2015年1月17日

シャチの家族、仲間、そして社会に学ぶ

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、笹森琴絵さんです。

笹森琴絵さん

 海洋生物調査員、そして自然写真家の笹森琴絵さんは、北海道の室蘭を拠点にガイドの仕事をしながら、北海道近海のイルカやクジラの調査をされています。そして、2014年6月に設立された「日本クジライルカウォッチング協議会」の初代会長に選ばれ、その活動も行なってらっしゃいます。
 「笹森」さんが海洋生物の調査の道に入ったきっかけは20年ほど前にさかのぼります。
 交通事故に遭い、体調も崩し、小学校の教員を辞職。失意の中、たまたま乗った海洋生物のウォッチング船で地元・室蘭の沖合に出た時、深い霧が突然晴れ、なんと数百頭のカマイルカの群れに遭遇。
そのとき、海の大きさや自由に泳ぐイルカを見て、自分の悩みが小さく思えたそうです。
 そして人生が一変! 今や大海原を泳ぐイルカやクジラを探す日々を送ってらっしゃいます。
 今回はそんな笹森さんに、北の海の豊かさやシャチの興味深い生態についてたっぷりお話をうかがいます。

北の海ほど多様性!?

●今回のゲストは、海洋生物調査員、そして自然写真家の笹森琴絵さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

●笹森さんは北海道の海をメインフィールドにクジラやイルカの研究をされているということですが、イルカやクジラは南の海にいるイメージが私にはあるんです。北の海にはたくさんいるんですか?

「むしろ、北の海の方が見られる種類が多いんですよ。世界中で80〜90種類ぐらいいるといわれていますが、そのうちの約半分の40種類が日本の沿岸を利用しています。日本が細長いおかげで海にも多様性があるので、暖かい海が好きなものと寒い海が好きなものの両方が来るんですね。さらには、深い海を利用しているものとそうでもないものも来たりします。
 そういう風に、あらゆる種類が日本沿岸に現れてきます。日本に来る40種類の半分の20種類が北海道の周りの海を利用しているんですよ。そんなに多くの種類を1つの都道府県で見られるのはそうそうないはずです。それだけ見ても、北の方が多様性があるということが分かりますよね」

●そうなんですか。北の海に種類が多いというのは、北の海も多様性に富んでいるからなんですね。

「それよりもエサが関係していると思います。クジラは海の生態系の一番上にいるんですね。それよりも下の生き物がいなければ、トップの生き物はそこに存在できないんです。一番下から植物プランクトン、動物プランクトン、小さい魚、大きな魚、イルカやアザラシ、シャチといった感じでピラミッドを形成するんですが、それが南の海よりも北の海の方がしっかりとできているんですね。
 南の海って透き通っていて、サンゴ礁とかがあるから豊かで、北の海は濁っているからいい海じゃないと思われがちですが、濁っているのはプランクトンの生存量の違いが大きいんですね。いわば、北の海は“具がたっぷりと入った豚汁”で、南の海は“具が少ない味噌汁”といった感じですね。つまり、北の海の方がクジラやイルカのエサになる生き物が連鎖的にいるということで、北の海の方がたくさんの種類を見ることができます」

子煩悩な“右フック”!?

※笹森さんはイルカやクジラの中でも特に興味を持っているのが“シャチ”なんです。どんな生態なんでしょうか。

「シャチといったら、“海のギャング”“弱い者いじめをしている”“可愛いイルカを食べている”というイメージがあると思いますが、全部のシャチがイルカを食べているわけではないし、イルカを食べているからといって悪者でもありません。彼らはライオンやトラと同じように、海で自分よりも下にいる生き物たちが増えすぎないようにコントロールする役割を果たしているんですね。彼らはただ自分の役目を果たしているだけで、“海のギャング”とか言われる筋合いはないと思っていると思います(笑)。とはいえ、可愛らしく見える生き物をやっつけているイメージが強いかもしれないですね。

笹森琴絵さん

 彼らは血の繋がった母子で構成されていて、そこにオスのシャチが入り込んでくるという感じで、10頭前後ぐらいの群れを作っているんです。いつ見てもすごく仲がいいんですよ。
 私たちの船が子供に近づくと、それまでバラバラでゆるくまとまっていた群れが一気に集まってきて、子供を真ん中に囲って、しっかり守る態勢を作るんですね。その子供たちを逃がすために、若い者や大人のオスが、あえて船に近寄って、気をひかせるようにするんですよ。
 そんな彼らに気をひかれている間に、彼らは子供たちを逃がします。その罠にまんまとハマってしまうんですけど(笑)、それによってメスや子供たちがその場から離れたことが確認できたら、彼らもいなくなってしまうんですね。そういったフォーメーションがいくつかあるんですけど、どの群れを見ても3〜4つぐらいのフォーメーションを使って、子供たちを守ります。
 その船に対しての警戒心が解けて安心すると、子供が寄ってきて、好奇心で船の周りを泳いだりするんですね。その場合も、群れの大人たちは少し離れたところでずっと待っているんですね。しばらくして、出発するときになったら、若い者が来て子供を連れて帰ったりするんですよ。

 私たちが“右フック”と呼んでいる、ヒレの右側がフックみたいに曲がっているシャチがいるんですが、このシャチはよくお母さんと赤ちゃんの面倒を見てるんです。その親子にくっついて船を威嚇したりするのはそのシャチなんですけど、よく見ていると、面倒見ている親子は同じペアじゃないんですよね。
 多分なんですが、子煩悩で、“子供たちを守らないといけない”という責任感でやっているんじゃないかと思うんです。彼に限らず、そういうオスが何頭かいるんですよ。よく見ていると、メスはもちろんのこと、大人のオスも含めて、みんなで力を合わせて小さいシャチを守ろうとします。それはどの群れを見ても共通しているので、シャチは家族を大切にしていて助け合う生き物なんですね。そういう姿を見ていると、“海のギャング”とか“凶暴”というイメージからかけ離れた生き物だということが分かるんですよね」

シャチの血縁関係と絆

※シャチの親子関係は、他のイルカやクジラと比べて、どうなんでしょうか?

「他の種類の多くは“家族愛=母親と子”という関係で、それも1〜2年で切れてしまい、そこから一緒にいるということはあまり多くないんですね。“ハクジラ”という歯が生えている種類は血縁関係の母子のグループがずっと一緒にいて、お互いを助け合うんですが、それもそれほど多くないですね。カマイルカも母子のグループを作りますが、それは人間でいうママ友みたいな感じの繋がりなんです。でも、シャチのメスは血縁関係にあるものとは一生一緒に暮らすといわれているので、それだけ絆が強いのはシャチだけですね」

●そんなシャチたちを見ていて、どんなことを感じますか?

「“命に代えても子供を守りたい”といった子供に対する愛情は人間以上ですね。昔、流氷に囲まれたシャチのグループが子供を置いて逃げることができず、お母さんたち10頭ぐらいが流氷の海で死んでしまったということがあったんです。それは、子供に対する愛情がそうさせたんだと思うんです。もし、本能だけで子供を守っているのなら、最後は自分の生存本能の方が強いと思うんですよ。そういったところが人間と違うところで、母親だけじゃなく、オスや兄弟も小さい子を守ろうとするんですね。そういう部分も人間社会では薄れてきているといわれているので、胸がジーンとするときがあるんですよ。彼らは野生動物ですが、そういったところを人間である私たちが見習うところだと思います。親だけじゃなく、社会としても小さい者を守るという行動は見習うべきところだと思いますね」

知恵を繋げ、礼儀を大切に

笹森琴絵さん

●笹森さんは2014年の6月に「日本クジライルカウォッチング協議会」を設立されたんですよね?

「そうですね。仲間と一緒に作ったんですけど、私は北海道ですし、小笠原の人もいたり、沖縄の人もいたり、高知もいたりと、それぞれ違う海域を見てきた人たちが『そろそろ日本全体を繋げた方がいいんじゃないか?』ということで、意思統一のために立ち上げたということです。“繋げる”というのは、長年実績のあるそれぞれの活動の中で、安全面に配慮することとか、動物との付き合いで動物に迷惑をかけない方が長続きすることなど、自分の経験に基づいた知恵をお互いに共有して、“ウォッチング”という取り組みを持続可能にして、自然にも配慮した活動ができるようにするために、“知恵を繋げる”という意味ですね」

●動物に迷惑をかけない方が長続きするんですね。

「だって、イルカのことをいつも追い掛け回して親子をバラバラにしたり、いつも傍まで寄ってきて嫌がられたら、船が寄っていくと逃げるようになりますよね。それは動物だけじゃなく、人間もそうですし、飼っている犬や猫だって嫌がりますよね。『お母さんは優しく撫でてエサをくれるから好きだけど、子供は尻尾や耳を引っ張ってくるから嫌い』って思いますよね。そういう風に野生動物も思いますし、ペット以上に過敏に反応するので、彼らが嫌がることをしないということは、彼らと末永く付き合っていく上で重要な礼儀だと思います」

●動物に対しても礼儀を持って接するのが大事ということですね! 今回、シャチやイルカのお話をたくさんうかがいましたが、以前ウォッチングに行って見ることができなかったので、今度は見られたらいいなと思います!

「実際に見ることに勝る経験はないです。それが自然を守ることや生き物を守るという自主的な行動に繋がっていくと思うので、“実際に見てもらうこと”を目指して私たちも活動していますので、懲りずに現場に足を運んでいただけたらと思います」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 笹森さんにシャチの意外な生態のお話を色々とうかがいましたが、中でも仲間の子供を守るために数十頭のシャチが流氷の中に取り残されて死んでしまったというエピソードが印象的でした。野生動物たちはもちろん本能で生きているわけですが、それだけでなく「自分の命に代えても、小さな命を守る」という思いがあるんですね。“海のギャング”と言われるシャチのイメージが180度変わった気がします。

INFORMATION

日本クジライルカウォッチング協議会

 笹森さんが初代会長を務めるこの団体は2014年6月に設立。海洋生物への負担を減らす観察方法や、参加者の安全確保などをまとめたガイドラインの作成やガイドの養成に取り組んでらっしゃいます。詳しくはオフィシャルサイトをご覧ください。

さかまた組

 笹森さんは、海の生態系の頂点に立つシャチの調査や体験ツアーなどを行なう“さかまた組”という団体でも活動中。オフィシャルサイトにはシャチの写真も見ることができますので、是非ご覧ください。

アイサーチ・ジャパン

 笹森さんも協力されているアイサーチ・ジャパンでは、「イルカと上手に泳ぐために〜ドルフィンスイムに役立つイルカの生態〜」というレクチャーを、水中写真家でドルフィンスイムガイドの高縄奈々さんを講師に迎え、表参道の環境パートナーシッププラザで開催します。

◎日時:1月24日(土)の午後1時半から
◎詳しい情報:アイサーチ・ジャパンのオフィシャルサイト

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. PRIVATE EYES / THE BIRD & THE BEE

M2. RUNNING TO THE SEA / ROYKSOPP

M3. THE PROMISE(THE DOLPHIN SONG)/ OLIVIA NEWTON-JOHN

M4. IRRESISTIBLEMENT / SYLVIE VARTAN

M5. CAN YOU FEEL THE LOVE TONIGHT / ELTON JOHN

M6. STORY(ENGLISH VERSION)/ AI

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」