2014年8月23日

この環境を、もうそろそろいじらないで!

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、四代目・江戸家猫八さんです。

四代目・江戸家猫八さん

 動物ものまね芸でおなじみの四代目・江戸家猫八さんは野鳥観察のために、国内のみならず、海外にも出かけ、野鳥の鳴き声はもちろん、生態もつぶさに観察。また、野鳥を通して、彼らが生きる環境にも目を向けてらっしゃいます。そんな猫八さんが先日“猫の鳥談義”という本を出されました。この本には野鳥を求めての旅のエピソードがユーモアたっぷりにつづられています。今回は猫八さんとの楽しい“鳥談義”をお送りします。

僕は鳥なんです!?

●今回のゲストは、動物ものまね芸でおなじみの四代目・江戸家猫八さんです。よろしくお願いします!

「よろしくお願いします!」

●猫八さんがバード・ウォッチングをするようになったキッカケは何だったんですか?

「まさに、芸のためです。この“江戸家猫八”という名前ですが、初代は僕のおじいちゃんで、そのお弟子さんが二代目、戦後に僕の親父が三代目を引き継いで、僕が四代目。今は僕の息子が江戸家小猫として頑張っています。こうして、代々引き継いでいるんですね。
 このものまね芸は動物の鳴きまねをするので、『ここのウグイスはどんな声で、どんな姿で鳴くのか!?』といった感じで、最初は観察というよりも勉強に行ってましたね。
 今ではCDなどの音源で鳥たちのいい声を聴くことができますが、現場で聴くと、その鳥たちの息吹を感じるんですね。その息吹がこもった声を体に吸収してからステージ上で鳴きまねをしてみると、やっぱり違うんですよ。ものまねは音や形のまねをしますが、ものまねをするにあたって一番大事なことは、鳴きまねをする相手の全てを見て、吸収して、生きているということを、自分なりに把握していかないと、本当のものまねができないんじゃないかと思うんですね」

●以前、猫八さんの芸を見せていただいたことがあるんですが、そこに鳥が本当にいるような感覚を味わいました。

「それは僕が鳥になっているからだと思います。『自分が鳥の真似をしているんだ!』と誇張するよりも、“鳥になりきること”が一番大事なので、僕がニワトリのまねをするときは『僕はニワトリなんだ』と思ってやっているんですよ。その状態で鳴き声が出てくるから、そこに鳥がいるように感じるんだと思うんですね」

●そのときの猫八さんは鳥になりきっているんですね!
 そんな大好きな鳥を色々なところに見に行かれた猫八さんですが、どのへんに、何回くらい行ったんですか?

「多分数え切れないですね。外国だと20ヶ所ぐらいだと思いますが、国内は5月、6月ぐらいの初夏のころに鳥がさえずるので、一番楽しいんですよ。そうなると、時間さえあれば出かけちゃいますので、100回や200回じゃ足りないと思います。毎年必ず行くところもあります。戸隠だと、シーズン中に3、4回行きますね。実は、同じ場所に何度も行くことって大事だったりするんですよ。

 今年行って去年のことを思い出すと、多少の変化を感じることもありますし、同じ場所で同じ鳥が出てきたとしても、その時々で違うんですよ。何回も見てると、顔つきが違いますし、同じ種類の鳥でも鳥によって性格も違います。中には、すごくシャイで姿をあまり見せたがらないやつがいたり、すごくなつっこくて目の前に出てきてくれたりするやつもいるんですね。そうなると見ますよね。そうすると、鳥もこっちを見てくれます。それだけで、こっちに気持ちを許してくれてる感じがするんですよね。そういう鳥に出会ったら、たとえ何度も訪れている場所であろうと、何度も見ている鳥であろうと『今日はよかった!』って思うんですよね。その醍醐味があるんですよ」

●飽きることはないですね。

「絶対にないです。さえずりも違いますので、今までで一番いいさえずりを聴けたときは本当嬉しいですね。それをステージ上に持っていけたら、もっと嬉しいですね」

“二音で鳴く鳥”!?

※猫八さんが一番好きな鳥の鳴き声はなんですか?

「なんだかんだでウグイスの声が一番素晴らしいと思いますね」

●そうなんですか! 意外です。

「キビタキやオオルリなども素晴らしい鳴き声なんですよ。それに対してウグイスはいい声で鳴いているけど、どこでもよく鳴いている鳥なんですよね。例えば“自分の好きな鳥ベスト10”といったランキングを付けるとするなら、アカショウビンなど珍しい鳥を上位に挙げていってしまうことが多いですが、そういうことじゃなく、改めて山の鳥たちの声を聴いていると、ウグイスの声のインパクトは素晴らしいですね。私たちがまねするときは指笛で鳴くんです」

※放送ではここで実際にやっていただきました。

「この鳴きまねで特徴的なのは、“ホー”というところと“ホケキョ”というところがはっきり分かれているところなんです」

※放送ではここで実際にやっていただきました。

四代目・江戸家猫八さん

「こういった鳴き方は、日本だけじゃなく世界を見ても他にいないですね。その証拠として、ウグイスの学名は“Cettia diphone”というんですが、“Cettia”はケティア属のことで、“diphone”はラテン語で“二音”ということなんですよ。なので、和訳すると“ケティア属の二音で鳴く鳥”ということになるんですが、この“二音”という言葉が本当によく分かります。他の鳥は複雑にさえずりますが、ウグイスの“ホーホケキョ”は珍しいと同時に、ものすごく魅力がありますね!」

●確かに魅力的ですよね!

「それに、ウグイスの面白いところは、鳴き声を変えてみたり・・・。“谷渡り”いうケッキョケッキョと鳴く鳴き方は他の鳥はまずしないですね。しかも、谷渡りは色々なパターンを持ってるんですよ。それが場所によって違うので、ウグイスだけを聴きにいっても大満足できるぐらいバリエーションを、彼らは持っています。それに、あまりにもインパクトの強い鳴き方をすると、モズやクロツグミとかがまねをすることがあるんですね。
 まねする鳥はいろいろいるんですが、ウグイスの声にはどこか魅力があるんでしょうね。ただ、クロツグミは“ホーホケキョ”という鳴き方のまねができないんですよ。谷渡りのまねをやりますね。ということは、彼らは他の鳥の鳴き声を相当意識しているということになるんですよ。それと同時に、自分自身の声を聴いて、意識して鳴いてますね」

●何で意識しているのでしょうか?

「ある方にいわせると、メスの気をひくためにいろいろなことをするんですが、さえずりは重要な意味があるんじゃないかと思われているそうなんですね。その方がいうには、鳴きまねがたくさんできる鳥はモテるそうなんです。そういうことをやって『俺はすごいだろ!』って誇示してメスの気をひかせて、メスも反応するんですよね。そうなれば、さえずりが重要なことなんだと自分なりに分かってると思うんですよ。だから、他の鳥の声も聴いたり、自分の声も聴くと思うんですね。
 これは僕が思っていることなんですけど、“なぜ、鳥は自分の鳴き声を聴くのか”というと、僕たちもステージで鳴きまねをしたら、今日の出来を振り返るために聴くんですね。それで自分で自分の声を評価したり、さらによくするための反省材料にしたりするんです。鳥たちも一緒だと思うんですね。だから、彼らはエンターテイナーなんですよ。僕は鳥たちに対して、仲間のような気がしてますね」

ものまねはイメージ!?

●私も鳥の鳴きまねができるようになって、鳥たちとコミュニケーションを取れるようになりたいな〜と思うんですが、まね方を教えていただけたりしますか?

「『鳥の鳴きまねをしたい』っていうときに、指笛でやる鳥の鳴きまねをするとしたら、すごく難しいことなんですよ。まず、指笛ができないと話にならないじゃないですか。だから、(鳴きまねを)始めたころのウグイスは“ホーホケキョ”と鳴くのが精一杯なんですよ。なので、まずは楽器としての指笛の練習から始めないといけないんですね」

●それはかなり難しいですね。では、鳥以外で何か1つ、夏休み中にこの番組を聴いているお子さんでもできるものを教えていただけないでしょうか?

「そうなると、鳥よりも犬や猫の鳴きまねの方が入りやすいと思いますね。例えば、犬は“ワンワン”と鳴きますが、ものまねとして会得したい場合は“ワン”とやっちゃいけないんですね。“ワン”というのは、人間の言葉なので違うんですよ」

※放送ではここで犬の鳴きまねをやっていただきました。

「といった感じで、息から思いっきり出てくるこの音を切ります。それが重要なんです。だから、ものまねはカタカナで解釈しちゃうと、どうしても人の言葉で入ってしまうので、一生できないですね。なので、そうではなく、まずはまねをする相手の声をつかんで、その声をどうやって発するかを練習するようにしてから始めると、かなり近い音が出せるようになります。
 猫は“ニャオ”っていう言葉をそのままやるんじゃなく、猫が出すような、こすってくる感じで発すれば近くなりますし、キーを高くすればオッケーです。そういう風に“声質をつかむ”ことが大事ですね。それを鳥に近づけていくとすると、ニワトリやアヒルがいいですね」

※放送ではここでニワトリのまねをしていただきました。

「これも、犬や猫と同じで、声質をつかむことが大事です。そうすると大体できますね」

●やってみると難しいですね。

「本当のニワトリをイメージしないとダメですね。それが重要なんですよ。テクニックとか技術的なところから入るよりも、ニワトリをイメージしてから始めると鳴きまねが近くなります。そうすると、同じ鳥でもアヒルだとこうなります」

※放送ではここでアヒルのまねをしていただきました。

「こういう風に、声も変わってくるんですよね。どうしても野鳥のまねをしたいというなら、マガモやカルガモが持っている声質に変えていけばいいんです。そういう風に勉強していけば、ハクチョウもできるようになりますし、ツルもできるようになります。その辺りのバリエーションは子供たちでも比較的やりやすいんじゃないでしょうか。指笛でさえずる場合は、最初に説明したとおり、楽器としての指笛ができるようにならないといけないので、そこから勉強する必要がありますね」

●まずは、身近にいる生き物をよく観察して、イメージすることが大事なんですね。

「実は、今回出した本の中には、そのものまねのやり方を最後のところに載せています。あれを見れば、かなりつかめると思いますよ。技術的なところから書いたのではなくて、鳥の鳴きまねをするときにはどんなやり方をしているのかといった感じで、鳥をまず勉強してもらって、この鳥の声はどんな声なのか、どうやってまねをすればいいのかといったような感じで、ハウツウ本じゃなく、そこを見てるだけでも楽しくなるように書きましたので、是非勉強してみてください」

鳥から大事なことを学びました。

※猫八さんは野鳥を取り巻く環境を見て、どんなことを感じているんでしょうか?

「今の環境を見ても勉強になります。鳥が生息しているところはエサになるような木の実がなる木々が生い茂ってるし、土のコンディションの良さを感じたりするんですよ。場所を変えて、そうじゃないところに行くと、一見すると木がたくさんあって青々とした山なんですが、鳥たちにとってエサになる木の実がなるような木がないとか、鳥の観察をすると共に感じてくるようになるんですね。それを鳥から学んでます。

 人間の観点から山に入って行っても、人間の立場として入って行くので、どの山がどういう状況であろうと山に変わりがないんですよ。ところが、鳥の気持ちになってみると、たくさんの種類の木があるのか、水をたくさん含んでくれるいい土なのか、湧き水として清らかな水が流れているのか、そういったところまで感じるようになるんですね。それが人間の環境の中だけで生活してしまうと、自然環境がいかに大切なのかが2番目、3番目になってしまいがちなんですよね。
 だから僕としては、鳥を見に行くことが目的でもいいと思います。そうすれば、おのずと自然を見てきますし、植物や土、水など全て見てきます。僕は、経済や豊かさ、そして『(人間にとって)夏は涼しくて、冬は暖かい方がいい』ということばかりが、生き物にとって素晴らしい環境ではないと思います。あまりにも人間が住みやすいように環境を変えたりするようなことをしない方がいいなということを山、そして鳥から学びました。

 そして、これは一番重要なんですが、“鳥や動物たち、自然たちは昔と同じ生き方をしている”んですよ。環境が変化したというのは、人間が環境をいじっているからであって、彼らは我々みたいに急な環境の変化についてこれないんですよ。そういう意味では、動物たちは不器用なんですよね。それを考えると、確かに今はいろいろと考えながら開発をしてくれていますが、まだ足らないところがあると思います。
 例えば、開発をすることでミゾゴイという鳥の棲むところがなくなってしまうということがあるんですよ。そういうときに考えないといけないのは、彼らは僕たちと同じように地球で過ごしているんだけど、人間よりも不器用なんですよ。それを人間が『ここを開発するから、他に移ってくれないか?』といっても、彼らはそれほど器用じゃないし、別のところもないんですよね。ミゾゴイは地味で存在すら知らなかった方が多いと思いますが、彼らは日本だけで繁殖している鳥なので、生息できる場所が減っていくと、もう生きていけないんですよ。

 鳥の絶滅というのは、その鳥たちが生息できる環境もなくなるということなんですよね。確かに、人間の豊かさや経済的なことを考えると、開発することによって、いいことがいっぱいあると思います。でも、そのために唯一そこしかもう残ってないような自然環境すらもなくしてしまうのは、やりすぎじゃないかと思いますね。

 少なくとも太陽系の中で、“水の星”といわれているぐらいに水と緑がたくさんあって、太陽からの位置もちょうどよくて、そんなこの星が回ってくれて、この環境を作ってくれてるんですよ。こんなにも生き物が生きやすい星はないじゃないですか。
 一番大事なものってなんなのか、そういったことを考えるだけでも分かるじゃないですか。いくら素晴らしいものを作って開発しても、僕たちにとって一番大事なこの地球という星がダメになってしまったら意味がないじゃないですか。そういった考え方を優先しないといけないようなときがもう来ていると思います。
 それは色々な場所に行って、鳥が減っていたり、鳥のさえずりが聴こえなくなったりすると感じるんですよね。もう、鳥のさえずりとかが聴こえなくなってくる“沈黙の春”がもうすぐそこまで来ているんですよ。だから、人間も考えないといけないです。私はそれを鳥から聞いてきました。鳥は『私が棲むことができるこの環境を、もうそろそろいじらないでよ!』とさえずっています」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 猫八さんの野鳥たちの息吹まで感じられるものまね芸を目の前で見せていただいて、本当に感動しました。生き物をよく観察してものまねをしてみたり、動物の気持ちになって森の中に行くと、また新しいことを感じられそうですね。

INFORMATION

「猫の鳥談義」

新刊『猫の鳥談義

 文一総合出版/本体価格1,600円

 猫八さんの新刊となるこの本には、野鳥観察のために出かけた国内外の旅のエピソードが満載。ご本人撮影の野鳥たちの写真も素晴らしいです! 表紙のイラストを描いたのは息子さんの江戸家小猫さん。キビタキやサンコウチョウといった野鳥の他、ゾウガメやネコ、テナガザルが生き生きと描かれていて、とても可愛くて素敵です。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. BLACKBIRD / THE BEATLES

M2. (THEY LONG TO BE)CLOSE TO YOU / CARPENTERS

M3. LOVIN' YOU / MINNIE RIPERTON

M4. THREE LITTLE BIRDS / BOB MARLEY & THE WAILERS

M5. THE LION SLEEPS TONIGHT / THE TOKENS

M6. STAY WITH ME / SAM SMITH

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」