2015年12月12日

ザトウクジラの海 沖縄・座間味

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、大坪弘和さんです。

 座間味村ホエールウォッチング協会の事務局長・大坪弘和さんは、93年に初めて訪れた沖縄・座間味島でザトウクジラに出会い、すっかり魅せられてしまい、島に移住。現在は、座間味村ホエールウォッチング協会の事務局長ほか、座間味野鳥CLUBの会長など、色々な団体で活躍されています。今回はそんな大坪さんに、ザトウクジラの魅力や興味深い生態のお話などうかがいます。

ザトウクジラは自由恋愛!?

※クジラは80種類以上いると言われていますが、ザトウクジラにはどんな特徴があるんでしょうか?

「ザトウクジラは胸ビレが長いのが特徴で、体の3分の1ぐらいあるといわれています。例えば体が15メートルぐらいあったら5メートルぐらいですね。キリンが全長5メートルぐらいらしいので、そのぐらいですね。それと、(ほかのクジラは)どの個体も大体同じような色をしているんですが、ザトウクジラはお腹がほとんど白かったり真っ黒だったりと、白黒模様が1頭1頭全部違うんですよ。潜る前に呼吸しに上がってきて、呼吸で肺の空気を入れ換えて潜っていくんですが、潜るときに尾ビレを水面上に上げることが多いんですね。その尾ビレのお腹側の白黒模様も1頭1頭みんな違うので、写真を撮っておくと個体識別をすることができるんですよ」

●ほかのクジラに比べて、個体識別がしやすいんですね。ということは、座間味に来るザトウクジラは大体識別できているんですか?

「1シーズンで200頭ぐらい来るんですが、約半分ぐらいが過去に見つかったクジラで、残り半分ぐらいが新たなクジラという感じですね」

●そんなにたくさんいるんですか!?

「ずっといるわけじゃないですよ。シーズンが12月後半から4月上旬までの3ヶ月ぐらいあるんですが、その間に1回しか見つけられなかったものもいれば、2〜3週間ぐらいいるものもいます。通過するだけのものもいれば、1ヶ月ぐらい空いて再び来るものもいると思います」

●ということは、集団で行動するというよりも、ほぼ個々で行動している感じですか?

「そうですね。クジラは哺乳類で、繁殖海域でもあるので、あの辺りで赤ちゃんを産んだら、1年ぐらいはお母さんと一緒にいますが、他は個々で行動してると思います。ペアで見たクジラも次の日になるとペアが変わっていることもあるんですよね。中には数日一緒のときもありますし、別のペアにちょっかいを出すときもあります。多いときは10頭以上の群れになることもあるんですね」

●恋愛に関しては割と自由なんですね!

「とはいえ、そのときは大バトルを繰り広げていますけどね」

●どんな感じでバトルしているんですか?

「ぶつかり合ったり、叩き合ったり、乗っかったりと色々しています。そのときは鼻息も荒くて、船の上からでもそれが分かります。そんな姿を見て、人間も興奮してますよ」

●そういう姿も結構見られるんですか?

「シーズン前半はそうでもないですが、中盤ぐらいから群れの中でそういう姿を見ることができたりします」

●迫力ありそうですね!

「迫力ありますよ! 中には決着が付かないときもあります。基本的にはその中で強いオスがメスとペアになるチャンスを得られるといわれていますが、その戦いが何日も続くことがあるみたいです」

ザトウクジラのバブルネット!?

※ザトウクジラの繁殖領域だという座間味の海域。そこで、大坪さんは子供のクジラも見たことがあるのでしょうか?

「明らかに生まれたてだと思われる小さいクジラは見たことがありますが、ちょっとグレーっぽいです。それに、お母さんのお腹の中で丸まっていたので、そのときのシワが付いているんです。そして、小さければ小さいほどお母さんにくっついていて、1ヶ月ぐらいすると、子クジラもブリーチングというジャンプをお母さんの真似をしてやるようになります。あまりにも小さいクジラを見つけてしまったときは、なるべく船で行かないようにします。そのときは展望台からその子クジラに迷惑がかからないように周囲に指示を出します」

●子育て中の親クジラはデリケートだったりするんですか?

「そういう風に僕らが思い込んでいるので、“やめておこうよ”といった感じですかね。正直言って、向こうは喋ってくれないので、ハッキリとは分かりません(笑)」

●なんとなく察する感じなんですね(笑)。そういうときは近くに寄ることはできないですよね。そんなときでも親子の絆を垣間見た瞬間ってありますか?

「子クジラが好奇心旺盛だと、船に寄ってきたりすることがあるんですね。そのときにお母さんが子供を船から離すように、船と子供の間を泳いでいるところを見たことがありますね」

●子供をしっかりと守っているんですね。エサを捕るのも特徴的なんですよね?

「そうなんですが、座間味みたいな繁殖海域では、エサを食べなくても平気らしいんですよ。そういうのはすごく長い旅をしている種類のクジラなんですが、冬の間は座間味みたいな温かい海にいるんですね。夏はアリューシャン列島やベーリング海といった北の方の海にいて、その間にエサをたらふく食べてから、冬になる前にそれぞれの繁殖海域に移動します。
 エサは“オキアミ”というエビの仲間や小魚を食べているんですが、色々なエサの捕り方があります。その中の1つに“バブルネットフィーディング”というものがあるんですが、これはエサの群れが水面近くにいると、丸い円を描きながら、鼻の穴が頭みたいなところの上についているんですが、そこから空気を出しながら泡の筒を作るんです。イメージできてますか?」

●ドーナツみたいな感じですか?

「そうです! それが水面近くまでいくと、エサが泡の中に入って出られなくなるので、パニックになるんです。そうなったら下から大きな口を開けて捕まえるという方法でエサを捕ることがあるそうです」

●それはすごく賢いですね!

歌うザトウクジラ!?

※実は今回、座間味で録音されたクジラの歌声を大坪さんにお借りました。放送ではここでその音声を聴いていただきました。どんな歌声なのか気になる方は、“座間味村ホエールウォッチング協会”のホームページのトップページにある“ザトウクジラのソング”をクリックしてください(https://www.vill.zamami.okinawa.jp/whale/)。
 そのザトウクジラの歌について、こんなお話をしていただきました。

「他のイルカやクジラも音を出しますが、ザトウクジラだけ“ソング”といわれている音を出すんですね。高い音や低い音、短い音や長い音を組み合わせて同じパターンを繰り返すんです。それがしばらくすると、違うパターンになるんですよ。それをまた繰り返していくと、また最初のパターンに戻ったりするんですよ。それを繰り返すので“ソング”といわれています。これが座間味のような繁殖海域で大人になったオスだけが歌うので、『これはラブソングじゃないか?』といわれてきていたんですが、最近では違う説も有力になってきていて、今のところはハッキリとしたことが分からないんですね。でも、僕はラブソングであってほしいなと思っています」

●すごくステキな話なので、私もその方がいいと思っています!

「ただ、そういえば、オスが歌っているときにメスが寄ってくることがあまりないなって思うんですよね(笑)。まぁ、これに関しては研究者の今後の研究に期待しましょう(笑)」

●(笑)。でも、歌は間違いなく歌っているんですよね?

「歌ってますね」

●その歌も、年によって変わるそうですよね?

「変わるんですよ。シーズン毎に同じ曲をみんな歌うんです。次の年になると、その年に流行りの新曲を歌っているんですよね。ただ、歌い手にもそれぞれ特徴がありまして、ビブラートを利かせたり低音が得意だったりと様々です」

●そういうのも分かるんですか?

「録音したものを何回も聴いているとある程度分かりますが、その場でパッと聞いただけでは分からないですね。あと、歌っているときはそんなに大きく移動することがないので、運よく船の真下で歌っていると、船底から伝わって聴こえてくることがあります」

●自分の耳で直接聴くことができるんですね!?

「『なんかモワモワっていう音が聴こえるなぁ』と思ったら、恐らく下でクジラが歌っていると思います。漁船タイプの船だったら船に生け簀みたいなものがあるので、そこを開けるとよく聴こえます」

●案外身近に聴くことができるんですね! ホエールウォッチングのツアーで来たお客さんは初めて聴く人が多いじゃないですか。どんな反応ですか?

「みんなビックリして感動してますね。涙流す人もいます」

●私も涙流しちゃうと思います! 一度生で聴いてみたいです!

「冬場にダイビングをする人はラッキーなところがありますね。私は冬にダイビングしませんけど(笑)」

●寒いですもんね(笑)。それを聴きたいからということでダイビングをする人もいるんですか?

「そういう人もいると思います。ダイビングをしに行ったらザトウクジラの歌が聴けたなんて、ステキなオマケですよね!」

自然の中の一員!?

※大坪さんはホエールウォッチングツアーのガイドをされていますが、最近そのツアーに参加される方々に、こんな変化があるそうです。

「昔は“もっと近くで見たい”“もっと激しいのが見たい”という声が多かったんですが、最近では“そんなにたくさんの船で行ったらかわいそう”とか“そんなに近づいたらかわいそう”といった意見を持っている方が多くなってきているんですよね」

●お客さんの意識が高まってきているんですね。

「そうですね。この番組を聴いている人の多くもそうだと思いますが、座間味を知らない人が多いと思うんです。座間味に来る人は自分で調べて船の予約も取って来ている人たちなので、自然に対して敬意をもっている人が多いと思いますし、そういう人が年々増えている気がします。ゴミも島に捨てるお客さんはほとんどいないと思います。むしろ、ビーチのゴミ拾いをする人もいたりします」

●それは元から環境に対する意識が高い人が行っているというのもあると思いますが、ザトウクジラに出会うことによって、自然に対する意識が変わったりすることもあるんじゃないですか?

「そういう人もいるんですよ! こちらから『クジラを見たから、明日からゴミを捨てるのはやめましょう』っていうのは言いませんが、クジラを見たことによって“自然は繋がっている”“私も自然の中の一員だ”ということを感じる方もいらっしゃいますね。ツアー後にアンケートを書いてもらっているんですが、クジラを見ただけで、そういう感想を書いてくださる方もいらっしゃいます。私たちもクジラを見せることをテーマにしていますが、そんな奥深いところまで変わってしまう人が現れるなんて思いもしませんでしたね」

●(ザトウクジラは)見ただけで感じるぐらいのメッセージを持っているんでしょうね。それを感じに是非多くの人に会いにきてほしいですね! これからいい時期ですか?

「これからですね。今東京にいますが、今頃来ているかもしれないですよ!? まだ今年の第一報が入っていないので、そろそろ来ていてもいいと思うんですよね」

●早く帰らないといけないですね! これからの時期だと、大体どういった姿が見られるのでしょうか?

「12月27日からツアーがオープンして、来年の4月5日までやっています。3月ぐらいからは親子クジラが多くなってきますが、シーズン前半は単独かペアのクジラが多く見られますね。そして、去年産まれた子クジラが倍ぐらいの大きさになっているので、そんな親子を見ることができます」

●これからどんどん増えていく感じなんですね。今この番組を聴いている皆さんにメッセージをお願いします。

「なにせ、クジラは大きいです。一度、大自然に生きる野性の哺乳類を自分の目で見にきてほしいと思います!」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 ザトウクジラが歌を歌うというのは知っていましたが、日本でもそれを聴くことができるんですね。特に海の中に潜って歌が聴こえてくるというのは驚きでした。クジラの歌に包まれて座間味の海を泳いだらどんな気持ちなんでしょう。是非いつか行ってみたいです。

INFORMATION

座間味村ホエールウォッチング協会

 大坪さんが事務局長を務める座間味村ホエールウォッチング協会では、ホエールウォッチングのツアーを実施しています。一度、生でザトウクジラを見てみたいという方は是非参加してみてください。また、先ほども明記しましたが、座間味村ホエールウォッチング協会のホームページには、ザトウクジラの歌を聴くことができます。こちらも是非チェックしてみてください。

アイサーチ・ジャパンのイベント情報

 大坪さんも協力している“国際イルカ・クジラ教育リサーチセンター(通称:アイサーチ・ジャパン)”では、2016年2月6日(土)と13日(土)に “ねんどで作るザトウクジラ”というワークショップを行ないます。講師は“ウルトラマンシリーズのマスク”や“ウルトラ怪獣戯画”という食玩の原型を手掛けた造形家・成田穣さんです。

◎会場:環境パートナーシッププラザ(表参道)
◎参加費:ワークショップ2回分で3,000円
◎定員:12名
◎詳しい情報:アイサーチ・ジャパンのホームページ

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. くじら12号 / JUDY AND MARY

M2. WITHOUT YOU / DAVID GUETTA feat. USHER

M3. SWIM / PAPA'S CULTURE

M4. ハッピーラッキーデイ / D.W.ニコルズ

M5. WITH OR WITHOUT YOU / U2

M6. (I CAN'T HELP)FALLING IN LOVE WITH YOU / UB40

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」