2015年7月11日

未だ謎に包まれているモアイ像

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、野村哲也さんです。


© TETSUYA NOMURA

 写真家の野村哲也さんは、“地球の息吹”をテーマに、アラスカやアンデス、南極、パタゴニア、南アフリカなど、辺境の地で自然や野生動物などの写真を撮り続けてらっしゃいます。
 そんな野村さんは2013年から南米チリ領のイースター島に住み、ラパヌイ語で“未来に生きる”を意味するあのモアイ像の調査や島の人だけの秘密になっている伝説などを調べ、1年半かけて『イースター島を行く〜モアイの謎と未踏の聖地』という一冊の本にまとめました。今回はモアイ像の秘密やイースター島の不思議などうかがいます。

6人に1人がモアイ!?

●今回のゲストは、写真家の野村哲也さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします」

●イースター島というとモアイ像のイメージがあるんですが、どこにあって、どのぐらいの大きさの島なのか分からないので、教えていただけますか?

「イースター島は南米のチリに属していますが、チリとタヒチの間ぐらいのところにあって、チリから西に約3,700キロ、タヒチからだと東に約4,000キロのところにあります。“絶海の孤島”と呼ばれるにふさわしい場所にあって、チリの首都であるサンティアゴから行くと飛行機で5時間もかかります」

●どのぐらいの大きさなんですか?

「日本でいうと、瀬戸内海にある小豆島ぐらいで、それほど大きくないです」

●そこに人が暮らしているんですよね?

「そうなんです。10年前までは島民の全人口が約4,000人で、イースター島に倒れているモアイと立っているモアイ全部含めると約1,000体あります。なので、4人に1人がモアイだったんです(笑)。それまでは、これが話のネタとして話せたんですが、残念なことに人口が増えてきて、約6,000人いるので、今では6人に1人という割合になってしまったんですね」


© TETSUYA NOMURA

●それでも結構な比率ですよ(笑)。そんなモアイ像は島のどのへんに立っているんですか?

「モアイは海沿いに立って、内陸部を見ています。ただ、“モアイは全部立っているんじゃないか?”と思われているんですが、実際は“モアイ戦争”という戦いがあって、そのときに民族同士が力の象徴であるモアイを倒してしまったんですね。ほぼ全てのモアイを倒したんですが、60年前ぐらいにモアイを起こす動きが出てきて、今のところ45体のモアイが立ち上がっています。なので、約1000体のうちのほとんどは寝ています。
 実は最初、モアイの見方が分からなかったので、1週間も撮っているとモアイだけなので“この島モアイしかないのか!?”と思ったんですね(笑)。もちろん島民はいるので、それはそれで面白かったんですが・・・モアイにはすごく失礼なんですが、飽きてしまったんですね。“もう帰ろうか”と思ったんですが、島のある酒場である古老の方が友人と話しているところに出くわしまして、“聖なる石”があることを話していたんですね。“その話は何?”って会話に入り込もうとしたら、“今の話は無かったことにしてくれ!”って言われちゃったんですよ。どうやら、外部の人には見せられなくて、島民しか見せることができないらしいんですね。でも、諦められなくて“どの辺りにあるかだけ教えて!”とお願いしたら、島の一番西にある“ラノカウ”という火山を教えてくれたんですね。


© TETSUYA NOMURA

 その火山はものすごく広くて、そこを歩くだけで8時間ぐらいかかってしまうんですが、そこにあるということだったので、探したんです。1日目には見つからず、2日目にも見つからなかったんですね。3日目にようやくその石を見つけたとき、そこに鳥やイルカの彫刻がされていて、その下には火を焚いた跡があったんですよ。誰かがそこで祈ってたんだと思います。日本では“磐座信仰(いわくらしんこう)”という岩の下で火を焚いて祈るというものがあります。まさかイースター島で磐座信仰があるのかと思ったんですが、“もしかしたら、この島には観光客には一切見せない島の人たちだけが受け継いできた魅力的な場所が隠されているんじゃないか”とそのとき思ったんですね。そこから毎年行くようになりました。今思えば、その古老の方との出会いはすごくありがたかったです」

モアイとバナナの皮!?

※なぜモアイがなぜ作られるようになったでしょうか?

「モアイは未だに謎だと言われていますが、“モアイは墓標”だという説は間違いなさそうです。なぜそう言えるかというと、立っているモアイの下には必ず台座があるんですが、その台座の中から大量の人骨が見つかっているんですね。なので、台座は墓だったんじゃないかといわれています。そして、イースター島はハワイとニュージーランドを三角形に結ぶポリネシア圏の文化があるんですね。そのポリネシア圏の文化は“祭壇の中に墓を作ること”があって、イースター島でも墓標を立てたことがモアイの始まりだといわれています。それがやがて“権力の象徴”として扱われるようになって、“向こうの部族があんなに大きなモアイを作ったなら、こっちはもっと大きなものを作るぞ!”ということで、どんどん大きくなっていったというのが通説になっています。“モアイがいつ作られたのか”は未だ謎の1つです。正確な年代は分からないんですが、恐らく1100年ぐらいから作り始めて、1680年ぐらいまで作られていたと言われています」


© TETSUYA NOMURA

●それだけ昔に立てられたあの大きな石像をどうやって作ったんですか?

「約9割のモアイが“ラノ・ララク”という火山から切り出されています。火山にモアイの輪郭を描いて、そこに水をかけると凝灰岩(ぎょうかいせき)なので柔らかくなるんですね。水をかけながら少しずつ削っていって、ほぼ完成したら支えていた岩を削ります。そうすると、斜面で作っているので、船の進水式のように下に降りていきます。そこから立てて、最後に背中の彫刻をして、運んでいきます。そこで謎となっているのが“どうやって自分の部族の祭壇までモアイを運んだのか”ということです。
 これは色々な説があります。木の上に乗せてソリのように運んだとか、スイングしながら運んだとかあるんですが、中には大量のバナナをみんなで食べてバナナの皮を地面に敷いて、滑るのを利用して運んだという説もあるんですよ!(笑) それはそれで夢があっていいんですが、一番遠く離れているところでは20キロぐらい運んでいるので、それだけのバナナを食べるのは大変じゃないですか(笑)。
 諸説ありますが、今最も可能性が高いといわれているのが“モアイは誰も手を加えずに勝手に歩いていった”という島の伝承があります。昔からみんなが知っているものなのですが、どこから言い伝えられたのかは島民の誰も知らないんですね。でも、それだけ強い伝承があるのはなぜなのかを知るために、アメリカの考古学者がある実験をしたんです。


© TETSUYA NOMURA

 モアイを起こすとお腹が少し出ているので、前に倒れそうになるんですが、それを1本のロープで後ろから引っ張ります。そして、左右に紐を付けて、後ろからの力をほんの少し緩めて左右で引っ張っていくと、モアイが自分で立って歩いているように見えたんですね。それが伝承になったんだと思います。その実験ではたった18人だけで500メートルほど移動させたんですよ。それをみんなが慣れてうまくなれば、長距離でも運べるので、そういう風に運んでいったんじゃないかということが、バナナよりは可能性があるといわれています(笑)。正確にはまだ謎とされていますが、一番可能性が高いといわれています」

モアイの子孫!?

※モアイ像が生まれたイースター島には、ハワイやタヒチなどと同じポリネシアの文化が色濃く残っていますが、一体どんな文化なんでしょうか?

「ポリネシア圏の文化はすごく面白くて、島自体は離れていますが、伝統とかが海によって繋がっているんですよね。“マナ”という文化があるんですが、“必ず目からマナという力が出ている”といわれていて、目の力がすごく重要だと考えられているんですね。なので、立てられたモアイにはすごく深いくぼみがあって、祭事などをしながら目を取り付けることで、モアイに命を吹き込みます。もし、Aという酋長が亡くなったら、Aというモアイを作ることになるんですが、モアイを作って祈りを込めて目を入れます。そうすることで、Aという酋長は天に召されてしまったけれど、そのモアイが“守り人”として自分達の集落を守り続けてくれると信じられていたのではないかというのが、最新の学説となっています」

●島の人たちにとっては、モアイはすごく大切なものなんですね。

「彼らにとってモアイは祖先なんですよ。今でもイースター島の友人にそのことを聞くと“自分たちはモアイの子孫だ”って話しますね」

●墓標といえば、エジプトのピラミッドがありますよね。あれは天文学的にも色々な意味があるといわれていますが、モアイにもそういったものがあったりするんですか?

「モアイは基本的には墓標として使われています。今は45体しか立っていないので、確実なことは言えませんが、イースター島にはある洞窟がありまして、その洞窟の中に描かれたペトログリフの絵を夏至の日の夕陽だけが照らすんですね。1日でもズレるとその絵は照らされないんですよ。もしかしたら、その絵とモアイの方向に何か関係があるんじゃないかと思って、GPSと方位磁石を持って一通り調べてみたら、15体並んでいるアフ・トンガリキというモアイは、夏至の日の夕陽の入りの方向を見つめていたり、中央にあるアフアキビというモアイは春分・秋分の日の夕陽の入りの方向を見ていたりしているということが分かったんですね。そこから、モアイは暦と何かしら関係があったのかもしれないということが考えられます。なぜなら、ポリネシアの人たちはスターナビゲーションや波・風を読む力に長けている民族なので、そういう人たちがモアイを使ってそういうことを考えても不思議ではなかったと思いますね」

モアイは御柱!?

※イースター島といえば、人間が木を全て切ってしまって、環境が破壊された場所としてもよく紹介されますが、本当にそうなのでしょうか?

「小学5年生と中学2年生の国語の教科書にも載っていますが、ジャレド・ダイアモンドさんが書かれた『文明崩壊』という本がありまして、そこには“イースター島の人たちは木を切りすぎてしまった。危ないと思いながらも燃料やイカダや船にするために自分たちでどんどん切り倒してしまい、最終的には最後の木まで切ってしまった。それによって環境破壊を引き起こしてしまった。それが今、この地球上で起きている状態に似ている。だから、イースター島を反面教師とすべきだ”と書かれているんですね。でも、実際にイースター島の人たちに話を聞いていくと、実は日本の八百万の神(やおよろずのかみ)信仰のような色々な神様がイースター島にはいたそうなんです。それを聞いて“そういう信仰を持っておきながら、自分の都合だけで最後の最後まで切り倒すのか?”って、ずっと疑問に思っていたんですね。でも、もう誰も調べられないことなので、実際はそうなのかもしれないですが、悔しかったんですね。
 すると、あるアメリカの考古学者が“確かに、当時の島民が木を切ったこともあるが、この島の木を追い詰めたのはネズミだった”という説を出したんです。島の中でネズミが爆発的に増えていったんですが、ネズミにとって天敵は人間しかいなかったんですよ。その上、大好物だったのがヤシの実だったんです。昔は7割ぐらいヤシの木に覆われていた島だったんです。ヤシの実を食べてしまうことで、次のヤシが発芽できなくなってしまったんですよ。それで森の更新ができなくなってしまったんです。それが一番の理由だということなんです。この説はポリネシア圏の生態が壊れたことにも繋がっていて、様々な方面でも証明されています」


© TETSUYA NOMURA

※最後に、野村さんはモアイからどんなことを感じたのかお聞きしました。

「僕のイメージでは、権力の象徴として大きくしていく理由も1つとしてあったと思いますが、その台座の中にいる骨をモアイを通して天に上げたかったんじゃないかと思うんですね。まさに、天と地を結ぶ御柱の役目をモアイが担っていて、少しでも空に近づけようとしてモアイをどんどん大きくしていったのかもしれないと思ったとき、思い出したんです。
 僕は長野県で7年に1度開催される御柱祭で、友人が諏訪の出身だったので、一度、御柱の(列の)中に入れさせていただいたんです。約10トンの木をを引くことになるんですが、最初に引くのはすごく重いんですね。でも、一度動かせば、意外とすんなり動き出すんですよ。2回に渡って、諏訪大社に降ろされるんです。引いていくときにみんなの汗や想いなどが全て木に染みこんでいって、森から切り出されたときはただの木だったものが、諏訪大社に行くときにはみんなの信仰心がその木に乗り移る感じがするんですよ。その木を最終的には春宮や秋宮などの社の四方に立てていきます。立てることによって、それが天と地を結ぶ御柱となるわけです。その御柱の役目をモアイが担っていたんじゃないかと思ったんですよね。

 もし、昔のイースター島に島を囲うように御柱が立っていたとしたら、島自体は1本の幹として御柱になっていたんじゃないかということを、帰りの飛行機の中でふと思ったんですよね。僕は泣き虫なので、晴れていたんですが、島のいい写真も撮れず、グシャグシャになりながら帰ったんですが、島の色々な場所で祈りがあるのではないかと思いました。イースター島に15回通ってそこに住むことで、僕の中では“祈りの島”だということを痛感しました」

※この他の野村哲也さんのトークもご覧下さい。

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 今回はイースター島のモアイのお話を中心にうかがいましたが、この他にもピンクのビーチ、2週間に渡るお祭り、そして沈む夕陽と昇る満月を同時に見られる場所など、イースター島には“裏の顔”がまだまだたくさんあるそうです。どんな所か気になった方は、ぜひ野村さんの新刊をご覧ください!

INFORMATION

「イースター島を行く〜モアイの謎と未踏の聖地」 style=

新刊『イースター島を行く
〜モアイの謎と未踏の聖地

 中央公論新社/本体価格1,000円

 野村さんが1年半かけて出版したこの本は、今回お話いただいたモアイの謎を始め、島の文化、伝統、自然など、イースター島の興味深い話が満載です。是非、イースター島のディープな世界を感じてください。

 野村さんのその他の情報は、オフィシャルサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. I GOTTA FEELING / THE BLACK EYED PEAS

M2. FANTASY / EARTH, WIND & FIRE

M3. TWILIGHT ZONE / THE MANHATTAN TRANSFER

M4. ONCE AGAIN IT'S SUMMERTIME / MAXI PRIEST

M5. SHOOTING STAR / OWL CITY

M6. OPEN ARMS / JOURNEY

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」