2015年2月21日

登山家 栗城史多さんの飽くなき挑戦!
〜その先にある世界を求めて〜

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、栗城史多(くりきのぶかず)さんです。

栗城史多さん

 登山家の栗城史多さんは世界7大陸の最高峰を単独無酸素で登頂する挑戦を行なっていて、既に6大陸の最高峰を制覇。そして最後のエベレスト8,848メートルの登頂を目指しています。過去に4度挑戦し、いずれも途中で断念。2年ほど前には重い凍傷になり、指を失いました。それでも諦めずに、今年2015年秋、エベレストに再挑戦することになっています。
 今回はそんな栗城さんに、なぜ挑み続けるのか、そして、テーマである“冒険の共有”の裏に隠された想いなどうかがいます。

“冒険の共有”は使命

●今回のゲストは、登山家の栗城史多さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

●栗城さんといえば“単独無酸素登山”ですが、改めてこの登山について教えていただけないでしょうか?

「元々は山岳部に入ってから登山をしていたので、仲間と一緒に山を登っていました。そうしていると、ヒマラヤみたいな8,000メートル級の山を1人で登ってみたいという気持ちが出てきて、徐々にそういうスタイルでも登るようになったんです。そのぐらいの山になると、酸素は3分の1(*註)になるので、本来であれば酸素ボンベがあった方が体はすごく楽だと思いますが、あえて使わないで登っています。それをネットで生中継をしながら登っているという感じですね」

(*註:高所でも空気中の酸素濃度は平地と同じ21%です。ただし、高所では気圧が下がり空気が薄くなります。そのため、空気を吸い込んだ時の酸素量が減ります。“3分の1”という表現はそういう意味になります)

栗城史多さん

●栗城さんは“冒険の共有”というテーマで登山をされていますが、これはどういったキッカケで始めたんですか?

「それは2007年に日本テレビの土屋さんから『動画配信をしないか?』っていう提案があったんですね。そのとき僕は8,201メートルのチベットのチョ・オユーに行こうとしていたので、面白そうだったので始めたんですが、そのときの企画名が“ニートのアルピニスト”で、あまりいいタイトルじゃなかったんですね。
 チョ・オユーを登ったとき、天気が悪くて頂上付近で一度下山したんですよ。始めたとき、ネットではあまりいい意見じゃなく、そのときも『栗城はダメなんだろう』と見られていたんですが、再びベースキャンプから登ったんですね。
 8,000メートル級の山を無酸素で2回連続で登るというのはすごくキツイんですよ。それでも僕が行って、登ったとき、それまで『栗城は登れない』と言っていた人たちから『ありがとう』という言葉に変わったんですよ。その人自体が180度変わったわけじゃないと思いますが、でも人ってそういうことを言いながらもそうじゃないと思うんですよ。人って夢や目標に向かっていったり、向かって頑張っている人の姿を見て、自分も力をもらったりすることができるのが人なんだと思ったんですね。
 今まで登山や冒険の世界って非生産的行為と言われていて、社会にはあまり役に立たないと思われていたんですが、そんなことはなく、チャレンジはなんでもいいので、『人に力を与えることができるんじゃないか。これを使命としてやろう』と思って、生中継ということをやっています」

●栗城さんが撮影している様子を(ほかの人が)撮影しているのを見たことがあるんですが、カメラを置いて行って、戻ってカメラを回収してからまた行くといった感じで、普通に登るよりも大変じゃないですか。

「中継するにも、ブースターという映像を配信する装置を担いでいきますし、撮影とかもするので、普通に登るより大変ですよね。本当はそれをしないで登った方がやっぱり楽ですし、登山に集中ができると思いますが、僕はエベレストの頂上に行くだけじゃなく、その先の世界に目標があるので、そのためにはこの“冒険の共有”というのは絶対に必要だと思っています。
 配信しているときに、送られてきたコメントを全部読んでいると、みんなそれぞれ色々なチャレンジをしていて、“それぞれの山を登っている”んですよね。その山は大小様々ですが、それをみんなで励ましあえるような世の中ができたらいいなと思っています。それを今やっている感じですね」

楽しくなかったら下山しろ

※栗城さんは2年ほど前、エベレストに挑戦している際に重い凍傷になってしまいました。そのときのことをうかがいました。

栗城史多さん

「2012年の秋、エベレストの下山中に両手と足と鼻が凍傷になったんです。なぜ凍傷になったかというと、秋って風が非常に強くて、酸素が3分の1で気温がマイナス35度で風速20メートルの風が吹くと、体感温度がマイナス55度になるんです。保温はしますが、体の中で酸素が一番必要な場所は“脳”なので、いくら保温をしたとしても、脳に酸素が送り込まれるので、脳を守る防衛本能として、指先や足先から徐々に細胞が閉じていって、凍傷になっていってしまったんですね。
 凍傷になって2012年11月30日に指を切断することになったんです。そこからはリハビリが始まりました。最初は靴ヒモが結べなかったですし、今考えたらすごく大変だったんだなと思いますが、無事、こうやって復帰できてよかったです」

●今は気持ち的には前を向いているんですね。

「そのときよりは前向きになってます。むしろ、あのとき凍傷になっていなかったら、より危ないことになっていたと思います。どういうことかというと、凍傷から復帰するときに山の先輩に相談したら『大きな事故(失敗)の後だと、いい山登りができるようになる』と言ってくれたんですよ。これはどういうことかというと、山の先輩方でも20代後半〜30代前半に大きな事故を起こしているんですね。その山の先輩も30代前半に大きな事故を起こしたそうなんですが、そこで初めて色々なことに気づいたそうです。
 僕も事故を起こす前までは目標ばっかり見ていたんですね。それ故に見えなくなっていた自分がいたと思うんです。それを振り返るキッカケになりました。そうやって振り返ったときに何が見えたかというと“楽しむ”ということで、それって非常に重要だと思ったんですね。別の山の先輩にエベレストに行くときに『下山の判断基準ってありますか?』って聞いたら『楽しくなかったら下山しろ』って言ってくれたんですよ。
 人って、目標に向かっているときには苦しいこともいっぱいあると思いますが、“楽しい”と思えているときはいい兆候なんですね。“楽しい”と“楽”は別なんですが、“楽しめなくなっているときは事故への一歩手前”という考えなんです。それを聞いて自分を振り返ったときに、楽しんでいる自分よりも色々なものを背負いすぎていた感じがしたので、『一度全部リセットして登ろう』と思って、先日ブロード・ピーク(8,047m)という山に登ったときは、すごくうまく登れました」

栗城史多さん

●ブロード・ピークって、どの辺りにある山なんですか?

「パキスタンの北部ですね」

●登る前はどんな気持ちでしたか?

「行ってみないと分からないところって結構あるんですよ。なので、どこまでできるか不安が大きかったですね。でも、“楽しく登る”ことをメインにしたので、ストレスをなるべくなしにして登るということに集中してましたね」

●どういう風にストレスをなくしたんですか?

「まず“あまり忙しくしないこと”ですね。それまではスポンサーになってくれそうなところに行ったり講演したりして資金を集めていたんですが、それってすごく大変なことだったんです。それがプレッシャーになっていたところもあったと思うので、クラウドファンディングみたいに、『“冒険の共有”を応援してください!』ということを公にちゃんと伝えてみたら、応援してくれる人がたくさんいたんですよね。それを見て『こんなたくさんの人が応援してくれているんだ』と実感して、すごく感謝しました。それにもすごく救われましたね」

●登頂に成功した瞬間、色々な方の顔が浮かんだんじゃないですか?

「実は登頂したときって、あまり余裕がないんですよ。下山しないといけないので、頂上って苦しいんですよ。だから、登って“よかった!”って思うときは一瞬で、そこから下山という大変なことが始まるんです。頂上はゴールじゃないんですよね。ベースキャンプまで下りてきて色々なことを見つめ直したときに初めて色々な想いが出てくるんですよ。それまでは今やっていることに集中してますね。登山って“登頂したらすごい”とよく思われますが、これまでやってきて思ったのは“下山もすごい”んですよ。世の中は“下山って失敗”だと思われますが、生きてなければ次のチャレンジもできないので、下山も大切なんですよね」

人はそんなに強くない

※栗城さんは、この秋いよいよ世界最高峰エベレスト8848メートルに再挑戦することになっていますが、現在のコンディションはどうなのでしょうか?

「昔に比べて精神的に楽な状態にして、集中していけるような環境にしていきたいと思っています。登り方や体の作り方で色々な課題を1つ1つクリアしていって、『こうしていくと、もっと登りやすいんじゃないか』という感じで、かなりつかんできています。なので、今回は可能性として十分あるんじゃないかと思っています」

●手ごたえありっていう感じですか?

「行ってみないと分からない世界なので、今はなんとも言えないです(笑)」

栗城史多さん

●体のトレーニングは、今はどんなことをされているんですか?

「体幹のトレーニングが中心ですね。サッカーの長友選手がやっているようなものを、ここ最近はメインでやっています。雪山は街中より道が硬くなっていないし、重たい荷物を背負っているので、左右に揺れてしまうから、バランス感覚が重要なんですよ。なので、外側の筋肉を付けるより、体幹を鍛えて左右に揺れないようにして、一定に保てるようにして、ロスを少なくするというのが重要なんですよね」

●今回のエベレスト挑戦も“冒険の共有”として発信されますよね。いつも発信されるとき、テーマを決めていたりするんですか?

「“挑戦することの楽しさ”を伝えられたらと思っています。例えば、登頂に成功したからすごいかというと、そうじゃないと思っているんですね。なぜなら、頂上に着いた後、次何があるかというと、また頂上なんですよ。それに、登山で頂上に着いたとき、喜ぶのは一瞬で、頂上はなくてはならないものですが、振り返ってみると、それに向かって歩んでいるときがすごく幸せなんだなと思うんですよね。成功や失敗を超えた世界がすごく大切なんじゃないかと思っていて、それで“挑戦することの楽しさ”を伝えられたらと思っています。
 今ってネットがすごく普及していて、結果を先に見てチャレンジするかどうかを考えてしまいがちになっているじゃないですか。それってすごくもったいないと思っているんですよ。やっぱり自分が何を感じて、何をやってみたいのかというのが非常に大切だと思うので、そういう人たちをいかに増やせるかというのが、“冒険の共有”の本当のゴールなんですよね。そういう気持ちでやっています」

●確かに、何をするにも最初の一歩って踏み出しづらいですよね。その背中を押してあげるようなことをしたいということなんですね?

「僕は偉い人でもなんでもないんですが、やっぱりどうしても夢やチャレンジって否定されることが多いんですよ。でも、そういったものを否定してしまうと、そこから先に続かなくなってしまうので、そういうものを取り除けたらいいなと思っています」

栗城史多さん

●今回の本のタイトルにもなっている“弱者の勇気”、そして“もう強い人は目指さなくていい”というメッセージも添えられていますが、これも栗城さんが伝えたいことですか?

「“強い人”を目指しているが故に陥りやすい落とし穴ってたくさんあるんですね。みんな“強くないといけない”って思いがちなところがたくさんあると思いますが、さっきの話みたいに“山じゃなく、自分を見てほしい”んですよね。
 どういうことかというと、心にもキャパシティがあって、それを超えてしまったら危ないことになるんですよ。そのキャパシティは少しずつ大きくできるかもしれないですが、人ってそんなにも強くないし、だからこそ人と人は支えあっていかないといけないと思うんですよね。なので、強い人を目指すんじゃなく、もっと身近にある大切なものに気づきながら、一歩を踏み出してほしいなという想いで、このタイトルにしました」

チャレンジは楽しいんだよ!

●栗城さんはドキュメンタリー夢教育映画「エベレスト・ライジング」を製作されているということですが、どういった映画なんですか?

「これはシンプルに、今までのチャレンジをドキュメンタリー映画にして、希望する学校に無料で配給して、伝えていきたいと思っています。僕は学校での講演に呼ばれることが多く、小学校でもたまにやったりするんですが、小学生のみんなに『夢ってありますか?』って聞いたら、1年生はほとんど手を挙げるんですよ。3年生も挙げるんですが、4年生ぐらいになると徐々に少なくなっていって、6年生になるとかなり少なくなるんですね。中学・高校でも講演をしたことがあるんですが、そのぐらいになると、さらに減るんですよ。
 それってどうしてなのかと考えたら、僕も子供のころはそこまで頑張るタイプではなかったんですが、中学生以降となると“夢は目指してはいけないもの”だと思っている雰囲気を感じたりすることがあるんです。でも、そうじゃなく、大人が何かで頑張っている姿を見ることで力をもらうことってあると思うんですよね。チャレンジっていっても、それほど大きなものじゃなくていいんですよ。
 例えば、お父さんが『フルマラソンに出る!』といって頑張っている姿を見たら、奥さんや子供たちは感動して、力になると思うんですよね。そういったものを、映像を通して伝えられたらと思っています。夢が叶う、叶わないとかじゃなく、『チャレンジすることって楽しそうだな。自分も何かやってみよう』というマインドを、このチャレンジを通して作ることができたらと思って、この映画を製作しています」

栗城史多さん

●講演をしているときの子供たちの反応って、どんな感じですか?

「難しい話をしていたとしても、通じるんですよね。それは大人も子供も関係ないのかなと思います」

●その子供たちが大人になったときが楽しみですね! もしかしたら、「栗城さんのあのときの話を聞いて、登山をしたいんです!」っていって、訪ねてくる子が出てくるかもしれないですね!

「でも、登山は危険ですからね(笑)」

●(笑)。登山じゃなくても、子供たちには夢を持ってほしいんですね。

「そうですね。夢を持てる国って、意外とそう多くないんですよね。例えば貧しかったりして、将来やれることが限られている国ってたくさんあるんですよ。でも、日本という国はインフラがすごく整っていて、みんな『お金がない!』と言っていても、100円あればコンビニで食べ物が買えるじゃないですか。そういう環境を誰が作ってくれたのかと考えてみたら、お父さんやおじいちゃんたち、それよりも前の人たちが頑張って作ってきてくれたから、今の僕たちの生活があったりするんですよ。そこで楽をしてしまうというのは、昔の人たちに対して申し訳ない気持ちになるんですよね」

●私も夢を見られる幸せをかみ締めないといけないですね。今回は色々なお話を聞かせていただき、ありがとうございます。秋のエベレストの単独無酸素登山、応援しています!

「ありがとうございます!」

栗城史多さん

※この他の栗城史多さんのトークもご覧下さい。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 栗城さんは「頂上に着いたとき、喜ぶのは一瞬で、振り返ってみると、それに向かって歩んでいるときがすごく幸せ」とおっしゃっていましたが、確かに夢に向かって頑張っている過程そのものが、掛け替えのない時間なのかもしれませんね。そんな栗城さんのこの秋のエベレスト挑戦、この番組でも皆さんと一緒に応援して“冒険の共有”をさせていただければと思います。

INFORMATION

新刊「弱者の勇気」

新刊『弱者の勇気

 学研パブリッシング/価格1,512円

 栗城さんの新刊となるこの本は、副題に“小さな勇気を積み重ねることで世界は変わる”とあるように、小さな勇気を積み重ねてきた栗城さんのエベレストへの挑戦、挫折、葛藤、そして夢への想いなどが綴られています。お話にもあったように“見えない山に登るすべての人たち”に向けて書かれた本です。是非読んでみてください。

チームクリキ

 栗城さんを支援するチームクリキの会員を募集中! 会費が“冒険の共有”を行なうための資金になります。メンバーになると、栗城さんが高所用のウエアに貼るものと同じ特製のワッペンとメンバーズカードがプレゼントされます。
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◎詳しい情報:栗城さんのオフィシャルサイト

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. VIVA LA VIDA / COLDPLAY

M2. I STILL HAVEN'T FOUND WHAT I'M LOOKING FOR / U2

M3. 終わりなき旅 / Mr.Children

M4. MINORITY / GREEN DAY

M5. YOU GOTTA BE / DES'REE

M6. Brave / ナオト・インティライミ

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」