの最新アルバム『ピルグリム』から1曲お送りしたいと思いますが、どの曲がいいですか?

「この番組のテーマである“自然”を考えると、“Walking into Open Land”という曲がいいんじゃないでしょうか。この曲は、アラスカの自然写真を専門としている松本紀生さんがいるんですが、その方が森の中に歩いていく後姿をイメージして、即興演奏したものを元に作った曲です。“開けた荒野に歩んでいく”のをイメージしている曲です」

※ここで、放送では“Walking into Open Land”を聴いていただきました。

古佐小基史さん

●古佐小さんのハープの音色は私がイメージしている音色よりも力強くて、日本の琴のような感じがしました。

「琴の細かく弾くような動作を指ではなかなかできないので、ギターのピックで弾きましたし、音階がドレミといくように弦の上を弾く奏法や琴で使われるような日本的な音階を使ったりして、今までハープでは使われていない奏法を使いながら、新しい音楽を作っていって、ハープの新しい可能性を見出していこうとしています」

●新しいですけど、どこか懐かしさも感じました。

「そう言ってくれるとすごく嬉しいです! それって“知ってるものに触れる喜び”じゃないですか。でも、それだけを追求していると、新しい音楽が作られる余地がなくなっていくんですよね。それを追い求めているとしたら、そのときの音楽を聴けばいいじゃないですか。そうじゃなく、“新しいけど、どこか懐かしい”と思わせる曲ができれば、そういった感動を与えることができるので、そう感じていただけて嬉しいです」

自然が与えてくれる音楽!?

●古佐小さんは現在、カリフォルニア州の州都サクラメントの近くに住んでいて、自給自足的な生活をされているということですが、具体的にはどんな生活なんですか?

「シェラネバダ山麓の中腹で生活しているんですが、家畜としてヤギやニワトリを飼ったり、有機野菜を作ったりして、口に入るものはなるべく自分で作れるような態勢にしたいということで、ファームをやっています」

●なぜそこでその生活をしようと思ったんですか?

「妻がアメリカ人で、その辺りの出身なんです。自然が美しいところなので、音楽活動をするには不便なんですが、自然の中で生活をしていると、常に新しい瞬間が来るんですよ。そうなると、時間の流れ方が自然のペースになるんです。いくら予定を立てても、その通りにいかないことが多いんですけど、自然のペースの中で生きていくのがよかったりするんですよね。
 そういった“合わせる”ということが、近代的な人間社会の発達でいうと、“勝った・負けた”ということにすり替わりやすいんですが、そういうことじゃなくて、その流れの中に上手に乗って生きていけば、僕たちが生きていけるために必要なものを自然は与えてくれると思うんですね。それに対して、無理に抵抗しようとすると、環境汚染などの問題になっていくんです。
 音楽もそうで、音楽理論やスタイルなどでひねり出して作れる音楽もありますが、生活の中とか自然の流れの中で生まれてくる音楽もあると思うんですね。それが売れてお金になるかどうかは別にしろ、生まれてくること自体に意義があると思うんですよ。そういう音楽活動をしたいと思ったんです。時計の時間によって生活をする大都市の生活より、自然の流れの中で動いて、自然に近い生活の方がいいんじゃないかと若いときからずっと感じていたんです。なので、その機会がきて『じゃあそこで暮らしてみよう』と、迷いなく決断しました」

古佐小基史さん

●“自然の流れに任せて生活をする”というのは、朝、ニワトリの鳴き声と共に目を覚まして1日が始まるといった感じですか?

「まさにその通りで、朝、ニワトリの鳴き声で目が覚めて、30分から1時間ぐらいでファームのメンテナンスを行ないます。そして、家に戻って一息ついて、ハープを演奏したり仕事をしたりします。雨が降るとなったら、薪や干草にカヴァーをしたりしないといけないんですよ。そういうタイトな部分もありながら、のんびりした部分もあって、そういうのが共存している感じですね」

●気候や環境の変化は如実に感じますか?

「感じますね。都市に住んでいる人は蛇口をひねれば水が出てくるので、水不足で困らないと思いますが、農地に住んでいる方々は井戸で水を汲んでいるので、気候によっては水位が全然違うんですよ。水不足が深刻なときは、蛇口をひねっても空気が出てきて、水が出てこないんですよね。今年はまさにそうで、牧草の育ちが例年の半分ぐらいの高さまでしか伸びてないですし、周りで穀物を育てている方は、数を減らしたりしていますね。そういうのが影響してきて、これからじわじわと食品の値段が上がってくるんじゃないかと思います。そうなってきたときに、都市に住んでいる人たちは初めて水不足の影響を感じるんですよね。なので、気候や環境の変化は、農地に住んでいるとシビアに感じるようになるので、環境問題への意識は高くなりますね」

“即興演奏”は自然の音を表現する方法

古佐小基史さん

●“即興演奏”も非常に興味深いんですが、即興演奏を始めたキッカケは何だったんですか?

「初めて(即興演奏に)接したのはギターをやっていたときに、地元の大人のギタリストの方が『これはアドリブなんや』って言ったんですね。『アドリブってどういうことなんですか?』って聞いたら『その場で思いついたものを弾くんや』って言ったんですよ。『そんなことができるの!?』って驚きましたね。ただ、元々できている曲を練習して演奏するよりも、自分にとってはアドリブの方が合ってる気がしたんです。そこから即興演奏を中心に演奏しているアーティストの音楽をひたすら聴いて、ハマっていきましたね」

●そして、今ではハープでも即興演奏をしているんですよね。でも、即興演奏をやるとなったら、自分の中の引き出しに色々なことが入ってないと難しいんじゃないですか?

「そうですね。『即興演奏はランダムにできる』と思っている方が多いと思いますが、訪れた場所でいきなり詠む俳句や短歌に近いスタイルだと思うんですね。どういうことかというと、俳句なら五・七・五で季語を入れないといけないですし、短歌なら五・七・五・七・七で詠まないといけないなど、決まりがあるから、技術やテクニックが必要じゃないですか。そういったものが音楽での即興にも必要で、ゼロから作るんじゃなくて、蓄積されたものを再構築して表現するんですね」

●そう考えると、古佐小さんが今暮らしている環境って、即興演奏にピッタリなんじゃないですか?

「そうですね。自然の音をじっくり聴くと、インスピレーションを受けることもあるんですよね。時計の針のように正確に鳴るというよりも、色々な音が聴こえたり聴こえなかったり、大きくなったり小さくなったりして、“混沌の中の調和”みたいなものがあるんですね。調和があるので心地いいんですけど、パターンで読みきれないような調和なんですよ。そういったものが音楽にもあって、本当に感動する音楽って、コンピューターでは作れないと思うんですよ。やっぱり、自然の一部としての人間がどこかで関わってないと作れないし、そういったことを自然の中で暮らしていると、すごく感じるんですよね。そういうことを表現する1つの手段として、即興演奏があると思うんですね」

古佐小基史さん

●“医学と音楽が近い”とおっしゃいましたけど、“自然”と“音楽”も近いですか?

「そうですね。音楽と自然はつながっている部分があると思います。都会で生活していると、自然の影響から身を守るために自ら隔離しましたけど、それはいい面でも悪い面でもあって、自然の驚異から離れることはできましたけど、同時に自然の恵みからも隔離してしまうので、隔離してしまって失われた恵みを音楽や絵画、食べ物といった“印象”で補っていると思うんですね。だから、“自然”と“音楽”、そして“人々の暮らし”って密接に関わっていると思うんですよね」

●古佐小さんのアルバムを聴いていただく方にも、そういった“自然の音”を感じてほしいですか?

「そうですね。自然との距離がある生活をしている人には特にそうなんですが、“自然とのつながり”を感じてほしいですね。『一見、距離はありそうでも、深いところではつながっている』と感じてもらって、“懐かしい”と思ってもらえたらと思います。そういう風に聴いていただけたら、作った側としては光栄です」

●懐かしくて安心するようなサウンドでした。

「自然というのは、本来そうなんですよね。自然の中に行くと、懐かしくて安心しますよね」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 自然のペースに合わせて生活すれば、心も身体ももっと楽になりそうですよね。でも、都会にいるとそれが難しい。そんなときは、古佐小さんのハープのような、自然を感じられる音色を聴けば、自然とのつながり、自然の流れを自分の感覚の中に取り戻せるような気がします。

INFORMATION

新作情報

「ピルグリム」

 古佐小さんの新作は、少し先なんですが、10月初めにスローナ・ミュージックから発売されることになっています。今回は古佐小さんと同じく、カルフォルニアで活躍されているジャズ・ギタリスト笹島明夫さんとの共演になるそうです。
 最新作『ピルグリム』(写真右)ほかのアルバムについてもスローナ・ミュージックが取り次ぐことになっています。

◎お問い合わせ:スローナ・ミュージック
◎TEL:0120-367-649

オフィシャルサイト

 古佐小さんのディスコグラフィーなど、詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. アストライド / スガシカオ

M2. Walking into Open Land / 古佐小基史

M3. MOTHER NATURE'S SON / SHERYL CROW

M4. 3 THINGS / JASON MRAZ

M5. Kyrie Eleison / 古佐小基史

M6. 少年時代 / 忌野清志郎

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」