2016年7月9日

恐るべき鳥の能力!
〜200日間飛びっぱなし? 380キロ? 月と地球を往復?

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、樋口広芳さんです。

 東京大学名誉教授の樋口広芳さんは、先日『鳥ってすごい!』という本を出されました。今回は鳥博士、樋口さんに、200日間も飛び続けた鳥のお話や、シカにいたずらするカラスのお話などうかがいます。

飛ぶスペシャリスト

※鳥はどのぐらいのスピードで飛ぶのでしょうか?

「伝書鳩は通常50キロぐらいで飛ぶんですが、速いときは100キロぐらいになります」

●ハトでそのぐらい出るとなると、速いといわれているハヤブサはどのぐらいの速さなんですか?

「獲物に向かって急降下するときの速さは380キロという記録があります」

●新幹線よりも速く飛んでいて、ぶつかったりしないんですか?

「ぶつかることはありません。鳥のすごいところは、単に速いだけじゃなく、制御機能があるということなんです。速く飛びながら獲物のところに突っ込んでいくときに地上に激突したり、上空で失速するということはありません。“飛ぶ”ということは、“速く飛ぶこと”と“自分を空中で制御できること”を兼ね備えています。
 例えば、“ハリオアマツバメ”という樹洞で繁殖する鳥がいるんですが、130キロぐらいで水平飛行するんですね。そのスピードで樹洞の中に入っていくんですが、中でぶつかることなくキレイに止まるんですよ。人間が作り出すものだと止まるのが大変ですが、鳥の場合はそんなことはありませんね」

●なぜそんなことができるんですか?

「鳥は飛ぶことのスペシャリストなので、体の作りから行動までキャリアが違うんですよ」

●そういうスピードやコントロールもそうですが、渡りをする鳥は長時間飛ぶことができるじゃないですか。私はその点もすごいなって思いました。

「先ほど紹介したハリオアマツバメと同じアマツバメの仲間で、ヨーロッパとアフリカの間を200日間ノンストップで飛んでいたという記録が生まれました。この間、睡眠など、全て空中でやっていたことになりますね」

●それはどうやっているんですか?

「どうやって寝ているのかは、完全には分かっていません。考えられる仕組みとして“半球睡眠”という、脳の片側だけ休ませるというものですね。
 あと、我々も身近に考えられる可能性としては、電車に乗ってつり革に掴まっていることがあると思いますが、寝不足の次の朝だと睡魔に襲われてガクっとなるじゃないですか。そうなると、つり革をすごく強く握ると思いますが、それを繰り返しながら多少の睡眠を取るかと思います。 
 鳥も羽ばたいてスーッとただようときがあるんですが、羽ばたいているときには起きていて、スーッとしているときはまどろんでいるんです。それを繰り返しているのではないかという話があるんですね。詳しいことは、今後の研究結果を待たないといけないんですけどね(笑)」

●最近話題になった“イタチを背中に乗せて飛んだ鳥の写真”。それを見てどう思いましたか?

「私もタイトルを最初に見たとき“そんなことあるのか!?”と思いました。その鳥は“ヨーロッパアオゲラ”という日本のアオゲラよりも少し大きいもので、“イイズナ”という同じぐらいの大きさと重さのイタチを背中に乗せて飛んでいる写真なんですね。
 恐らく、イイズナがヨーロッパアオゲラの卵やヒナを捕ろうとして巣の中に入ろうとしたんでしょうね。そのときに中にいて、卵やヒナを温めていた親鳥がビックリして、飛び出そうとしたものの、巣の穴は直径5センチぐらいなので、うまく出られないわ、イイズナの方も入れないわでいろいろあった結果、アオゲラが飛び出そうとしたときにイイズナがしがみついたんだと思います。
 先ほどお話した通り、自分と同じぐらいの体重の哺乳類なので、通常はそのぐらいの大きさを乗せて飛ぶなんて有り得ないわけですよ。なので、世界中の人を驚かす光景になったんですね」

●おとぎの世界に出てくるようなことなので、ビックリしました! それにしても、同じぐらいの大きさのものを乗せても飛べるんですね。

「この写真でそういうことが分かりましたよね」

月と地球を2往復半!?

※渡りをする鳥達は、いったいどれ位の距離を飛ぶことが出来るのでしょうか?

「渡り鳥といっても、短い距離を移動するものからものすごく長い距離を移動するものまで様々なんですが、“オオソリハシシギ”はアラスカからオーストラリア、ニュージーランドまでの2万キロをノンストップで1週間ぐらいで渡ります。
 それ以上にすごい鳥がいまして、“キョクアジサシ”という鳥なんですが、名前にもある“キョク”は“北極・南極”のことなんです。彼らは北極で繁殖をして、それ以外の時期は南極で過ごします。なので、北極と南極を移動するんですが、片道2万キロぐらいで、往復となると場合によっては8万キロぐらいになります。さらに、キョクアジサシは34年生きたという記録があります。そうすると、その34年間で毎年そのぐらい移動するので、生涯の移動距離は単純計算で月と地球の間の距離を2往復半するぐらいになります」

●疲れないんですか?

「疲れることは疲れると思いますが、飛ぶことに長けているスペシャリストなので、人間が考えるような疲れというものではないと思います」

●渡りをする鳥としない鳥の違いって何ですか?

「“食生活”が違います。例えば、トビは色々なものを食べるので渡る必要がないんですね。ところが、同じタカ類の“サシバ”は両生爬虫類を食べるんですが、ヘビやカエルなどって、この関東地方だと秋や冬には姿を消しますよね。いなくなると彼らはその間成り立たなくなります。それで、南の方まで渡ってしまいます」

●それだけの長い距離を移動するとなると、途中で道を間違えたりしないんですか?

「たまにはあると思います。例えば、灯台の光に目が眩んで、灯台にぶつかってしまうこともありますし、ハチクマは往復で2万数千キロを渡りますが、春と秋では渡る経路が大きく違うにも関わらず、戻る先は決まっていて、人間世界でいうと○丁目○番地○号まで決まっています。春と秋で大きく違っていて、数万キロを移動するのに、戻る先はピンポイントで決まっているのって、どうやってできるんだろうって思いますよね! 私たち人間はとてもじゃないけど、できることじゃないですよね。動物の世界でも、鳥ぐらいしかできません」

●なぜそんなことができるんですか?

「いろいろな実験があって、ある程度のことは分かっています。例えば、昼間は太陽の位置を見定めて、体内時計で補正して、方角を見定めています。夜は、星座を使います。人間もスターナビゲーションをやっていると思いますが、鳥も同じように北極星とその周りの星のパターンを利用して、方角を見定めています。
 さらに、地磁気も利用します。先ほど話した灯台にぶつかる鳥は曇っていたり雨が降っていたりして、太陽も星も見えないときには地磁気を利用しています。あとは視覚情報ですね。ただ、これらは室内実験などによって分かっていることで、実際に移動しているところをずっと付いていって分かったことではないので、詳しいところは分かりません。
 そういう太陽や星や地磁気など色々と組み合わせながら、到着すべき決まったポイントのところに向かっているんだと思います」

渡り鳥に国境はない

※生きるために様々な技術を身につけた鳥たちですが、実は“遊びを楽しむこと”も忘れていないんです。そんな“遊び”をよく見せてくれるのは、私たちの身近にいるあの鳥だそうです。

「遊びが最も見られる鳥は“カラス”です。彼らの遊びを簡単に定義すると“意味のないようなことを繰り返し行なうこと”です。滑り台をすべるとき、滑ったら登ってまた滑るというように、意味のないことを何度も繰り返しますが、そういった例が他にもいろいろあるんです。
 ひとつに宮城県の金華山という島に神社があって、シカがたくさんいるんですね。シカが芝生の上で寝そべっていると、その周りにそのシカが出したフンがいくつかあるんですが、カラスがそれを咥えて、そのシカの背中に乗っかって、シカの耳の中にそのフンを入れるということをしてくるんですね(笑)。
 “それはなんのためになるの?”といいたくなるんですが、カラスはそういうことを好んでやるんですね。他には、テニスみたいなことをしたりします。テニスコートに行ったらボールが転がってますよね。それを咥えてネットにぶつけて遊んでいるんですよね。

 ただ、分からないのは“そういう意味のないことをどうしてやるのか?”ということなんです。多くの鳥は飛ぶことのスペシャリストなのに対して、カラスは何でも屋さんなんです。いろいろなところに棲んで、いろいろなものを捕って食べるという生活をしています。その性質を生かして自然界でうまく生きている生き物なんですね。
 でも、カラスは何でも手当たり次第食べるわけではありません。その季節、その場所に自分の好みに合ったものを見つけ出して食べています。だから、型にはまった行動を持つより柔軟性のある性質を持っていて、その性質を生かして季節や場所によって、自分の好きなものを見つけ出して食べています。その頭の柔軟性が、高度な知能を発達させています。その高度な知能の副産物として、意味のない遊びをしているんだと思います」

●鳥を長年研究してきて、一番学んだことや感じたことって何ですか?

「この20年間、渡り鳥の研究をしているんですが、そこで多くのことを学びました。まずは“渡り鳥に国境はない”。先ほど話したハチクマは、東アジアの国全てを1つずつ巡って日本に戻ってきます。もはや東アジアの親善大使のような役割を果たしているともいえるような存在です。
 また、アジア大陸と鹿児島県の出水市を行き来するツルがいるんですが、そのツルが長期間休憩する場所が北朝鮮と韓国の間の非武装地帯にあるんですね。
 鳥は行き来することができるので、ムクドリの仲間が、北と南に離れて会うことはもちろん、手紙も電話もできないような親子をつないだというか、お父さんと息子がそのムクドリを通じて、触れて、お互いの安否を知ることができたという話もあるんですね。だから、“渡り鳥に国境はない”、彼らは遠く離れた自然と自然、人と人とを繋ぐ役割をしていることを、研究を通じて、大きな感動を覚えました」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 樋口さんは本の中で渡り鳥からのメッセージとしてこんなことも書かれています。“世界の自然と自然が繋がっていて、私達は自然とともに生きる事の楽しさや大切さを共有している”。その能力はもちろんですが、たくさんのことを私たちに教えてくれる鳥ってやっぱりすごいと改めて思いました。

INFORMATION

『鳥ってすごい!』

新刊『鳥ってすごい!

 ヤマケイ新書/本体価格900円

 樋口さんの新刊となるこの本は、空を飛ぶための羽や体の仕組み、羽毛の不思議、渡りの謎、そしてシカにいたずらするカラスの写真など、今回ご紹介した話以外にも面白い話がたくさん掲載されています。

公式サイト

 樋口さんは現在、慶應義塾大学の特任教授でもいらっしゃいます。研究内容など、詳しくはオフィシャル・サイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. COME FLY WITH ME / FRANK SINATRA

M2. FLY(ENGLISH VERSION) / MONKEY MAJIK

M3. TO THE SKY / OWL CITY

M4. I'M LIKE A BIRD / NELLY FURTADO

M5. 78 / 松任谷由実

M6. ACROSS THE UNIVERSE / THE BEATLES

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」