2014年10月4日

ホクレア号、世界一周へ
ONE OCEAN, ONE ISLAND EARTH

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、内田正洋さんです。

内田正洋さん

 日本を代表するシーカヤッカー、そして海洋ジャーナリストの内田正洋さんは、この番組が17〜18年前から注目している“ホクレア号航海プロジェクト”(ホクレア号とは、ハワイで1975年に建造された伝統的な外洋航海カヌー)の日本側のキーマンとして深く関わってらっしゃいます。そんなプロジェクトに新たな展開があるということで、たっぷりお話をうかがいます。

喜びの星!?

●内田さん、お久しぶりです。きょうはよろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

●今回、久しぶりに内田さんに来ていただいたのには、理由があるんです。それは“ホクレア号航海プロジェクト”に新しい動きがあるからなんですが、改めてこのプロジェクトについてうかがいたいと思います。まずは“ホクレア号”ってどういう船なのか教えてください。

「この番組では相当詳しく取り上げてくれていて、恐らく日本で一番詳しく取り上げてくれていると思うんですね。太平洋にポリネシア人という人たちがいるんですけど、彼らが太平洋へどうやって拡散していったのかを調べるため、1975年に作られた古代式航海カヌーがホクレア号です。大きさが20メートルぐらいある双胴船で、風の力だけで動くものです」

●材質はどういったものでできているんですか?

「船体はFRPという強化プラスチックを使っていますが、他は全部、木と布です。ハワイに人が入ったのが1500年ぐらい前なので、その時代に使われていたと思われるカヌーですね」

●1500年前に使われていたものとほぼ同じものが現代にあるんですね。そもそも“ホクレア”って、どういう意味なんですか?

「“ホク”は“星”で、“レア”は“喜び”という意味があるんですよ。“アークトゥルス”という名前のオレンジ色の星があるんですけど、この星がハワイの真上を毎晩通っているんです。そのハワイの位置を知るための星として、古代の人が使っていたのがその星だったんですよ。日本では“麦星”と呼ばれている星ですけど、そういう名前で、ハワイに移住した人たちと日本にいた人との繋がりが感じられるんじゃないでしょうか」

●“スターナビゲーション”という方法を聞いたことがありますが、星を見て航海するんですか?

「基本的には星や自然の変化を見ながら旅をします。その方法で北はハワイ、西はニュージーランド、東はイースター島といったところに人が移住していったんですね。その謎を解明したのがホクレア号なんです」

●そのプロジェクトの中心人物が“星の航海士”ナイノア・トンプソンさんなんですね。

「そうですね。ホクレア号が1975年に完成して、1976年にハワイからタヒチまでその方法で初めて行ったんだけど、ナイノアはそのとき21歳ぐらいだったんですよね。ミクロネシアにマウ・ピアイルグという人がいるんですが、ナイノアは彼から色々なことを教えてもらって、“現代の古代航海術”という新しい技術を確立しました」

●そのナイノア・トンプソンさんがホクレア号に乗って、2007年には日本にも来たんですよね

「そうなんですよ。俺が最初に彼に会ったのは1998年で、そこからの8〜9年はナイノアたちと付き合って、ホクレア号のクルーになったこともあります。関東では、七里ヶ浜に来てくれたので、その辺りでは、今でも“ホクレア”って言ってますね」

マラマ・ホノア!?

内田正洋さん

※ホクレア号が新たな旅に出たそうです。

「2007年に日本に来たときには新しいプロジェクトが始まっていたんですよ。それは“世界一周”なのよ。ポリネシアを出て日本に来たのは、日本に対する“感謝”なんだよね。ホクレアが建造された1970年代のハワイには日系人が一番多かったんですよ。だから、当時の日本文化とハワイ文化は非常に似てたんですね。なので、日系人にものすごく感謝してるんですよ。だから、ポリネシアを出て最初に目指したのが日本だったのよ。それで『日本が終わったから、次は世界だ』ということになったんですね」

●そのプロジェクトに名前ってあるんですか?

「“マラマ・ホノア(地球に優しく)”という名前が付いてます。今の人類は、海のことをほとんど知らないんですよ。だから“海側から地球のことを考えよう”ということでスタートしたプロジェクトです。人類が最終的に到達したハワイから歴史を遡っていくと、人類の歴史を感覚的に理解できていくんじゃないかという考えがあるんですよ。最近では、“One Ocean,One Island Earth”という言い方をしてるんですよ。この言葉を標語にしてるんですね」

●その世界一周が達成できれば、“One Ocean,One Island Earth”が、世界中の人に発信できそうですね!

「“One Ocean,One Earthじゃない”っていうところがポイントで、One Island Earthなんですよ。『“地球は1つの島である”。だから、その島の人間として物事を考えていきましょう』という考えが、このプロジェクトに含まれています」

愛娘「沙希」ちゃん、世界一周へ!

※ホクレア号は今回、外洋航海カヌー“ヒキアナリア号”と一緒に航海をしています。実はそのヒキアナリア号には内田さんの娘さんの沙希ちゃんがクルーとして乗船しています。どういういきさつで、そうなったんでしょうか?

「ホクレアが日本にきたときの最終ルートは、神奈川県の三崎から七里ヶ浜に行って、横浜に行くというものだったんですが、そのときにクルーとして乗ったんですよ。本人が乗りたいっていうからキャプテンに聞いてみたんですよ。すると、オッケーをもらえたので、宇和島(愛媛県)に停泊しているときに乗りにきたんですよ。沙希はお金がなかったので、ホクレアに寝泊りしていたんですよ。その間は手伝いをしていて、ナイノアが沙希の動きを見ていたんだろうね。宇和島を出る前の日に、まだ高校3年生で言葉も通じない沙希に『高校を卒業したら、ハワイに来ないか?』って誘ったんですよ。すると沙希は『うん、行く』って言い出したんですよ(笑)。俺は隣で『あ、そうなの?』って思いながら聞いてましたね(笑)。翌年、高校卒業後、そのままハワイに行っちゃったんですよ」

●実際に色々なことを学ぶとなったら、結構大変だったんじゃないですか?

「英語も話せなかったからね。だから、ハワイのカレッジにも行って勉強しながら毎日サーフィンして、ホクレアで練習してました」

●お父さんとしては心配じゃなかったですか?

「全然(笑)。あの子がそういうのに向いているのは知ってたので心配しなかったですね。中学生のころからシーカヤックで40〜50キロは漕いでたし、沙希はタコ獲りの名人で、3歳のころから(海岸を)歩きながらタコを獲ったりしてたんですよ。獲ったらすぐに食べてましたね(笑)」

●(笑)。じゃあピッタリだったんですね!

「ものすごく向いていると思っていたので、心配はしてなかったですね。お金はかかりましたけどね(笑)」

内田正洋さん

●(笑)。ちなみに、今は連絡を取ったりしているんですか?

「沙希は今、(南太平洋の)サモアにいます」

●様子はどうですか?

「出航して4ヶ月ぐらい経っているんですが、相当変わってますね」

●どんな風に変わりましたか?

「連続して乗っているのは彼女だけなんですよ。他の人は交代したりしてるんだけど、彼女は頑なに乗り続けてます。この間はサモアから北に向かう航海に出たんですが、そのときにワッチキャプテンになったんですよ。ワッチキャプテンは船長の次のポジションで、その人がそれぞれのクルーたちを交代させながら船を24時間走らせるんですよ。そのワッチキャプテンに沙希がなったんですよ。初めて責任を感じちゃったんですよね。それを見てて面白かったですね」

●面白かったんですか!?

「見方が突然変わったんですよ。今まではクルーとしてやるべきことをやればよかったんだけど、今度はワッチキャプテンになることで、クルーたちに対する責任が出てくるので、その立場になったことで一気に変わるんですよね。そういう変化がハッキリ分かる状況になってますね」

●ヒキアナリア号もホクレア号と同じように外洋航海カヌーですから、色々なトラブルがあったりしますよね?

「ヒキアナリア号はホクレア号を守らないといけないので、ホクレア号よりもヘビーなんですよ。ヒキアナリア号に何かあるとまずいので、沙希の見方はこれまでとは全然違ってるはずですよ。言うことが全然違う」

●帰ってきたら、すごく変わってるかもしれないですね!

「今、彼女は海に鍛えられてますね」

海側から物事を考える

●ホクレア号の世界一周はいつ頃まで続くんですか?

「明確には分からないんですが、予定ではあと4年ぐらいかかります。今年の6月に出て、今はサモアで、11月半ばにはニュージーランドに着く感じですね。でも、ここまでは今まで行ったことがあるんだけど、そこから先は未知の海になるんですよ。オーストラリアに行って、東南アジアの海域を経てインド洋に抜けて、アフリカを目指すんだけど、この行程はホクレア号にとって初めての航海となります。
 東南アジアに行くと島が多いし、政治的にも不安定。そういう状況なので、サモアに着いたときには国連事務総長が来てたんですね。国連の動きとして、ホクレア号をサポートしようとなったんですよ。あと、実はダライ・ラマ14世もホクレア号に来ていたりしましたし、南アフリカのマンデラさんと一緒にアパルトヘイトを解決したツツ元大主教も来たことがあるんですね。
 人類にとって今一番の問題は地球環境なんですよ。環境問題があるからこそ貧困問題もあるんですよ。そして、人間にとって最大の環境は海なので、その海側からの考え方をようやく学ぼうとしてるんですよね。そこに、今回の世界一周航海があるわけですよ。国連事務総長にも分かっていただけて、ホクレア号を応援してくれてるんですね。残念ながら、日本政府はあまり関わってないんですけどね。“海から物事を考える”ということが、日本に一番足りないところなんですよ」

●でも、ホクレア号を知ることで、キッカケ作りになりますよね。

「そうですね。ホクレアは人類史の謎を解いたところから始まったんですが、ホクレアの歴史を学べば、今の日本が向かうべきところが分かりやすくなるんですよ。“海から物事を考える”ということを、日本でいかに忘れられていたのかっていうことなんですよね。元々は日本が一番持っていた考え方なのに、それを忘れちゃったのが、今の日本なんですよ。だから、国連の考え方は、今の日本社会が学ぶべきところだと思いますし、日本ルネッサンスの1つの道しるべじゃないかと思いますね」

●私たち日本人も、同じ日本人の沙希ちゃんが乗っているということで、注目度が高くなりますよね!

「そういう繋がりが大事なんですよね」

●今後、このホクレア号と沙希ちゃんが乗っているヒキアナリア号がどうなるのか、気になりますね! このプロジェクトには、今後も注目していきたいと思います。

「さらにあと4年追いかけて、この番組も世界一周しないといけないですね!」

●どこかで是非とも乗せていただきたいです!

内田正洋さん

※この他の内田正洋さんのトークもご覧下さい。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 この番組でもずっと追い続けているホクレア号がいよいよ世界一周の旅に出た! ということで、今からどんな事が起こるのか、どんな旅になるのか期待に胸が膨らみます。中でも、内田さんの娘さん、沙希ちゃんがクルーとしてホクレア号と一緒に旅をしている。これは日本人として本当に誇りですよね。まだ25歳の沙希ちゃんですが、小さい頃から“海の男”であるお父さんの背中を見て育ってらっしゃるので、きっと素晴らしい“海の女”として活躍してくれるのではないでしょうか。

INFORMATION

ポリネシア航海協会

 今回のお話でホクレア号とヒキアナリア号が気になった方は、ポリネシア航海協会のオフィシャルサイト(英語版)を見てください。

コラム『内田正洋 内田沙希 シーカヤックとハワイアンカヌー 海を旅する父娘の物語』

 内田さんと娘の沙希さんが連載しているネット上のコラム。内田さんのバックグラウンドや今回の航海のことなど、内容盛りだくさんです!

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. NA PE'A O HOKULE'A / アルバム『HOKULE'A : THE LEGACY』より

M2. BLOW / 山下達郎

M3. ONE LOVE〜Pacific Harmony〜 / 平井大

M4. UPSIDE DOWN / JACK JOHNSON

M5. THERE IS A SHIP / 白鳥英美子

M6. SAILING / CHRISTOPHER CROSS

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」