2014年9月27日

真っ青な世界・・・宇宙空間を漂う感覚!?

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、篠宮龍三さんです。

篠宮龍三さん

 酸素ボンベを使わずに素潜りで深い海を目指すフリーダイビング。プロフリーダイバーの篠宮龍三さんはその競技の日本のトップ・アスリートで、現在115メートルというアジア記録を持ってらっしゃいます。今回はそんな篠宮さんに、フリーダイビングの奥深い世界や、今暮らしている沖縄の海のお話などうかがいます。

フリーダイビングは“自己申告制”!?

●今回のゲストは、プロフリーダイバーの篠宮龍三さんです。ご無沙汰しています!

「ご無沙汰しております。よろしくお願いします」

●よろしくお願いいたします。篠宮さんは先日、光文社新書から「素潜り世界一〜人体の限界に挑む〜」という本を出版されました。

「そうなんです。フリーダイビングで生計を立てていくということがどういうことなのかとか、僕の心の中をストレートに書かせていただきました」

●改めて、フリーダイビングはどういう競技なのか教えてください。

「フリーダイビングというのは、水面で息を吸い込んで、その息だけでどれだけ深く潜って帰ってこれるかという深度を競い合うスポーツですね」

●興味深いのが、その深度は“自己申告制”なんですよね。

「そうなんですよ。陸上競技や競泳だと一斉にスタートして、どれだけ早く行けるか競い合うじゃないですか。でも、フリーダイビングでそれをしてしまうと非常に危険なので、事前にどのぐらい潜るかを紙に書いて、大会の運営側に提出するんですね。それを受けた運営側は、申告深度の深い人順にスターティングリストを発表して、その順番で潜っていきます。
 そのリストで大体の順位が見えてくるんですが、申告する前から色々な駆け引きがありまして、練習中には調子のいいところをあまり見せなかったり、調子がいいという印象を持たせるために空元気を出したりしますね。そういった心理戦の後にスターティングリストを見たら、『あれ? あの選手、調子よさそうに見えたけど、控えめにしてきたな』とか『意外と攻めてきたな』とか『世界記録を狙いにいくんだな』といったことが見えてきて、そこにドラマがあるんですよ。
 いちばん深く申告した人は『絶対に成功しないと!』って思ってしまうので、そのプレッシャーで失敗する確率が上がってくるんですよね。なので、いちばん深く申告した人になってしまうと『あーやっちゃったなぁ』っていう気持ちになるときがあるんですよね(笑)。そういうときは申告し直したくなります(笑)」

篠宮龍三さん

●(笑)。フリーダイビングには何種目かあると思いますが、申告は全ての種目に必要なんですか?

「そうですね。全ての種目で申告をしますが、厳密にいうと、プールで行なうものが3種目で、海が3種目と分かれるんですね。プールでは1〜2メートルぐらいの水深で行ないますので、上がろうと思ったら、自分の足ですぐ上がれちゃうじゃないですか。でも海だと100メートル潜ったらその分戻ってこないといけないので、波の流れやうねり、水温の変化など、自然環境の変化やリスクを直接受けてしまうんですよ。そういったものがダイバーのコンディションに非常に影響してきます。海の中に入ってしまったら、フリーダイバーも石ころと変わらないぐらい、海は大きな力を持っています。だから、その海が許してくれる範囲の中でやらないといけないんですよね」

●そういったところは、他のスポーツとはちょっと違いますね。

「そうなんですよ。天気図や気圧配置は必ずチェックするようにしています」

●先ほど、ライバルとの駆け引きがあると話していましたが、「自然」と対話しながらやらないといけないところもあるんですね。

「まさにその通りです! 自然と調和しないといけないスポーツで、自分のコンディションだけじゃなく、自然のコンディションも見ながら、両方が合致したときにすごくいい記録が出るんですよ。だから、一人よがりになってはいけなくて、相手の気持ちも考えながら、海が受け入れてくれるときに潜ると、すごくいい記録が生まれますね」

水深115メートルの世界

篠宮龍三さん
Photo by Ai Nagae

2011年にこの番組に出ていただいたとき、115メートルの記録を持っていましたが、未だにその記録は破られていないんですよね?

「そうですね。自分でもその記録を破ってないので、もう少し伸ばしたいという想いがありますね」

●115メートルって、すごく深いですよね!

「普通に考えたらおかしいですよね(笑)。ダイビングやシュノーケリングをやったことがある方なら分かると思いますが、素潜りで5メートルいくのって、すごく大変なことなんですよ。そこからさらに深いところまでいこうとすると、1年ぐらいでは無理なので、5年、10年、15年と時間をかけて練習やトレーニングをしないと、到達できないですね」

●私も趣味でダイビングをするんですが、10メートル潜るだけでも耳が痛くなるし、息が浅くなってくるんですよね。それが115メートルですよね? どんな感じになるんですか?

「100メートルを超えてくると、世界が変わってきますね。海にもよりますが、50メートルを超えると暗くなってきます。70〜80メートルぐらいになってくると、それまで上を見上げると見えていた太陽が消えてなくなってしまいます。そうなると、上が真っ青な世界になるんですね。上下左右全て真っ青な世界の中に自分がいて、まさに宇宙の中にいるような感じになってくるんですよね」

●宇宙に浮かんでいるような感じですか?

「そうですね。不思議なんですけど、手足の感覚もほとんどなくなってくるんですよ。自分の心臓は動いているのは感じるんですが、手足を動かさずに沈んでいっている状態になりますので、宇宙空間を漂っていて、引力に引かれて吸い込まれていくような感じがしてくるので、陸上では絶対に味わえないような感覚になるんですよね」

●そうやって落ちていってるときって、どんなことを考えているんですか?

「気持ちいいなって思いますね。それ以外は何も考えてないです。無の状態がベストですね。自分の生死の感覚を手放して、自分の想いや意識、存在全てを海にゆだねないといけないので、葛藤したり格闘したりする気持ちがあって体を少しでも動かすと、水の抵抗を受けているので、潜水にかかる時間が延びていってしまうんですね。それはいけないので、潜るときは真っ直ぐな状態を作る必要があって、ちょっとでもこわばっていると、回転し始めたりするので、心の状態がすごく大事ですね」

●まさに座禅ですね!

「確かに水中で座禅をしているような感じですね。海外の選手で“アンダーウォーター禅”と表現する選手もいるので、水中の禅なのかなって思いますね」

フリーダイビングにはヨガがいい!?

※フリーダイビングの選手生命はどのぐらいなのでしょうか?

「現在活躍している選手の中で、50代の人も結構いますし、世界チャンピオンもいます。体の使い方やメンタルが求められるスポーツなので、人生経験が豊富で、多少のことでは動じない強いハートを持っている、年齢が上の方が強かったりしますね。そういうところを目指していきたいなと思いますね」

●そうなるために、特別なトレーニングとかしているんですか?

「最近ヨガを真面目にやるようになりましたね。このスポーツの特性上、若いときから腰を痛めることが多かったんですけど、ヨガをやるようになってから腰の状態もよくなりましたし、精神的にもブレなくなってきたんじゃないかと思いますね」

●私も最近ヨガにハマっているんですよ! 呼吸を意識することで、自分の体が変わってきますよね!

「“呼吸をゆったりする”のがヨガの基本でもあるし、それによって、気持ちが落ち着いてきますよね。活動している最中に気持ちが落ち着いてくるアクティビティって、なかなかないと思うんですよ。ランニングみたいな運動って終わった後に爽快感がすごくありますけど、ヨガをやっているときみたいなシーンとした静けさにはあまりならないので、ヨガって偉大だなって思いますね」

●そう考えると、ヨガとフリーダイビングって似てますね!

「似ていると思います! ヨガをやっていると、段々と潜っているのと同じような気持ちの状態になってくるんですよ。その逆もあって、潜っているときにヨガと同じような精神状態になっているときもあるので、すごく緊張した中で潜らないといけない場面でも、普段と同じ状態で大会に望めたりしますね」

篠宮龍三さん

●篠宮さんは、この3年の間にトレーニングの場所を移しているんですよね?

「世界中の色々な大会で海に潜ってきましたが、沖縄の海が世界でいちばん好きなんですよ」

●どんなところが好きなんですか?

「トータルで好きなんですが、まず水温と気温のギャップがあまりないところですね。なので、陸上にいるときからリラックスできて、海に入ってもそのリラックスがずっと続いている感じなので、楽なんですよ」

●陸と海の境界線があまりないんですね。

「そうなんですよ! 陸と海のハッキリとした境界線がないんですよね。そういうところが沖縄のよさのひとつなんです。それに、人間と海の生き物が近いような気がします。漁師さんの話を聞いたりすると、『僕は魚と人間が分からないときがある』っていうんですよ。どういうことかというと、『魚と人間が一緒になったり、その中間にいるような感じがするときがある』といっていて、何かふたつにハッキリと分けるのではなくて、混ぜてしまうような文化もあるし、元々はひとつだっていうことを教えてくれるような感じがしましたね」

自分の中を冒険!?

●篠宮さんは、沖縄でスクールを開いているんですよね?

「そうなんです。週末を中心に行なっているんですけど、2日間のコースから3日間のコースまであって、2メートルぐらいは潜れるという初心者の方から、30メートル以上潜る競技者まで、そういった方たちに向けたフリーダイビングの総合的なスクールとなっています」

●ダイビングスクールってたくさんあると思いますが、フリーダイビング専門のスクールって珍しいですよね。素人でも潜れるようになるものなんですか?

「リラックスできるようになる呼吸法から始めて、沖縄の海って透明度がいいので、10メートルぐらいでもサンゴや魚を見ることができるんですね。下が見えるところで僕がリラックスするような感じで誘導して潜っていただくと、最初は2、3メートルが限界だった方が5メートルいけるようになって、翌日には7メートル以上潜れるようになりますね」

●たった1日でそれだけ伸ばすことができるんですね。参加された方の感想はどんなものがありますか?

「『これだけいけるとは思わなかった』とか『自分でやってみたらできて面白かった』っていってくれます」

●素潜りが今よりも深く潜れるようになったら、海で過ごす時間が楽しくなりそうですね!

「海って、陸の2倍以上の広さがあって、“もうひとつの世界”といわれていますが、それどころか、もっと広くて深い世界がそこにはあるので、浅いところで遊ぶだけでも、自分の世界がもっと広がって、陸上だけじゃない、もうひとつの世界の楽しみ方があると思います」

篠宮龍三さん

●今回の著書の中に“海の中は冒険だ”と書かれていますよね。

「ロマンを掻き立てられるものが海にはあると思うんですね。今の時代、お金さえ払えば宇宙旅行もできるようになったし、南極や北極にも旅行として行けるようになったじゃないですか。その中で海、特に素潜りにおいては、まだまだフロンティアが広がっていると思うんですね。こういう自分の潜在能力をうまく引き出しながら行なうスポーツというのは、新しいスポーツだと思うし、自分の中を冒険している感じもあると思うんですね」

●“自分の中を冒険”ですか。

「今まで眠っていたものを発揮させながら、新しい世界に入っていくというのは、“海”という世界と、“自分の眠っていた力を引き出す”というふたつの冒険があるんじゃないかと思っています」

●ますますフリーダイビングをやりたくなってきました!

「是非やりましょう!」

●何月ごろがいいですか?

「沖縄は1年中潜れますよ。水温が20度を下回ることはないですからね」

●この秋からでも大丈夫ですか?

「秋はまだ水温が高いですし、透明度も高いので、楽しいと思いますよ」

篠宮龍三さん

※この他の篠宮龍三さんのトークもご覧下さい。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 フリーダイバーは潮の満ち引き、潮の流れが競技に大きな影響を及ぼすので、“月のリズム”に合わせて行動するそうです。まさに自然と調和したスポーツですよね。でも、そんな風に自然と調和がとれた時、「人間も自然の一部なんだと実感出来る」と篠宮さんはおっしゃっていました。

INFORMATION

「素潜り世界一〜人体の限界に挑む〜」

新刊『素潜り世界一
〜人体の限界に挑む〜

光文社新書/本体価格820円

 篠宮さんの新刊となるこの本は、フリーダイビングの世界に興味を持たれた方には是非チェックしていただきたい一冊です。副題にあるように、限界に挑んでらっしゃる篠宮さんだからこそ書けた内容となっています。

オフィシャルサイト

 篠宮さんのオフィシャルサイト「アプネアワークス」には、近況をつづったブログや、沖縄で行なっているフリーダイビング・スクールの情報なども載っています。ぜひご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. SEVEN SEAS OF RHYE / QUEEN

M2. FREE / DENIECE WILLIAMS

M3. FALLIN' / ALICIA KEYS

M4. 3 THINGS / JASON MRAZ

M5. STAND BY ME / BEGIN

M6. FREE / DONAVON FRANKENREITER

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」