2014年12月6日

シリーズ“異常気象”第1弾
〜日本の気象と地球規模の異変〜

 今年も残すところ、あと1ヶ月を切りました。今年の日本の天候はどうだったのか振り返ってみると、2月に大雪がありました。東京23区や多摩地区に大雪警報が出て、2週連続で大雪になって、通勤・通学はもちろん、日常生活にも影響が出ました。そうかと思えば、5月下旬に北海道各地で真夏日を観測。6月上旬に、高知県で大雨。8月には広島で記録的な豪雨。大規模な土石流が発生し、多くのかたが亡くなりました。改めてお悔やみ申し上げます。
 9月には台東区や江戸川区などで1時間に約100ミリという局地的な豪雨が発生しました。今年は残暑がほとんどなく、あっという間に秋が来てしまったという感じですよね。そして12月に入ってすぐ、この時期にしては珍しく強い寒気が居座るという事態になっています。雪には充分ご注意ください。

 今回のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンはそんな天候や気象にフォーカス! ここ数年、昔と比べて、お天気が変だと感じている方は多いと思います。そこで、今回から「異常気象」というシリーズをスタートさせます。第1回目の今回は、株式会社ウェザーニューズ報道気象運営グループのアシスタント・グループ・リーダーで気象予報士の喜田勝さんに、異常気象の傾向や対策などをうかがいます。

異常気象の定義とは?

喜田勝さん

●今回は、シリーズ“異常気象”の第1回目をお送りします。ウェザーニューズの気象予報士・喜田勝さんにお話をうかがいます。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

●最近よく“異常気象”という言葉を耳にするんですが、“異常気象”の定義ってあるんですか?

「定義はあります。30年に1度ぐらいしか発生しない気象現象のことを“異常気象”と呼んでいます。なので、ごく稀に起こる現象だといえます。なので、1人の一生の中でいうと、数回ぐらいしか起こらないですね」

●その稀なことが、最近よく起こっているような気がします。

「確かに異常気象と呼ばれている現象は年々増加していると思います。例えば、1時間に100ミリ以上の雨ってそう滅多に降らないんですが、ここ20年の間で降っている回数が増えてきているという統計があります。そういった意味でも、異常気象が発生しやすくなっているといえると思います」

●いわゆる“ゲリラ豪雨”“ゲリラ雷雨”と呼ばれているものですね。ゲリラ雷雨って、突然雲が出てきて、空の様子が急激に変わって、雨が降り出すというイメージがあるんですけど、なぜ急に変化するんですか?

「積乱雲がゲリラ雷雨の大元なんですが、この積乱雲というのは、発達するのが非常に早いんです。なので、今まで雲がなかったとしても、15分ぐらいで巨大な積乱雲になって、雨を降らせる力を持ちます。その積乱雲の元は湿った空気が大量に流れ込めば流れ込むほど、早く発達します。ゲリラ雷雨が降るようなときには、四方八方から流れ込んでくるんですね。そうなると、風と風がぶつかりますよね。すると、上に上がるしかないんですね。かなり早い速度で湿った空気が上昇して、雲になります。そこに次から次へと湿った空気が流れ込んでくるので、それだけ雲の発生、発達が早くなるので、あっという間に天気が変わってしまいます」

●なぜ四方八方から流れ込んでくるんですか?

「それはそのときの気圧配置にもよります。夏場に都市部だけ気温が上がる“ヒートアイランド現象”がありますが、気温が上がるとそこの気圧が下がるんですね。空気は気圧が低いところに流れ込んでいきますので、周りから風が一気に吹き込んでくることも一因だと思います」

●だから都会でゲリラ雷雨が多いんですね。

「都会に限ったことじゃないんですが、都会でもそういったことが要因だと思います。東京の場合、実は色々なところから湿った空気が流れ込みやすいんですね。北と西は山で、南と東は海ですよね? そして、近くに東京湾があります。そういったところから風が吹いてくると、すごく湿ってるんですよ。それがゲリラ雷雨の大元の材料になっています。あれだけの雲を発達させるためには、風によって次から次へと水蒸気が運ばれないと、あれだけ強い雨にはならないんですよ」

ここ数年の冬は寒い。それは・・・

※最近、ニュースや天気予報で“1時間に100ミリの雨”という言葉をよく聞くようになったと思いますが、この“100ミリ”というのは、1時間に100ミリの降水量があることを指し、「雨が水深10センチまでたまる」という意味になります。たった10センチかと思うかもしれませんが、例えば、こたつの板1枚程度の広さに100ミリの雨が降ったら、水の量は100リットル、重さにして約100キロにもなります。これが、屋根や道路などすべての場所に降るわけですから、とんでもない量ということになりますね。そんな“1時間に100ミリの雨”、一体どれくらい強い雨なのでしょうか。

喜田勝さん

「“1時間に100ミリの雨”というのは、(私は)今まで体験したことがないです。これまでで一番強いもので40〜50ミリぐらいだと思うんですが、その雨でも周りの音が雨の音で聞こえないぐらいになります。もっと言うと、周りが真っ白になるぐらいの雨なんですよね。なので、100ミリという雨はとてつもない雨なんです。よく“バケツをひっくり返したような雨”という表現がありますが、それ以上だと思いますね」

●音が聞こえなくなって、目の前が見えなくなるような雨ですか。こんな雨、私が子供の頃にはなかったような気がします。

「確かに少なかったと思います。実際、昔と比べると、そういった強い雨が降りやすくなっているのは間違いないですね。これは地球そのものの気温が高くなってきているのも一因だと思います。雨の元は水蒸気なんです。昔学校で習ったかと思いますが、水蒸気は気温が高いほど水分を含むんですよ。なので、地球の気温が高くなればなるほど、空気中の水分が増えるので、結果として雨の材料が増えるので、強い雨が降りやすくなります。普通に考えても、冬よりも夏の方が強い雨が降るじゃないですか。それは気温が違うからなんですね。夏は暑いので、強い雨が降ります。気温がさらに上がると、さらに強い雨が降るという風に考えられるので、温暖化によって、夏が今以上に暑くなると、より強い雨が降る可能性が高くなると思います」

●雨以外にも、「今までの日本では、こんな天気なかった!」と思うような事象が起きてますよね。

「そうですね。今年の1、2月を振り返ってみますと、関東甲信でかなりの雪が降りましたよね。山梨県でも記録的な雪ということで話題にもなりました。『今までこんなに雪が降ったのは初めて!』という声もありましたが、そういったことも増えてきてますよね」

●それはなぜですか?

「ずっと温暖化と叫ばれていますが、実はここ数年の冬って寒いんですよ。これって皆さん不思議がるんですよね」

●そうなんですよ! 私も思ってました!

「『温暖化なら、冬は暖かくなるんじゃないか?』と考えがちなんですが、実は寒くなって、雪の量も増えています。これは昔からそうなると言われていました。まさしく、ここ数年そうなってきたと思っているんですが、こういった異常気象を考えるときは、日本だけを見ていてはダメなんです。日本だけで天気が決まるのではなくて、地球規模を見ることが大事です。地球規模が無理であれば、せめて北半球を見ることが重要です。
 実は、この冬の寒さは北極海の氷と関係があると言われています。最近“北極海航路”と呼ばれるように、夏場になると船が通れるようになったんですね。そうやって氷が減ることによって、結果として日本の冬が寒くなっているという研究結果があるんですね」

●そうなんですか。それは日本だけなんですか?

「日本の冬だけじゃなく、中緯度帯の冬が寒くなっているといっていいと思います。アメリカ・ヨーロッパの冬も寒くなっていますし、ニューヨークでは今年はもう雪が降ったりしているのも、そういったことが一因としてあると思います。北極海の氷が解けると、気圧配置が変わってしまうんですね。海水温が変わると気温も変わるので、今まで低気圧が通っていた通り道が変わるんですよ。その結果、冬のシベリア高気圧の位置が変わったりするので、日本に北極の寒気が流れ込みやすくなるので、寒くなるんです」

●ということは、地球全体がバランスを取っていて、北極で今までと違うことが起きているから、他の地域で帳尻を合わせているという感じなんですか?

「まさしくその通りで、地球全体でそういう風なシステムで動いていることは間違いないと思います」

●異常気象と一言で言っても、地球規模で色々と考えていかないといけないんですね。

「そうですね。日本だけで見ると、この異常気象は語れないと思います」

温暖化は人間のせい?

※今年ここまでの台風の発生数は気象庁によれば22。そのうち上陸したのは、7月と8月にそれぞれ1つ、10月に2つの計4つ。上陸の平年値が年間2.7個なので、今年は少しだけ多かったということでしょうか。そんな台風について、喜田さんはこんな見方をされています

喜田勝さん

「台風が巨大化すると昔から言われていました。台風は南の海の上で発生するんですが、海水温が高いのが1つの条件なんですね。海水温が高くなるためには、地球そのものの気温が高くないとダメなので、温暖化すれば、海水温が高くなって、台風も発生しやすくなって、より巨大化しやすくなるといえるかもしれないですね。ただ、それが日本に来るかどうかとなると、話は別です。来るかどうかは気圧配置によって決まるので、必ずしも“温暖化=日本で台風が増える”というのは言えないんじゃないかと思います。なので、あくまで“人が見た上での異常気象”ということで、地球規模で見ると、決して異常とはいえないんですね。
 日本で大昔に寒冷期や温暖期があったように、地球規模でもそれがあったといわれていますが、そういった大きな変化の中に今我々がいて、地球にとっては少しの変化なのかもしれないんですね。ただ、問題なのは、これが自然の変化であれば気にすることはないんですが、人の活動の結果で温暖化になっているとすれば問題なんです。その変化も、ここ100年でものすごく変化していると言われています。地球が人の活動と関係なく、自然に変化する場合は、そんな短い期間でそこまで変化しないんですね。だから、短期間で気候が大きく変化していることが我々にとって大きな問題の1つであり、何らかの対策を取ることが必要なんじゃないかと思います」

あなたもウェザーリポーター!?

※現在の天気予報はコンピューターの予測をもとに行なっているそうですが、気象予報士として予報する上で大切にしていることはどんなことなんでしょうか。

「今、天気がどうなっているのかをしっかりと把握することですね。今が分からないと、先の天気は分からないんですね。例えば、きょう雨が降っていたとすると、その雨雲がどう動いていくのかを予想するんですが、それもきょうの天気が分からないと今が分からないので、明日がどうなるかも決して言えないじゃないですか。なので、我々は今の天気をしっかり把握することを重要視しています。我々はここ10年、“ウェザーリポート”といって、一般の方に天気を報告してもらって、全国各地の天気を集めて、それを分析、解析して、その結果をこれからの天気としてつなげています。
 これはどういったところが素晴らしいかというと、例えば、ゲリラ雷雨の予報って、すごく難しいんですね。基本的に前の日は分かりません。本当に申し訳ないんですが、関東でいえば、関東北部とか関東南部といった感じの幅の広さがあるんですよ。当日になるともうちょっと絞れてくるんですが、最終的にはどこで雲が発生するのかがポイントですので、発生した雲をいち早く見つけるのが早いじゃないですか。それを見つけるのに、今は色々な方法があります。“雨雲レーダー”といって、電波を飛ばして反射してくるもので雨雲をキャッチしたりします。
 我々がウェザーリポーターと一緒にやっているのが、実際にできた雲を目で見て、写真を撮ってもらって、送ってもらうんです。それを元に、ゲリラ雷雨の元となる雲が発生したと確認して、そこからどうなるのかということを、周りの気象状況を見て予測します。なので、しっかり観測するのと、皆さんの目で見て感じて、それをたくさん集めると、それが大きな情報になるんですね。それを元に、予測不可能と言われているゲリラ雷雨をある程度予報できるようになってきているんですね。なので、我々が持っている技術と皆さんの観測が融合すると、今までできなかったことが、これからもできるんじゃないかと思います」

※今年も日本で台風などによる大きな災害がありました。非常時にどんな対応するのかがとても大事なことだと思いますが、喜田さんからこんな提案がありました。

喜田勝さん

「実際に全国各地で発生しているので、いつ自分の身に起きるか分からないですよね。なので、そういったときのために備えて、自宅にいるときや会社にいるとき、電車に乗っているときなど、『もしここで何かが起きたら、どう行動するか』を常に考えておくことが必要だと思います。我々はよく『普段からやってないことは、いざというときにはできない』ということを伝えています。 
 避難訓練ってよくやると思いますが、あの避難訓練もやっているのとやっていないのとでは、いざというときの皆さんの行動が違うらしいんですよ。やはりやっていたら、何をしたらいいのかが、自分の中で覚えてるから動けるんですよね。でも、やっていないと、どこに行けばいいのか分からないし、何をすればいいのかが分からないんですよ。なので、練習できたら一番いいんですが、それが無理だとしたら、何かが起きたらどういった行動を取るかを考えて、周りと話してみる。そういったことの積み重ねが、被害の減少に繋がると思います」

●あとは外に出て、空を見て、天気を自分でも感じるようにしておくのが大事ですね。

「普段は空を楽しんでもらえたらいいと思います。そのときは、あまり深く考える必要はないと思います。『きょうはキレイな青空だな』とか『どんよりした雲で、黒っぽいな』とか『怪しいな』といった感じでいいと思います。でも、異常な雨が降るときって、空の様子が一変するので、普段から見ていれば、その怖さが分かると思いますので、空を見て楽しんで、いざというときに備えていただくのがいいと思います」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 日本の気象の変化は北極の氷が解けて気圧配置が変わったことが原因の1つだというお話がありましたが、他にも南米ペルー沖の海水温の変化が及ぼす影響も随分前から指摘されているそうです。改めて、空は繋がっていて、気象を考えるには地球規模で見ていく必要があるんだなと思いました。「異常気象」とは30年に一度、ごく稀に起こる現象。そんな現象が将来当たり前になってしまったら・・・。この番組ではこれからも、皆さんと一緒に“異常気象”を考えていきたいと思います。

INFORMATION

ウェザーニューズ

 ウェザーニューズでは、季節によって異なる参加型の企画があります。どういった企画があるのかは、ウェザーニュースのオフィシャルサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. MERCY MERCY ME(THE ECOLOGY) / MARVIN GAYE

M2. HAVE YOU EVER SEEN THE RAIN / THE JEEVAS

M3. STRANGE WEATHER / GLENN FREY

M4. MAPS / MAROON 5

M5. WAITING ON THE WORLD TO CHANGE / JOHN MAYER

M6. OPEN ARMS / JOURNEY

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」