2014年10月25日

ツリーハウス〜人と森をつなぐ

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、小林崇さんです。

小林崇さん

 日本ではただ一人のツリーハウス・クリエイター・小林崇さんが創る作品は、どれもオリジナリティに富んでいて、海外からも注目されています。また、ツリーハウス創りのビギナー向け養成講座を行なうなど、オンリーワンとしての存在感がますます大きくなっています。今回はそんな小林さんに、ツリーハウスへの想いや夢のお話などうかがいます。

ツリーハウスは茶室!?

●今週のゲストは、ツリーハウス・クリエイターの小林崇さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

●早速ですが、ツリーハウス・クリエイターって、どんな職業なんですか?

「日本には僕しかいなくて、世界でもプロは数人しかいません。生きている木を土台にして、家や小屋などを作ってます」

●ツリーハウスというと、「トム・ソーヤの冒険」に出てくる、木の上に秘密基地のようなものがあって、そこで楽しく過ごすというシーンが浮かびますが、ツリーハウスって一言で言っても色々なものがあるんですね。

「こうじゃないといけないというものがないんですよ。土台があって、木を囲うようなものがベースで、僕たちが作るのはもう少ししっかりとしています。薪ストーブが中に入っていたり、床暖房があったり、自動で電気が点いたり、木の上でできる全てのことはできるので、トム・ソーヤの冒険に出てくる小屋とはかなり違ってますね」

●ほぼ家ですね!

「そうですね。海外だと録音スタジオがあったりと色々ありますよ」

●ツリーハウスがそんなにもヴァリエーションがあるとは知らなかったです! 小林さんがツリーハウスに出会ったキッカケって何だったんですか?

「やりたいことが見つからないまま30代半ばぐらいまできたんですけど、ふとしたキッカケでツリーハウスの存在を知ったんですね」

●たまたまだったんですね。

「たまたまだったんです。僕が住んでいた原宿の古いアパートの外に木が生えていて、『この木で何か作って、クリスマスのときにデコレーションをしたら楽しそうだな!』って思って作ってみたのが最初でした。それがツリーハウスだと知ったのはその後でしたね」

●でも、今では知名度がかなり出てきましたよね。

「そうですね。20年経てば、一般の人も実際に見たことあったり、雑誌で見たり、人から聞いたりしていることが多くなりましたね」

小林崇さん

●そういう状態になった今でも、ツリーハウスに対する情熱は変わりませんか?

「僕は飽きやすいんですが、これは飽きないですね。僕は旅が好きで、同じ場所にずっといるのが好きじゃないので、場所や木を変えられるのがいいですね」

●“家なのに、旅してる感じ”っていいですね!

「元々はパプアニューギニアのイリアンジャヤっていうところにネオコロアイ族という民族がいまして、彼らは仮設住宅を木の上に建てながら移動しているんですが、それがルーツなんです。だから、元々は仮の家なので、ずっと住まないんですよ。世界には住んでいる人もいますが、サマーハウスや別荘といった日常生活からエスケープするための場所といった使い方をしてますね。だから、“秘密基地”と言われれば確かにその通りで、『ちょっと一人になりたい』とか『うるさい街から離れたい』といった感じですね。昔の日本でいう“茶室”みたいな感じですかね」

●“茶室”ですか!

「僕は海外で説明するときはそういう風に表現してますね。中が狭いのと、茶室に入る前には立場や権力などを置いてから“躙口(にじりぐち)”から入る感じが似ている気がするので、茶室とツリーハウスは近いと思いますね。

“製作”ではなく“創作”

●ツリーハウスって、実際にどうやって作るんですか?

「それは本当に千差万別で、僕のところに依頼が来る場合、『この木には思い入れがあって、この木にどうしても作ってほしい』というときと、『この広い森の中でツリーハウスが作れる木があれば選んでください』というとき、といった感じなんですね。作業に取り掛かるときも、木を選ぶのにかなり時間を要するんです。木は生き物なので、生えてる場所の状況や土壌、そこの環境などを調べて、“ホストツリー”となる木の樹種の性質をツリーハウスを作る前に調べないといけないんですね。それが最初の作業です。
 まずはクライアントさんが、原宿にあるツリーハウスのカフェに会いにくるか、僕が先方に出向いてお話をさせていただいてから、現地を見せてもらってから木を選び、どういうものを作りたいのかをうかがって、そこから作り始めます。もちろん、生きている木を使うので、枝を曲げたりすることができないので、その木に沿って作ることになります。なので、木の大きさと強さによってハウスの大きさが決まるので、ホストツリーの持っているポテンシャル以上のものは作れないんですね。クライアントさんが『10人は泊まれるものを作ってほしい』と言われても『この木だと3人が限界ですね』といった妥協があって、デザインに入って、製作に入ります」

●うわものありきじゃなくて、ホストツリーありきなんですね!

「その点が建築とは似て非なるもので、建築家にとっては(ツリーハウス作りは)難しいことなんですね。『こっちから夕日が落ちるから、ここに窓を作ろう』とか『こっちから強い風が吹いてくるのであれば、こういう風にしましょう』といったように、作るところの自然条件をデザインと構造に取り入れていきます。なので、決まった図面がないんですよ」

小林崇さん

●じゃあ、どういう風にイメージするんですか?

「ラフな絵はもちろん描いて、それに沿って作っていきます。なので、“製作”ではなく“創作”になると思います。だから、できるまでどうなるか誰も分からないんですよ。もちろんクライアントの要望は聞きますが、デザインはお任せになるんですよ」

●ということは、小林さんもできて初めてデザインを知るんですね。

「そうですね。ディテールはやりながら考えてます」

●作っている最中でも、木や自然の状況って変わるじゃないですか。ツリーハウスもそれに沿って変わっていくんですか?

「そうですね。木は成長するので、変わっていきますね。生えている場所にもよりますが、南に行けば行くほど成長が早いので、数年後先の状況も見越して作ります。とはいえ、人間が自然のことを見越せる範囲って、ほんのわずかですよね。むしろ、何も分からないといっても過言じゃないですよね。だから、これまでの経験値を元に推測はしますが、当たらないことが多いですし、当たらないものだと理解しました。そういうことが分かったことが、ツリーハウスを作っていて一番学んだことですね」

安全でワクワクドキドキ!?

※素敵なツリーハウスをたくさん作っている小林さんに、自分が作った中で印象的なツリーハウスを聞いてみました。

「もう実物はないんですが、世界で有名なのは沖縄に作ったドーム型でガラスが全面に張られたものと、CMで使われた北海道に作ったミノムシの形をしたツリーハウスの2つですね。同じ年に作って、同じ年に壊れています。
 その2つは一度もメンテナンスができない作りになっていながら、片方は台風がよく来る場所で、もう片方は雪が最も降る場所に作るという、日本の地形の中で自然環境の変化の激しい場所が何もしない状態で8年ももったんですね。
 デザイン的には、形に縛られずに、頭の中に出てきたものを形にしました。最近では、“カンガルーアイランド”というオーストラリアにある島に作ったツリーハウスがオクトパスの形をしています。八角形って、日本・中国・西洋で自然の色々なものが取り入れられるといわれているんですね」

●小林さんは幼稚園にもツリーハウスを作られているんですよね。子供たちが遊べるツリーハウスを作ることに対して、どういった思いがありますか?

「すごく神経を使いますね。安全面に対して一番に考えないといけないですし、遊び心は似ているようで違うんですよね。安全性を追求していくと、とてもつまらないものが普通はできてしまい、町にある遊具みたいなものになってしまうんですよ。
 なので、子供の創造性を満たすようなものを大人が作るとなると難しいんですよね。そういう点では、子供の方が絶対に勝ってるんですね。だから、彼らにとって安全な上にワクワクドキドキするようなものを作らないといけないんですよ。そうなってくると、周りの大人に『もしかしたら怪我をするかもしれないけど、子供にとって絶対に楽しいものになるので、せっかくツリーハウスを作るんですから、その点はご理解ください』と説得するんです。作った私たちはもちろん、使う先生や父兄の方にもワークショップやスライドショーなどで学んでいただいて、責任を持ってもらうようにしています」

小林崇さん

●子供たちはそのツリーハウスで遊んで、どういう反応を見せてくれていますか?

「子供はもう分からないですね(笑)。登ったらいけないって言ったら登りたくなって、走っちゃいけないって言ったら走りたくなっちゃうんですよ。それが多ければ多いほどある意味では成功なんですけど、管理する周りの大人たちは大変なんですよね」

●それぐらい夢中になっているということですよね(笑)。そうやって、子供の頃にツリーハウスで遊べるのは、すごく貴重な経験ですよね!

「僕のときにはなかったので、すごく贅沢ですよね! 子供の頃の体験にそういうものが入っているかどうかで全然違うんだろうなって思います」

人と人、人と森をつなぐもの

●小林さんはツリーハウスビルダーの養成講座をやっているんですよね。どんな講座内容ですか?

「今年で5期生が卒業したんですが、これまで100名ぐらい卒業しています。内容は、実技だと、のこぎりを持ったこともない人に対してはそこから教えて、クライミングの技術も教えたり、座学だと樹木学や建築学を学んでいただきます。それを月に1回、1泊2日でフィールドに出て、学ぶということを8ヶ月ぐらいやります。基本的にはビギナーズクラスなので、来る人たちのレベルは来るまで分からないんですよ。来るのは建築を学んでいる18歳の学生さんから、70歳を超えてリタイアして、自分でやってみたいと思っている人など、様々なんですね。その中で一番下の人に合わせて、必要な知識と技術の一番最初のところをかいつまんで教えてます」

●受講生は増えているんですか?

「そうですね。ウェイティングリストはいつもいっぱいで、お断りする場合もありますし、いつも関東でやっているので、地方の方から『北海道でやってくれないか?』とか『沖縄でやってくれないか?』っていう要望があったりします。なので、これからは分科会にしていくのか、コースを作るのか、はたまた卒業生が多種多様な職業で年代も様々なので、彼らが自分たちで運営できるような体制を作るのか模索しています」

小林崇さん

●これからが楽しみですね! ツリーハウスを作る活動を通して伝えたいことって何ですか?

「多種多様な職業で年代も様々な人たちが仕事以外で自然の中で一緒に暮らすコミュニティがステキだという人が多いんですね。だから、ツリーハウスが人と人とをつなぐものになってきているんですね。それはすごくいいなと思っています。日本中の森の中にツリーハウスがたくさんできて、そこで人と人とが結びつくのはいいなと思いますね。
 すぐ成長するわけではないけれど、季節が変われば変わるので、街で生活していながらも『台風が来てるけど、自分のツリーハウスは大丈夫かな?』とか『雪が降ってきたけど、大丈夫かな?』といったように心配になってきますよね。そうなると、実際に見に行ってメンテナンスをしたり修理したりするようになるので、街で暮らす僕らが自然の中に行く理由ができることになるので、非常にいいことだと思います。
 それがキッカケで、森のことを考えるようになったり、林業のことが分かるようになったり、日本の樹木のことを前より知るようになったり、匂いで樹木が分かるようになったりするので、非常にいいことだと思いますね」

●最後に、もし願いが全て叶うとしたら、小林さんが作りたいツリーハウスはどんなものですか?

「海が見える丘の上で、そこには滝つぼがあって、そこから川が始まって海に流れていっているんですね。その滝の横あたりにある木にツリーハウスを作って、僕はサーフィンをするので、そこから波の様子を見れるようにしたいですね。そして、そこは僕しか来ることができないんです。家族も来ることができません」

●まさに秘密基地ですね!

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 近頃、イベントや施設など色々な場所で見かけることが多くなったツリーハウス。そんなツリーハウスの最近の人気について、小林さんはご自身のツリーハウス作品をまとめた「ツリーハウスをつくる愉しみ」という本で、こんな風に書かれています。「子どもから大人になるときに置き忘れた“心”が詰まったツリーハウス。社会で生きていくために、置き去りにしなければならなかった無邪気さを思い出す。そんな場所が今求められているのかもしれない」。皆さんも、無邪気さを探しに、是非ツリーハウスに行ってみてはいかがでしょうか。

INFORMATION

ツリーハウスをつくる愉しみ

著書『ツリーハウスをつくる愉しみ

メディアファクトリー/本体価格1,490円
 小林さんがこれまで創ってきたツリーハウスの中から21作品を、各地での様々な人との出会いや製作に至るまでのエピソードなどを交えて紹介しています。

TREEDOM

DVDブック『TREEDOM

 小林さんが愛するオレゴンへの再訪や、北海道、沖縄でのツリーハウス製作を収録したロードドキュメンタリームービーが、DVDとブックとなって発売されました。ブックは、今までに撮りおろした貴重なプライベート写真や、様々なアーティストや写真家が提供した作品を、小林さんの言葉と共に掲載されています。

 その他、小林さんの活動などは、オフィシャルサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. SATURDAY IN THE PARK / CHICAGO

M2. CAN'T TAKE MY EYES OFF YOU / LAURYN HILL

M3. ACROSS THE UNIVERSE / THE BEATLES

M4. JUST THE WAY YOU ARE / BRUNO MARS

M5. DON'T WORRY, BE HAPPY / BOBBY McFERRIN

M6. FREE / DONAVON FRANKENREITER feat.JACK JOHNSON

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」