2015年1月10日

僕、きのこに恋してます!

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、新井文彦さんです。

新井文彦さん

 きのこの写真を撮り続けてらっしゃる写真家の新井文彦さんは、北海道でネイチャーガイドとしても活躍されていて、豊かな森で出会ったきのこの虜になってしまい、きのこの美しい写真をたくさん撮ってらっしゃいます。そんな写真を一冊の本にまとめ、幻冬舎から『毒きのこ〜世にもかわいい危険な生きもの』というビジュアルブックを出されました。また“ほぼ日刊イトイ新聞”というサイトで、きのこの話を連載されています。今回は新井さんの“きのこ愛”にあふれるお話をたっぷりお届けします。

きのこは木の分解者!?

●今回のゲストは、きのこ写真家の新井文彦さんです。よろしくお願いいたします。

「よろしくお願いします」

●新井さんは先日『毒きのこ〜世にもかわいい危険な生きもの〜』というビジュアルブックを出されました。拝見しましたが、どれも美しいですね。

「きのこはかわいいし、美しいし、見ていて飽きないですね」

●私がイメージしていたきのことは全く別のきのこでした。

「普通だと、きのこといえば食べ物としてのイメージがありますよね。なので、食べ物じゃないきのこの可愛さや美しさを色々な方に知っていただきたいと思って、写真を撮っています」

●このきのこたちはどこで撮ったんですか?

「ほとんどの写真は北海道の阿寒湖です。阿寒湖の周りにはすごくいい森が広がっているので、そこでほとんど撮っています」

●いい森だときのこはたくさん生えているんですか?

「森には生態系のサイクルがあるんですよね。例えば、木が枯れて倒れたりすると、分解をしないと森が木だらけになってしまうんですよ。きのこはそういう木や葉っぱを分解して、森をキレイにする役割も担っています」

●きのこって木の分解者なんですか!?

「そうなんです。よく“森のコーディネイター”と呼ばれたりするんですが、木ときのこは地中で繋がっていたりするんですね。それでお互いに栄養のやり取りをするきのこもいたりします。“木を育てる”という役割もあるので、森の中でも大きな役割を担っている生物でもあるんですね。だから、きのこというより“木の親”だったりするんですよね(笑)。そのぐらい奥が深くて興味深い生物ですね」

●ますますきのこのことを知りたくなってきました! きのこってどんな風に成長していって、子孫を残していくんですか?

「きのこって赤や黄色、茶色のきのこを思い浮かべると思いますが、実はきのこの本体は見えないんですよ。土や木の中に広がっている“菌糸”と呼ばれるものが本体なんです。僕たちがきのこと呼んでいるものは“子実体(しじつたい)”という胞子を放出して、次の世代に子孫を残すための機関で、植物でいうと、花と実が一緒になったものなんですよね。だから、きのこは最初土の中で生きていて、子孫を作るときに子実体を作って、そこから胞子を色々な方法で広めて、胞子が飛んでいった先で次の世代が育ち始めます。その繰り返しが基本ですね」

●だから突然出てきたりするんですね!

「そうなんですよ。でも、私たちにとって突然出てきたと思っていても、菌糸は土や木の中で広がっていたんですよね」

●ちなみに、どのぐらい潜伏期間があるんですか?

「きのこによってかなり違うんですよ。
 僕は友達に“世界最大の生物は何か知ってますか?”と質問するんです。大体ゾウとかシロナガスクジラだという答えが返ってくるんですが、実はきのこなんです。場所は忘れてしまいましたが、アメリカで東京ドーム600個分ぐらいという広範囲に渡って、地中にある菌糸を採取してDNA鑑定をしたら、全て同一だったんですね。その総重量を総計すると、シロナガスクジラとか対比にならないぐらいすさまじい大きさになるそうなんです。なので、世界最大の生物はきのこだといえるぐらいなので、年齢がどのぐらいなのか分からないんですよ。
 もしかしたら、何千年も生きているのかもしれないし、ほんの数年かもしれないです。そういう意味では全く分からないんですよ。それを色々な方が研究していると思いますが、僕たちがきのこと呼んでいる部分は1週間ぐらいで、あと半円形で木に付いているきのこがありますが、あれは“多年生”といって1年ずつ大きくなっていくんです。その他のきのこは2、3日ぐらいでしおれ始めて、1週間ぐらいで腐ってしまいますね。だから、寿命というと、そういうイメージがありますが、本体は土の中にあるので、実際は分からないんですね」

●もしかしたら、今私たちがいる下にもあるかもしれないんですね!

きのこは知らないことだらけ

※きのこは何種類ほどあるのでしょうか?

「菌類が150万種類あって、そのうちに名前が付いているのが10万種類ぐらいらしいんですね。さらにきのこでいうとさらに少なくなって、日本で推定されているのは1万種ぐらいで、その中で名前が付いているのが3000種類ぐらいだそうです。なので、実は名前が付いていない方が多いんですね」

●ということは、私たちがまだ知らないきのこがまだまだたくさんあるんですね。

「そうなんですよ。なので、図鑑に出てないようなきのこを見つけたら、もしかしたら新種の可能性も相当な確率であると言われています」

●もしかしたら、今まで見たことがない美しいきのこや、すごく美味しいきのこがあるかもしれないんですね!

「個体差や地域差がすごくあるので、同じきのこでも色や形、大きさがすごく違ったりするんですよ。なので、外国の菌類学者が日本に来てきのこ探しをしたら、きのこの名前がほとんど分からないんじゃないかと言われているんですね」

新井文彦さん

●ちなみに、日本はきのこの種類が多い方なんですか?

「生物学的に熱帯雨林が一番多いと言われていますが、菌類に関してはいい線をいっているみたいです」

●やっぱりジメジメしていて薄暗いところが一番いいというイメージがあります。

「まさにその通りで、菌糸が伸びていくには水分が必要なんですね。きのこは秋というイメージがあると思いますが、秋って長雨があったりするので、やっぱりジメジメしていた方がいいんですよ」

●やっぱり、時期的には秋なんですか?

「多分、マツタケやマイタケといった“美味しいきのこ”は秋なので、食べ物としてのきのこは秋の味覚なんですよね。そのイメージがあって“きのこ=秋”と思われているんですが、実はきのこは1年中見られます。“エノキダケ”ってあるじゃないですか。エノキダケってスーパーで売っているのは白くて柔らかいですが、天然のものは茶色の大きなきのこなんですね。エノキダケは“ユウキノシタ”という別名があって、冬に雪の下から出てきたりするので、冬にも見られるきのこなんですよ。冬の味覚として、東北や北海道では雪があってもきのこ狩りができるんですよ。だから、きのこは1年中見ることができるんですね」

きのこの毒は毒じゃない!?

※新井さんの最新の本「毒きのこ〜世にもかわいい危険な生きもの」で一際目を引く真っ赤なきのこがあるんです。それは“カエンタケ”という毒きのこ。一体どんなきのこなんでしょうか?

「今関西で猛威をふるっているきのこで、“ナラ枯れ”という虫の媒介で木が枯れてしまう病気で枯れてしまった木に発生するものなんですね。それが今、大阪から西の方で目にすることがすごく増えているらしく、かなり厄介なきのこなんですよ。僕はよく『きのこを見つけたら、触ってみて感触も楽しみましょう』って言うんですが、これは触っただけでも手がただれてしまうので、このきのこに関してはそれもダメですね」

●そもそも、毒きのこがなぜ毒を持っているんですか?

「生物学者や菌類学者の方も言っていたんですが、なぜか分からないらしいんですよ。カエンタケに関しては分からないですが、一般的な毒きのこは人間にとって毒なだけで、他の動物はそれを食べたりすることもあるので、彼らにとっては毒ではないかもしれないんですよ。だから、一概にどこまで毒なのかは言えないですし、どうして毒を持つようになったのかを説明できる学者さんはいないんですよね。なので、答えは分かりません」

●人間にとっては毒でも、他の動物にとっては毒じゃないというのが不思議なんですね。動物たちって、きのこ図鑑を持っているわけがないじゃないですか。どうやって、食べられるきのこと食べられないきのこを判別しているんでしょうか?

「昔、“縦に割けたら食べられる”とか“ナメクジが食べたら大丈夫”といった毒きのこの判別方法に関する迷信があったんですが、それら全てが全く当てにならなかったじゃないですか。だから、食べるとしたら、本能が赴くままということになってしまうんですが、動物の中には腐ったものを食べるハゲタカのようなものがいるので、栄養を分解する酵素などが人間と違うんじゃないかと思うんですね。
 今回の本の中にも紹介している“ドクベニタケ”というきのこがあるんですが、毒性はそこまで強くないんですが、ものすごく辛いんですよ。それをリスが普通に食べていたりするんですよね。それと、日本では最強の毒きのこといわれている“ドクツルタケ”というものがあるんですが、それも虫たちは普通に食べてるんですよ。だから、動物は私たちと味覚が違うし、毒の分解の仕方も違うんだろうなと思いますね。そういったところが、人間と他の動物たちとの違いなんだと思います。なので、毒きのこは“人間にとっての毒きのこ”になると思いますね」

きのこはモデルさん

※新井さんはきのこをこんな風に見てほしいそうです。

「不思議なことに、ほとんどの人がきのこを食べ物として認識してるんですよね。僕はきのこの写真展をよくやるんですが、そのときに『写真の下に食べられるか食べられないか書いてほしかった』という声をいただくんですよね。そのぐらい、ほとんどの人にとってきのこは食べ物なんですよ。なのに、たまたま毒を持っていたりするんですよ。だから、きのこは食べ物という認識をまずは置いておいて、生き物として認識してほしんですよね。鳥だって、どれ見ても美味しいとは思わないじゃないですか。でも、きのこはどれを見ても食べられるかどうかが最初のリアクションなんですよ。実際に食べるとすごく美味しいじゃないですか。その強烈なうま味で人を虜にしてしまっているんですよね。

 僕たちがこの本を作ったキッカケは“きのこは食べ物じゃなくて、生き物として見てほしい。生き物としてのきのこの美しさ”を見てほしい”という想いだったんです。だから、きのこはモデルさんなんですよね(笑)。きのこの写真を結構撮るので、きのこ撮影グッズとか持っていくんですよ。ホコリを取るための筆もきのこに合わせて3種類ぐらい持っていきますし、ピンセットも持っていきます。まさにモデルさんが撮影する前にお化粧するような感じですね(笑)」

●一番美しい状態で撮影するんですね!(笑)

「斜め45度で撮ってあげないといけないみたいな感じで、一番美しい状態を見つけてあげることが大切なんですよ。だから、僕にとってきのこはモデルさんですね」

●同時に、恋してますね。

「そうですね。なので、人称としては女子の人称を使いたいなと思っています(笑)」

●(笑)。名前付けたりしているんですか?

「いや、そこまではしてないですね(笑)」

新井文彦さん

●ちなみに、新井さんが一番好きなきのこって何ですか?

「この本の表紙にもなっている“ベニテングタケ”ですね。真っ赤な笠に白い点が付いているのはビジュアル的にもすごく美しくて、どう賞賛の言葉を挙げても追いつかないぐらいいいんです。色も色々あって、赤だけじゃなくオレンジや黄色などもあるので、そういった複合的な美しさもありますし、成長することで変化していく様子も美しいんですよね」

●不思議の国のアリスに出てきそうなきのこですよね。

「このきのこは高原など寒いところに生えるので、東京や大阪などの大都市にはあまり見られないんですよね。長野の白樺林や高い山とかに行かないと見られないきのこなので、きのこが好きになると『まず、このきのこが見たい!』って思う人が多いみたいですね」

●このきのこの大きさはどのぐらいなんですか?

「大きくて20センチちょっとぐらいです。きのこの中では大きい部類に入りますね。このきのこは、白樺などの幹が白い高原に生えているタイプの木の傍に生える種類なので、シチュエーションもすごくいいんですよ。なので、見つけたら小躍りしてしまいますね(笑)」

●(笑)。そのきのこを見つけるコツってありますか?

「よくきのこの仲間たちとの間で“きのこ目になると、きのこを探しやすくなる”ってよく話しています。きのこをたくさん見ていたり、きのこに興味を持ってくると、自然ときのこが目に入ってくる状態になってくるんですね。だから、街中を歩いていても街灯がきのこに見えたりして、見るもの全てがきのこに見えてくるという弊害があるんですが(笑)、そういう“きのこ目”というものができてくると、街路樹や学校の校庭、公園などに行っても、きのこが生えていると目に入ってくるようになってくるんですよね。なので、この本を見てきのこ目のトレーニングをしていただければ、自然ときのこが目に入ってくるようになるかと思います」

●きのこの気持ちになる必要はないですか?

「それが一番重要かもしれないですね。僕がきのこの写真を撮るときはカメラを地面に置いて、きのこが立っている高さまで視線を落として“きのこの視線で森を見る”というイメージで撮影しているので、“きのこの気持ちになる”のが大切かもしれないですね」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 新井さんの“きのこ愛”にあふれるお話をたくさんうかがいましたが、実は新井さんと同じようにきのこが大好きな仲間達がいるそうです。その名も“菌友関係”。日々きのこの魅力を伝える“胞子活動”をされているそうですよ(笑)。番組でもまた新たな切り口で、きのこの魅力を伝える“胞子活動”をしていきたいと思っています。

INFORMATION

毒きのこ〜世にもかわいい危険な生きもの〜

新刊『毒きのこ
〜世にもかわいい危険な生きもの〜

 幻冬舎/本体価格1,200円

 新井さんの最新のビジュアルブックには、お話にも出てきたベニテングタケの他、約40種類のきのこの美しい写真が解説と共に掲載されています。きのこの不思議な世界を垣間みられる1冊です。

オフィシャルサイト

 新井さんのオフィシャルサイト「浮雲倶楽部」にも、きのこの写真がたくさん掲載されています。こちらもぜひ見てください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. STORY OF MY LIFE / ONE DIRECTION

M2. COME TOGETHER / THE BEATLES

M3. MOTHER NATURE'S SUN / SHERYL CROW

M4. VIRTUAL INSANITY / JAMIROQUAI

M5. POISON / BELL BIV DEVOE

M6. YOU'RE BEAUTIFUL / JAMES BLUNT

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」