2015年7月4日

生命と多様性にあふれる“明治神宮の森”を歩く

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、佐藤岳彦さんです。

 原宿駅から徒歩3分のところにある明治神宮の森。総面積は約70万平方メートル、東京ドーム15個分に相当するこの森は、大きな樹木がたくさんあり、うっそうとしているので、自然林かと思ってしまいそうですが、実は1915年から5年の歳月をかけて人の手で造られた人工の森なんです。100年前に全国各地から365種、約10万本の樹木が贈られ、荒れ地だった場所に植林。当時の造園や林学に関する一流の学者、本多静六(ほんだせいろく)を始めとする専門家たちが集められ、100年先の森をイメージして設計。樹木の成長や森の変遷を予想して造営されたそうです。

 そんな森がある明治神宮・鎮座100周年公式写真集として、写真家の佐藤岳彦さんがこの春『生命の森 明治神宮』を出版されました。明治神宮では2011年から植物や哺乳類、野鳥、昆虫、魚、爬虫類、土の中の生き物まで幅広い分野で生物調査を行ないました。佐藤さんはその調査のオフィシャル・カメラマンとして、特別な許可のもと、普段は入ることができない林の中まで約300回、撮影のために足を踏み入れ、貴重な生き物の決定的な瞬間をとらえてらっしゃいます。
 そんな佐藤さんと明治神宮の森の中を散策しながら、この森に生息する意外な生き物たちのお話をうかがってきました。今回はそのときの模様をお送りします。

原宿駅から徒歩数分で深い森

●今、明治神宮の森に来ています。今回、この明治神宮の森でたくさんの生き物の写真を撮ってらっしゃる写真家の佐藤岳彦さんに来ていただいています。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

●今、明治神宮の本殿の裏辺りにいますが、木漏れ日が差してキレイですね!

「東京にいるとは思えないですよね」

●本当ですよね! 原宿駅から徒歩数分で着くなんて思えないです! 静かでステキな場所ですね。

※森を散策していると、キレイなチョウを見かけました。

「今、目の前に“ムラサキシジミ”というチョウがいますが、森の中の陽だまりによくいるんですね。裏は茶色なんですが、表が紫色で、羽を広げてくれるとその紫色が見えるんですが・・・羽を広げてくれましたね!」

●広げてくれました! キレイですね・・・。

※さらに足を進めていると、ミミズを見つけました。

「ミミズも土壌生物の先生に言わせると、たくさんの種類がここにはいるそうなんですね。ここの土壌生物の世界も面白く、僕たちが普段見るダンゴムシは“オカダンゴムシ”という外来種なんですが、ここでは“コシビロダンゴムシ”がいるんですよ。そのダンゴムシがいる森はすごく豊かな森だそうです。
 あと、“クモタケ”というクモから生える冬虫夏草が見つかることがあるんですね。ものすごく小さいのでなかなか見つからないんですが、参道の脇では生きたクモを菌が殺して、その体を養分にしてキノコがひっそりと生えているというシーンがあるんですね」

●冬虫夏草って図鑑などでよく見るんですが、実際にはこんな身近にあるんですね!

「幻とか言われているんですが、実は身近なところにあったりするんですよ」

●きょう見つかるといいなぁ!

「まだ時期が早いと思いますが、運がよければ見つかるかもしれないですね」

専門家も喜ぶ明治神宮の森!?

※多様な生き物が生息している明治神宮の森ですが、何種類いるのでしょうか?

「植物・キノコ・変形菌・昆虫・両生類・爬虫類・鳥・哺乳類など様々な分野の一流の専門家が2011年から1年間、この森を調査しました。その結果、約2840種類の生き物が見つかりました。これだけでも驚くべき数字だと思いますが、1年間の調査では全て見つからないので、恐らくこれ以上いると思います。なので、もっと調査すれば、この森の生物の豊かさがもっと分かると思います」

●都会の中にある森で、それだけの生き物がいるというのはすごいことですよね!

「その中には新種のカタツムリやムカデが見つかったりしました」

●佐藤さんもその調査には参加されたんですよね?

「僕はその調査に同行したり、この調査の記録の一環として撮影を行ないました」

●参加してみて、どうでしたか?

「調査の先生方がすごく活き活きとしていて、キノコの先生はずっと地面に這いつくばってキノコをずっと動かずに見続けたり、至るところで驚きの声が上がる感じでした。ここは普段入れない森なので、皆さん調査できることに喜びを感じながらやってたのが印象的でしたね。僕も自然や生き物を撮影していたので、驚きと発見の連続の中、撮影してました」

●その2840種の内訳はどんな感じなんですか?

「約7割が昆虫です。昆虫はものすごく多様性が高いので、ほとんどを占めています。あとは鳥が133種類、変形菌が99種類見つかりました。あとはタヌキやアズマモグラ、コウモリ、ヘビやカエルの仲間など、都心では珍しくなってしまった生きものが見つかりました」

●タヌキもいるんですね!

「ここでは複数のタヌキの家族が暮らしていて、じゃれ合っている姿や寝ている姿を何度か見ました」

●そういうものを見られる可能性があるんですね。ところで変形菌ってどんなものですか?

「これは植物でも動物でもないものなんですが、これが変形体になったらアメーバのように動き回って、バクテリアや微生物を食べるんですね。すごくいい条件の場所に行くと“子実体(しじつたい)”という数ミリのキノコのようなものを生やすんですね。成熟するとキノコみたいに胞子を飛ばして、子孫を増やしていきます。これは南方熊楠(みなかたくまぐす)という生物学者が研究していたことで有名だったり、風の谷のナウシカでも少し出てきたりした生物なんです。とはいえ、ものすごく小さいんですよ。子実体が3ミリぐらいの大きさなので、よく目を凝らして地面に這いつくばらないと分からないんですね。そして、それは湿度が保たれる梅雨の時期に倒木や落ち葉から出てきます」

※さらに足を進めて、芝生のあるところに来ました。

●私たちは今、宝物殿の前、芝生のところに移動してきましたが、さっきの森とは雰囲気が違いますね。

「こういう明るい場所は昆虫や鳥が多かったりするんですよね。今、目の前にエノキの木がありますが、“タマムシ”という宝石のようにキラキラ光る虫がいるんです。彼らは夏になるとエノキの木に集まってくるので、見上げるとたまにタマムシが飛び回っているのを見られたりします」

●下ばっかり見がちですが、たまには上も見た方がいいですね。

「エノキの木は色々な虫が利用しているんですよね。“コマダラチョウ”というチョウがいるんですが、幼虫はこのエノキの葉っぱを食べて、冬になると下に降りてきてエノキの落ち葉の下で越冬します。“オオムラサキ”という(日本の)国蝶の幼虫もこのエノキの葉っぱを食べます」

●“ゴマダラチョウ”ってどんなチョウなんですか?

「白黒のタテハチョウなんですが、滑空するようにエノキの木の周りを飛び回っていて、樹液のところに集まってくるんですね。比較的よく見るので、運がよかったら見られるチャンスがあると思いますよ」

●こうやって見ると、色々な種類の木がたくさんありますね。

「そうですね。ここは常緑広葉樹が主で、カシの木やクスの木が安定した状態で存在しているところがメインとなっていて、菖蒲があるところは元々屋敷の森だったので雑木林が残っていて、そこは昆虫の多様性があってヘビとかも多かったりします」

●それぞれの木にそれぞれの生き物がいるんですね。

「チョウにも種類によって食べる木が違うんですよ。“ゼフィルス(ラテン語で“西風の精”という意味)”と呼ばれるチョウ(の一群)がいるんですが、このゼフィルスに属する“ウラナミアカシジミ”や“ミズイロオナガシジミ”がここにはいて、その幼虫はコナラやクヌギの葉っぱを食べるんです。そんなシジミがここにいるのはすごく珍しいんですよね。この森が豊かな証拠でもあるし、彼らにとっては都心の中でのすごく貴重な場所となっています」

●アマガエルもいるんですか?

「都心では珍しくアマガエルがいます。ただ、この森の中でもアマガエルが見られるのは限られた水辺だけで、なかなか見られないんですよね。ここは水環境がいいので、都心ではここにだけ見られるカエルやトンボが結構いるんです。例えば“オニヤンマ”ですね。オニヤンマはキレイな水が流れているところじゃないと暮らせないんですよ。そういう環境があるところは都心では無くなってしまったので、なかなか見ることができないんですよね。でも、ここではそういうものがあるので、彼らは暮らすことができるんです。今、ウラギンシジミが僕らの周りを飛んでくれてますね(笑)」

100年後の森を描く

※この森の特徴を佐藤さんに聞いてみました

「この森の特徴は自然の摂理に任せて木々が競い合って、敗れるものは敗れ、残ったものが大木化して安定した状態の森になっているんですね。それによって、未来永劫続くような森になっています」

●最初からそういう森にする予定だったんですか?

「本多静六たちは今のような森になるように最初から計画していました。ただ、当時の内務大臣だった大隈重信は“神社の森は杉の木に限る!”と言ったみたいなんですが、彼らは“この地に杉は合わない”と必死に説得して、計画通りに実行されました。もし、そのときに杉になっていたら、多様性の乏しい森になっていたし、スギ花粉の大生産地になっていた可能性もあったので、(本多静六たちの)計画は素晴らしかったということですよね」

●その計画から100年経ちましたが、当初描いていた森になってますよね。

「そうですね。シイやカシの巨木がたくさん並ぶような、うっそうとした神社の森になりましたね」

●それだけ多様性豊かな森が保たれた理由はどんなところなんですか?

「それは自然の摂理に任せて木々が競い合って、その中で育まれた命がそれぞれ循環していったことによって、さらに森が作られていくという状態が、自然と出来上がるように計画されて、思ったように変化していったということですね」

●参道を歩いていたら、係りの方が箒を使って落ち葉を集めて森に戻していたのが印象的でした。

「彼らは“掃き屋”さんなんです。落ち葉を全て森に戻して、自然のままに変化して成長していくことがこの森の約束事みたいになっているんですね。その落ち葉を分解する生き物がいて、分解された土壌を利用して植物が育って、その植物を昆虫が食べて、それを鳥やカエルが食べて、それをヘビが食べ、それをオオタカが食べて、オオタカが死んだら分解する昆虫やキノコや変形菌が育つといった感じで循環することによって、この森も循環して成長していくということになります」

●ここを管理している人たちも、その循環をいつも意識しているんですね。

「そうだと思います。これだけ大きいと落ち葉を掃くのもすごく大変なんですが、あの光景は美しいですよね。そういう人たちの気持ちが積み重なって、こういった森ができているんじゃないかと思います」

コゲラvsスズメバチ

※さらに足を進めたら、ビックリするような光景に遭遇しました。

「このクヌギは樹液がすごく出るので、スズメバチやカナブン、チョウがたくさん来るんですよね」

●カブトムシとかも来たりするんですか?

「カブトムシやクワガタもよく来ますし、蛾が来たりもしますね」

●昼と夜で生き物がかなり入れ替わるんですね。

「昼と夜では森の顔が違っていて、夜だけに現れる生き物も多いので、夜の調査も面白かったですね」

●今、鳥が来ましたね。

「あれはコゲラですね。今、コゲラがクヌギをつついて虫を探しているところですね。あ、樹液のところに来てついばんでいますね」

●白と黒の羽の縞模様で可愛いですね! 今、一生懸命つついてますね。虫か何かいるんでしょうか。

「ここはコゲラが多いんですよね」

●あ、スズメバチがコゲラを襲ってますね! スズメバチとコゲラの(樹液の)取り合いですね。あ、スズメバチがどこかに行きましたね。

「スズメバチが来ると、樹皮をかじって樹液の出がよくなるので、色々な昆虫が飛んでくるんですよね」

●この木にも色々な生き物が共存してますね。

「これからの時期はもっと面白くなりますよ」

※さらに足を進めました。

●ここの木々は背が高いですね!

「計画通りに常緑広葉樹の森になってますね」

●100年前に計画した方たちは、この森を見たらどう思うんでしょうね?

「自分が死んだあとの計画まで立てるなんてなかなかできないですから、見せてあげたい気持ちもありますよね」

●見たら、満足げにうなづきますよね! この森があることによって、周りの環境にもいい影響を与えてるんじゃないですか?

「この周りは全てビルなので、ここが無いと生き物たちは生きていくことができないんですよね。まさに孤島のように生き物たちはここに取り残されている状態になっているので、もしこの先、道に街路樹とかがもっと植えられて、新宿御苑や皇居と繋がれば、もう少し多様性が増すかもしれませんね」

●今、野鳥の声がたくさん聴こえてきたので、ちょっと聴いてみましょう。

※ここで、放送では野鳥の声を聴いていただきました。

●すごくキレイな鳴き声ですが、これはどんな鳥の鳴き声ですか?

「多分、キビタキだと思います。夏になるとこの森にやってきて、森の中の水場で水浴びしているところが見られたり、その水場でシジュウカラやヤマガラが水浴びに訪れていて、賑やかなところを見ることができます」

※そして、本殿の近くまで戻ってきました。

●ここも森が近い場所ですね。

「ここも森をすごく近くに感じられる場所ですね」

●今日1日森を散策させていただきましたが、ここがまさか都会のど真ん中にあるとは思えない、素晴らしい森ですよね!

「僕も何度も歩いていますが、きょうもそのことをすっかり忘れていましたね」

●今回の写真集には、そういった明治神宮の森の魅力が満載なんですよね!

「そうですね。都会の中に残された貴重な自然ということで、都心部ではここだけに残っているような生き物がいるということはもちろん、生き物たちがそれぞれで繋がりあって、この森が循環して、森が成長して変化しているということも大事なことだと思います」

●繋がりということでいえば、生き物たちのバトルも見ることができましたね。

「コゲラがスズメバチと戦っているところは僕も見たことがなかったです。この森の中でも繋がりの小宇宙みたいなものがあって、この森を構成しているんですよね。都会の中にこれだけの自然があるというのは誇れることだと思います」

●100年前にこういうことを計画してくれたことに感謝ですね。そして私たちは100年後を見据えていかないといけないですね。

「そうですね。この森がずっと続くように考えていくことが大事ですね」

※注:境内の維持や保護のため、林の中には立ち入ることはできません。また、植物や動物、昆虫などを採ったり、持ち込むことも禁止されています。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 私もよく行く癒しスポット・明治神宮の森ですが、100年後の森をイメージして作られていたんですね。その甲斐あって、今ではたくさんの昆虫や野鳥、そしてたぬきまで、生き物たちの息吹を感じられる場所になっています。先人達の知恵に想いを馳せながら、明治神宮の森を散策されてみてはいかがでしょう。

INFORMATION

「生命の森 明治神宮」 style=

写真集『生命の森 明治神宮 style=

 講談社/本体価格3,200円

 佐藤さんがこの春出された明治神宮・鎮座100周年公式写真集。これは写真集の域をこえて、貴重な記録集だと思います。オオタカがハシブトガラスを襲って木の上に留まっている決定的な瞬間や、地面に落ちたドングリから生えるキノコや地上の菌類まで、明治神宮の森が“命”に溢れる多様性に富んだ森だと感じます。是非、ご覧ください。

 佐藤さんのその他の情報や、明治神宮のことについては、それぞれのブログやサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. MOTHER NATURE'S SUN / SHERYL CROW

M2. 風の谷のナウシカ / 手嶌葵

M3. YOU AND I AGAIN / JAMES TAYLOR

M4. YOU ARE THE SUNSHINE OF MY LIFE / STEVIE WONDER

M5. CLOCKS / COLDPLAY

M6. ハナミズキ / 一青窈

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」